[KATARIBE 17046] [MMN] :『猫』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 20 Dec 1999 13:42:13 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17046] [MMN] :『猫』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912200442.NAA14503@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17046

99年12月20日:13時42分13秒
Sub:[MMN] :『猫』:
From:久志


 ども久志です。
えーと、以前に考えた霙の街のお話流しまーす。

『猫』
**************************************************

 猫が子供を産んだ。
 家の近くに住み着いていた雉トラの白足袋猫。このあたりじゃ評判の
泥棒野良で知られていた、うちも何度かあいつにやられたことがある。
 みいみいと小さな鳴き声だけが通りの奥にある雑多に散らばったスク
ラップの奥から聞こえてくる。
 あいつメスだったんだねと、弟と二人で笑った。

 姐御ってやつかな?
 肝ったま母さんってとこじゃないの。

 ゴミ捨て場のネズミから軒先にかけた干肉まで、あいつが狙わないも
のはなかった。その執着心はやはり子を想う故だったのだろうか。
 動物だってなんだって母は強いもんよと、そう言って笑った母は半年
前の銃撃戦の流れ弾で死んだ。

 戸をちゃんと閉めておけよ。
 子供が産まれたんだ、またあいつは派手にやってくれるぞ。

 あいつは戸を閉めていたってどこからともなく侵入してきて、配給で
もらってきたばかりの干肉やらパンやらを奪っていくのだ。
 毒まんじゅうを置いた家もあった、でもあいつは賢くて変な匂いがす
るものやわざとらしく置いてあるものには目もくれなかった。

 食べなければ死ぬ。
 それは遠からずあいつにも私たちにも当てはまることで。

 翌日。
 小猫の鳴き声が消えていた。

 その理由はすぐにわかった。
 すぐ近くのスクラップ置場に小さな骨と無数の毛が散らばっていた。

 雉トラの切れ端、白の切れ端、こげ茶の切れ端。

 思い当たる節が多すぎて、誰がやったのかはわからない。
 子供の為にとっておいたおじやをあいつにやられた隣の女。
 家もなく食事もままならず路上で死んだように座り込んでいた男。
 生まれて間もない幼子を食料難で失ってしまったはす向かいの旦那。

 でもそれを非難するいわれはない。
 あいつも生きる為に人から奪い、そして最後には奪われて死んだ。

 奪いあって、生き延びて…私たちになにが残っているんだろう。

 奪い合って食べていくことが、私たちが生き延びていく必要を見出す
こともできなくなるほど、私たちを貧しくさせてしまったのだろうか?

 生き延びる意味なんて考えるまでもないことかもしれない。

 散らばった骨と毛皮をかき集めて砂をかぶせた、虫でもわいてまた病
気でも流行られたらたまらない。

 あいつ死んだよ、小猫もみんなやられてた。
 そうか、これでもうあいつに悩まされなくてすむな。

**************************************************
いじょ

 うむ、そーいう世界なんだよーということで(^^;)


    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage