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Date: Mon, 20 Dec 1999 12:49:26 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17042] [MMN] :「慣性」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912200349.MAA11937@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17042
99年12月20日:12時49分26秒
Sub:[MMN]:「慣性」:
From:E.R
こんにちは、E.R@霙の街宣伝員(したっぱー)です。
大山美咲の、断片的話。
時期としては……東京壊滅から一年半くらいかな?
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「慣性」
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一番最初に覚えたことは、危ない、の声で扉を閉ざすことだった。
元栃木県。
と、言われていたのは覚えている。
学校、も。
あったのは覚えている。
なんとなく、だけど。
何故かうちの家族が生き残ったのは。
運が良いのと。
扉を閉ざしていたのと。
こどもがあたしひとりだったのと。
あと……なんだろうか。
「配給、行ってきて」
母さんが言う。
母さんは、三日前に片耳を無くした。
ちょっとまだ音が聞きづらいらしい。
「うん」
ジーンズの膝はとうに擦り切れた。
「配給券は、そこだから」
「うん」
今は、珍しく情勢がいいという。
ズックに足を突っ込んで。
「いってきます」
ヘルメットを被れ、という人もいたらしい。
でも、あれを被ってた子は、銃弾の方向を知り損ねてそれっきりだった。
運。
あたしたちを分けるのは、運。
「はいどうぞー」
配給券を渡して、受け取る。多分子供だから、多分誤魔化されてる。
でも、鼻で笑われて帰るほうが、まともな量を貰って途中で取られるよりましだから。
たたたた、と。
空から音。
おばさんの手が止まる。
皆が耳を澄ます。
方角。
今日はとうさんは、東の方角にいる。
銃声は……北西。
たた、と、銃声が止まる。
「気をつけて」
「ありがとう」
すっかり繰り返されて、もうそろそろほつれてきてもいい筈の、言葉。
でも、やっぱり残ってるあたり、すごいなって思う。
あたしたちは、どこかがすりきれている。
すりきれなければ、生きては行けないから。
タイヤのきしる音。
咄嗟に電信柱の後ろのゴミの影に周る。
一瞬後に、車が一台、配給所に突っ込んだ。
伏せる。
伏せて、小さくなる。動かない。
ぎゃあ、という声も、女の泣き声も、
暫らくして、また、タイヤのきしる音。
配給所は、半壊している。
逃げた客を追うほど、あの車の連中も余裕があるわけではないらしい。
「気をつけて」
乾いた声を、思い出す。
思い出しただけだった。
あたしたちを分けるのは、運。
ただ、運。
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日常の中で銃声が聞こえて、
その中の何人かがふっと足を止めてその銃声を聞く。
…実はこれ、東西エルサレムが分かれていた頃の、光景だそうです。
危ない時には、戸を閉める。
これも、留学中についた知恵でした。
危ない、といわれれば逃げる。
当たり前のことだけど。
というか。
時々、留学中、「危なくない?」って聞かれまして
危なくないよ、って答えてましたけど、
それって、要するに「危ないところには行かなかった」だけなんですな(苦笑)
そんなことを、考えてました。
ではでは。