[KATARIBE 17042] [MMN] :「慣性」

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Date: Mon, 20 Dec 1999 12:49:26 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17042] [MMN] :「慣性」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912200349.MAA11937@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17042

99年12月20日:12時49分26秒
Sub:[MMN]:「慣性」:
From:E.R


       こんにちは、E.R@霙の街宣伝員(したっぱー)です。

 大山美咲の、断片的話。
 時期としては……東京壊滅から一年半くらいかな?

***********************************
「慣性」
=======

 一番最初に覚えたことは、危ない、の声で扉を閉ざすことだった。

 元栃木県。
 と、言われていたのは覚えている。

 学校、も。
 あったのは覚えている。
 なんとなく、だけど。

 何故かうちの家族が生き残ったのは。
 運が良いのと。
 扉を閉ざしていたのと。

 こどもがあたしひとりだったのと。
 
 あと……なんだろうか。


 「配給、行ってきて」
 
 母さんが言う。
 母さんは、三日前に片耳を無くした。
 ちょっとまだ音が聞きづらいらしい。
 
 「うん」

 ジーンズの膝はとうに擦り切れた。

 「配給券は、そこだから」
 「うん」

 今は、珍しく情勢がいいという。
 ズックに足を突っ込んで。

 「いってきます」

 ヘルメットを被れ、という人もいたらしい。
 でも、あれを被ってた子は、銃弾の方向を知り損ねてそれっきりだった。

 運。
 あたしたちを分けるのは、運。

 「はいどうぞー」

 配給券を渡して、受け取る。多分子供だから、多分誤魔化されてる。
 でも、鼻で笑われて帰るほうが、まともな量を貰って途中で取られるよりましだから。

 たたたた、と。
 空から音。

 おばさんの手が止まる。
 皆が耳を澄ます。

 方角。
 今日はとうさんは、東の方角にいる。
 銃声は……北西。

 たた、と、銃声が止まる。

 「気をつけて」
 「ありがとう」

 すっかり繰り返されて、もうそろそろほつれてきてもいい筈の、言葉。
 でも、やっぱり残ってるあたり、すごいなって思う。

 あたしたちは、どこかがすりきれている。
 すりきれなければ、生きては行けないから。

 タイヤのきしる音。
 咄嗟に電信柱の後ろのゴミの影に周る。
 一瞬後に、車が一台、配給所に突っ込んだ。

 伏せる。
 伏せて、小さくなる。動かない。
 ぎゃあ、という声も、女の泣き声も、

 暫らくして、また、タイヤのきしる音。
 
 配給所は、半壊している。
 逃げた客を追うほど、あの車の連中も余裕があるわけではないらしい。

 「気をつけて」

 乾いた声を、思い出す。
 思い出しただけだった。


 あたしたちを分けるのは、運。
 ただ、運。

************************************

 日常の中で銃声が聞こえて、
その中の何人かがふっと足を止めてその銃声を聞く。

 …実はこれ、東西エルサレムが分かれていた頃の、光景だそうです。
 
 危ない時には、戸を閉める。
 これも、留学中についた知恵でした。
 危ない、といわれれば逃げる。
 当たり前のことだけど。
 
 というか。
 時々、留学中、「危なくない?」って聞かれまして
 危なくないよ、って答えてましたけど、
 それって、要するに「危ないところには行かなかった」だけなんですな(苦笑)

 そんなことを、考えてました。

 ではでは。



    

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