[KATARIBE 17015] [HA06P] 『れっつ ふぁらんどーるっ☆(仮)』 編集版2

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Date: Fri, 17 Dec 1999 18:57:46 +0900
From: 瑠璃 <lurimu@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 17015] [HA06P] 『れっつ ふぁらんどーるっ☆(仮)』 編集版2
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 ってなわけで、続き。

 で、大まかな話の流れもまとめてみると。

<前日まで>
・瑞鶴に望がビラを張りに行く
・吹利学校初等部での会話
・瑞鶴で各々チケットもらう(フラナ君、金元さん)
・風見アパートにて

<当日>
・悠たちの午前中の様子
・音楽室にて(刹那)
・体育館へ移動(由摩ちゃんたち)
・楽屋で(圭人さんと璃慧)
・小曲鑑賞光景(平塚さん)
・休憩時間の光景(平塚さん)

 が、書かれている部分。他に考えられるのが、

・かけるさん参加シーン(風見アパートに追加?)
・小曲光景:演奏側からみて
・小曲光景:鑑賞側(書きたい人で勝手に?)
・休憩時間:それぞれ書きたい人で(^^;
・大曲光景:演奏側からみて
・大曲光景:鑑賞側(書きたい人で勝手に?)
(・演奏終了後、雑談)
(・有志に手伝わせて片付け(笑))
(・打ち上げinマリカ?)

 かな。他にもあったらご自由にどうぞ〜(おひ)



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慌しい公演当日の朝
------------------
 11月6日。
 ほとんどの人から見れば、今日は11月の第1土曜日でしかない。
 しかし一部の人間にとってはとても大切な日なのだ……

 朝から音楽室には人が集まり、真剣な表情を見せている。
 楽器を手に取る者、楽譜を何度も見なおす者、開き直ったかのように平然と
している者。行動はさまざま。
 しかし、彼らの頭の中に渦巻いているのはただひとつ。
 すなわち……秋季定期演奏会、いわゆる『公演』の本番が、今日の午後3時
からだということだけ。
 同じ吹利学校の初等部、中等部はもとより、周辺の学校にも数枚ずつのビラ
とチケットがすでに配られている。
 
 そんな音楽室の片隅に、楽器を手にたたずむ少女がふたり。
 ひとりはヴァイオリンを、ひとりはクラリネットを持っている。
 ……水瀬璃慧と雪丘望。

 璃慧     :(楽譜をめくりながら)
        :「……あー、もう、あと一ヵ月はほしいっ」
 望      :「(苦笑) そだねぇ」
 璃慧     :「だって〜(泣)
        :やっぱり、一ヵ月でのるのって無理(汗)」
 望      :「(汗) まぁ、全部のるわけじゃないし(汗)」
 璃慧     :「そーだけどさぁ……」

 言葉を交わすふたり。
 しかし、お互いに愚痴をこぼすだけ時間の無駄だと思ったらしい。
 望は弓を持ちなおし、弦に指を滑らせて。
 璃慧はほおをぷっとふくらませ、クラリネットを吹きはじめた。

 望      :「僕だってさぁ……」

 鏡の前で姿勢を確認しながら練習する望のこぼしたひとこと。
 ……まぁ、自信を持って本番にのぞめる人間など、そういないだろうが。

 璃慧     :「……そーいえばさ、悠、こないね」
 望      :「こないねぇ」
 璃慧     :「まぁた、遅刻すれすれにくるのかな(汗)
        :ま、本番に休みはしないでしょ」
 望      :「……休んだらあとで刺されるよ(汗)」

 しばらくして。
 きんこんかんと、始業を告げるチャイムが鳴り響く。
 チャイムが鳴る前に音楽室を飛び出していた人間は……皆無だった。

 璃慧     :「あー、片付け片付け(汗)」
 望      :「急がなきゃ(汗)」

 練習に興じて時間を忘れていた人間ばっかし(汗)
 みんな、手早くしかし丁寧に楽器を片付け、音楽室から逃亡。

 璃慧     :「さっきの……本鈴だよね?」
 望      :「……たぶん、っていうか絶対」
 璃慧     :「1時間目は……英語1……(汗)
        :……なぁんで、公欠、3時間目からなのっ(汗)」
 望      :「そう決まっちゃったからねぇ(汗)」

 教室への廊下を急ぐ。
 と、目の前を見覚えのある姿が横切り、教室に駆けこんだ。

 望      :「あれ、いまのって……」
 璃慧     :「悠だ……(汗)」

 教室に入ると、出欠を取っている真っ最中。
 しかし、璃慧は女子の真ん中の方、望にいたってはほぼ最後である。
 名前を呼んで出欠を取ってくれる授業では、そんなに急ぐ必要がない。

 悠      :「(はぁ……間に合った……
        :なんで今日に限って寝坊したのかな……)」

 全員の出欠を確認したあと、つつがなく授業ははじまった。


今日に限って……
----------------
 1時間目が終わったあとの休み時間。
 次の時間が体育なので着替える。

 璃慧     :「悠……なんで、今日に限って(汗)」
 悠      :「ごめんっ」
 璃慧     :「まぁ、べつにいいけど
        :……なんでほんとに、体育が2時間目なんだよお(泣)」

 だね、といいかけた望の目は、黒板に貼られた連絡の紙に向けられていた。
 書いてあることを読んで、力ない笑みが浮かぶ。

 望      :「……いま気づいたけど、3時間目調理実習(汗)」
 悠      :「4時間目休むと数学ついてけなくなる……」

 調理実習は……さすがに休んだ分を取り返すというわけにもいかないし……
 天が与えた2時間という公欠は、どうやらマイナスに働いたらしい。

 璃慧     :「数学なんてどーでもいいよ(きっぱり)
        :どーせ、授業聞いてないし〜。調理実習だってなあ……」

 言いかけて気づく。

 璃慧     :(あ、でもなあ……。
        :料理は少し勉強しときたいんだよね)

 と、いくら願ったとしても、時間割が変わるはずもなく。

 璃慧     :「あ”〜! なんでなんだよお(TT)」

 望      :「……世の中そんなものだよ……」
 悠      :「……そだね……」

 2時間目の体育は、バスケットボール。
 コート面で、シュート練習などしていると。
 聞き覚えのある音色と旋律が聞こえてくる。

 悠      :「あ、トランペットの音……」
 璃慧     :「あそこ、音楽室……ってことは、おけらの人??」
 望      :「……そーいや、どっかのクラス、
        :1、2時間目が休講だっけ」
 璃慧     :「あー、うらやましいっ……練習したいよお(泣)」
 悠      :「……とりあえずさ、突き指しないように、
        :気を付けよ?」
 璃慧     :「だね(汗)」

 こうして、とりあえず受ける義務のある2時間は乗り切ったのであった。


もう、体力勝負っ
----------------
 体育が終わって、着替えを終わらせて。
 指示のとおりに音楽室に行くと、もうみんな揃っていた。
 部長がプリントの指示をもう一度読み上げて、あとは各々仕事についた。
 公欠2時間+放課後のわずかな時間で、準備を完了させなければならない。

 璃慧     :「女子は木箱運び……だっけ?」
 望      :「うん、男子はパーカッション運ぶからね」
 璃慧     :「腕、もつかなぁ……」

 3、4時間目に教室で授業のないクラスから木箱を持ってくるのが仕事。
 黒板の前を一段高くするために、各教室には木箱が3つずつ置いてある。
 この木箱を会場となる体育館に運んで、ステージの上で金管用に組むのだ。

 望      :「悠、そっち側持ってー」
 悠      :「あ、うん」
 璃慧     :「うわ、重そー……」

 まぁ、60×150×30の、けっこう頑丈な木箱である。重くないはずがない。
 その証拠に、あっちこっちで「ちょっと待って、腕が……」という科白が。

 璃慧     :「(いまこんなことやってたら、本番で楽器を持つだけの
        :力が腕に残らないよお……)」

 とは、木箱を運びながらの璃慧の心のつぶやき。
 体育館に木箱を持っていくと、男子がそれを受けとって、積みに行った。
 昨日みんなでシートをひいて、椅子並べをした体育館。
 いつもと違うたたずまいを見るだけで、緊張はつのる。

 木箱を運んで、合間にお昼を食べて、練習をして。
 あっという間に午後になった。
 この時間になると、OB・OGも顔を見せはじめる。

 体育館前に貼り出された宣伝。
 白い紙にくっきりと書かれた『秋季定期演奏会』の文字。
 いったいどれくらいの人が、見にくるのだろうか……?

(題未定)
----------
 一時……一時十五分……一時半……
 時間は確実に過ぎて行き、開演時刻がせまる。
 保護者会のおかげで本番一時間前まで会場に入れないため、音楽室にて。
 本番を目前にすると、逆に度胸が据わるものらしい。
 みんな、楽器をそばに置いて、談笑に花を咲かせている。

 璃慧     :「あ、望くん、かわいい〜♪」

 公演の正装である白のブラウスと黒のロングスカートに身を包んだ望。
 長身で華奢なため、とても優雅で、ヴァイオリンを持っていると絵になる。

 悠      :「ほんと……似合ってるよ」
 望      :「そう……かな……」
 璃慧     :「うんっ♪」

 音楽室でいつもいっしょに練習している人々がみんなそういう服装なのは、
ちょっと奇妙な気分だけど。
 『公演の雰囲気』を纏っていられるみたいで、落ちつける。
 
 一時四十五分頃。
 関係者は全員中にいるはずの音楽室のドアが、外から開いた。
 来訪者に、視線が集中する。
 
 刹那     :「(うっわ〜、な〜んか入りづらい雰囲気〜)」
 悠      :「あ……刹那だ……」(璃慧と望をつっつく)
 璃慧     :「あ、やっほ〜♪」
 望      :(手を振って)「やっほ〜」
 刹那     :「や!」

 見知った顔を見つけて、安心したらしい。
 人のあいだをすりぬけて、あっという間に奥まで来た。

 悠      :「……なんで、来たの?」
 刹那     :「なんでって……ひまだったからだけど」
 望      :「よく、へーぜんとここにこられるよね……(汗)」
 璃慧     :「普通は寄りつかないよ(苦笑)
        :……って、刹那も普通じゃないか(笑)」
 悠      :「オケラ人を取り巻くオーラが恐いとか、
        :いろいろ言われてるよね……」
 刹那     :「べつに? そりゃ、輝たちがいなかったらこないけど」
 璃慧     :「……本番、聞きに来なくていーからねっ(力強く)」
 刹那     :「へっ?」
 望      :「うん、こなくていい(汗)」
 刹那     :「へー(汗)」
 悠      :「たぶん、聞きにきたらまた寝るよ?」
 刹那     :「うっ……(汗)」

 文化祭の時に室内楽を聞きに来た刹那は、途中で睡魔に屈したらしい。
 まぁ騒がしいお祭り音楽の『ファランドール』ならともかく、ゆったりと流れ
るワルツである『ドナウ』では寝る可能性高し。

 刹那     :「かもしれない……(汗)」
 望      :「あはは、まぁ、好きなようにして」
 刹那     :「…………まあがんばれ!」
 璃慧     :「……結局来るの(汗)?」
 刹那     :「わっかんない」
 璃慧     :「こらっ」
 刹那     :「だって〜、まあ、くるかもしれない」
 悠      :「じゃ、とりあえず」(チケット渡す)
 刹那     :「おう! まぁでも、聞いても寝そうだしなあ
        :……輝たちの正装姿も見たし帰ろっかなぁ」

 まあ気分で決める、という一言を残して、刹那は音楽室を出ていった。

 璃慧     :「正装……か」

 ふっと、かすかに笑って。つぶやく。

 璃慧     :(かむにゃに……見せたかった……な。
        :見たら、どーするかな)」

 呼べば、来てくれただろう。でも、声をかけなかったのは。自信がなかった
から。下手な姿、見せたくないから。
 なのに…………。一方で来て欲しいと願っているのに気付いて。
 そんな自分に、苦笑。


(題未定)
----------
 そして、二時。会場に楽器と楽譜を持って移動を開始する時間。
 各々自分の楽器を抱えて、足早に体育館に向かう。

 由摩     :「……? あっ♪」
 萌      :「どうしたの?」

 昼に打ち合わせていたように、高等部を名目つきで見学にきていた由摩の視線
の先には、悠、望と談笑しながらこっちに向かってくる璃慧の姿があった。
 いたずらっぽい笑みを浮かべて、由摩は急に走り出した。

 萌      :「あっ、由摩ちゃんっ」

 萌もそれを追う。
 前方で展開されていることには気づかず、そのまま歩いてくる璃慧たち。

 由摩     :(たったったっ……抱きつきっ)
        :「璃慧ちゃんだぁ〜〜♪」
 璃慧     :(思わず振り払う)「きゃっ!」

 歩いてきた璃慧に抱きつく由摩。
 しかし、過度の敏感肌の璃慧。
 相手に悪気はなくても、抱きつかれると、とってもくすぐったい(汗)
 反射的に振り払ってしまう。
 そして。抱えていたクラリネットと楽譜が宙に舞う。

 悠      :「あ〜〜っ、楽器っ(汗)」
 望      :「あっ、と」

 後方にいた望が楽器をナイスキャッチ。

 悠      :(楽譜を拾いながら)「望くん、ありがとっ」
 萌      :「あ……ごめんなさいっ、手伝います」

 悠と追いついてきた萌は散らばった楽譜を拾い集める。
 振り払われた由摩はというと。

 由摩     :「ひっど〜〜〜い」
 璃慧     :「あ(汗) えっと、由摩ちゃん、だっけ(汗)」
 由摩     :「うんっ♪」
 璃慧     :「ごめんね、くすぐったくて(汗)」
 由摩     :「ううん、気にしてないよっ♪(にこっ)」

 けっこうご機嫌である。


 由摩     :「ねぇねぇ璃慧ちゃん、綺麗な格好して、
        :これから何するの?」
 璃慧     :「……(汗)」
 由摩     :「??」
 璃慧     :「初等部にも、貼ってなかった?
        :って普通、あんなもの見ないか……」

 部員にあんなもの呼ばわりされるポスターくん。
 公演が終わったあとも、浮かばれないだろう(汗)

 璃慧     :「オーケストラ部がね……今日、発表会なの」
 由摩     :「ほえっ?そうだっけ?……璃慧ちゃんも出るの?」
 萌      :(小声で)「お昼休みに自分で言ってたでしょ」
 璃慧     :「うん……」
 由摩     :「じゃあ、もしかしたら聞きに行くかもねっ♪」
 璃慧     :「え゛……(汗)」
 由摩     :「じゃーねっ☆ いこっ、萌ちゃん」
 萌      :「あ、うん」
 悠      :(小さく手を振って)「ばいばい(にこっ)」
 望      :「ばいばい」
 由摩     :「ばいば〜い☆」

 由摩たちに手を振る二人をよそに、璃慧は固まっていた。

 璃慧     :「(う゛……なんか切実にやな予感……
        :知り合いがいっぱい現れたり……しないよねぇ……)」

 それは神のみぞ(?)知る。


ボロ布とチーズで作れます
------------------------
 2時30分、会場裏楽屋。
 璃慧     :「ふうっ」

 璃慧は、軽く練習をしたあと、しばし小休止を取っていた。
 直前と言うこともあり、皆思い思いの行動をとっている。

 楽譜を見て頭を抱えたり、璃慧のように直前に練習をしたり、
 周りの者と雑談をしたり、楽器を磨いていたり、
 椅子に座って休んでいたり、こちらに向かって手を振ったり………あれ?

 璃慧     :「……え?」

 璃慧は目を凝らした。
 オケラ部員の中に混じって、こちらに手を振っている人影が居るのだ。
 壁によりかかり、休んでいるようだ。
 トレーナーとジーンズ、肩からかけたスポーツバッグ。
 真ん中で軽く分けた黒髪、何となくこちらを小馬鹿にしたような目つき……。

 璃慧     :「………………」

 璃慧は黙って立ち上がると、その人影の所につかつかと歩み寄った。
 全く、何でこんな所に……

 璃慧     :「兼澤くんっ!」
 圭人     :「おお、気づいた気づいた」
 璃慧     :「何が、気づいた気づいた、だよっ。
        :なんでこんなところにいるのっ!」
 圭人     :「いや、何となく近くまで来たから、
        :冷やかしに来てやっただけだが」
 璃慧     :「…………(頭を抱える)」
 圭人     :「どした?」
 璃慧     :「……君って、ボロ布とチーズを瓶に詰めたら、
        :生まれてくるのかなあ?」
 圭人     :「………俺はネズミか?
        :だいたい、自然発生説はずいぶん前につぶれたろうが」

 悪態に馬鹿正直に受け答えするない(笑)

 璃慧     :「ったく……。
        :ほら、さっさと出た出た(入り口の方に追い立てる)」
 圭人     :「つれねえなあ。ま、後でまた来てやるけど」
 璃慧     :「……チケット持ってない人は
        :入れないんだけどなあ(邪笑)」
 圭人     :(黙って半券を見せる)
 璃慧     :「……」
 圭人     :「他にも何人か来てっから、後で紹介してやるよ」
 璃慧     :「……誰をよ」
 圭人     :「俺ら以外の能力者」
 璃慧     :「……!!」
 圭人     :「ま、うちのがっこの奴と、弟だけどな。それじゃ」
 璃慧     :「…………」
 圭人     :「(振り返る)あ、そうそう」
 璃慧     :「……何?」
 圭人     :「気持ちよく寝れるような曲にしてくれよ」
 璃慧     :「うるさいっ!(げしっ)」

 黒のロングスカートがひらひらと揺れて。
 正装だろうがお構いなしに反射的に動く足。
 何もこんなところでまで漫才をおっぱじめなくてもいいと思うのだが(苦笑)

 璃慧     :(あははっ)

 でも。ちょっとだけ、緊張がほぐれた……かもしれない。

 璃慧     :「いいからさっさと出てくっ!」

 圭人は、脱兎のごとく逃げ出した。


楽器と人と〜瑞鶴店長の視点より
------------------------------

 舞台から数列離れた席に座ってから、あたりを見まわした。
 結構、人が入っている。そのうちのある程度は演奏者達の家族が占めている
のだろうが。
 すうっと、彼の斜め前を横切った人影があった。
 あれは……うちの常連の一人だ。
「あ、こんにちは」
 座ろうとして向こうも気がついたらしい。
「こんにちは」
 成程、と納得する。フラナがまとめて数枚持っていった後、数日経つといつ
のまにか券が消えていたのだが、多分その一枚はこの常連さんが持って行った
のだろう。
 案外……聞きに来る人がいるんだな、と。
 納得してから、苦笑する。
 案外などと言ったら、演奏する面々はさぞ怒ることだろう。

 入り口で手渡されたプログラムを開いて、眺める。
『1:美しく青きドナウ:J.シュトラウス』
『2:ファランドール(「アルルの女(第二組曲)」)ビゼー』
『3:交響曲第36番:リンツ:モーツァルト』

 ちょっと、考える。
 1と2は、これはもうかなり有名な曲なのだが……
3は……どんな曲だったろうか。

 プログラムを開く音。人を探しているらしい声。すみません、と、小さな声。
 その全部が合わさってざわめきになる。世界一流のオーケストラの演奏会で
も、高校の演奏会でも、それはやはり同じようなざわめきだ、と思う。
 日常から、数時間の非日常に移り変わる為の、準備の数分かもしれない。

 ブザーが鳴る。
 幕の後ろから現れる……演奏者達。きゅっと、緊張し切った顔をして。
 タクトが揺れる。
 曲が始まる。
 なかなか……上手い。

 高校くらいの管弦楽の演奏では、時折、管楽器と弦楽器の間に差がある。
 管楽器というのは、大概の場合二桁の年齢になってから習い始める場合が多
いという。これは管楽器を演奏するのには、それくらいの体格が必要だから、
ということらしい。
 それに対して、弦楽器のうちでもヴァイオリンなどは、幼稚園に入る前から
練習を始める人々もいるわけで。
 そういう人が一人いるとこれはかなり目立つ。
 とすると、ヴァイオリンを弾いている彼女も、その類なのだろう。
 背の高い、女生徒。瑞鶴にポスターをはりに来た顔なので覚えがあるのだが、
それ以上に、演奏する姿が目立つ。
 ヴァイオリンが、軽い。
 軽い、というのは変かもしれない。が、弾いている姿が楽器を負担としてい
ない、という印象を受ける。楽器に振りまわされるのではなく、楽器を弾いて
いる、という……
 
 斜め前の席の頭が、ぴょこん、と起きあがった。
 起きあがるまでは気がつかなかったのだが、どうやら今まで眠っていたらし
い。
 ドナウ……眠くなる曲にも聞こえないのだが。
 中学生か、高校生か……つまりは夜更かし組なのだろう。多分友達が演奏し
ているのだろうが……
 見つかっていたら、あとで怒られるだろうに。
 曲のほうは終盤。フルートの少女がひどく真剣な目をして指揮者を見ていた。


 そして、ファランドール。
 乗りの良い曲だけに、演奏している面々もその勢いに乗っかっているのがわ
かる。金管楽器の面々が特に。
 しかし、やはり目の前に演奏者を見つつ聞くと、曲の難易度……というか、
難しい部分が良く分かる。金管が高らかに音を響かせる合間の、細かい刻みの
繰り返し部分は……これは、多分、演奏している木管楽器の面々にとっては厄
介な部分だろう。テンポが速い上に休みが無い。
 クラリネットを吹いていた小柄な女生徒が、パートの切れ目に、ちょっと顔
をしかめて右手に視線を流し、素早い動きで結んで開いた。
 よほど手が凝ったのかもしれない。

 そして、トリの部分の、全楽器の渦巻くような音。そして最後の三音。
 ぱん、と歯切れ良く最後の音が決まって。

 一瞬沈黙。そして拍手。
 必死だった顔が、ふうっとほころんで。

「これで、第一部を終わります。休憩は10分です」

 アナウンスが流れた。


休憩時間:店長の視点的に
------------------------

 休憩時間、というと、別に何にも無くても、立ちあがりたくなるもので。
 よいしょ、と立ち上がって伸びをしか……けた途端。

 フラナ    :「あー、店長さんだっ」
 店長     :「あ、こんにちは……三人とも(笑)」

 振り返る。
 予想通り……
 フラナ、本宮、佐古田、と、いつもの面々が顔を揃えている。

 店長     :「佐古田君……は、ギター持ってないのか(笑)」
 佐古田    :「…………(憮然)」
 フラナ    :「だって佐古田って、持ってると弾いちゃうから」
 本宮     :「部屋に置いてこさせました(汗)」

 確かに……休憩時間とはいえ、ギターを鳴らされては、舞台の上の演奏者も
戸惑うことだろう。
 と、あと一人、三人の後ろに所在なげに立っているのに店長は気がついた。

 店長     :「っと、こちらは……」
 フラナ    :「あ、八神さん。おんなじアパートに住んでるんだよ」
 店長     :「って……ああ、もしかしたら永久カレーの」
 八神     :「…………何で知ってるんですか(汗)」

 フラナ〜花澄〜店長、の、情報漏洩の図が成り立っているわけである(笑)

 店長     :「いや、失礼。はじめまして。平塚と申します」
 八神     :「はじめまして」

 と……

 ??     :「どーしてっ?!」

 はっきりとした声が背後……この場合、舞台に近い側で聞こえた。
 答える内容は、ざわざわに消されてよくわからないものの、声自体は聞こえ
る。どうやら常連さんの声。
 振り返ると先刻まで舞台にいた小柄な少女がいる。
 何だか勢い良く問い詰められている……そんな印象。

 店長     :「……(ああ、だから来てたんだ)」

 納得する。

 本宮     :「っと…じゃ、これで。あ、券ありがとうございました」
 店長     :「いえ(苦笑)」

 どうやら義理堅いことに、この一言を言いに来たらしい。
 四人がばらばらっと目礼して、後ろのほうの席に戻ってゆく。それを何とな
く目で追って……

 店長     :「………………」

 ふ、と、目につく。
 灰色の人民服に、黒い丸眼鏡……何となくサングラス、という表現よりも時
代がかって見えるのだ……にハンチング。
 派手ではない。が、ちょっと普通でもない服装……のような気がする。
  
 店長     :「………(まあ……いろんな人が聞きに来るんだな)」

 ざわめきが、ゆっくりと下火になってゆく。
 そして、ブザー。

 アナウンス  :「只今より二部の演奏を始めます」

*******************************************

 であであ。




★☆★☆★☆★☆★
瑠璃(Lurimu)
YHayamine@aol.com
lurimu@geocities.co.jp(ポスぺ入れました〜)

翼ひろげて 〜夢幻界への誘い〜
http://members.aol.com:/lurimu/wing/index.htm
(http://www.geocities.co.jp/Bookend/1229に移転中)

    

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