[KATARIBE 17010] [HA06N] :「多分とても遠い道」

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Date: Fri, 17 Dec 1999 15:13:47 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17010] [HA06N] :「多分とても遠い道」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912170613.PAA53407@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17010

99年12月17日:15時13分46秒
Sub:[HA06N]:「多分とても遠い道」:
From:E.R


     こんにちは、E.Rです。
 時事ネタ。
 ……というには、あまりに思い入れが強いんですが(苦笑)
 花澄の一人称で。

***********************************
「多分とても遠い道」
=====================

 それは、この国で、どの程度重視されるか分からないニュースで。
 恐らく……そうかね、の一言で、放り出されることもあるだろう話で。

「……始まったな」
「始まったね」

 瑞鶴についた途端、新聞を持った兄が言う。

「……どう、なるかな」
「何とかなって欲しいけど」

 中近東の、二国。
 時に……相手を滅ぼすことが善であった国同士。
 
 相手を。
 相手を殺すことが。
 殺すことこそが、善である、との……

「ゴラン高原返還……やっぱりそう言ってきてるんだ」
「シリアなら当然だろうな」
「イスラエルにしたら当然駄目だろうけどね」

 眼下に一面、広がる風景。それは良く耕され、緑に包まれた……

 その昔。一面の砲撃の中、人々はそれでも地中の道を通り、仕事へ、学校へ
と向かったと言う。
 その昔、といっても。
 未だ世代の交代には至らない程度の昔でしかないのだが。

「まあそれでも、大きな進歩さ」
「それは、そう」
「戦いが、善だったんだから」
「うん」

 一切、相手を認めないところから。
 それでも相手の存在を認めるところまで。

「まだ、かかるな」
「多分、まだまだね」

 ああしかし、でもどうか。
 どうか……
 
 静かに笑いながら、砲弾を受けてなお生き続けた木を示した人。
 授業前、クラスにラジオを持ちこんで、ニュースを黙って聞いていた人達。
 今度息子が兵役なのだ、と、ぽつりと呟いて黙った人。
 電気屋のテレビの前に、一斉に群がって、けれどもしんとして声明を聞いて
いた人達。
 この子供達の時代に、互いが互いを友であると教育できるならば、ガザとエ
リコなど安いものだと言いきった人。

 いまだに、国境で、兵士達が死んでいるのだ。
 戦時ではない、とされる今でさえ。


 どうか…………


 それは多分、とても遠い道。
 とても、とても遠い道。


 だから、どうか。
 どうか………………


 がさり、と、兄が、朝刊のページをめくった。

*****************************************
 
 1999年12月15日。
 イスラエルと、シリアの和平交渉が始まりました。

 イスラエルを滅ぼすことが、善である、というシュプレヒコールの元に
いわゆる中東戦争は起こりつづけています。

 早かった。
 そうも、思います。
 よくもこんなに早く、和平の交渉が始まったものだとも。

 無茶苦茶、嬉しいんです。
 そして同時に、非常に怖いんです。
 この次に続くものが、この和平を破る為の自爆テロリズムではないとは……
とてもとても言えない。
 平和が来ないために、自爆する人達がいる。
 理解を絶するけれども、それが……その人達の善であり目的である。
 そのテロリズムと戦う為に、見殺しにされる人だって出てくる。

 平和を。
 戦って勝ち取らなければならない国のひとたちのために。
 届かないながらも
 エールを送ります。

 では。


    

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