[KATARIBE 16857] [HA06N] :「夜のしじまに」

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 10 Dec 1999 21:10:03 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16857] [HA06N] :「夜のしじまに」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912101210.VAA20867@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 16857

99年12月10日:21時09分59秒
Sub:[HA06N]:「夜のしじまに」:
From:E.R


     こんにちは、E.Rです。

 毎度毎度の酒のみEP(自棄っ)

麻樹さん召喚しております。

********************************************
「夜のしじまに」
===============

 午前一時。
 流石にこの時刻、商店街もしんと寝静まっている。

 縁石の上を、一歩一歩、ゆっくり歩いてゆく。踵の低い靴がことんことんと
低い割にとおる音を響かせる。

 午前一時。
 遠くで車のブレーキが響く。

 と。
 通りの向うから、足音。恐らくズックか何か、柔らかい靴裏の。

 花澄     :「………(微笑)」

 ことん、という音を、片足で止めて。

 花澄     :「……こんばんは」
 麻樹     :「……(会釈)」

 片や、肩から布の鞄を下げて。片や右手に白いコンビニの袋を提げて。
 それでも、呑み仲間というのはわかるもので。

 花澄     :「……お酒?(笑)」
 麻樹     :「うん」
 花澄     :「今から帰って呑むの?」
 麻樹     :「うん」
 花澄     :「なら丁度いいや」

 ぽん、と一つ手を打って。

 花澄     :「付き合わない?」
 麻樹     :「というと?」
 花澄     :「呑みに、行くところなの」

 言葉と一緒に布の鞄を持ち上げる。からん、と響く音がその中身を明かす。

 麻樹     :「どこに?」
 花澄     :「そこの、公園」

 ひょいと、指で示す。一つ頷くと、麻樹は花澄の後に続いた。


 中空に、欠けた月が浮かぶ。

 花澄     :「今日は、運が良いな(笑)」
 麻樹     :「いつも来てるのか」
 花澄     :「このところね」

 鞄の中からビニールシートを引き出して、公園の中央に広げる。
 頼りない灯りが、公園の横の通りにともっている。

 花澄     :「んーと」

 鞄の中から一升瓶と紙コップがひょいひょいと出てくる。

 花澄     :「いまいち風情が無いけど……いい?」
 麻樹     :「ありがとう」

 ぽん、と瓶の栓を抜く。透明な流れが薄暗い中で、白いコップの壁の中に満
ちてゆく。

 花澄     :「はい、どうぞ」
 麻樹     :「ども」

 紙コップを手渡すと、花澄はぽんと足を投げ出すように座り込んだ。

 花澄     :「……ねえ、麻樹さん」
 麻樹     :「ん?」
 花澄     :「こうやって見ると、月の夜空って、水面に似てない?」
 麻樹     :「水面?」
 花澄     :「それを、私達が水の中から見てるの」

 何となくだから、と、花澄は笑って紙コップを持ち上げた。

 しんとして。
 紙コップの中の酒までも、その沈黙を吸い取るように。

 花澄     :「……うーんと、麻樹さん」
 麻樹     :「ん?」
 花澄     :「背中、貸して」
 麻樹     :「背中……ああ」

 了解して、後ろを向いて座り直す。と、その背中にことんと花澄がもたれた。

 花澄     :「なーんか、疲れたあ」
 
 でもごめんね、重くない?と、花澄が聞いた。
 いや別に、と、麻樹が返した。

 花澄     :「何だか、疲れることが多くって…って、麻樹さんに言っ
        :たら怒られるか(笑)」
 麻樹     :「何故」
 花澄     :「私より余程大変でしょ」

 的確な反論の言葉を捜すうちに、花澄はくふ、と小さく笑った。
 喉の奥に溜めるような笑いだった。

 花澄     :「時々ね、声を聞きに来るの」
 麻樹     :「声」
 花澄     :「……うん」

 と、花澄は背を起こし、すいと片手を伸ばした。

 花澄     :「………ゆけ!」

 わずかに低めの、しかしよく響く声は、伸ばした片手の方向へと進むように
見えた。
 まるで……深海の底の、深い深い水の中を突き進むように。
 
 一瞬の、錯覚。

 ふっと、その手から力が抜け、伸びた背がもう一度麻樹の背中にもたれた。

 花澄     :「……って、声」
 麻樹     :「……ふうん」
 花澄     :「未来から来る声……だと、思うけど」
 麻樹     :「?」
 
 あのね、と、花澄が笑う。

 花澄     :「最初に言ってくれたのは、叔母なの。私が迷ってた時に、
        :迷っても、不都合でも、矛盾でも、それでも前にゆけって」
 麻樹     :「………」
 花澄     :「それ以来、癖にしてる。面倒だったり、迷ったりした時、
        :その全部が解決したら」

 言いよどんだように、ふと、言葉が止まった。

 麻樹     :「解決したら?」
 花澄     :「………笑わない?」
 麻樹     :「笑わない」
 花澄     :「……過去の私に向かって言うことにしてるんだ。過ぎ越
        :してゆけ、って」

 くふ、ともう一度花澄は喉の奥で笑った。
 振動が背中を通して伝わった。

 花澄     :「その声をね、聞きに来ている」

 それだけ言うと、花澄は傍らの瓶を取り上げた。

 花澄     :「っと麻樹さん、遠慮しないでね。手酌でどうぞ(笑)」
 麻樹     :「サンクス」

 紙コップに、酒を注ぐ音だけが、暫くの間続いた。


 ふと。

 麻樹     :(……?)

 背中にかかる重みに、麻樹は肩越しに後ろを見やった。

 麻樹     :(……………ありゃ) 
 
 花澄の手元で、空の紙コップがふらふらと揺れている。

 麻樹     :(眠ってる、のか)

 おやおや、と、思いたくなるような事態である。花澄と一緒に呑んだ回数は
既に数え切れず、けれども相手が潰れたことは無い。

 麻樹     :「……………」

 よっと、背中を傾けて、左肩へと相手の頭を移動させる。そのまま滑らすよ
うに片手で頭を受け止める。
 ひどく、疲れているのだろう、と思った。
 酔って……眠り込んでしまうほどに。


 結局、花澄は途中で目を醒ました。

 花澄     :「………あれ?」
 麻樹     :「あ」

 起きた、と言う間もない。慌てたように相手は背中から滑り落ちた。

 花澄     :「ご、ごめんなさいね、重かったでしょう」
 麻樹     :「いや」
 花澄     :「……ごめんね」

 くるっと前に回ると、花澄は繰り返した。

 花澄     :「ごめんなさい……起こしてくれて良かったのに」
 麻樹     :「……声は」
 花澄     :「え?」
 麻樹     :「声は、聞こえたか」

 意味を捉えるまでの、数瞬の間。
 そして、花澄はくすりと笑った。

 花澄     :「………どうだろ」

 ありがとうね、おやすみ、と、それだけ言うと、花澄はまたことんことんと
縁石の上を伝って歩いていった。
 足取りが確かなことを確認して、麻樹はもう一度、結局開くことなくそのま
まだったビニール袋を持ち直して、松蔭堂へと向かった。

************************************

 てなもんで。

 以前書いた、「月待坂〜」からの派生です。

 あれ書いてしみじみ思いましたけど、
 鬼海沙都子って……己の理想だなあ(苦笑)

 どんな力があろうと、異能があろうと。
 潰され、矛盾し、悲鳴を上げることがある。
 そんでも。
 如何なる理由があろうと、その境遇に座りこむことをしなかった、
そういう人だったんだろうな、と。

 ゆけ、と。
 だから言えたんだろうな、と。


 いあしかし、花澄のやってることは、実は己もやってます(苦笑)
 一度(それが最初という意味で(^^;;)手酷く己の限界を知らされた時、
一ヶ月の間、本当に、足場を定められずにふらふらとしたことがあります。
 結果、一ヶ月後、行先が決まったのですが、その最初に、己がやったのが、
過去に向かって「大丈夫だ、過ぎ越してこい」と言うことでした。

 わからないけど。
 目にも見えず、聞こえもしないけど。
 多分、未来の己は、今の己に越え難いと見えるこの現状を越えて、
未来のどこかから、過ぎ越してこい、と、言っているに違いない、と。
 
 これは……まあ、己の癖ですね(苦笑)
 その、未来の声を、聞こうとします。
 もしかしたら、一ヶ月では済まないかもしれない。もっともっとかかるかも
しれない。

「過ぎ越してゆけと 未来から声が聞こえる」

 一番、聞きたいのは、今の己かもしれません。


 ……というわけで、麻樹さんお借りしました。
……しかしどーして花澄の奴、男性PCに対するより、女性らしいかなあ(爆)
#書いててしみじみそー思った(滅)

あーっと、BGMは、松任谷由実さんの「Reincarnation」、特に「心のまま」
かな?
(松任谷由実さんの「Reincarnation」、中島みゆきさんの「Half」、谷山浩子
さんの「約束」を三つ連続して聞くと笑えるぞーー相当(脱線))

 ではでは。





    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage