[KATARIBE 16763] Re: [HA06N] 小説『紅い雪の記憶』第5章

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Date: Tue, 07 Dec 1999 00:58:35 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 16763] Re: [HA06N]  小説『紅い雪の記憶』第5章
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かけるんです

ひさびさになります。第6章です

狭間06小説『紅い雪の記憶』第6章
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 夜のとばりはすでに降りていた。街灯はないが、月の光が雪に反射している
ので外は明るい。
 鐘が鳴る。
「そろそろ帰ろうか」
 香澄は時計を見るて言う。短針は7時を指している。
「じゃぁ、途中まで送りますね」
 ティーカップをトレイにのせて真理が言う。
「いいえ、その必要はないですわよ」
「闇夜の中二人っきりよ」
 深雪がまじめな顔を作りながら話す。
「かけるがいきなり狼になったらどうするのよ」
「あら、かけるさんは狼さんだったんですか」
 と真理。
「狼に見えます?」
「いいえ」
「だいじょうぶよ。いつも二人っきりで帰っているし」
「最近の中学生は進んでいらっしゃるんですねぇ」
「日本って退廃的ね」
「なにか勘違いしていませんか二人とも」
「まぁ、とにかく帰ろうよ」
「それじゃぁ、お邪魔しました」
「来てくれてありがとう」
「明日はさぼるなよ」
 とかける。
「さぼってないわよ」
「また明日ね」
 真理がランプを持って先に扉の外に出る。彼女の後に続いて廊下を進む。
「それでは、お邪魔しました」
「またいらしてくださいね」
「今日はありがとうございました」
 礼を言って、外へ出る。
「雪が止んでよかったわね」
「あぁ」
 雪を踏むとかき氷のような音を立てる。来たときにつけた自分の足跡を崩し
ながら進む。
 規則正しく、リズムを刻む。
 月の光以外に明かりはない、かけるはコートの外ポケットから手袋を取り出
し、はめる。
 かけるは立ち止まる。
 そして振り返る。
 手を擦りあわせながら、天を見上げる香澄。彼女の目はただ1点を見ている。
 なにか見えるのか。そう問おうとして、かけるは止めた。
 首を後ろにひねる。
 天球に銀の円盤。そして、その周囲に未知の世界の地図のように浮かぶ白い
大陸。
 月を中央に、左右に雲が広がる。縁は広く光り、中央に向かうにつれ、光を
遮りみずからの存在を示す。
 そして、月が動く。実際には雲が風に流れているのであろう。月は左に動き、
大陸の下に沈む。
「消えちゃったね」
「また、出てくるさ」
「あの雲の上にも、王国があって、人が住んでいるとか考えたことはないかな」
「非科学的な」
「もっとファンタジーな心があってもいいと思うけど」
「ただ、いまの光景みたら信じてもいいと思う」
「ありがとっ」
  二人は再び歩き出す。
「手袋、貸そうか」
「いいよ。寒いでしょ」
「もう1組あるから」
 といって、丸めた毛糸の赤い手袋を放る。
「ありがと」
 香澄は手袋に手を通しながら言う。
「そういえばさ」
「なに」
「かけるって、好きな人いるの」
 かけるの横顔を、なにかを探るように見る。
「いると思う」
 前を向いたままかけるは答える。
「いないの」
「興味ない」
「かける、友達あんまり作らないんだから彼女の1人や2人いてもいいと思う
けど」
「友達いなくて、彼女2人いたらただの嫌な奴だと思う」
「そーいう意味じゃないでしょ」
「ところで、何故そんなことを聞く」
「友達に聞かれたから」
「そうか」
 無言。
 雪柱を踏み壊すような音が続く。
 トンネルをくぐり、電灯のある舗装路に出る。アスファルトの雪はきれいに
融けていた。
「ねぇ、明後日暇」
「開けられるけど」
「どっか行くつもりだったのかな」
「図書館でも行こうかと。まぁ、開けてもいいけど」
「そう、買い物に付き合ってくれないかな」
「荷物持ちか。いいけど」
「ありがとう」
 踏み切り前の交差点にでる。
「それじゃ、また明日」
「おやすみ」
 手を挙げて別れる。かけるが踏み切りに入ったとき、警報が鳴る。かけるは
走って遮断機の下をくぐった。
 振り向くと、香澄が向こうからこっちを見ていた。汽笛。盛岡駅行き最終列
車が通りすぎるのを待たず、かけるは踏み切りに背を向けた。

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蒼空かける                       kakeru@trpg.net

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