[KATARIBE 16745] [HA06N] :「狂歌」

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Date: Mon, 6 Dec 1999 12:46:09 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16745] [HA06N] :「狂歌」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912060346.MAA15638@www.mahoroba.ne.jp>
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99年12月06日:12時46分03秒
Sub:[HA06N]:「狂歌」:
From:E.R


    こんにちは、E.Rです。
 ちょっと……店長視点で。

***************************************
「狂歌」
========

 狂たらんとして一生を終えたひと。

 それが可能であった時代に、生きることが出来た……
……それは、一つの幸運かもしれない。


「花澄」
「ん?」
「付き合え」

 からん、と、グラス二つに氷をぶち込んで。

「いいけど……」

 妹の目が、カレンダーに向かい、そしてああ、と合点する。

「うん。お付き合いしましょう」

 それほど良く知っている相手ではなかった。
 どちらかというと……会うことが出来なくなってから、その人となりを深く
知らされた。
 まだ、自分が迷っていた頃。

「……あ、これおいし」
「白岳」
「熊本産?……球磨焼酎?」
「さあ」

 焼酎をストレートで注ぐ。
 兄妹揃って、この程度で酔わないのは……多少の問題があるのかもしれない。
 とりあえず、酒代だけは常に問題だが。

「もう何年?」
「何年かな」

 炭火のような人だったと聞いた。
 表面は白い粉をふいて……けれども、一度息を吹きかけると、火が噴き出す、
そんな人だった、と。

 理想と、現実と。
 突っ走る理想は、現実の中で吸いこまれ、崩れてしまうものだけど。
 崩れる哀しさに、道を思いっきり曲がって………
………曲がったまま、軌道修正しかけた途端、ふっつりと消えた人。

 一二度会っただけの人のことだった。
 けれどもそう聞きながら…………泣いた。

 突っ走る理想。
 ぶつかっても動かない世界。
 その前で何度歯噛みしても動かない世界に……それでも何度でもぶつかろう
とする己の愚かさ。
 その愚かさも、尽きそうになっていた頃。

 あなたも。
 あなたもまた、いきたのか。
 あきらめられずにいきたのか……と。

 莫迦げた話だが、その時安堵したのだ。
 ならば……自分が迷っているのも不思議ではない、と。

 莫迦だと。
 理想論だと。
 綺麗ごとを言うなと。
 何の為に生きる、と考える、それはそのまま書生の論だ、と。
 
 それでも…………なお。

「世に汚隆無きに有らず、正気時に光を放つ……か」
「っと……正気の歌?」
「うん」

 時に光を放つ……というならば。
 光を放たぬときも、伏流の如くひとの心にあるものだとすれば。
 それは……狂としか形を取れないのではあるまいか。

 狂。と。
 人の世を、渡るに不要、と。

 けれども。
 そのひとの故に……安堵したのだ、俺は。

 
 その感謝に。
 その手向けの代りに。

「……はい」

 妹がグラスに酒を継ぎ足す。ついでに自分のグラスにも、遠慮会釈無く注ぎ
足して。

「……お前、さあ」
「え?」
「もーそろそろ、手酌、人前でやるなよ」
「……って……基本として人前で呑まないよ」
「……そういう問題か?」

 狂として。
 狂たらんとして生きることの可能な時代が。
 自分の生の間にあるかどうかは知らない。

 けれども。
 それでも。

 狂を抱えて生き切るのも悪くない。


 からん、と、グラスの中の氷が鳴った。

**************************************

 狂。
 と。
 例えば吉田松蔭なんかは、自分を例えてますね。

 時代が合えば、連戦連勝の将軍であったかもしれない人が、時代が合わなければ
ホットドッグ屋のにーちゃんで終わる……と書いたのは、確か田中芳樹さんで。

 そういう意味で、
 時、というものはとことん関わる。
 
 狂が起爆薬になる時代。
 狂が踏み潰される時代。
 
 莫迦を徹して生きるって、でも理想だからなー(苦笑)
 
 ちうわけで。
 おふらいんでの事実ふんまえたEPです。

 あ、ねんのため。
 この場合の「正気」はせいき、と読みます。

 ではでは。





    

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