[KATARIBE 16729] [HA06][EP] 「明けない、夜」まとめ+新規

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Date: Sat, 04 Dec 1999 04:55:29 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 16729] [HA06][EP] 「明けない、夜」まとめ+新規
To: kataribe-ml@trpg.net
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In-Reply-To: <199906111333.WAA20263@mail.kt.rim.or.jp>
X-Mail-Count: 16729

 ども、D16です。
 ついに一年になりそうです。
 関係者の方々済みません。

 ええと、このあいだの関東sfさん迎撃オフじに打ち合わせた分を流します。
以前流したキノエキノトの無力化シーンとあわせてです。

 なおこれまでの分は、
NaoNami<ikegami@kt.rim.or.jp> さんは書きました:
>> なお、前の話しは
>>[KATARIBE 13281] [HA06]EP:「明けない、夜」これまでのまとめ・起
>>[KATARIBE 13282] [HA06]EP:「明けない、夜」これまでのまとめ・承
>
>これの「明けない、夜」これまでのまとめ・承 のところ、不観樹さんの修正が入りま
した。
>修正部分は
>
>[KATARIBE 13415] Re: [HA06]EP :「明けない、夜」これまでのまとめ・承
>
>こちらになります。あと最後の章の続きが
>
>[KATARIBE 13445] [HA06]EP: 「明けない、夜」 3/30 夜

 です。

では、
************************************************************************
○影到る―3/29夕方
------------------

 SE		:「ぱきり」
 
 無道邸で与えられた前野の自室。
 キーボードを打つ手が一瞬とまる。デスクの上の薄いプレート。
 あの時、前野が一に渡したのと同様のものが、ひとりでにひび割れていた。

 前野		:「まさかとは思ったが……。役立つとはね」

 立ち上がって、時計に目を走らせる。
 無道邸の夕食は遅い。しかし、万一と言うことがある。
 ブラッド老に煌と煖をつれて行くことを言っておかなければなるまい。

 パソコンを終了処理に入らせると、コートを羽織り、部屋のすみに立て掛け
 ておいた刀を手に取る。それから、引き出しを開けると中のディスク類を漁
 り、数枚取り出す。

 前野		:「あとは‥‥」

 少し考えて、空のMOを二枚。
 それらのディスクをコートのポケットに突っ込むと、前野は自室を出て執事
 であるブラッド老の居室へと急いだ。

 部屋を空けると有機溶剤のにおいがした。

 前野		:「ブラッドさん、今度はなんのイベントですか」
 ブラッド   :「7月のJAFCONですな。今のうちから準備です」
 
 レジンの少女の胴体が幾つか転がっている。

 前野     :「これは?」
 ブラッド   :「1/6モデルが基本ですな。それはお嬢様Cです。前回お
        :嬢様R、R2が好評でしたから、それも増産してます」
 
 前野はレジンの塊を見まわす。

 前野     :「これは、メイド服?」
 ブラッド   :「メイドKですな、そちらはメイドN」
 前野     :「みかんは駄目ですよ」

 あらかじめ釘を刺す。

 ブラッド   :「……それは残念」

 気を取りなおして前野は言葉を続けた。

 前野		:「実は、私のもう一つの仕事のほうで助手が必要になりま
		:して。煌と煖をしばらくこちらで使わせていただきます。
		: 千影お嬢様、竜胆さん、他数名の夕食までには戻るつも
		:りですが、遅くなったときにはご容赦下さい」
 ブラッド	:「煌と煖のみでよろしいのですかな?前野さん」
 前野		:「千影お嬢様の御手を煩わせるほどのことはないと、思い
		:ます」
 ブラッド	:「フム、よろしいでしょう。煌と煖の手際ほどには参りま
		:せんがいざとなれば、一人二人ほど、ホムンクルスの手を
		:借りるとしましょう。夕食のことについては、心配なさら
		:ずとも結構です。橘川さんもいますしな。
		: それで、今日中にはお戻りですか?」
 前野		:「はい」

 一礼して前野は部屋を辞そうとした。
 その前野をブラッド老は呼びとめた。

 ブラッド	:「ああ、前野さん」
 前野		:「何か?」
 ブラッド	:「私自身からお嬢様に知らせることはいたしません。しか
		:しお尋ねがあれば、お答えします。よろしいですかな?」
 
 前野はしばらく考えた。

 前野		:「結構です。どの道、お嬢様がその気になれば誰も止めら
		:れはしないでしょう」
 
 ブラッド老は応えなかった。
 肯定の沈黙だろう。


 ○卑劣
 ----------

 キノエ	:「結局山のほうはどうだったの?」

 吹利駅から遠ざかり、春日の丘に向かう道だった。キノエは俺にそう尋ねて
きた。一瞬俺は答えるのを躊躇ったが答えた。

 一十		:「梨の礫だった。雪爪先生は山に入って今はどこに居るか
		:も知れん。一応、飛式を使いに出したけれど、まに合わん
		:だろうな」
 キノト	:「ふうん」

 十のことに関してはほとんどのことがわからなかった。追えたのは山に入る
までの間のことだけ。院号を受け、本格的な山の術士となってからはやつの足
取りは実家の人間にも掴めないものとなっていた。
 十の実家に連絡をとるのは辛いことだった。
 十が死んだのは六年前。家族を失い悲嘆に暮れる家族はその後さらに悲しむ
ことになる。
 十の妹の双逢さんが交通事故で亡くなったのだ。
 葬儀の様子を思い出し俺は、唇を噛んだ。

 道はやがて春日の丘への道から、外れた。

 一十		:「どこに居たんだ、そいつは」
 キノト	:「もう少し行った所、公園の管理小屋の中だったよ」
 一十		:「よし」

 キノエ	:「ミツル、何を考えているの?」
 一十		:「十(つなし)は死んだはずだ。それは、間違いない」
 キノエ	:「なら、あいつは一体何なんだろうね」
 一十		:「何故、十を装う必要があるんだ……」

 樹冠をぬけて夕日が差し込んでいた。

 一十		:「(闇が、見えないな……)」

 鮮紅色の夕日と林の闇。そのコントラストにうずもれて樹の影の闇が見通せ
ない。その状況に俺はかすかな危惧を覚えた。
 林の奥にキノエは向かっている。
 軽やかに少女は茂みを抜ける。
 しばらく誰もが口を開かなかった。藪をぬけて行く枝葉を踏みしめる音だけ
が聞こえた。

 キノエ	:「ねぇ、ミツル」
 一十		:「ん?どした、キノエ」
 キノエ	:「直紀さんのことどう思ってるの?」
 一十		:「へ?」
 キノエ	:「あたしは、ミツルの何なの?」
 一十		:「何、何言ってんだよ。キノエ、お前」

 俺は笑っていたとおもう。可笑しかったからでは無い。戸惑っていたのだ。

 キノエ	:「吹利に来てから、ミツル変ったよ」
 一十		:「そうかな」
 キノエ	:「気がついていないんだ。悔しいな」
 一十		:「気がついていないって、何にだよ?」
 
 俺の目の前でキノエが振り返った。と、肩まで届く髪が翻った。
 短く刈った髪の姿の少女の姿は無かった。
 そこに居るのは剣呑な瞳の輝きはそのままに、翻る黒髪にきらめく火花を纏
わせた女妖だった。
 見覚えがあった。
 女妖は髪を掻き揚げる。
 耳朶にきらめくものがあった。
 ピアス?

 キノエ	:「覚えてる?あたし達がはじめてあった時、あたしの髪が
		:長かったの。
		: あのあと、あたし達がミツルに調伏されて、ミツルの式
		:になった時にあたしミツルが言うように髪を短くしたんだ」
 一十		:「キノエ!お前、まさか!!」

 背後から声がした。

 キノト	:「ねぇさんは知ってたよ。全部ね。
		:動かないで、ミツル」

 俺の周囲で旋風が巻き起こった。しかし、その風はまるで意思持つ者の様に
俺の四肢に絡み付いた。
 細い指が背後から、俺の首に回った。
 くすりと背後で少年は笑い、俺の動きを制するように抱きついた。背中に耳
が押し当てられた。

 キノト	:「ふうん、ミツル。動悸が速くなってる。あながち嘘でも
		:無いんじゃない。図星だったんだよ、ねぇさん。おかげで
		:簡単に縛れた」

 女妖はくっくっと喉の奥で笑った。

 キノエ	:「なら、切り裂いたり、雷で打ち据えたりなんて野暮なこ
		:としなくてもいいわね」
 一十		:「(風縛!俺としたことが付け入る隙を与えるなんて!)
		:やめろ!キノエ、キノト」

 間違いなかった、キノエもキノトも既に敵の術士の手に落ちていたのだ。
 細くよく動く指が俺の顎を捉える。くい、と顎を引き上げるとキノエは淫蕩
に笑った。
 沈む夕日の残照がキノエの耳元できらめいた。何故速くこれに気がつかなか
ったのか。俺はキノエの耳の飾り気の無いピアスを見てほぞを噛む思いだった。

 キノエ	:「ねぇ、ミツル。あんたがあたし達にどんなことをしたが
		:ってたか。あんたがどんな風にあたし達を見てたか。あた
		:し、知ってるよ」
 一十		:「……お前達、打ち返されたのか!?」
 キノト	:「さぁ、ね。枷を外されただけかも」
 一十		:「お前達、何で……」

 ただ打ち返された式であればしゃにむに俺を標的に狙う。しかし、この相手
はキノエたちの性格を残したまま返してきた。それだけの余裕があると言うこ
とか?
 
 一十		:「(何故だ、何故敵は打ち返したのに自律させたままにし
		:ている!さらに返せるか?無理だ。畜生、これほどの術者
		:だったとは!)」

 俺の首筋に鋭く痛みが走った、背後で指を吸う音が聞こえ、やがて、生暖か
い舌の感触がちろちろと傷口に感じられた。後ろでキノトの生気が強くなる。

 キノト	:「血を舐め尽くそうか」
 キノエ	:「精を吸い尽くそうか」

 にまりとキノエは口を歪めて笑い、舌なめずりをした。同じような粘着質の
音が背後のキノトの元からも聞こえてくる。聞き覚えのある音だった。
 三年前、あの時、一人で赴いた仕事。あの時に聞いた音、声。

 一十		:「(くっ!)」

 逃れねばならない。
 俺は身体を封じられたままこつこつと歯を噛み鳴らした。
 鳴天鼓、打天鐘、槌天磬。
 邪気を打ち砕き、瘴気を断ち斬る道士の技。三天叩歯法。
 一噛み毎に俺を縛る風とキノトの腕が緩む。

 キノト	:「ねぇさん!破られる!」
 キノエ	:「させないよっ!」

 キノエの黒髪が翻り、紫電が走った。
 音を立てて枝が降ってきた。煙が上がる。

 一十		:「やめろ!俺は、お前達を封じたくない!」
 キノエ	:「できるはずが無いよね!あんたにそんな事をする資格な
		:んてあるものか!
		: あたし達を連れ出したのもあんた、名前をつけたのもあ
		:んた」
 キノト	:「約束をしたのも、ミツルだよ。外に連れていってくれる
		:って。見た事無いものを見せてくれるって、一緒に居てく
		:れるって」
 
 身を隠していた茂みを風が薙いだ。転がり出る。
 
 思い出した。はじめてこいつらに会ったときのことを。
 あの時俺は……。

 一十		:「すまん……。臨…前!」

 刀印を持って十字に印を斬る。
 九字活法鞘縛り。
 気合に撃たれ、びくりとキノトの体が震えた。姉弟のコンビネーションはキ
ノトが主導権を持っている。
 
 俺の頬を雫が流れた。
 汗だ、俺はそう思うことにした。
 
 キノエ	:「キノトォォッ!!」

 弟を傷つけられた姉は逆上する。雷撃の威力は増すが、制御は甘くなる。
 わかっていた。このことも。以前と同じシークエンスだ。違うのはあのとき、
俺は相対する女妖の名を知らなかったが、今は知っているということだ。
 ほかならぬ俺のつけた名前。
 甲、木の兄、キノエ。
 そして弟の名。キノト。

 女妖が、キノエが変化した。
 俺の与えたもう一つの姿。
 雷を身に纏った白き山神の使い。雷獣。
 目は怒りに見開かれ、鮮血を思わせる口を開くと青白い電光が明滅した。
 
 雷光が走った。
 今度は逃げられなかった。右足が煙を上げ、肉の焦げる匂いが鼻をつく。俺
の足が燻っている。

 一十		:「やらなくちゃ、いけないのか?」

 木の葉が舞い上がった。らんらんと光る眼で俺を睨んでいる。旋風の中に風
を従えた獣がいた。鎌鼬の姿も俺が与えた姿だ。

 被甲護身印を結ぶ。幾度も繰り返した身の所作だ。身に光り輝く鎧を観想す
る。敵の爪牙を防ぐために……。ちがう、奴らは敵じゃない!

 風の刃が俺を取り巻いた。
 肘、ニの腕、耳、頬。不可視の剃刀が幾度も俺を切りつける。手首と首筋、
目を守って俺は地に伏せた。

 キノエ	:「あんたは知ってたんだろ!こうされる事を!あたし達を
		:打ち従えて、自分のしもべにした時から、こうなる事がわ
		:かってたんだろ!」
 キノト	:「なのに、何もしておかなかった。
		: わかるよね、ミツル。ミツルが甘かったんだよ!」
 一十		:「……わかってる」

 轟音がやんだ。
 目の前に2匹のオコジョの姿があった。

 キノト	:「じゃあ?」
 キノエ	:「どうやって死にたい?」

 遠い約束を思い出した。あれは、山の中だったか、夏の夕立の中だったか。
 暑い。
 汗が、目に染みる。拭っても拭っても視界が、滲む。
 
 ……約束を破ったら。裏切ることがあったら。
 ……その時には、殺されてやる。好きにしろ。

 傲慢な言葉かもしれない。けれど、あの時、俺は確かに思ったのだ。この姉
弟達を裏切ること、傷つけることは命に代えてもしてはならないと。
 けれど、

 一十		:「今は死ねない。俺一人の命じゃない。すまない」

 いま俺は自分の一部を裏切ろうとしている。

 一十		:「役行者勧請の修験諸尊の尊名は」

 ……なぁ、お前達。俺と一緒に来ないか?
 飛沫く雨の中俺は姉弟に手を伸ばした。
 地に打ち据えられても輝きを失わない、強い瞳。
 美しいと、思った。
 
 ……なぁ、キノエ。約束覚えてるか? 
 ……約束?
 ……俺とおまえらとで最初に交した約束
 ……ああ、あのこと
 ……そろそろ、人に慣れたよな。キノトも。なぁ、キノエ 
 ……なに?
 ……今回のこともあって考えたんだが、そろそろおまえらも 外に出ないか?

 一十		:「一つ数えて不動王」

 俺は約束を今破ろうとしている。
 姉弟よ、俺がお前達と出会ったのは果たしてよい事だったのか?
 俺はお前達に見せてやれたのか?
 広い空を、深い山を、蒼い月を。

 結界は成立している。遠くで嵐が聞こえる。
 姉と弟の声が聞こえる。

 一十		:「二つ重ねて孔雀王」

 観想も術式も滞り無く進む。なぜ、躊躇わない?なぜ、心とは別に俺の体は
動くのだ。
 と、印契が滑った。血のせいだ。

 姉弟よ、あの時から今まで。俺達は偶然の上に居たのだったな。
 お前達の瞳を美しいと思ったから、俺はお前達に軛をつけなかった。
 だから、お前達の笑いを聞いて満たされていたんだ。
 お前達のあの笑い声は心からの物だったのか?
 
 答えの返って来るはずの無い問い。問うてはならなかったからこそ、俺は。

 一十		:「三つ蔵王の権現と三尊重ねて、申し奉る。
		: それ仏法は広大にして、神威は深遠なり。修験諸尊の名
		:のもとに護法の童子として勧請されし神祇の名は……」
 
 お前達には聞き覚えがあるはずだ、この言葉で全てが始まった。
 俺とお前たちの間の絆。
 苦しむことはない。ただ、絆を解くだけ。俺の与えた姿、名前を解き、全て
を始まりに戻す。
 
 一十		:「巽為風、乙童子。震為雷、甲童女。ともに前生の因、来
		:世の果によりて、今生、修験瑞真の護法たる」

 キノエ	:「奪うの?」
 キノト	:「ボクたちから」
 キノエ	:「ミツルが与えた物を」
 キノト	:「ミツルの手で」
 キノエ	:「あの約束はなんだったの?」
 キノト	:「あの日々はなんだったの?」

 キノエ	:「……なんで、やさしくしてくれたの?」
 キノト	:「……いずれこうなることがわかっていたの?」
 キノエ&キノト:「ぼくたちにないものをあたえ、それをうばうの?」
 
 俺は吠えていた。
 二人の静かな声。だから、その声は心に届いた。

 俺は何をしているのだ、なぜ。何故。
 会わなければ良かった、そんなはずはない。
 
 俺が、俺が、弱かったのだ、愚かだったのだ。
 何を考えているのだ俺は、今ここで倒れれば直紀さんはどうなる。
 やめろ、言葉を止めろ。
 取り返しのつかないことはもうたくさんだ。
 やめられるはずもない。
 裏切り。

 一十		:「今……その縁を断ちて、護法を送る。
		:……急く急ぎて……律令に記されたるが如くに」
 
 キノエ	:「コンナ…コトニ…ナルナラ……」
 キノト	:「……ミツルニ…アワナケレバ……ヨカッタ」

 一十		:「うわああああああああああああああぁぁっ!!」
 
 俺は、哭いた。
 
 ○闇、到る
 ----------

 霊圧が高かった。
 
 暗がりの中、サングラス姿の男が神社の石段を登っていた。
 付き従う女性が二人。黒鉄色のタイトパンツに、鋼色のベスト。まる
で鏡写しの様な姿態だが首もとの蝶ネクタイの色だけが違った。

 青は煌。
 赤は煖。
 二人を従えるは前野浩。

 無道邸より、一十の位置まで急行した三人がやってきたのは、この春
日の丘にほど近い林だった。

 前野     :「陣じゃ無いな」
 煖      :「マスター、風の乱れが……ひどい」
 
 ぴくりと、もう一人の娘の耳が動く、
 
 煌      :「チィ、遅かった?」
 煖      :「来ます、手負い」

 前野は動かない。
 闇を抜けて吹きつける風がサングラスの男を打った。
 
 前野     :「止めろ。煌」

 鞭の唸りが主に答えた。
 空気を切り裂く音ともに、それは来た。
 宵闇のなか、負圧が鋭利に風の刃を作り出す。襲い来る先は、男。
 前野は動かない。ただ、サングラスの奥にほつりと鬼火の様に赫い光
が灯った。

 破裂音に似た音が、周囲の木の葉を散した。
 風を切る鞭の唸りは三度のフェイントを含む鞭の捌き。
 獲物を捕らえた黒革の綱が喜悦の喘ぎを洩らす。
 
 前野     :「……一さん、自分の使い魔の始末もつけられない
        :んですか」
 煌      :「姉の方も、来る。一さんはあそこに」

 前野はサングラス越しに一瞥をくれた。
 姿を認めた修験者の顔が哀願の表情に変わる。
 その前に、アークが散った。
 化生の身に堕ちた雷獣の姿だった。

 煖      :「マスター?」
 前野     :「いい、弱ってる様だ。片付ける」

 サングラスを外した。
 瞳の奥に灯る鬼火が、溢れた。

 光の奔流が一瞬、林を赫く染めた。
 
 化生     :「!!!!」
 
 答える間もなく、光の洪水でそれは溺れ、消え去った。
 悲鳴が聞こえた。
 化生のものでは無い。
 人の悲鳴だ。
 化生の過去の名前を呼んでいた。

 魔人は瞳を伏せた。

 前野     :「煌、こっちに」
 煌      :「Yes,sir」

 鋼線の細工のような指が鞭にかかる。いかなる手練の技か、その一振
りで、からめとられもがいていた化生が引き寄せられた。

 一十     :「やめろ……!」
 
 光の帯が化生を薙ぎ払った。

 前野     :「自分の使い魔の始末ぐらい、自分でつけてくださ
        :い。一さん」

 前野は表を上げた。
 ポケットからMOディスクを取り出す。

 前野     :「ひとまず、変換しておきました。必要ならあとで
        :バグフィックスしておきますが?」
 一十     :「なぜだ!何故あんたが手を下した!俺は……、俺
        :はそんな事を頼んだ覚えは無い!」

 一の手が前野の襟首を掴み、締め上げる。
 二人の娘が動きを見せた。

 前野の指が一の手にかぶさった。
 力がこもる。

 前野     :「だいぶ……、お疲れのようですね」

 前野の指が一の指を無理やり剥がしてゆく。
 逆に、前野の指が一の襟首を掴む。そのまま強く立ち木に押しつける。
力無く、一の腕が垂れた。

 歩み寄ろうとする煌を煖が止めた。

 一十     :「ふざ……けるな……」
 
 言葉を聞いて前野は、
 にっこり、笑い、囁いた。

 前野     :「直紀さんのお見舞、よろしいんですか?」

 そこまでが修験者の限界だった。
 操り人形の糸が切れるように、一はその場に崩れ落ちた。

 前野     :「男を抱きとめる趣味は、無いんですがね(苦笑)」
 煖      :「どこへ?」
 前野     :「グリーン・グラスへ」
 
*****************************************************************

 前野、煌、煖に関して、結構思いつきで書いてるので、ガンガン修正
下さい。
 「こんなんじゃねー」というのがあったらごめんなさいです。

 それでは

 
D16
e-mail:yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp
    

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