[KATARIBE 16610] [LG02N] 合身! 漢が漢を超えた道

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Date: Fri, 26 Nov 1999 15:10:01 +0900
From: "まろ" <maro@kcn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16610] [LG02N] 合身! 漢が漢を超えた道
To: <kataribe-ml@trpg.net>
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ども、まろです〜
ようやく病気から復活の兆し
でも この休みはどこにも動けそうにないなぁ・・・(TT)

てわけで、うにうにとガイロードの小説立ち上げてみたり。
途中で 文の形式が変わってるですが、そこは大目に見てください(^^;)

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「合身! 漢が漢を超えた道」
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 客を第一に考えなあかんぞ。
乗り心地、景観がよう見えるようにな。
何度も聞かされた、人力車の引き手をやっていた親父の言葉だ。
親父は 俺がガキの頃に死んだ。 交通事故だった。
そして………俺の目の前で、死んだ。
 人力車を引いている途中、鹿の飛び出しにビックリしたトラックに撥ねられ
客は、客は、と何度も聞く親父。
かすり傷一つなく無事だと事を伝えると、親父は満足そうに息を引き取った。
事実、客は本当にかすり傷一つなく助かった。
親父が見事な体さばきで、客を安全な芝生の方へ車を投げ出したからだ。
そしてその体さばきにより、親父は真正面からトラックと衝突した。
完璧に即死のはずだったのに、血で濡れた手で俺を掴み、客の安否を聞こうと
する親父に……俺は寒気のするほど、漢としての魂を感じ取っていた。

 月日は経ち、俺は高校を中退した後に兄貴の仕事を手伝うようになった。
何の因果か………親父を撥ねたトラックの会社だったが、兄貴も俺も気にはし
なかった。
その運転手が悪いわけではないのだから。
だが、そこの社長はその事故を覚えていたのか、俺達によくしてくれた。
社長も昔かたぎの漢で、直接その事を言っては来なかったし、贔屓目で見てい
る訳でもなかったが、その事が俺達はより嬉しかった。
 会社は運送会社だ。
本当に小さな会社だったが、用があれば日本の何処であろうと積荷を届ける。
儲かりはしなかったが、熱心な仕事振りが評判らしく、潰れもしなかった。
全ての運命を変えた、あの日までは…。

 その日は社の命運を賭けた、大事な取引先への積荷を積んでいた。
この取引が軌道に乗れば、まとまった金が入ってくるようになる。
兄貴も俺も、いつになく緊張していた。
「後はあの山を越えたら、目的の工場やな。」
しかし渋滞につかまり、予定よりかなり遅れてしまった俺達には、暗い山道を
スピードを落として通るほどの余裕もなかった。
そして、運命の瞬間が来る。

 視界に急に現れた人影があった。
俺の記憶では、それは鎧武者の姿をしていたように思う。
その一瞬が、兄貴のハンドルを握る手を凍りつかせ…道を外れたトラックは、
山の中へと消えた。
鈍い衝撃が全身を包む。
兄貴の積荷を心配する呻きに、親父の事を思い出しながら、俺の意識は薄れて
いった………。


『よぉ』
そいつは、飄々と話しかけてきた。
姿は分からない。
何もない、ただ真っ暗な空間があるだけだ。
『ついに来やがったか、この時が。お前さん、大変だったな。』
誰だ………お前は。
『俺か?俺は……そうだな。熱き漢の魂、マスターガイ………とでも名乗って
おこうか。』
あからさまに怪しいぞ。
『気にするなって。そもそも呼んだのはお前さんの方だぜ。俺はお前さんの魂
の叫びを聞いて、やってきたんだからな。』
俺の………叫び?
『このままじゃ死ぬに死にきれねぇ。この積荷を届けなきゃってな。』
そうか………俺は山間の谷底に落ちたのか。
『幸い、積荷は無事みてぇだが………車はおシャカだな。』
絶望する俺に、声がなおも語り掛けてくる。
『そこでだ。』
何もなかった闇の中に、光の筋が浮かび上がる。
『この道は、お前さんの大事な積荷へと続いている。この道を走りゃ、積荷を
無事に届ける事も出来る。だが、この道は険し………って話してる側から走る
奴があるかコラ!!』
無視して走り出す俺に、奴の声が追いかけるように後ろから聞こえてくる。
走って何が悪い。この道は、積荷へと続いてるんだろう。
『だが、この道は険しくてな。一度走り出したら 後戻りも、道から外れる事
も許されねぇんだぞ?!』
それが何だというんだ。
漢は一度決めた事は最後までやり遂げる。
それがどんな道であろうと、目的に続いているならば走る。
後ろは振り返らない。
それが 漢だ。
『……っくしょう!本当に漢だぜ、お前って奴は!! そうだ、後ろを振り返
るんじゃねぇ!! 突き進む所まで、進んで進んで進み通せ!! 俺がお前に
力を貸してやるぜ!!』
俺は走る。
この光の道を。
この道は漢の道。
俺が俺である為の、漢であるための 道だ。
その走りを遮る事はできない。
やがて俺とマスターガイだろう存在が重なり…視界を光が覆った。

気がつくと、俺は積荷を『トラックごと持ち上げ』工場の前に立っていた。
トラックの運転席に、兄貴の姿はなかった。
 会社は社長が責任を取ってか辞任し、その息子が後を継いだ。
が、目まぐるしく変わる世間の波に押しやられ、程なくして倒産したと聞く。
俺はというと、合身の影響か記憶が曖昧な時期があったが、その身に起こった
変化は自覚していた。
俺は、人としての生活をしていた世界から、静かに消えていった…。

俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺の走りを求める、人々の叫びが。
その叫びが、俺の体を変えてゆく。
漢を超えた漢の姿に………。


    

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