[KATARIBE 16609] HA06N :「ないと・めあ」

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 26 Nov 1999 13:03:31 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16609] HA06N :「ないと・めあ」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199911260403.NAA27079@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 16609

99年11月26日:13時03分27秒
Sub:HA06N:「ないと・めあ」:
From:E.R


      こんにちは、E.R@夢〜(とほひめ) です。
 そいえば最近見た夢ってなあ、とか、
考えてたら浮かんできた光景。
 滝さん引きずり込んでます(笑)

*************************************
「ないと・めあ」
================

 悪夢展覧会……などという逃げ場すらなく。


 かつん、と、厚い靴の底が音を立てる。
 アスファルトは、じとりと湿り気を帯びている。

 座るところの無い、夜。
 真珠母のような雲の後ろに隠れた、月。

 かつん、と、また硬い音が響く。

 酔わない。
 否……酔えない。
 
 伸びた髪の先が、歩くにつれて振り子のように揺れる。
 
 月は……微かにいびつである。
 歪んだ真珠……バロック。
 歪んだ真珠を後生大事に、孕み続ける雲の流れ。

 湿ったアスファルトに映る街灯の光は、丁度視野を遮るほどの幅を持つ。
 繰り返し自動車の通る部分が、埃っぽく乾いて。

 時速50哩で動き続けることが出来るか?
 否。
 バビロンまで一時間と半分足らず。
 そこまで行ったらどんなに早い足も軽い身も疲れきってしまうことだろう。

 とん、と。
 縁石の隙間を飛び越えて。
 
 無灯火の自転車が、ぎいぎいと音だけを高く立てながら過ぎていった。
 濡れた落葉の、ずくりと緩んだ感触。
 黄褐色の重い塊が、爪先を捉える。

「よいしょ……っと」

 一塊の落葉の塊を、思いっきり蹴飛ばして。

 酔わない。
 否……酔えない。

 冷たく、水気を含んだ大気。
 伸ばした手に、ひいやりと……冷たく感じるのはやはり含まれる水の為か。

 大気にすら……生物の気配。
 孤独になど、なれる筈もなく。

 ざくりと、皮膚一枚隔てて全ての係累を断ち切るような鋭さは。
 この、夜の大気には……無い。


 つう、と。
 流れる……これは。
 煙草の、煙?

「身を焼く煙に、想いこそ知れ……って」

 ふと。
 呟いてみる。

 忍恋というもの。葉隠れの世界の、不思議に澄んだ言葉。

 それでも、煙草一本一本にそんな想いが篭った日には。
 堪ったものでは……ない。

 くすり、と、笑いが喉を零れる。
 笑いが喉を振動させる、その振動が思うより長く続いて。
 ああ……微かに、酔ってはいるのだ。

 月が、真珠母の雲から、ぽかりと顔を出す。
 湿ったアスファルトの上に、影が……二つ。

「あ……」

 振り返る。
 見知った……顔と……
 煙草の煙。

「こんばんは、滝さん」
「……こんばんは」

 煙草の匂いの主の表情までは、良く見えない。

「散歩、ですか?」
「そんなところです……花澄さんは」
「似たようなものです」

 夜歩く者達の理由など、その程度だろう。

「滝さん……は」
「はい?」

 ふと………
 考える前に問いかけて。

「あ、いえ」

 口をつぐむ。
 夜の。
 ひいやりと冷たい大気の中。
 
 悪夢展覧……と。
 悪夢だって、夢が見られるならば良いじゃないか。

 煙。
 炎の後に残る………煙。
 頼りない淡い灰色の線が、ふと拡散されて。

「あ」
 空気が、動く。
 質感を持った大気が、どん、とぶつかる。
「馬?」
 黒光りする毛並みと目。水を伝わってくる、熱。

 夢魔……夢馬。
 nightmare …… night mare。
 夜の馬。
 夜の海。

 道の向こうから、だくだくと打ち寄せる波に似て、駆けてくる夢馬の群れ。
 夢魔。
 なんやこれは、と、小さく呟く声。
 ああ、流石にそこまで酔ってはいないのだ、と、確認。
「危ないっ」
 引っ張られて思わずしゃがみこんだ頭上を、飛び越えて行く夢馬の群れ。
 夢馬……夢魔。
 夢魔の、群れ。

 喉の奥から振動が伝わってくる。
 わらい……なのだろうか。
 嗤い…………

「酔いが回ってくれないかな、って思って、散歩してたんですけど」
 眠れないわけではない。ただ、積極的に眠りたくもないだけで。
「夢魔、行っちゃいましたね」
 折角、夢の境界を越えてこちらに来てくれたのに。
 夢馬さえ、頭上を飛び越えて行くのだろうか。
 
「……お休みなさい」

 立ちあがって一礼して、そのまま踵を返す。
 かたんかたんと、音が響く。
 触れる、一足ごとに。
 触れる、一呼吸ごとに。

 夢魔………


 ないと・めあ


 笑いが込み上げる。
 止まることのない、ひどく乾いた……声。

 ないと・めあ

 夢魔。
 夢に入ることさえ許されない者達。


 かたんかたんと、奇妙に乾いた足音だけが響いて。


 ざあんと、風。
 飽和状態寸前まで、びっしりと水を含んだ風。
 夜の海。
 夢の海。

 一度、足を止める。
 一度………笑っていることを自覚する。

 ないと・めあ

******************************** 

 最近見た、と自覚のある夢。
 論文書きの頃、調子悪くして寝てた時に
「ああ、セーブ、セーブしないとっ(涙)」と
必死になってこんぴたに手を伸ばしてた夢…………(ひるりら)

 まーこれも悪夢っちゃあ悪夢ですけど。
 もちっとこー夢のある悪夢を見たいよなあ(とーいめ)
 腕一本と引き換えにバスに乗せてもらって道に迷うとか
 本棚がばっこんと割れて不定形生物が滲み出してくるとか(以下略)

 恐怖の定義が、自分のなかで、あまりに現実化してるのかもなあ(笑)

 ではでは。





    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage