[KATARIBE 16497] Re: [HA06N] 小説『紅い雪の記憶』第5章

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Date: Fri, 19 Nov 1999 08:22:10 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 16497] Re: [HA06N] 小説『紅い雪の記憶』第5章
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かけるん@シナリオ作らなき  です。

第5章です。

狭間06小説『紅い雪の記憶』第5章
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大通りの外れの神社前。1軒の団子屋がある。その店ではおいしいたい焼きも
作っている。
「たい焼き4つください」
 焼きたてのたい焼き。湯気の出るたい焼きが白い紙袋に包まれておばさんか
ら渡される。
「ちょっとかける」
 後ろにいた香澄が尋ねる。
「なにか」
「そのたい焼き、なにに使うの」
「説明してなかったっけ」
「聞く前にいつものように先に行ったんじゃないのよ」
「深雪のお見舞いだよ」
 勉強道具を詰め込んだ鞄を背負い直し、コートのポケットを探る。
「あれ」
「どうしたの」
「財布がない」
 香澄、大きくため息を吐いて。
「いくら要るの」
「480円」
 香澄は鞄をおろす。しゃがんで、ポケットから財布を取り出す。
「あ。ごめん、制服のほうにあったよ」
 香澄はもう一度ため息。
「あのねぇ」
「すまない」
「罰としておごりね」
「お金がもうないのだが」
 3度目のため息。
「甲斐性ないねぇ」
「ほっとけ」
 代金を払って、団子屋から出る。
「これから真っ直ぐ行くの」
「さめないうちに行きたいからね」
 移動開始。
 裁判所脇を通り、寺通りに。
 最近整備されたばかりの歩道の上を並んで歩く。
「深雪さんの家ってどこなの」
「先生から住所は聞いている。確かここを曲がるはずだ」
 交番前を曲がって進む。
「わたしのうちのほうだね」
「通学路はいっしょってことだな」
 途中から木々が多くなる。坂を上がって細い道を行く。
「上は国道だっけ」
 国道の下のトンネルを抜ける。
「こくどうのとんねるをぬけるとゆきぐにだった」
 香澄の声がコンクリートの壁に響く。
「トンネルを抜ける前も雪国だと思うぞ」
「気分の問題よ」
トンネルの向こうは白い世界だった。
「本当に雪国だったね」
 雪が融けずにまた地面を覆っている。足跡がある。先を見ると、煉瓦作りの
館が見える。その後ろはブナの林だ。
「こんなところにこんなものがあったんだね」
 館の煙突から黒い煙が立ち昇っている。まどの1つから、白いカーテン越し
に明かりが見える。
 凍り付いた雪を踏みしめながら進む。
 扉の前でノック2回。しばらく待つ。
「はい」
 間延びした返事。扉が開く。中からメイドさんが出てくる。
「あら、かけるさんじゃないですか。昨日はどうも」
「あ、昨日の」
 香澄が呟く。
「こんにちわ。私の名前は深雪さんから聞いたのですか」
「はい。あっ、私は、三日月真理っていいます」
「改めまして。蒼月かけるです」
「はじめまして。赤羽香澄です」
「とりあえず中へどうぞ」
 とりあえず目に付いたのは白く煌くシャンデリア、正面の壁にはどこかの白
の絵画が飾ってあり、床は赤い絨毯。右手側から壁伝いに回るように2階への
階段。吹き抜けになっている。
「かけるさんたちは、どんなご用でここに」
「深雪さんのお見舞いですが」
「お嬢様はそんなひどい怪我じゃないんですけどね」
「風邪じゃなかったの」
 香澄が突っ込む。
「あ、風邪でしたね。そうそう風邪です」
「なんだかなぁ」
 真理に案内されて2階へ上がる。ノック2回。
「お嬢様。ご学友のかける様と香澄様がいらっしゃいました」
「通してください」
 真理、扉を開ける。
 奥のベッドに深雪が横になっていた。部屋の中は思ったより質素だった。部
屋の端にテーブルがあり、熊のぬいぐるみと便箋があった。ベッドの横のテー
ブルに水差しとコップ。
 かけるたちを認めると体を起こす。
「どうも、すみません」
 わざとらしい咳払い。
「とりあえず、お見舞いです」
 とかけるは言って紙袋を渡す。
「なにこれ」
 開けてみると魚型のあったかいものがあった。
「たい焼きだよ」
「なにそれ」
「日本の伝統的な冬のおやつだよ。中にあんこが入っている」
 真理が紅茶を持ってきたので、みんなでお茶にすることにする。
「甘いわ」
 一口食べて深雪が言う。
「そう作ってあるからね」
 かけるが答える。
「かわいいです」
 たい焼きを撫でながら真理が言う。
「かわいいって。まぁそういう見方もないとは言わないけど」
 と香澄。
「しかしまぁ。結構紅茶と合うもんだね」
 かけるが呟く。
「ちょっとかたいけどね」
 紅茶に口をつけながら深雪が感想を述べる。
「たい焼きさんおいしいです」
 と真理。
「この紅茶もおいしいね」
 香澄はティーカップを置いた。
「あ、おいしい紅茶の店があったんですよ」
 空になったティーカップにもう1杯紅茶を注ぐ。
「すみません。僕にももう1杯」
 かけるは注いでもらってもう一度口をつける。
 窓の外を見ると、雪が降り始めていた。
「また、寒くなりそうですね」
「もう少しすれば慣れますよ」
 真理はちょうどしっぽの部分を飲み込んだ。
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蒼空かける                       kakeru@trpg.net

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