[KATARIBE 16455] Re: [HA06] 小説『紅い雪の記憶』第1章

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Date: Wed, 17 Nov 1999 01:15:07 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 16455] Re: [HA06]  小説『紅い雪の記憶』第1章
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かけるん@ふぇちは演技だよ

第2章です。みんなかんそうありがとうね。

ねむいからチョンボがあるかもしれない

狭間06小説『紅い雪の記憶』第2章
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 授業がおわる。期末考査前なので部活なし。ゆえに帰宅。
 靴を履きかえて外に出ると、アスファルトは乾いていた。道路脇に雪が少し
残っているぐらいだ。
 見上げると青空。昨日の雪が嘘のようだ。
 帰るついでに大通りの商店街へと歩く。
 途中の文房具屋の前にはクリスマスツリーが置かれていた。そして、それを
見ている一人の少女。
「あ、かける」
 香澄が手招きする。
「見て見て。クリスマスツリー」
「もうすぐ今年も終わりだね」
「そうよね」
「で。呼んだ用は」
「え。クリスマスだなーって」
「他には」
「他に理由がいるのかな」
「きいた僕が悪かった」
「ねぇねぇ。このサンタさんかわいい」
かけるは適当に聞き流しながらクリスマスツリーを見ていた。背後のウィンド
ウに反射してツリーが2本に見える。その更に後ろをトラックが鉄骨山積みに
して走っていくのが映っている。
 突然、鉄骨が崩れた。
 括っていたワイヤーが弾ける。
 雪崩のように鉄骨が落下する。
 その先にはランドセルを背負った男の子。
 鉄骨の上に鉄骨。トラックが急停車したときには、何も動くものはなかった。
 鉄骨の錆止めの上に広がる赤い染み。
「これ持ってって」
 鞄を香澄に放り投げる。
 そして、つい先ほど通りすぎたトラックを追いかけ走る。
「どうしたのよっ」
 トラックは鉄骨を乗せて走っている。そう速くはない。
 かけるには人にはない能力がいくつかある。
 時間と空間を超えて事象を知覚する能力だ。いわゆる予知や過去視、遠隔視
というやつだ。
 それは、鏡や水、ガラスや金属などの、光を反射するものを通して、映像と
してみることができる。
 そしてときどき、本人の意思とは別に見えることがある。今度のように。
 かけるは走るが距離が縮まらない。
 コートを脱ぎ捨て、腕を大きく振って駈ける。
 息をする余裕もなく。突然の負荷に心臓が荒れる。
 高い一つの音。弦が弾ける。
 積み木のようだった鉄骨が崩れ始める。
 その落下先には先ほどの予知のとおり少年が。
 かけるはそれを見て、制服のポケットから長さ5cmほどの水晶柱を取り出す。
走る速度はゆるめない。
 全部打ち落とせるか。自答する。
 その時。
 向こうから、少年にタックルをかけ、そのまま抱えるように飛ぶ者が。
 白いフリル付きカチューシャ。紺の上着とスカートの上に白いフリルのエプ
ロン。いわゆるメイド服を来た女性が少年を抱えてかけるのほうへと転がって
くる。
 鉄骨がその後ろに降り注ぐ。地面をたたき、音と埃を巻き上げる。
 1本、弾け飛んで2人のほうに。
 かける、その鉄骨に水晶柱を向けて念じる。
 一瞬光ったかと思うと、かけるの手に棒状の発光体が。
 光の剣だ。
 鉄骨に向けて振るう。
 長さ6メートルぐらいまで延び、鉄骨に触れる。その部分から塵のように消
えてなくなる。
 真っ二つ。
 そのまま、残された部分も空気に溶けるように消えていく。
 光の剣を消す。水晶をしまう。
 女性は男の子を下に抱きかかえて目をつぶっていた。長い髪が乱れて変になっ
ている。どことなく尖がった形に出っ張っているように見える。
「もう、大丈夫ですよ」
 声をかける。
「え。ああ、そうですか」
 女性は顔を上げる。
「あら、あなたは」
 その声には聞き覚えがあった。昨日、コートを貸してあげた女性だ。
 その女性は、なぜか地面についていた両手を頭頂部に当てた。何かを隠すよ
うに。
「頭、どうかしたんですか」
「いえ、何でもないです」
「ちょっと見せてください。怪我でもしていると大変だ」
「いいいいえ全然大丈夫ですからめったに気にしないでください」
そう言いながら、頭を隠したまま、汚れたスカートを引きずりながら器用に後
退する。
「はぁ」

 とりあえず、かけるは呆然としている小学生を立たせてやり、服の砂を払っ
てやって
「立てるかい」
「こほっ。うん。だいじょうぶだよ」
 ちょっと後ろを見て。
「わっ。これって」
 驚いている。
「このおねーさんが助けてくれたんだぞ。お礼をいうんだ」
「あ、どうもありがとうございました」
「どういたしまして」
頭を押さえながら一礼。
「無事でよかったわ。早くお母さんのところに帰ってあげなさい」
「うんっ」
返事をして、少年は走っていった。
「あの。先日はコートありがとうございました」
「どういたしまして。本当に大丈夫ですか」
 頭かどこか打ち所が悪かったのかもしれない。
 さっきの小学生と入れ替わりで香澄がくる。鞄を背負ってもう一つ抱え、さ
らにかけるが途中投げ捨てたコートを引きずって息を切らせて走ってきた。
 鉄骨の山を指差して。
「ちょちょちょっとなにこれなに」
「まず落ち着け」
「落ち着いた」
「よし」
「警察呼ぶの」
「多分誰かもう呼んでいる」
「救急車」
「いらない」
「霊柩車」
「必要あるとしてもとりあえず司法解剖が先だ」
「じゃぁなにもなかったんだ。珍しい」
目の前に散乱している鉄骨を目の前によくそんなことがいえる。
「珍しいっていうな」
「だってめったにないじゃん」
「ほっとけ」
「このほうけているおねーさんは被害者なの」
まだ頭を押さえているメイド服のお姉さん。
「たぶん」
「えっと、わたしはだいじょうぶです」
「頭怪我したの。大丈夫。ちょっと見せてみて」
「だだだから怪我でも何でもないですわ」
さらにずりずり後退する。
 香澄はかけるを振り返って一言。
「頭でも打ったのかな」
「香澄もそう思うか」
「打ってませんっ」
女性は頭を隠したまま立ち上がって。
「大丈夫ですから本当に。このまま帰ります」
といって手を挙げたままきびすを返そうとする。
「ちょっと待って」
かけるが呼び止める。香澄の持っている自分の鞄をあさり、中から学帽を取り
出す。くもった金メッキの校章が鈍く光る。
「ちょっと頭下げてね」
かけるの言葉に女性が従う。彼女の黒髪を押さえている手の上から、そっと帽
子をかぶせる。
「お借りして、よろしいのですか」
「当然」
「それでは、ありがたくお借りします」
 手を帽子の間から抜き、改めて左手だけで帽子を押さえる。
 そのまま一礼して、文房具屋のほうに歩いていく。
「ほんとにほかの女には優しいんだから」
 香澄はかけるにかばんとコートを放り投げる。
「知り合いだったの」
「うん」
「どこで」
「駅前で偶然」
「ほんとに偶然なの」
「偶然だよ」
「ほんとにほんとにほんとに」
かける、聞き流す。ハンカチで首筋と頭の汗をぬぐってからコートを着る。
「ところで、それよりも重大なことがある」
「何か」
「警察が来た。逃げよう」
といって有無を言わさず走り出す。
「あっ。女の子置いて逃げるなっ」
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蒼空かける                       kakeru@trpg.net

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