[KATARIBE 16430] [WP01P] 『凍える思慕』完成版

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Date: Tue, 16 Nov 1999 01:27:05 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16430] [WP01P] 『凍える思慕』完成版
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 ごんべです。

 「終末の住人」のエピソード断片『凍える思慕』の完成版を流します。


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エピソード『凍える思慕』
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本編
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 暗闇。
 さざめく空気。

 深い森。
 流れる風。

 雲が流れ、水面がかすかにきらめく。
 深い深い森の中の、忘れられた湖のほとり。
 星の光だけに照らされて。

 その中に、影。
 動きなく佇むその姿は、しかし森の木々とは明らかに隔絶して。
 しかし闇に融け込む。自らを殺して。

 声      :ソコニイルノハナニモノダ?

 突然の地鳴り。……いや、声。
 水面が揺れた。

 SE     :ザザ……

 湖面を割って現れたのは、蛇とも獣ともつかぬ異形の影。
 おそらくは、龍と呼ばれた、その裔の姿。

 獣      :「……人間か」

 草木のそよぎさえ支配してしまうような気。

 獣      :「何の用で、このような地を訪れた?」
 影      :「お前は、精霊か?」

 不意に。佇む影が声を発する。
 重い、不動の岩のような声。

 獣      :「……お前は?」
 男      :「私は、問うために、精霊の答を得るためにここへ来た。
        :……重ねて問う。お前は、精霊か?」
 獣      :「ふむ…………そうだと言ったら何を望む」

 かすかな沈黙。
 おそらくは初めて、気配が揺らぐ。
 ……逡巡。

 男      :「大いなる"力"が、とある人間に宿ったとき」

 一節一節を確かめるように発せられる、問いの言葉。

 男      :「その"力"を本来の姿に戻すには、どうすればよいのだ?」

 再び沈黙。
 ただし獣がそれに答えるのに、特別な気概はなかった。

 獣      :「簡単なこと。その人間を殺せばいい」

 長い吐息。

 男      :「……それ以外、無いのか……」

 ザァ、と水が動く。
 苛立ちを隠さず、獣が男に近づいていた。

 獣      :「それだけのことを訊くために、この地この時間に足を踏
        :み入れたのか?
 男      :「……世話になった」
 獣      :「何を…………?!」

 ぎり、と空気がきしむ。
 せめぎ合う力。

 獣      :「………………がっ」

 ばし、と音がして、獣の姿が崩れ落ちる。

 男      :「落ちぶれれば、人にも負ける……だが、感謝はしている」

 人外の頭蓋は、おそらく従来の生物のそれとは全く異なる手応えであっただ
ろうが。男にとってそれは大した興味もひかなかったらしい。

 男      :「それ以外は、無いのだな……」

 主を失った湖の畔から、男はいつの間にか姿を消していた。


終


関連人物
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 岡崎 鞍馬 (おかざき・くらま) :生まれながらに強靱な肉体を持つ小学生。


解説
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 鞍馬を想う人物。
 両刃の剣たるその想いに答を見出したとき、その人物は……。

 鞍馬の対である終末の狩人を扱ったEP断片です。


時系列
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 1999(2nd)年8月上旬のとある夜、信州の山の中にて。


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堀田 拓司 (ごんべ)  gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/
    

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