[KATARIBE 16388] [HA06] 小説『紅い雪の記憶』序章

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Date: Sun, 14 Nov 1999 01:29:30 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 16388] [HA06] 小説『紅い雪の記憶』序章
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かけるんです。

「かけるんがふぇちになったりゆう小説」序章流します。

狭間06小説『紅い雪の記憶』序章
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天使の翼
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 雪。昼すきから降り始めた天からの手紙は、すでに大地から熱を奪い去って
いた。
 白き結晶は地面とキスをしてすぐ融けることなく、アスファルトやタイルの
上を白く染めはじめる。
 中学2年になって初めての雪だ。
 蒼月かけるは立ち上がる。コートを白く覆うべたつく雪を薄い手袋で払い、
フードの上も軽く払う。
 手のひらをあわせて、強く握る。水が裏地にまで浸透して手を凍えさせる。
 そのまま駅の時計を見上げる。ちょうど2時。
 聞こえるのはターミナルから出て行くバスの排気音だけ。この天気だ、わざ
わざこんな広場前にくる物好きはいない。
 正面の人工滝は凍結防止のため、岩肌を空気にさらしている。
 もう一度駅を見上げる。駅の3階の窓ガラス越しに新幹線が見えた。ちょう
ど、発車したところだ。
 かけるは再び腰を下ろした。石のベンチの冷気が再びかけるを刺す。
 上を見上げる。
 空。蒼穹は白亜の壁に阻まれ、知覚できない。目を細め、何度か瞬きをする。
 別に誰かを待っているわけではない。
 赤いものも。くろいものも。
「すみません」
 すべてを公平に白く染めてしまう天使の翼の中で、羽の向こうの駅舎と人と、
車と建物をぼんやり眺めていたかった。
「あの。すみません」
 音も光も、時の流れさえも吸い込まれそうな制止した世界。白き精霊が風を
受け止めながら時の流れを具現する香のように落ちてくる。
「ちょっと、人が呼んでいるんだから返事ぐらいしたらどうなのっ」
首だけひねって振り返る。
 ちょうど見上げるような形。自分と同年代ぐらいの女の子がかけるを覗いて
いる。
「大体失礼じゃないこっちが丁寧に話し掛けているっていうのに」
 ピンクのフリル付き傘を振ってくっついた雪を払う少女。かけるを見下ろす
ように立っている。
 金色の髪を首のあたりで一度まとめ、腰まで伸ばしている。フリルのいっぱ
いついた服の上に、肩から、青い上着を肩に引っかけるように羽織っている。
その下で、左手に大きな本を脇に抱えるようにして持っているのがちらりと見
えた。
 膝下まであるフリル付きスカート。靴だけはがっしりとした白い雪靴だった。
「人が話し掛けているんだから、せめて返事はしたらどうなのっ」
 暖房の効いている駅舎の中から来たばかりなせいか、それとも外気の寒さに
反応しているのか、それとも別の理由があるのか。頬を赤く染め、膨らまして
まくしたてる。
「お嬢様。失礼ですよ」
彼女の後ろのは、彼女の姉か伯母であろうか、保護者らしい女性が立っていた。
青い折り畳み傘を差し、女の子の肩をつかみ、困ったような顔で何度か引っ張
っている。
 黒い髪が背後で降り注ぐ雪と対比して映える。胸元には赤いリボンに鈴をあ
しらったブローチ。Yシャツの上には何も着ていない。何度か腕を組んで小刻
みに動かす。薄いスカートにびしょびしょになったハイヒール。滑りそうだ。
「何かぼくに用があるの」
 かけるは聞き返す。
「すみません。三ツ石2丁目に行きたいのですが、どのバスに乗ればよろしい
 のでしょうか」
偉そうにしている少女の後ろから、震えている女性が二の腕を強くつかみなが
ら、それでも言葉は丁寧に問う。
「向こう、道路わたったターミナル14番バス停、滝沢営業所行きに乗ってくだ
さい。岩手大学南口で降りて、県立病院方向に歩けばいいですよ」
そう答えながら、かばんを開けて、中からビニール袋に入ったものを取り出す。
真っ黒い男性用コートだ。
ビニールのカバーをはずし、立ち上がり、
「よろしかったら貸しますが」
といい、黒髪の女性に手渡す。女性はきょとんとして、手元を見ている。
「よろしいの」
少女のほうがかわりに問い掛ける。
「いいよ。偶然、クリーニング屋に行ったばかりだから」
「あの」
女性のほうが一瞬躊躇して、
「せっかく洗ったばかりのものをお借りしてよろしいのでしょうか」
「そんな寒そうな格好を見ていたらこっちまで凍り付いちゃいますよ」
かける即答する。おどけるような表情で。
「また会ったときに返してくだされば」
女性はうなずき、
「ありがとうございます」
コートを羽織り、
「大きいですね、これ」
「父親のですから」
「どうもすみません」
「わざわざさんきゅーね」
軽い調子で声をつなげる。
一礼した跡、2人は横断歩道のほうへと行った。途中、危なっかしい歩き方で
何度か転びそうになっていた。
 かけるはため息をついて、
「いちよう、名前と住所は聞いていけよなぁ」
とつぶやく。そして再びベンチに腰を下ろす。
 空を見上げる、白い天蓋からの結晶はやみそうにない。
 雪は降り注ぐ、すべてのものに公平に。
「かくて運命は動き出す、か」
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蒼空かける                       kakeru@trpg.net

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