[KATARIBE 16172] [HA06][EP] 『山中金木犀譚』

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Date: Tue, 02 Nov 1999 20:48:16 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 16172] [HA06][EP] 『山中金木犀譚』
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 ども、D16です。
 この間山にいってる時の経験から。

 自キャラ固めで少し申し訳ないかも。

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エピソード『誘い香』
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登場人物
 一 十(にのまえ・みつる)
	吹利学校大学部の林学科院生。風水師兼修験者
 田守
    一の研究室の同僚。
 湊川 観楠(みなとがわ・かなみ)
    ベーカリー楠の店長 
 柳 直紀(やぎ・なおき)
    ベーカリー近辺に住むOL。一を気にいっている。

 山中
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 空が、高い。
 吸いこむ空気に爽やかな冷気を感じる。

 秋晴れの空だった。

 一十     :「……地下100センチのサンプル採れたよー」
 田守     :「じゃあ次、ヒノキ林のほう行くねぇ」
 
 紅葉にはまだ早い。
 あと二三回の冷え込む夕べを経れば、この試験流域の木も色づくだろう。
 土壌採取のオーガーから、先端のドリルを取り外し粘土質の土壌を拭い
取る。ぷんと土の匂いがする。
 山形の土とは違う匂い。日向の匂いが強いと思う。
 
 一十     :「攪乱しちゃっていいんですか?」
 田守     :「大丈夫、有機物量を取るサンプルだもん」

 同僚の田森がオーガーのねじを緩め、土の粒子を綺麗に拭い取る。
 
 田守     :「この季節が一番だね。土の匂いが」
 一十     :「俺も、そう思います。何ででしょうね」
 田守     :「晴れてるからだろーね。七月八月にはもっとむせ返
        :る匂いだし。土壌採取をこの時期にしてよかった」
 一十     :「苦手ですか?」
 田守     :「山のはらわた開いてるみたいでね。濃密過ぎてちょ
        :っと勘弁」
 一十     :「雨の季節だと、分解も盛ん。ってことですよね」
 田守     :「幾千幾億もの腐乱死体の上歩いてるようなもんだし」
 
 一は苦笑した。
 
 一十     :「じゃあ、秋は?」
 田守     :「ミイラの上を歩いてる」
 
 拭いおえたオーガーをケースにしまうと二人は立ち上がった。
 と、強く甘い香りが香った。

 二人     :「あ」

 同時に声に表し、くすりと笑う。
 
 一十     :「金木犀、ですね」
 田守     :「あそこの、駆け上がりの下に咲いてる」
 
 指差す先に薄黄色に日を受けて一塊の花が咲いているのがわかった。
 
 一十     :「あんな距離から匂うんですね」
 田守     :「いい匂い」
 
 風の具合によるのだろう。
 さざなみの様に花の香は表われ消えて行く。
 
 田守     :「金木犀って、夜によく香るよね」
 一十     :「そう、ですか?暗いから匂いに敏感なんじゃ」
 田守     :「つまらない答え」
 一十     :「色気より食い気なもので」

 木の下に至る。
 さすがにここまで来ると、匂いがかなり強い。むせ返る様だ。
 
 鼻を強くつく匂い。
 
 田守     :「結局さ、生きてる匂いなんだよね。土の匂いも花の
        :匂いも」
 一十     :「にしても、きついなぁ。なんか、押しつけがましい
        :匂い。くらくらする」
 田守     :「無理もないよ。相手を引き寄せるための匂いだもの。
        :綺麗事じゃないから」
 一十     :「綺麗事?」
 田守     :「花は人を楽しませるために咲いてるんじゃないって
        :こと。ええと、その、子作りのために咲いてるわけで」
 一十     :「ああ、ええと。その(理解)」

 澁澤龍彦のエッセイをふと思い出す。
 口には出さなかった。

 田守     :「こーゆーふうに考えるのも色気無いか」
 一十     :「経産婦のご意見だなぁ、と思います」
 田守     :「なによ、それひどいなあ」
 一十     :「いや、まぁ、その(苦笑)」

 尾根の向こうから呼ぶ声がした。
 田守は応えて、サンプルの入ったザックを一揺すりして斜面を登ってい
った。
 少し、距離を置いて一が足を踏み出そうとした時、
 肩に触れる感触があった。

 一十     :「ん?」

 振りかえった。
 鼻腔から脳裏にまで届く甘い匂い。枯葉、土の匂いとも混じったその匂
いは、清冽な中にどこか淫靡な物が混じっていた。

 唇に柔らかい物が触れ、口移しに香気が漂った。

 鈴を振るような笑い声が上から振って来た。
 木漏れ日漏れる金木犀の枝の狭間。
 薄黄色の薄物が秋の日差を散し、光彩を纏う様に見えた。

 花々が笑った。
 
 一十     :「……からかいやがって」

 誰も見ていない筈なのに、つい周囲を見まわす。
 ざああああと風が渡る。

 ぐいと袖口で唇を拭うと、憮然とした表情で一は赤面した。

 ベーカリー
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 からからん。

 一十     :「こんちはあ」
 直紀     :「あ、一さんお帰りなさい!」
 一十     :「直紀さんも仕事終わり?」
 直紀     :「うん。ココアだよね?注文」
 一十     :「あ、ども」
 観楠     :「はいよ。お、フィールド帰り?」
 一十     :「はい」

 と、盛大に直紀がくしゃみをする。

 観楠     :「おわっとぉ(汗)」
 一十     :「どしたの?」
 直紀     :「匂いが、強くって(ぐずぐず)」
 観楠     :「そういや、甘い匂い。金木犀だね」
 直紀     :「一さんからだよ。なんかすごく強い匂い」
 観楠     :「まさか、一さん匂いに負けて花を食べたとか?」
 一十     :「(考えている……。考えている……。思い当たる。)
        :赤面する)」
 直紀     :「どしたの一さん、顔赤いよ?」
 一十     :「いや。その……(汗)」

 解説
 ある秋の日、吹利ではよくある山の風景、なのかも知れない。
   
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 ひとまず、こんなとこです。
 
 金木犀の匂いって絶対、Hな匂いだと思うのですけど……。
 山ン中でそう思いました。
 少し照れくさいですね、こーゆー話。

 
D16
e-mail:yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp
    

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