[KATARIBE 16050] [HA06N] 「偽河展覧」

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Date: Wed, 27 Oct 1999 13:01:55 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16050] [HA06N] 「偽河展覧」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910270401.NAA02884@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月27日:13時01分51秒
Sub:[HA06N]「偽河展覧」:
From:E.R


     こんにちは、E.R@うを昼休みが終わる〜です。

 昨日の花澄の「月下異象」に対応して。
 翌日の夜の話。
 瑞鶴店長サイドです。

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「偽河展覧」
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 秋の夜更けに叩き起こされるというのは、あまり有り難いことでもない。

「……何だ一体」
 店の前の硝子戸を開け、その部分だけ切ってあるシャッターを持ち上げると、
猫がなあ、とがあ、の間の声をあげた。
「……お前なあ……」
 飼っているつもりは、ない。が、店の前でこうもにゃあにゃあやられては、
対処しないわけにもゆかない。
「入れ」
 裏口に来てくれるならば多少手間が省けるのだが、この猫、そういう殊勝さ
はどこかに放り出してきている。
 入り口から少し退くと、猫はふんぞり返って入ってきた。

 通りは、一面蒼白かった。
 向かい合う店の影が、定規で引いた線のようにくっきりと落ちている。
 ああ、今日は十七夜だ、と、ふと思った。
 あまり……いい夜ではないのだろうが。

 妹は、大丈夫だろうか。
 
 薄い雲がよぎったらしく、平坦に照らされていた道にまだらが出来た。
 ふと、河の底にいるような錯覚を覚えた。

 なう、と後ろで猫が鳴いた。
 何事かと思って見ると、どうやら店の中でも少々寒いらしく、うろうろと動
き回っている。
「……だーから、お前は……」
 どうしてこう態度がでかいのだろう、と思うのだが。
 猫のほうは目を細くしてこちらを見るばかりで。
「待ってろ」
 引出しを引っ掻き回して、古い大判のタオルを引きずり出す。くるくる丸め
て入り口付近に落とすと、猫が当然とばかりに動いて、ゆったりと座る。
「……ほんっとに態度でかいなお前は」
 返事のつもりか、猫はひとつあくびをした。

 ゆらゆらと、やはり通りの光の具合はどこか水の中を思わせる。
 陽光ほど一辺倒ではなく、恐らく電線一本の揺れるにも、その光の加減が変
わってゆくせいかもしれない。

「…ここが水底なら、俺もお前も……せいぜいがとこ、沢蟹だな」
 口に出して、可笑しくなる。態度のでかい沢蟹と、ここでぼーっとしている
沢蟹と。
 
 と……
 とぷん、と、気が、揺れた。

「?」

 通りの右手から左手へ。黒い大きな丸いものが、とぷん、と放物線を描いて
落下する。地面に落ちる寸前で軽く跳ねると同時に、周囲に光の粒が舞った。

「……?」

 丸い何かは、やはり綺麗な曲線を描いてとぷんとぷんと跳ねてゆく。そのた
びに、丁度ちいさな気泡のような光を撒き散らし……

「ああ、なるほど」
 なあ?と、つぶっていた目を開けて、猫が鳴く。
「やまなしだ」

 納得する。と同時に笑いが込み上げる。
 本当に自分たちは、沢蟹になったらしい。

「……やれやれ」

 錯覚か、それとも……本当か。
 そんなことは、問題ではない。

 切り取るように引き上げたシャッターを下ろす為、硝子の引き戸を開ける。

 ふがあ、と、足元から咆哮。

「おい?」
 猫の目が爛々として、何かを見据えている。視線を追って振りかえった、や
はりシャッターで切り取られた風景に。

「……影の魚か!」

 ゆら、と。
 大気の中を動く影。
 ゆっくりとしている割に、その動きは滑らかで。

「……って、おいこら。お前の敵う相手じゃない」
 足元でぐるぐると唸る猫を抑えて、硝子戸を開け、出来るだけ手早くシャッ
ターを降ろす。
 やまなし。さかな。
 多分次には、かわせみが来る…………


 ふと。
 
 何かがよぎった気がした。
 なんだかいやな予感のような気がした。

「……なあ」
 不安。払う為に猫に手を触れる。
 猫は、もうすっかり目を閉じて丸くなっている。
 それでも触れた手に、暖かさが伝わった。
 何となく、ほっとした。

 十七夜の月。
 今夜のところは、ことも無し。

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 てなもんで。
 ネタはわかっていただけるかと(苦笑)

 ……しかしにーちゃん……
 ことも無しってああた(汗)

 ではでは。
 




    

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