[KATARIBE 16044] [HA06N] 「前略、月待坂から」終章

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Date: Wed, 27 Oct 1999 09:55:29 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 16044] [HA06N] 「前略、月待坂から」終章 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910270055.JAA12177@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月27日:09時55分27秒
Sub:[HA06N]「前略、月待坂から」終章:
From:E.R


        こんにちは、E.Rです。
 これでらすと、の月待坂です。

*********************************
終章:前略、月待坂から
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 とっとと帰ってこんか、というのが、どうやら父の第一声だったらしい。

「気をつけてね」
「はい、有難うございました」

 鞄を、結希乃の自転車の後ろに乗せて。

「お父さんに宜しくね。可愛い娘さんを引き止めてごめんなさいってお伝えし
て」
「…………すみません」

 電話に出た学が、見当たらない花澄の代わりに受話器を渡したのがその母親
で。まあ咄嗟に父も、相手を間違えたのだろうが。

「英一君も、今日は仕事ね」
「そりゃあ。二日続けて休みには出来ません」
「お兄ちゃん、今度遊びに行くね」
「うん、いつでもどうぞ」

 それはごく他愛の無い、挨拶と別れ。

「花澄ちゃんは……じゃあ、これが最後かしら?そのまま向うに帰るでしょ?」
「多分、そうなると思います」
「帰る日決まったら教えてね」
「あ、はい」

 ちぇ、と、学が小さく呟いた。

「じゃ、また」
「はい、気を付けて」
「ありがとうございました」

 深々と一礼して、歩きだそうとしたところで。

「ああそうだ、花澄ちゃん」

 ふと気が付いたように、祖母が声を掛けた。

「そういえばねえ、これを花澄ちゃんにあげようと思ってね」
「?」

 さして大きくもない包みを、首を傾げて花澄が受け取る。

「じゃあ、気を付けてね」
「はい」


 月花は、陽光の元で、まるでごく普通の花のように風に揺れている。
 ほんのりと黄色と灰色を帯びた花は、それでも元気いっぱいに咲き誇ってい
るように見えた。

「……なんだろこれ」
「あけてみたら?」

 自転車を押しながら、結希乃がやはり興味津々、といった風情でそう言う。
 こくり、と頷くと、花澄は包みを開けた。

「あれ」

 出てきたのは、ざくりとした風合いの、布。深い蒼と淡い茶色のグラデーショ
ンに染められた布は、存外軽く風に翻った。

「ショール…ストール、かな?」
「おい、なんか落とすぞ」
「え?」

 包みの中には、一枚の雲龍紙。
 達筆で書かれた、幾つかの言葉。

「………おばあちゃん」
「なんて書いてあるの?……ってあっと」
「ううん、大丈夫。これ、和歌だわ」

  おくれても おくれてもまたおくれても 
   きみにちかいしこと われわすれめやも

      元気でね

「……………高杉晋作」
「え?」
 ぼそっと言った声に振り返ると、英一が少し首を傾げるようにしていた。
「確か、その筈だ」
「って、この和歌?」
「うん」

  遅れても 遅れても また遅れても
   君に誓いしこと 我忘れめやも

「…………おばあちゃんだなあ」
「……うん」

 自分の手で書けば、どれほどになるか分らぬことを、古人の歌にこめて。
 だから……花澄の言葉も、その一言になる。

「かーすみさんっ」
「はい?」
「また、来てね」
「………うん、また」

 元気のいい従妹の言葉に、笑いかえして。

「結希乃ちゃんも頑張ってね」
「うん……うーん……ねえ」
「はい?」
「………花澄さん、かわんない?」
「は?」
「鬼海の家、継がない?」
「やあだ」
「…………ちぇー」

 さらりと言って、さらりと返す。
 そうしなければ……互いに言えない言葉であることを承知している。

 ゆっくりと、坂を下り。
 ゆっくりと、鬼海の家を離れ。

 坂の最後で、花澄はもう一度だけ振り返った。
 月待坂の両側に月花が並んで、さらさらと昼間の光に揺れていた。


************************************************

 というわけで。
 ……長々と、お目汚しでございました。

 ………………………………………………まー
                          (かんそーほしーなー:小声)
                          (もしよかったらー:小声)


 というわけで(苦笑)

 ではまた。







    

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