[KATARIBE 15998] [HA06P] 『定価は 200 円』

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Date: Mon, 25 Oct 1999 01:07:34 +0900
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15998] [HA06P] 『定価は 200 円』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910241607.BAA07875@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月25日:01時07分23秒
Sub:[HA06P]『定価は200円』:
From:久志


 久志@寝てろ です。
というわけで、他のEPもざっとサルベージしてみました(^^;)

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「定価は200円」
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登場人物
---------
 水瀬璃慧(みなせ・あきえ):
     嘘という言葉を操る言霊使いの少女。小説家志望の優等生。
     生真面目すぎる部分あり。

 白月悠(しらつき・はるか):
     吹利高校1年生の女の子。
     人間嫌いになってしまうほど、優しくて繊細。

 平塚花澄(ひらつか・かすみ):
     書店瑞鶴店員。春の結界の持ち主。

 富良名裕也(ふらな・ゆうや)
     お気楽な大学一年生。一見小中学生くらいにしか見えない。

目的の本は…
-------------

 某日、瑞鶴。
 夕方、学校帰りの学生が増える時刻。

 ??     :「ここかなあ?」

 硝子戸の向うから聞こえる、はっきりと良く響く声。
 入り口にいた猫が、のそのそと移動する。
 ぼそぼそと、先程より小さな声でのやり取りの後、からからと硝子の引戸が
開いた。

 花澄     :「いらっしゃいませ」

 あ、はい、と、小さく呟いて入ってきたのは、多分高校生くらいの女生徒二
名である。
 まだ、女子高生が板に付いてないような雰囲気がある。

 悠      :「(小声で)……ここ?」
 璃慧     :「(やっぱり小声で)うん。かむにゃが瑞鶴って……」
 花澄     :「……(かむにゃ?)」

 そんな愛称に近い名前の常連さんいたっけかな、と、内心小首を傾げながら
それでも花澄は一礼する。
 反射的に相手も一礼する。
 そしてそのまま……流れるように、二人は本棚に向かって進んでゆく。

 璃慧     :「……(きょろきょろと見回す)」
 悠      :「あの高いとこの本とかは?」

 指差した先に、かーなーり、古そうな本が数冊並んでいる。
 が……残念ながら、二人の身長では、うんと手を伸ばしても、本には届かな
い。
 無理かな、と、手を伸ばしている璃慧の後ろから、

 花澄     :「あの」
 璃慧     :「……っ!」
 花澄     :「あ、ごめんなさい」

 片手に、折り畳んだ脚立を持って。

 花澄     :「これ、お使い下さい。一つしかないんですけど……」
 璃慧     :「あ…………どうも…………(消えそうにか細い声)」

 脚立を広げてから、花澄はレジへと戻る。
 脚立に上って、璃慧は一番上の段の棚に手を伸ばす。
 もう一人……悠は、もう一つの隅の棚を眺めている。

 と。

 悠      :「あれ?」
 璃慧     :「何?」

 脚立の上から、首を伸ばして下を見る。
 友人は、ノート大の本を引っ張り出している。

 璃慧     :「何?」
 
 脚立を降りて、友人の手元を覗き込む。

 悠      :「うん……楽譜」
 璃慧     :「楽譜?」

 なんでまたそんなものが本屋にあるの……とは、流石に店員の前では言えな
い台詞である。

 悠      :「これ、かなり古いよ」
 璃慧     :「……ほんとだ」

 電話帳並みの厚さの本いっぱいに、アルファベット順に並んだ曲。
 アニーローリー、ロンドンデリーの歌、フニクリ・フニクラ、シューベルト
とモーツァルトの「野薔薇」、ステンカラージンの船……
 本の紙は、さほど質の良いものではない。紙の端も多少黄ばんでいる。
 けれども、これは確かに新品である。

 悠      :「………(後ろのページを開ける)………えっ?!」
 璃慧     :「何?」
 悠      :「……古い筈だよ(汗)」

 奥付けにある日付は、昭和27年某月某日初版、の文字。
 
 璃慧     :「…………って、47年前っ(汗)」
 悠      :「何で……うわあ(汗)」

 そしてその下にくっきりと印刷された値段。

> 璃慧     :「……(見ている)……0が一個少ない(汗)」
> 悠      :「……にひゃくえん……」

 古本屋でも珍しい……筈の本である。
 しかし、改めて見ても、これは確かに、新刊で。

 と。
 背後から、足音がして。

 花澄     :「……あの?」
 璃慧     :「はいっ」
 花澄     :「あの、何か不都合が?」
 悠      :「あのっ」
 花澄     :「……はい?(汗)」
 
 何だかえらく決死の表情で声をかけられて、花澄としても少々驚いたのだが。

 悠      :「あの……この楽譜、くださいっ」
 花澄     :「……はい(笑)」

 ずい、と突き出された楽譜を手に取る。

 花澄     :「(ひっくり返して見ている)……ああはい、200円だから、
        :消費税込みで、210円になります」
 悠      :「はい……」

 本当かな、と一瞬思う値段なわけだが、店員のほうは平然としたものである。

 花澄     :「っと…カバー掛けておきましょうか?(にこにこ)」
 悠      :「あ、はい………」
 花澄     :「じゃ……レジの方へどうぞ」

 一方璃慧は。

 璃慧     :「(おいおい……(汗) いくら安いからって……)」

 レジの方へ向かう悠を呆然と見る。まあ、衝動的に買いたくなるのは、
 分からなくもないが。

 璃慧     :「(ま、いっか……)」

 それよりも、目の前に並ぶ大量の本の方が気になっていた。

 璃慧     :「わーーーっ(喜)」

 片っ端から背表紙に目を通す。気になるものがあると、手にとって読んでみ
て。その繰り返し。
 いつのまにか、やや緊張気味だった表情は完璧に崩れ、こころここにあらず。
 本来の目的なんて、頭から消し飛んでいた。

 数分後、楽譜を買い終えた悠が見に来た時、
 璃慧の手には5冊ほどの本が無造作に重ねられていた。
 それでもまだ収まる風はなく、悠が後ろに来ていることも気付かずに、本を
見続ける璃慧。
 
 悠      :「…………(汗) あきえぇ…………」

 悠の半ば呆れたような声に振り返る。

 璃慧     :「え?? どうかした?」

 平然とした顔でそう答えて数秒。
 言葉を失っている悠をよそに、璃慧はまた本棚に向き直ろうとする。

 悠      :「(疲れた声で)……あきえ…………
        :ここに何しに来たのかなあ(にっこり)?」

 再び振り返り、顔を見合わせる。
 ………………
 しばしの沈黙。

 璃慧     :「あ”…………」
 悠      :「気付くの遅いよお(涙)」
 璃慧     :「だってえ……」
 悠          :「まぁ、璃慧らしいけどね……(ため息)」
 璃慧     :「何それ〜〜!!
        :…………まあ、否定できないけど(汗)」
 悠      :「ほらほら、いいから、探すっ!」
 璃慧     :「は〜い……」
 花澄     :(……なんかどこかで見た風景だなあ(苦笑))

 本屋に入った途端の脱線・追突・行先不明は、花澄にしてもいつものことで。

 花澄     :(でも、何探してるんだろ)

 しばらくして。

 悠      :「やっぱり見つからないね……」
 璃慧     :「やっぱ、無謀なのかなあ…………(残念そうに)」

 考えこむ。

 璃慧     :(でもなあ……、書きたいよお。)

 無言のまま、再び探し始める璃慧。無駄だろうということは分かっていても、
諦めたくなくて。
 悠はそれに、黙って従った。こういう時の璃慧を止めることは不可能だと、
よく知っているから。

 花澄     :「あの、何かお探しですか?」

 それまでぼんやりと様子を見ていた花澄が、歩み寄って話しかけた。

 璃慧     :「……(困ったように悠を見る)」
 悠          :「(小声で)……聞いちゃえば?」

 悠に突っつかれて、小声で話しだす璃慧。
 高校生にもなってまだ、人見知りは直らないらしい。

 璃慧     :「えっと…………、資料を探しているんですけど、
        :日本や環太平洋の古代の……、人々の生活とか……」

 花澄     :「古代の生活……ですか」

 首を傾げて、本棚を見やる。確かに学術文庫や新書の中に、それらしい
テーマのものもあるのだが。

 花澄     :「えーと、今あるのは……例えばこの本とか」
 悠      :「(小声で)あ、それはうちにある……」
 花澄     :「こういうのになりますが……」
 璃慧     :「あの……それは、あります……」
 花澄     :(困惑)

 どうやら、ある程度の品揃えはあるらしい。
 とすると。

 花澄     :「……どこかに無かったっけ……」
        :『そこの棚の下』
 花澄     :「……えーと、少しお待ち下さい」

 耳に直接響く声に応じて、棚の下を開ける。
 ずらずらと並んだ本の中に………

 花澄     :「っと……古道集……これ、かな……って(汗)」
 璃慧     :「?(ひょいと覗く)……(汗)」

 蹴鞠道、鍛冶道……まあ、いわゆる「生活」に関わることなのだろうが。
 ………………が。

 値段が、17510円(爆)

 花澄     :「それにこれだと、古代までは関わりがなさそうだし……
        :まあ面白いんでしょうけど、買うほどのものでもないですね」

 ……って、本屋の店員が言うなよ(汗)

 花澄     :「生活について……(思案)……急がれます?」
 璃慧     :「あ………はい………あの、出来れば……」
 花澄     :(……それだと誰かに借りるほうが良いのかなあ)

 と。
 からり、と、硝子戸が開いて。

 フラナ    :「花澄さん、こんにちはっ(にぱっ)」
 花澄     :「あ、こんにちは、フラナ君(笑)…今帰り?」
 フラナ    :「うんっ」
 悠      :(誰だろう?)

 小柄な少年……悠や璃慧とあまり年の変わらないような。
 と、ふと、花澄と呼ばれた店員が瞬きをして、少年を見やる。

 花澄     :「あ、そういえばフラナ君、堀川先生お元気?」
 フラナ    :「うん!いつもコーヒーとお菓子とご馳走になるよ(^^)」
 花澄     :「ってことは、良く会います?」
 フラナ    :「うんっ」
 花澄     :「先生……お忙しい?」
 フラナ    :「うーんと、そうでもないと思うけど」
 
 おいおい(汗)

 花澄     :「ね、フラナ君。もし、堀川先生に質問したい人がいると
        :して……先生答えてくださるかしら」
 フラナ    :「うん、それは大丈夫」

 ……本人度々、質問しに部屋におしかけていると見た(苦笑)。

 花澄     :「……なら、そのほうがいいかな?」

 そこで、きょとんとしてる女の子二人に視線を向ける。

 花澄     :「あの、こちらで探しておられる本を注文しても良いんで
        :すが、それだと多分日数がかかると思うんです」
 璃慧     :「はあ」
 花澄     :「それで……その本って、買う必要があります?」
 璃慧     :「?」
 花澄     :「授業でお使いになる、とかでしたら、買う必要がありま
        :すけど……」
 璃慧     :「いえ……あの、そういう、わけでも……」

 語尾が消えてたり(苦笑)

 花澄     :「あの、日本の古代史の先生で、こちらを時々御利用にな
        :る方がいらっしゃるんです。その方に直接お聞きになるほ
        :うが早いし、わかりやすいと思いますけど」
 璃慧     :「え?」
 花澄     :「丁度フラナ君……彼が、その先生の講義取ってますから
        :一緒に行ってもらって、取り次いで貰えば大丈夫だと思い
        :ます。こちらからも一筆お書きしますし」

 そのままフラナに向き直る。

 花澄     :「フラナ君、堀川先生にお願いしてもらえる?」
 フラナ    :「うん、いいよ(^^)他でもうちの学校すっごく広い図書
        :室あるし」

 にぱっと笑ってあっさりと快諾する。

 フラナ    :「そういえば…堀川先生、確か僕が帰るとき、研究室で
        :ずっと調べものしてたから、まだ当分いると思うよ」
 花澄     :「え?でも、お忙しいのに急に行っても迷惑にならない
        :かな?」
 フラナ    :「大丈夫だよ。ホントのホントに忙しい時は顔違うもん」
 花澄     :「そう、それじゃあ…」

 たったまま二人のやり取りを見ている女の子二人に振り向く。

 花澄     :「今から行ってみますか?」
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いじょ






    

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