[KATARIBE 15994] [HA06P] 『朝市にて』仮編集版その1

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 24 Oct 1999 23:46:27 +0900
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15994] [HA06P] 『朝市にて』仮編集版その1 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910241446.XAA11136@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 15994

99年10月24日:23時46分21秒
Sub:[HA06P]『朝市にて』仮編集版その1:
From:久志


 久志です。
一日暇だったので『朝市にて』の編集版集めて流します。

…だったら寝てろ、自分(--;)

*********************************************************************
エピソード『朝市にて』
======================

登場人物
--------
 遠野勇那(とおの・ゆな)
        :幽霊の少女、風見アパート里見鏡介宅に住んで(?)いる。
 各務功(かがみ・いさお)
        :朝市で野菜を売るふぁ〜ま〜
 布施美都(ふせ・みと)
        :1999年4月より前の記憶、記録の無い少女。
        :現在はグリーングラスの居候。
 紫苑(しおん) 
        :水島孝雄の実験中に生れた不定形金属生命体。
        :美都の側に居て彼女を見守り、自分の中に芽生
        :え始めた「感情」にとまどっている。
 佐古田真一(さこた・しんいち)
        :あやしいスナフキン兄ちゃん、霊感強し

早朝、風見アパート
------------------

 梅雨もようやく明けようかという初夏。陽がのぼるのも早い。
 5時には外に歩いて出られるほど明るく、6時も過ぎれば日差しが眩しく
なってくる。
 夜の熱が冷め、涼しく過ごしやすい朝。

 新聞配達の単車が軒先のポストの間を駆ける音が聞こえる。
 ブィーン、ブィ……ブィーン、ブィ。
 一定間隔で発進、停車、発進、停車の繰り返し。
 不思議なことに、ほとんど音が乱れることはない。
 リズムのある音は、響くものでも何故か心地よい。

 ブィーン、ブィ……ブィィーン、ブィン。
 遠くに聞こえていた音が少しずつ近づく。
 ブィィーン、ブィン。がたん。
 ざくざくざく……ぎぃ、がた、がたん。
 風見アパートの共同ポストにも、いつものように新聞が投げ込まれた。
 ぎぃ……ざくざくざく。
 扉の軋む鈍い音が再び。
 ブィィーン、ブィン……。
 単車のエンジン音が遠くなっていく。
 早朝の、この静かな時間にだからこそ聞こえる音。
 皆に一日が始まることを知らせてくれる音。

 勇那ははやくから目を覚ましていて(いや、彼女はそもそも眠らない)、
それらの音をひとり楽しんでいた。
 一日が始まる。
 朝も昼も夜ももはや関係のない彼女だが、自分自身に関係ないからと
いって放棄してしまう気にはなれない。
 朝はその日一日が始まる大切な時間。
 生きている者が起きだし、それぞれの生活を感謝とともに始める時間。
 幽霊になった自分にも何故か同じように感謝の気持ちを呼び起こす。
 朝の音、朝という時間。

 同居人の鏡介はまだ眠っている。
 死んだように……という形容がぴったりであるかのように、ぴくりとも動
かず。
 彼の生活は……残念ながら世間一般とずれていることがほとんどだ。
 明け方近くまで起きていて、昼過ぎまで寝てしまうことも少なくはない。
 
 今日は日曜日だったと思う。
 時間という枷から逃れ出た自分が一応日付を気にするのは、この同居人の
生活をただす使命があるからだ。
 しかし、今日はとりあえず自分にも彼にも関係はないようだ。
 このまま……休日を思うようにすごさせてあげることにしよう。

 触れない扉を無視し、部屋の外に抜け出る。
 小さな窓から光が入るのみの薄暗い廊下。
 鏡介と同じように、他の部屋も住人もまだ眠っているようだ。
 朝の時間に感謝するのと同じくらいの価値がある、朝の惰眠。
 ま、それも休日ならではか。

 とりあえず……

 階段をふわりと降り、玄関から外に出る。

 一人だけだが、散歩に出かけることにしよう。


それは各務の出した店
--------------------

  吹利商店街朝市。
  毎月第一週と第三週の日曜早朝に行われる名物朝市である。
  売る側も買う側も強者が集まるというこの朝市には、少し離れた地区から
 も人が集まってくる。

  朝市で最も賑わう地裁前庭の一画に、各務の出した野菜の出店があった。
  青いビニールシートを敷いた上に、キュウリとトウモロコシの入った段ボ
 ール箱と篭が置いてあるだけの、極めて簡素な出店である。

  各務がここの朝市に店を出したのは、今回が初めてである。それどころか、
 作った野菜を並べて売る事自体が初めてのことだった。
  初めて尽くしの環境の中……正直、勝手がわからない。
  周囲の店が賑わう中、何故か自分の店にだけ人が集まらないのをただただ
 不思議に思っていた。

  各務     :(ううむ…それにしても客が来ない、なんでかなぁ…)

  などと考えつつ、ただただ素通りする人を眺めながら、ぼーっとしている。
 そう思うのなら、せめて通りかかる人達に声でもかけりゃあいいのに…。

  各務     :(まぁ、いいや。そのうち誰か来るだろう。多分…)

  …何処をどう突つけばその様な結論を導けるのかは誰にも解らないだろう。
  おおらかというか、なんというか、ある意味大物である。

  各務     :(あぁ、お日様が高くなってきた…。どうやら今日は暑く
         :なりそうだな…)

  七時前、雲一つない青空に太陽が輝いている。
  今日は暑くなるぞ、と言わんばかりに…。


一人目のお客様…?
------------------

 勇那     :「あれ、ここだけ人がまばら……っていうか、全然いな
        :いじゃん(苦笑)」

 人込みをかき分け……る必要もなく、すーいすーいと滑るように進んでき
た勇那が一軒の店の前で足を止めた(いや、足はないが)
 そう、客が来なくて(一応)困っている各務の店の前である。

 勇那     :「ふーん、野菜を売ってるのかぁ」

 さきほどから店先をうろうろと歩き回っていた勇那が思い知らされたこと
が一つ。
 それは、人込みをかき分ける必要がないということは、逆に商品をのぞき
込む時に不便であるということ。
 幽霊である彼女は当然現実には干渉することがない、つまり触れることは
なく彼女は人をすり抜ける。

 そして、彼らも彼女の体をすりぬける。
 それがどういうことか。
 自分が覗いている目の前につぎつぎと手が伸び、じっくり見ようとした商
品が次々と客の買い物カゴの中に収まっていくのだ。
 あのぴかぴか光る変わった魚が、あのみずみずしい美味しそうな野菜が、
あっちからこっちへひょいひょいひょい……。
 いくらひやかししかできないといっても、これではあまりに不公平である。
 そういうこともあって、ここのような人が少ない店はありがたかった。
 (売るほうには悪いが)自分が満足するまで眺めていられる。

 勇那     :「きゅうりとトウモロコシ……だけ?」

 商品台を覗いてみて気づくのは、実はたしかにでかいが形が不揃いなこと。
 並べられた商品が他店に比べると少ないこと。
 そしてこれがこの店に人を呼べない原因なのかもしれないが……わずかな
のだが値段が高い。
 わざわざ朝市に出てきて買い物をしようという「朝市の客Pro」には、こ
の値段はとても相手をしていられないということなのだろうか。

 勇那     :「ねぇ、おじさん……これってちょっと高くない?」

 勇那が商品を指さしながら、目の前の各務に一応声をかける。
 おじさんというには失礼な年齢かもしれないが、彼女はそこまで気を回さ
ない。

 各務     :(そういえば腹が減ったな……)

 腹を軽くさすって、目の前に並んだ商品をぼんやりと眺めている。
 勇那が話しかけていることにも、まったく気づいていないようである。

 勇那     :「……って、やっぱ気づくわけないか(苦笑)」

 幽霊である彼女は、普通には見えない。
 悲しいが、それが現実。
 もう慣れたので、これくらいで落ち込むことはないが……やはり気づいて
欲しいという気持ちはなくなるものではない。

 勇那     :「ま、いいか。他に誰もいないし、勝手に見せてもらう
        :からね〜(笑)」

 ふわりふわり。

 各務は突然、手近にあったトウモロコシの一つをおもむろに手に取り、実
を覆う葉を手際良く取り除く。そして、それにむしゃりと食らいついた。
 売れないからヤケになったか、なんなのか。


 勇那     :「……あのねぇ……ふつう売り物を食べますか(笑)」

 目の前の商品を食べ始めた各務を見て苦笑する。
 声が届かなくてもツッコミをいれるのは性分か。
当然、各務は気づかない。
トウモロコシをほお張り続けている。

 各務     :(う〜ん、甘くて美味しい。これでこそ早起きして朝に
        :収穫した甲斐があるというものだ)

 何やら満足げな笑みを浮かべる各務。

幸せに浸られても……勇那としては、ただ苦笑するしかない。

 勇那     :「なんか満足げだしぃ。まぁねぇ、朝早く出てきたか
        :ら、ごはんとかも食べてないなだろーけどっ」

 言いたいことは言った。
聞こえる聞こえないはともかく、それですっきりといったところか。

 勇那     :「……まぁ、いいか。あたしも好きにしよ」

さて。
 幽霊の少女が商品に手を触れて見定めるような仕草をしながら、店の前に
立っている。
 店主は日差しに目を細めながら、食べかけのトウモロコシを片手に何やら
笑みを浮かべている。
 奇妙な光景である。

  各務     :「ん?」

 気配が感じられたのだろうか。
 トウモロコシを食べる手を止め、各務は一応周囲を見まわした。

 各務     :(さっきからなんか視線を感じるよなぁ)

 首をかしげる。
 現在のただ一人の客が幽霊。
 不幸である。


風見アパート、屋根
------------------

 何気なく空を見上げてみる。
 朝の五時半、空はもう明るい。朝は日が昇るのはあっという間だ。
 佐古田真一が目を覚ましたのは朝の四時前、別に寝つきが悪かったわけ
でも早く寝たわけでもなく、ただ目が覚めたらそんな時間だった。再び寝
るには中途半端で、起きて何かをするには早すぎる。
 早朝からギターをかきならすのはさすがに近所迷惑なのはわかっている
し、今日は日曜日だ、この風見アパートの住人の大半は昼過ぎごろになら
なければ起きてはこないだろう。
 そんなこんなで、暇な時間を屋根の上でぼんやりとつぶしている。何故
に屋根に登るのかと聞かれても多分わからない。なんとなく登ってみたかっ
た、と言ってしまえばそれだけだ。
 日のあたる屋根、並んだ瓦が所々奇麗なのは、以前雨漏りの修理でいく
つか瓦を入れ替えた跡。古い雨どいのふちに風で飛んできたのか、葉っぱ
が一枚張り付いている。側の電線にはいつのまにスズメが鈴なりにとまっ
ている。
 のび、一つ。晴れた空が眩しい。
 このまま屋根で時間を潰しているのも悪くないが、そろそろ人目につく、
暇つぶしに外に散歩にでてみることにする。屋根から部屋の窓までのびた
梯子を伝って部屋に戻る、梯子を外し部屋の角にたてかける。以前は雨ど
いを伝って屋根に登っていたのだが、危険だからと本宮が梯子を作ってく
れた。雨漏り修理の時などにもよく使わせてもらっている。
 ちゃぶ台の上のサボテンに一回、霧吹きで水をやり、なるべく音を立て
ないように静かにドアを開け、忍び足で風見アパートを後にした。


 早朝、グリーングラス
 --------------------

 美都     :「あーっ!」

 朝、澄んだ声が響き渡る。

 紫苑     :「……どうしたんですか?」

 猫のまま目をこすり、2階から降りてくる紫苑。彼女の声に命の危険を感じ
なかったからか、急ぐ様子はない。

 美都     :「きゅうりが……ない……」

 紫苑が台所まで行くと、冷蔵庫を前に呆然とした美都がいた。

 紫苑     :「きゅうり?……ああ、胡瓜ですか……」
 美都     :「酢の物にしようと思ったのに……」
 紫苑     :「違うのにしたらどうですか?」
 美都     :「うーん……そうだね。コーンポタージュ先に作ろうっと」

 そう言って、傍らの白い無地の紙パックを切り出す。ラベルは一枚。「ポター
ジュスープ」と書かれている。

 美都     :(パックの中身を鍋に移しながら)「あれ?粒が見えない
        :……」
 紫苑     :「美都……」
 美都     :「なに?……これ、不良品かなぁ……」
 紫苑     :「“ポタージュ”に、コーンを入れると“コーンポター
        :ジュ”になるんですよ……」
 美都     :「え……」

 意外な盲点であった。……というより、レストランで“ポタージュ”を頼む
と、大体“コーンポタージュ”が来るのである。同一のものと思い込んでも無
理はない……と思おう。

 美都     :「あたし……やっぱり買ってくる!」
 紫苑     :「こんな早くては、八百屋もやっていませんよ」
 美都     :「朝市があるもんっ。いくよっ」
 紫苑     :「……分かりました」

 すぐに男性形になる紫苑。
 美都は既に買い物籠の準備を終えている。

 美都     :「朝市ってどんなだろうね……私、初めてなんだ」
 紫苑     :「美都……それが本当の目的ですね……」

 二人は、朝市へ向かう。目的はキュウリとトウモロコシ……なのか、見学な
のか?
*********************************************************************
とりあえずその2へ

 結構長いなぁ(^^;)




    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage