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Date: Sat, 23 Oct 1999 19:37:20 +0900 (JST)
From: Ginka <una-yuya@mb.kcom.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15981] [HA06N] 『髪を切る時』
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <940675040.4293926155@tokyo26.kcom.ne.jp>
X-Mail-Count: 15981
こんばんわ銀佳です。
むー……えい、2つ目も流してしまえっ(爆)
#流すか流さないか、ほんとに悩んでいたりしました。
#だって、なんか言われそうなんだもんっ(爆)←おいこら
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Novel『髪を切る時』
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春の陽射し
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やわらかく淡いブルーの空。
幻であるかのように儚いピンクの桜花。
入学式のまで、もういくばくもない、とある春の日。
吹利学校の前を通りかかった悠は、ふと足を止めた。
肩までの栗色の髪が、春風になびく。
思い返せば、あれはもう一月前のこと。
まだ中等部の生徒だったころ。
あの日も、こんな風が吹いていた。
心に響く音色
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中等部で最後の試験が終わった日。
ほっとした気分で帰路につこうとした悠の耳に、
すっと、軽やかな音色がすべりこんできた。
「……フルートの音……?」
透明に澄んだ音色は、高等部の方から流れてきているらしい。
曲はフルートの曲の中でも一、二を争うほど有名な、
『アルルの女 第二組曲』の『メヌエット』。
風に乗って、曲は流れていた。
「綺麗……」
まわりの空気を浄化しながら流れ、明確な意志を持って語りかけてくる。
そんな、不思議で美しい音色だった。
後ろ髪を引かれる思いを残しつつ、時間を気にして家に帰ったものの。
あの音色が鼓膜にやきついて離れない。
「今日は、運がよかったのかな……今まで、一回も聞かなかったし……」
しかし、次の日も。また次の日も。
フルートの音色は高等部から、決まって同じ時間に流れていた。
いつのまにか、その音色を聞いてから帰ることが悠の日課になっていた。
「(どんな人が吹いているのかな……?)」
毎日聞いてから帰るようになって、おのずとわいて出た疑問。
影響されて、悠もフルートを吹いてみるようになっていた。
「(ま、いいか。今の時期に吹いているってことは三年生じゃないだろうから
……高校に入れば、何かわかるだろうし……)」
音楽室があるのは高等部の三階で、悠は中等部の生徒。
中等部の生徒は高等部には立ち入り禁止。
確かめる手段は無かった。
途絶えた旋律
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三週間くらいして。
フルートの音はふつりと途絶え、聞かれることが無くなった。
「…………どうしたんだろう…………」
毎日楽しみにしていた悠にとって、これは一大事だった。
普段なら無いような勇気をふりしぼって、高等部の生徒に声をかける。
「あ、あのっ……」
突然見知らぬ少女から声をかけられた高校生は戸惑っているようだったが。
「あの……最近、いつもこの時間に音楽室でフルートを吹いていた人、どう
しちゃったんですか?」
必死な表情で尋ねている少女をはぐらかせはしないと思ったらしく、
「ああ……あいつは、あの人は、一時的に来てただけだから……また親の仕
事の都合で、転校していったよ……」
と答えてくれた。
「そう……ですか……ありがとうございました……」
知った事実は悠にショックを与えた。
「もう……あの音は……聞けないんだ……」
憧れてフルートをはじめたばかりだったのに。
できるだけ近づこうと決心したばかりだったのに。
「あの人は……もういない……」
顔も見たことの無い人だったけど。
ぽっかりと、胸の中に穴があいたような感じだった。
家に帰った悠は、部屋に入るなり床に鞄を放りだした。
そのまま、ベッドに倒れこんで枕に顔をうずめる。
背中の中ほどまでの髪が、ぐしゃっと乱れる。
「……………………」
ふと思いついて、廊下にでて、CDの棚をあさる。
探しているCDはすぐに見つかった。
『アルルの女 第二組曲』…………。
プレイヤーにセットすると、音楽が流れはじめる。
しかし、それは記憶にあるそれよりも薄っぺらなものに聞こえた。
なにも心に響いてこない。
「……あの人のでなきゃ……だめなの……?」
新たなる目標
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「お母さん……私、フルートを習いたい……」
夜、部屋から出てきた悠は母親にこう告げた。
娘が自分からなにかを願うなんて珍しい。
それに、独学よりはちゃんとしたところで習った方が良いだろう。
こう思った母親は、あっさりとフルートのレッスンを認めた。
(もうくよくよしていたってはじまらない。
せっかくはじめたフルートだもの。
続けていれば、いつかあの人に会えるかもしれない。
それでなくても……あの音色を再現できるようになりたい……。
そう、もう聞けないってあきらめることはない。
せっかく聞いた音色。自分の中で生かさなきゃ……)
この日、悠は髪を切った。
肩にようやくさわるほどの長さになった栗色の髪。
短くなった髪を見るたびに今日のことを思い出せるように。
あの音色のことを思い出せるように。
そう思って……
時系列
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悠が吹利学校高等部の生徒となる一月ほど前、1999年の三月ごろ。
春風の吹く、とある日。
解説
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悠とフルートの出会いについてです。
(じつは本体と現楽器の出会いもこんなものでした)
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とよリリさんの描いてくださったイラストからヒントを得ました。
とよリリさんの描いてくださった悠は、髪が背中の中ほどまであります。で
も、悠の髪型は肩くらいの長さに修正したのです(笑)
しかし、この長い髪の悠も気にいっていたので、何とか使えないかと悩んだ
挙句、こういうかたちになりました。
感想など、気軽にお願いしまーす。
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