[KATARIBE 15941] [HA06N] 「前略、月待坂から」三日月

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Date: Wed, 20 Oct 1999 12:27:02 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15941] [HA06N] 「前略、月待坂から」三日月 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910200327.MAA28785@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月20日:12時26分54秒
Sub:[HA06N]「前略、月待坂から」三日月:
From:E.R


     こんにちは、E.Rです。

 というわけで、続き、三日月流します。

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三日月:蛙
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  すっかり煤けたような色の縁側には、小さい頃一生懸命穿り返した節の跡も
そのまま変わらずに残っている。
  西瓜を食べる人いる、と声がしたと思ったら、大きな皿を捧げ持つようにし
て、結希乃が当然のように縁側にやってきた。
昔と同じように、ここは西瓜を食べる特等席であるらしい。

「花澄さん、暑くない?」
「ううん」

  りん、と、昨今珍しくなった南部鉄の風鈴の音が涼を運ぶ。

「花澄さん、塩かける?」
「ううん。うちはそのまま食べるわ」
「ふうん。うちもそう」
「姉妹って、そういうところは似るのかもね」

  ありがとう、と一礼して、差し出された西瓜の一片を受け取る。
  滲み出る赤の色が、不思議と涼しげに見える。

「沙都子おばさんの……見つかった?」
「ううん、まだ」

  ふうん、と呟くと、結希乃は尖がった西瓜の先をぱくりと齧った。しゃく、
と冷たい音がする。
  音につられるように、花澄も西瓜を齧った。

  時折、りりん、と風鈴が鳴る。
  風は二人の間を静かに行き来する。
  その温度が奇妙であることに、既に結希乃は慣れているように見えた。

  庭は、記憶にあるよりも小さいが、しかし小さな子供らならば鬼ごっこが出
来るほど大きい。手入れに余念が無かった祖父がいなくなってから多少は荒れ
てはいるものの、しかし並んだひまわりの黄色とダリアの赤は、陽光を吸いと
っているかのようにくっきりと際立って見える。

  その、根元に。

「花澄さん、何見てるの?」
「……蝦蟇蛙、かな、あれ」

  ひときわ大きなひまわりの横に、でこん、と、蛙が座っている。丁度根元の
盛り上がった土のひとくれに似た色と形の蛙は、どこか呆然として座り込んで
いる。
  それを、花澄は何となく見ている。
  結希乃も、何となくつられて、それを見ている。
  時折、しゃく、と、西瓜を齧る音だけが合いの手のように入る。

  と。

  ぱくん、と、蛙が口を開けた。

 開けた口から、まあるい、どこかしら金属に似た光沢のある膜が膨らみ出す。
口一杯に広がったところで蛙はゆっくりと口を閉じ、膜は丁度しゃぼん玉のよ
うにまん丸に膨れ上がって浮き上がった。
 浮き上がったしゃぼん玉を、するすると流れる風が、その口元からころがし
てゆく。それをぎょろりとした目で追ってから、また蛙は口をぱくんと開く。
 呆然として二人が見やる間に、風に乗って庭を一渡り廻ったしゃぼん玉はす
とんと落ち、地面をころころと転がったかと思うとぷちんと割れた。金属の光
沢が、弾けるように散らばった。 一つ、そしてまた一つ。
 その傍らで、相変わらず蛙はぱくんと口を開けている。ぎょろり、と目だけ
が、弾けるしゃぼん玉を追う。

 不意に、蛙がぱくんと口を閉じた。一度だけ縁側のほうを見やると、そのま
まのそのそと土くれの間に入り込んでいってしまう。
 何とはなしに、二人はその姿を見送り、そして何時の間にか最後の一つにな
ったしゃぼん玉を見やった。暫く風に弄ばれていたそれは、最後に今まで蛙が
座り込んでいたところに戻ると、ぷちん、と弾けた。弾けた光沢は何故か、月
を思わせた。
 ふと気が付くと、視線の先に小さな芽が、やはりぷちんと弾けるように開い
ていた。つやつやとした葉の表面が、陽光を元気よく弾き返している。

「ああ……」
「え?」
「今日は、三日月でしたっけ」
「あ………」
「月花の、芽の出る日」
「……うん」
 どこかあやふやに頷きながら、結希乃が西瓜を口元に運ぶ。しゃく、と、ど
こか間の抜けた音がおかしくて、二人は同時に笑みを浮かべた。

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 てなもんで。
 ……ああそういえば、この文書いた頃はまだ、西瓜が店に在ったよなあ……(とほひめ)

 であであ。





    

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