[KATARIBE 15940] [HA06N] :「前略、月待坂から」糸月

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Date: Wed, 20 Oct 1999 12:22:29 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15940] [HA06N] :「前略、月待坂から」糸月 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910200322.MAA26863@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月20日:12時22分20秒
Sub:[HA06N]:「前略、月待坂から」糸月:
From:E.R


     こんにちは、E.R@そーとーへろ です。

 #まとまった文章書く力が……力がああっ(撲っ)<時間も無い(滅)
というわけで、書き溜め話、月待坂、流します。

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糸月:捜索開始
-------------

「……ということで、まだ数日……最悪二週間、なんですけど、ここに……」
 おずおずと言いかけた花澄に、叔母はくすくすと笑った。
「……知ってますよ」
「え?」
「知ってます、って」
 繰り返すと、叔母は、落ち着いた笑みを浮かべて花澄を見やった。
「沙都ちゃんがね、ちゃんと言い置いていったの。貴方が二週間近くここに滞
在するかも、って。だからその時には面倒見てくれって」
 沙都ちゃん、と、叔母は自分のすぐ上の姉にあたる人を呼ぶ。
「だから、大丈夫。貴方がね、沙都ちゃんの部屋を探すだろう、ってとこまで
聞いてるから。ここにも結構、あの人、ものを置いてあるし」
「………はい」
 結局最後まで一人暮らしだった沙都子叔母は、ここから電車で程近いところ
にある商店街の一角に、書店、瑞鶴を営んでいた。だから当然、そこに住んで
もいたのだが、実家……つまり月待坂のこの家にも、部屋を一つ確保していた。
要らないものばっかりごそごそあるのよ、と、昨夕の食卓で叔母が笑っていた。
 確かに、渡したかったものがあるとすれば、その部屋……だろう。
「……あの人も、ねえ……」
 ふと、叔母は苦笑した。
「やな姉よねえ。きっちり文書にしたためて、斯く斯く云々、必要なもの全て
手を打って……貴方のお願いなら聞くから、って言ったんだけど、そんなのは
おかしい、いつもだったらそうそうはいはいと聞かないくせに、って……」
 ふ、と、叔母の視線が焦点をぼやかせた。すう、と時を四十年ほど溯ったよ
うな視線だった。
「いつも、沙都ちゃんは人に弱み見せない人だったけど……最後まで、だもん
ねえ……」
 三人姉妹。一番上の母と、この叔母とは、それでも共同戦線を張ることが多
かったらしく、沙都子叔母も以前、二対一で鍛えられたわ、と、笑っていたも
のだった。やはり、すう、と、時を越えた目をして。
「……………まあ、だから」
 四十年前を見ていた目が、すっと現在に戻る。叔母は一度瞬きをして、改め
て笑いながら花澄を見やった。
「ゆっくりしていきなさい。貴方のご両親には恨まれるけど……でも、沙都ち
ゃんのことだから、それはそれで一筆入れていると思うわよ」
「……はい」
「毎日、根つめて探す必要は無いし、そんなことさせないで、って言われてる
から。……日本久しぶりでしょ?」
「ええ」
「だから、昼間は遊んで、夜には探して……で、いいんじゃない?英ちゃんの
とこに遊びに行くのもいいし」
「……っ……」
 英ちゃん、つまり、花澄の兄の英一は、沙都子叔母の後を継いで瑞鶴の店長
をしている。兄妹仲は良い方だと思うのだが……しかし。
「……兄に会うと、何言われるか判らないなあ……」
「あら、何?」
「幾つになるまで親の脛齧ってるんだ、って」
「なーに言ってんの」
 一刀両断。ころころと笑いながら、叔母は言ってのける。
「英ちゃんだって沙都ちゃんのとこで働くまでは、学生なんだかフリーターな
んだか良く分からない生活してたくせに。そう言ってやんなさいよ」
「…………はあ」
 何だか気の抜けたような返事を返した花澄に、叔母はまた笑いかけると、椅
子から立ち上がった。
「じゃ、沙都ちゃんの部屋に行ってみようか」

 沙都子叔母の部屋は、主の不在の時間が長かっただろうにも関わらず、どこ
か明るかった。閉め切った部屋は、それだけで空気が淀むものだが、その淀み
がこの部屋にはない。
「……流石」
「風がね、ずっとこの部屋の面倒見ててくれてるから」
 三人姉妹のうち、一番上、花澄達の母親は風見の力を殆ど持たなかった。三
番目、目の前の叔母は風の持つ情報を得る……風の声を聞くことは、出来た。
 けれども風見として群を抜いていたのは沙都子叔母だった。風の声を聞き、
その力を借り、時には風に乗ることさえあった、と。
「ちゃんと元に戻してくれれば、あとは何しても構わないからね。どうせ沙都
ちゃんもそうそうきちんと整理してたわけでもないし」
 ひう、と、細い風が、そう言った叔母のほつれ毛をそよがせた。
 まるで笑うように。


 じゃあ、と、叔母は花澄をそのまま置いて去り、花澄は黙って部屋を見やっ
た。
 風が、奇妙な具合に吹いている。
「………どーせ、教えてくれないんでしょ」
『当たり前さね』
 かさかさと、乾いた笑い声。
『探し物は、自分で探してこそ、有難味があるというものだろう』
「でも、満月までに探せなかったら?」
『さてねえ』
 指ですっと撫でるように、風が花澄の髪を揺らした。
『まずは、探してから。最初からずるしないように』
「……はあい」
 首をすくめると、花澄はきょろきょろと見回し、まず、本棚の本を見やった。

*********************************

 というわけで。
 次の便で、三日月送ります〜

 では。




    

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