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Date: Fri, 15 Oct 1999 01:54:53 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15843] [HA06P] 『届けこの歌』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net, sf@kataribe.com
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ごんべです。
『届けこの歌』の完成版をお送りします。
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エピソード『届けこの歌』
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登場人物
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堀川 祐司 (ほりかわ・ゆうじ) :静電気を操る能力を持った歴史学者。
御剣 司 (みつるぎ・つかさ) :電気、電子を操る電操士。
:システムエンジニア。
真昼の衝撃
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紅雀院大学、午後。
ぽかぽかと暖かすぎる日差しに顔をしかめながら、祐司は資料を見直してい
た。文献やコピーの山をめくりながら、時々出土品の上にかがみ込んで細部を
確認したりする。
祐司 :「……むー、景気づけがほしいな」
ラジオのスイッチを入れる。
適当にTUNEをひねると、ノリのいいハードロックがスピーカーを貫いた。こ
れなら多少は景気がいい。
音楽が部屋と頭脳に満ちてくると、殺風景な研究室の雰囲気が、多少軽く暖
かく柔らかくなったような気がする。
女性の声 :「……お送りした曲は、……の曲で……でした」
流麗な発音の英語を挟みながら、女性のパーソナリティが番組を進めていく。
何となくいい感じだ、どこの局だろう、と思って祐司がラジオを覗き込んだ時。
パーソナリティ:「……次の曲は、SHOW-YAの最新アルバムからピックアッ
:プした曲です。『Don't look back』」
………………
祐司 :「なにいいぃぃぃっっ!!??」
街角で
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その日の夕刻、吹利市内。
祐司 :「と言うわけで、久しぶりにあの声をあのバックサウンド
:で聞いて、感涙にむせんでいたんですよ(よよよ)」
司 :「…………(^^;」
その昼に体験した感動を、祐司は久々に会った司に話して聞かせていた。
司にとっては、こういう崩れた祐司を目にするのは初めてである(笑)。
祐司 :「しかし……第一期解散から8年半、寺田恵子も戻ってき
:て、再び結成する日が来ようとは……(しみじみ)……で
:も、早速アルバムを店で探してみたんですけど、どこにも
:ないんですよ。そんなに数を出してないのかなぁ」
司 :「僕もそんなに詳しい訳じゃありませんが、再結成バンド
:でアルバムも出して…って話は、聞いたことありませんよ」
祐司 :「…………」
はたと動きを止める祐司。
祐司 :「……今日は、4月1日じゃありませんよね?」
司 :「違います違います(^^;」
祐司 :「むー、じゃああの番組は何だったのかなぁ」
司 :「 "最新アルバム" って……その、8年半前に出たアルバ
:ムの事じゃないんですか?」
祐司 :「いや、かつてはあんな曲はなかったです(断言)」
司 :「(^^;;; 別のバンドだとか?」
祐司 :「いや、あれは寺田恵子だった(きっぱり)」
司 :「(^^;;;;; 実は彼女のソロアルバムだったのでは?」
祐司 :「そこですよ。番組では、きっぱり "SHOW-YA" と言った
:んですよねぇ」
司 :「……うーむ」
祐司 :「うーむ」
司 :「まあ、とりあえずベーカリーにでも行きましょうか」
祐司 :「……そうですねぇ」
……と。
パーソナリティ:「……お送りした曲は……」
祐司 :「…………この声っ」
司 :「……?!」
道ばたに止まっている軽トラックの中から流れてくるラジオの声。
おそらく、あの声に間違いない。
駆け寄ってみると、中で作業服を着た若い男が居眠りをしている。
パーソナリティ:「……お聞きのチャンネルは、Eight-Two-point-Six,
: "Studio OMEGA" です」
司 :「 "スタジオ・オメガ" ……?」
祐司 :「……あのっ!」
別の男の声 :「おーい!」
その時、傍らの家から同じ作業着を着た中年の男が顔を出し、その声に反応
して若い男が目を覚ました。そして、ほとんど反射的にラジオを切ってしまう。
祐司 :「あっ……」
中年の男 :「赤い方の工具箱持ってきてくれ」
若い男 :「(寝覚めの声で)はーい………… ? 何でしょ?」
祐司 :「あ、すみませんその……今のラジオは……」
若い男 :「は?」
訝しげながら、若い男はすぐにラジオのスイッチを入れた。おそらく無意識
でもスイッチを入れてしまうほど、癖になっているのだろう。
……しかし。
SE :サアアアアアアア……
スピーカーから流れたのは、細かいノイズ音のみ。
祐司 :「え……?!」
若い男 :「あれ?」
司 :「そんな……」
若い男 :「おかしいな」(チューニングをひねろうとする)
祐司 :「あ、そのままっ!」
祐司はとっさに、ラジオの表示を確かめる。
82.6MHz。
スタジオ、オメガ……。
解説
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スタジオ・オメガ《組織名》
吹利県内一帯でエアチェック可能なFM放送。82.6MHz帯で入感す
る。常に放送されているわけではなく、大抵は聴こうとしてもノイズ
が聞こえるばかりである。郵政省にも登録されていないことから、海
賊放送局だろうと言われている。
その放送を聞いたほとんどの人は、本来聴けるはずのない曲が流れ
るのを聴いたという。
http://www.tele.mpt.go.jp:8080/
日本無線局周波数表の検索
で周波数と地域を入れると、82.6MHzは近畿一帯に登録されていないと判りま
したので、このような設定になっています。
ちなみに。
ショーヤ【SHOW-YA】《バンド名》
1980年代に活躍した、女性5人組の本格派ハードロックバンド。
パワフルでノリのいいサウンドと迫力あふれるボーカルで聴く者を
圧倒し、一部に熱狂的なファンを生んだ。
1990年から1991年の全国ツアーで第一期の活動を終え、ボーカルの
寺田恵子が脱退。その後ステファニーを迎えて活動を再開する。が、
双方ともその後の活動は不振なままである。詳細は不明。
昭和シェル石油1989年CMソング「限界LOVERS」「私は嵐」などが
有名。
(実在のバンド。)
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堀田 拓司 (ごんべ) gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/