Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Thu, 14 Oct 1999 16:22:32 +0900
From: ソード <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15804] [HA06P]:EP: 『ほのかに甘く』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910140722.QAA25263@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 15804
99年10月14日:16時22分28秒
Sub:[HA06P]:EP:『ほのかに甘く』完成版:
From:ソード
こんにちは、ソード@EP掲載週間 です。
依然流したエピソードの完全版を流します。
修正が無ければ完成版として更新依頼します。
******************************
エピソード 『ほのかに甘く』
==============================
登場人物
布施美都(ふせ・みと)
過去の記憶、記録の無い娘。
紫苑(しおん)
実験で偶然作成された流体金属。猫の形を取る事が多い。料理は得意。
平塚花澄(ひらつか・かすみ)
本屋、瑞鶴の店員。布施美都と最初にであった人間。
平塚英一(ひらつか・えいいち)
花澄の兄。瑞鶴の店長。美都を一晩かくまい、その後グリーングラス
へと預けた。
朝、グリーングラス
------------------
テレビ :「……と言うわけで、今日はグランドクロスと言う……」
美都 :「グランドクロスかぁ……英一さんって、占いとかは信じ
:なさそうだなぁ……」
ユラ :「美都さーん。行って来るねー」
美都 :「あ、はーい。行ってらっしゃい」
階下のユラの声にテレビを見たまま答える美都。
美都 :「さて……っと、そろそろ始めるよ、紫苑ちゃん」
紫苑 :「ふにゃ……」
美都 :「もう……何時まで猫やってるのっ。手伝ってくれるんで
:しょう?」
紫苑 :「ええ……わかりましたよ(ふぁぁ)」
あくびをしつつ、紫苑も美都について台所に向かう。
美都 :「まずは……黄身と白身を分ける……と」
必死になって殻と黄身と白身に分ける。殻も必死に分けねばならないのは、
彼女の実力と言えるだろう。
美都 :「白身を泡立て……」
紫苑 :「すばやく正確にやるんですよ、角が立つくらいです」
美都 :「結構疲れるね……」
紫苑 :「手伝いましょうか?」
美都の隣で手ほどきをする紫苑は、いつもの男性体とは違って、今日は珍し
く女性体である。
格好は、美都のそれにそっくりだ。
美都 :「あ……ううん、良い。私一人で作りたいんだ。ありがと
:う」
紫苑 :「だったら、がんばってください」
今日は、8月11日。美都が吹利に現れてから、最初に世話になった瑞鶴の店
長。平塚英一の誕生日である。
今までの感謝の意も含め、美都は自作のケーキを作ろうと試みているのだが
……。
見ての通り、作業は難航している。
夕方、グリーングラス
--------------------
美都 :「できたぁ……」
紫苑 :「お疲れ様でした」
台所を見れば、美都の奮闘の後が伺える。つぶれたスポンジは3つ。漕げた
のが一つ。生クリームも固形化したのや、なめると砂糖の粒が感じられるもの
もある。
美都 :「じゃあ、渡して来るね」
紫苑 :「はい、気をつけてくださいね」
美都は、ドライアイス入りの箱に詰めてから、勢い良くグリーングラスを後
にした。
紫苑 :「さて……片づけと、ユラさんの分の晩御飯の準備ですね」
夕方、瑞鶴
----------
美都 :「こんにちは……」
英一 :「いらっしゃい。ああ、美都さん」
花澄 :「あら、美都さん、いらっしゃい」
店の方から、瑞鶴へと入る。まだ営業中なのだからあたりまえだが……。
美都 :「えと……英一さん。お誕生日おめでとうございます」
店内に入って唐突に、それだけ告げてお辞儀をする。なぜ礼をするか良く分
からないが……。
花澄 :「…………そーいえば、お兄ちゃん誕生日だっけ………」
花澄の今気づいたかのような声。
英一 :「……あ…ありがとうございます(深々)」
花澄の声を横目に見ながらも、深々と礼をする英一。
美都 :「えへ……それで、これ作ってきたんです」
梱包した箱から、器用に取り出す。いや、取り出すにはそこそこの器用さが
必要だった。
箱の側面を開け、中から皿ごと取り出したのだが、冷えた皿に結露がつき、
滑りやすさを増長する。
美都 :「あっ!」
SE :ベシャ……カランッ
皿を手に取り損ね、そのまま地面へ差し出した。瀬戸物の皿は割れる事はな
かったが、ケーキの方は見事につぶれた。
花澄 :「あら……」
美都 :「あ……」
呆然。思考能力は停止した。頭の中で意味のつながらない単語がまわり続け
ている。目頭が熱くなり、涙が出そうになる。
美都 :「(泣かないっ)……ごめんなさい……お店、汚しちゃっ
:た……」
慌ててしゃがみ、かたずけようとする美都の手より早く、手がケーキに伸び
て崩れたかけらを拾い上げ、ひょいと口に運ぶ。
英一 :「ふむ、美味しい。甘さも控えめになってて、食べ易いな」
美都 :「英一さん……(じわっ)」
英一 :「ありがとう。美都さん。これでも3人なら十分食べられ
:る」
花澄 :「地面についてない分だけとって、ちょっと整形すれば大
:丈夫そうね」
美都 :「えいいちさぁん……」
そのまま、胸に飛び込む事で涙を隠す。彼の前では泣かないと決めていたが、
嬉し涙ならかまわないだろう。
固まっている二人を横目に、笑みを浮かべてケーキを取り分けて行く花澄。
ふ……と、美都の頭越しに英一と目が合う。
英一 :『…………なにか?』
花澄 :『いいえ……ごゆっくり』
声に出さず、口を動かすだけで会話を終える。
ケーキを取ってから、拭き取る前にあじみをしてみる。
ほのかにあまいクリームだった。
解説
世話になった恩人、平塚英一に、布施美都は苦労してケーキを自作し、誕生
日プレゼントとして持って行くが……。
$$