[KATARIBE 15804] [HA06P]:EP: 『ほのかに甘く』完成版

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Date: Thu, 14 Oct 1999 16:22:32 +0900
From: ソード  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15804] [HA06P]:EP: 『ほのかに甘く』完成版 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910140722.QAA25263@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月14日:16時22分28秒
Sub:[HA06P]:EP:『ほのかに甘く』完成版:
From:ソード


こんにちは、ソード@EP掲載週間 です。

 依然流したエピソードの完全版を流します。

 修正が無ければ完成版として更新依頼します。

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エピソード  『ほのかに甘く』
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登場人物
布施美都(ふせ・みと)
    過去の記憶、記録の無い娘。
紫苑(しおん)
    実験で偶然作成された流体金属。猫の形を取る事が多い。料理は得意。
平塚花澄(ひらつか・かすみ)
    本屋、瑞鶴の店員。布施美都と最初にであった人間。
平塚英一(ひらつか・えいいち)
    花澄の兄。瑞鶴の店長。美都を一晩かくまい、その後グリーングラス
    へと預けた。

朝、グリーングラス
------------------

 テレビ    :「……と言うわけで、今日はグランドクロスと言う……」
 美都     :「グランドクロスかぁ……英一さんって、占いとかは信じ
        :なさそうだなぁ……」
 ユラ     :「美都さーん。行って来るねー」
 美都     :「あ、はーい。行ってらっしゃい」

 階下のユラの声にテレビを見たまま答える美都。

 美都     :「さて……っと、そろそろ始めるよ、紫苑ちゃん」
 紫苑     :「ふにゃ……」
 美都     :「もう……何時まで猫やってるのっ。手伝ってくれるんで
        :しょう?」
 紫苑     :「ええ……わかりましたよ(ふぁぁ)」

 あくびをしつつ、紫苑も美都について台所に向かう。

 美都     :「まずは……黄身と白身を分ける……と」

 必死になって殻と黄身と白身に分ける。殻も必死に分けねばならないのは、
彼女の実力と言えるだろう。

 美都     :「白身を泡立て……」
 紫苑     :「すばやく正確にやるんですよ、角が立つくらいです」
 美都     :「結構疲れるね……」
 紫苑     :「手伝いましょうか?」

 美都の隣で手ほどきをする紫苑は、いつもの男性体とは違って、今日は珍し
く女性体である。
 格好は、美都のそれにそっくりだ。

 美都     :「あ……ううん、良い。私一人で作りたいんだ。ありがと
        :う」
 紫苑     :「だったら、がんばってください」

 今日は、8月11日。美都が吹利に現れてから、最初に世話になった瑞鶴の店
長。平塚英一の誕生日である。
 今までの感謝の意も含め、美都は自作のケーキを作ろうと試みているのだが
……。
 見ての通り、作業は難航している。

夕方、グリーングラス
--------------------

 美都     :「できたぁ……」
 紫苑     :「お疲れ様でした」

 台所を見れば、美都の奮闘の後が伺える。つぶれたスポンジは3つ。漕げた
のが一つ。生クリームも固形化したのや、なめると砂糖の粒が感じられるもの
もある。

 美都     :「じゃあ、渡して来るね」
 紫苑     :「はい、気をつけてくださいね」

 美都は、ドライアイス入りの箱に詰めてから、勢い良くグリーングラスを後
にした。

 紫苑     :「さて……片づけと、ユラさんの分の晩御飯の準備ですね」


夕方、瑞鶴
----------
 美都     :「こんにちは……」
 英一     :「いらっしゃい。ああ、美都さん」
 花澄     :「あら、美都さん、いらっしゃい」

 店の方から、瑞鶴へと入る。まだ営業中なのだからあたりまえだが……。

 美都     :「えと……英一さん。お誕生日おめでとうございます」

 店内に入って唐突に、それだけ告げてお辞儀をする。なぜ礼をするか良く分
からないが……。

 花澄     :「…………そーいえば、お兄ちゃん誕生日だっけ………」

 花澄の今気づいたかのような声。

 英一     :「……あ…ありがとうございます(深々)」

 花澄の声を横目に見ながらも、深々と礼をする英一。

 美都     :「えへ……それで、これ作ってきたんです」

 梱包した箱から、器用に取り出す。いや、取り出すにはそこそこの器用さが
必要だった。
 箱の側面を開け、中から皿ごと取り出したのだが、冷えた皿に結露がつき、
滑りやすさを増長する。

 美都     :「あっ!」
 SE     :ベシャ……カランッ

 皿を手に取り損ね、そのまま地面へ差し出した。瀬戸物の皿は割れる事はな
かったが、ケーキの方は見事につぶれた。

 花澄     :「あら……」
 美都     :「あ……」

 呆然。思考能力は停止した。頭の中で意味のつながらない単語がまわり続け
ている。目頭が熱くなり、涙が出そうになる。

 美都     :「(泣かないっ)……ごめんなさい……お店、汚しちゃっ
        :た……」

 慌ててしゃがみ、かたずけようとする美都の手より早く、手がケーキに伸び
て崩れたかけらを拾い上げ、ひょいと口に運ぶ。

 英一     :「ふむ、美味しい。甘さも控えめになってて、食べ易いな」
 美都     :「英一さん……(じわっ)」
 英一     :「ありがとう。美都さん。これでも3人なら十分食べられ
        :る」
 花澄     :「地面についてない分だけとって、ちょっと整形すれば大
        :丈夫そうね」
 美都     :「えいいちさぁん……」

 そのまま、胸に飛び込む事で涙を隠す。彼の前では泣かないと決めていたが、
嬉し涙ならかまわないだろう。
 固まっている二人を横目に、笑みを浮かべてケーキを取り分けて行く花澄。
 ふ……と、美都の頭越しに英一と目が合う。

 英一     :『…………なにか?』
 花澄     :『いいえ……ごゆっくり』

 声に出さず、口を動かすだけで会話を終える。

 ケーキを取ってから、拭き取る前にあじみをしてみる。
 ほのかにあまいクリームだった。

解説
 世話になった恩人、平塚英一に、布施美都は苦労してケーキを自作し、誕生
日プレゼントとして持って行くが……。

$$




    

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