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Date: Thu, 14 Oct 1999 16:20:03 +0900
From: ソード <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15803] [HA06P]:EP: 『バイト探し』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910140720.QAA24497@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 15803
99年10月14日:16時19分55秒
Sub:[HA06P]:EP:『バイト探し』:
From:ソード
こんにちは、ソードです。
以前流れたエピソードの完成版です。
数日様子を見て、修正が無いようなら流してしまいます。
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エピソード バイト探し
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登場人物
布施美都(ふせ・みと)
過去の記憶、記録が無いため、まっとうなバイトが見つからない娘。
小滝ユラ(こたき・ゆら)
美都の保護者。大学院生。
豊秋竜胆(とよあき・りんどう)
ベーカリー・楠の常連。レストラン『マリカ』の店長代理。
蒼月かける(あおつき・かける)
ベーカリー・楠の常連。
津久見神羅(つくみ・から)
ベーカリー・楠の常連。
伊佐見光(いさみ・ひかる)
ベーカリー・楠の常連……の兄。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
ベーカリー・楠の店長。
紫苑(しおん)
ベーカリー・楠の常連にして、美都と最初から共にいる金属生命体。
ちょっぴり危ないバイト
----------------------
美都 :「うーん……」
相変わらず悩んでいる美都。いつも何かに悩んでいるような気がしないでも
ない。
アルバイト斡旋雑誌をめくりながら、一つずつ条件をチェックして行く。
その大半は、条件に当てはまらない。
美都 :「これと……これと、これ。……なんか、夜の労働時間の
:やつばかりだなぁ……」
条件に当て嵌まったものは、印をつけて行く。電話で相談だったり、直接面
接があったりするが、今日はとりあえず全て目を通してみる。
美都 :「みんな、時給はいいやつばっかだから助かるけど……」
ユラ :「美都ちゃん。いい?」
同居人のユラが部屋に入って来る。
美都 :「はい、どうぞ」
寝転がった体勢から起き上がり、若干居住まいを正す。色ペンと雑誌は手に
持ったままだ。
ユラ :「お茶いれたから……って、バイト探し?」
美都 :「あ、はい。あまりべったりお世話になるわけにもいかな
:いから……」
ユラ :「気にしなくて良いのに……っていっても聞かないわよね
:……」
美都 :「すみません……」
ユラ :「いいのよ、別に。で、どんなバイトにするの?」
美都 :「履歴書が必要ない所を探してるんですけど、なかなか無
:くて……」
そういって、チェックした雑誌をユラに渡す。
ユラ :「(……ちょっとこれ……水商売?)」
美都 :「時給が高いのは良いですけどねぇ……夜の仕事が多くて
:……」
ユラ :「ねえ、美都ちゃん」
美都 :「はい?」
ユラ :「このお店とかって、どんな事させるのか分かってるの?」
美都 :「え?……えーと、このお店は“接待”って書いてありま
:すよね。女性はフロアに出てお客さんの相手……と」
ユラ :「美都ちゃん。『水商売』って知ってる?」
美都 :「え……ええ、まあ……テレビとかで大体は……」
ユラ :「貴方の選んだの、そのほとんどが水商売だって分かって
:る?」
美都 :「え……あ、そうなんですか……」
ユラ :「しかも、どれも怪しいのばかりよ。水商売が悪いって決
:め付けるつもりはないけど、貴方が選んだものは、特にた
:ちの悪いものだわ」
美都 :「でも……」
ユラ :「また自分はどうなっても良いって言うつもり?」
ユラの厳しい視線。以前、美都がグリーングラスに厄介になる前にも、似た
様な事を話した事がある。
美都の自分の体を軽視するような行動は、ユラとしては心配する要素の一つ
である。
美都 :「え……あ……」
ユラ :「……」
答えに窮する美都を、黙って見つめるユラ。この件は、以前決着がついてい
る。
ユラ :「履歴書が作れない理由は分かるけど、自分の事をもっと
:大切にしよう」
美都 :「はい……。ごめんなさい」
ユラ :「多分、こういう雑誌のは、全部無理だと思う。知り合い
:に誰かいないか聞いてみるけど……」
美都 :「……やっぱり、めいわくかけちゃいますね……」
ユラ :「気にしないで……って言うのは、無理かもしれないけど、
:私が安心できるところで働いて欲しいだけだから。ごめん
:なさいね」
美都 :「いえ……私のわがままですから……。お願いします」
結局、ユラに頼ってしまう美都であった。
自分はひとりでは何も出来ない事を、また思い知らされる。
ベーカリーにて
--------------
数日後。以前として、ユラからのバイトの紹介も無い。もともと、ユラとし
ても「履歴書が必要ない」バイトを探すのは難しく、ないんも聞かずに雇って
くれるところなど、どれも自分の周りでしかない。
それでは美都の気持ちを無視してしまう事も、ユラは分かっていた。だから、
どうしても条件は厳しくなり、探すのも難しい。
美都も、何もしなかったわけではないが、ユラを心配させないアルバイトと
なると、なかなかに難しいのは確かだ。
グリーングラスの休憩時に、昼食がてら向かいのパン屋『ベーカリー楠』に
足を運ぶ。
以前、ちょっとの休憩を兼ねて立ち寄った場所だったが、その場の雰囲気と
常連達の人柄もあり、ユラも利用している事もあって、良く足を運ぶようになっ
ていた。
SE :からんからん
美都 :「こんにちはー」
竜胆 :「あ、美都ちゃんだ」
美都 :「あ、竜胆さん。こんにちは」
竜胆 :「美都ちゃん美都ちゃん。これが巨人の星の歌だよ」
常連の一人、竜胆とは、以前に野球の巨人軍と阪神軍の話で盛り上がり、そ
の際に「巨人の星」という歌の話題が出たのだが、以前の記憶の無い美都は聞
いた事が無かったのだ。
律義にMDにして来る事もさすがだが、会えるかどうか分からない美都のため
に、いつも持ち歩いていたのだろうか?
美都 :「おおっ……昔の曲みたい……」
竜胆 :「昔の曲だって」
MDを聞き、単純な感想を述べる。
美都 :「ありがとうございました。ああいう曲だったんですね……」
竜胆 :「うん、なかなかでしょ?」
美都 :「はい」
そういってから、店内を見渡す。パンの置いてあるあたりで竜胆に捕まったのだが、この場所よりは奥にいった方がよさそうである。
竜胆、美都にベーカリーの道を教える
----------------------------------
美都 :「今日は、お昼食べにきたんです。どれにしよっかなぁ
:……」
竜胆 :「誰しもが通る道としてししゃもパンなぞどうかのう」
美都 :「ししゃも……って、魚のですか?」
竜胆 :「うん。健康にいいんだって」
かける :「こんちわ〜」(からん)
竜胆に若干歪んだ授業を受けている最中に、もう一人店内に客が入ってきた。
美都 :「あ、うぐぅの人だ(にぱ)こんにちは(にこ)」
神羅 :「うぐぅ?なんやそりゃ」
かける :「うぐぅ」
神羅の問いに、かけるはお決まりのうめき(?)で答える。どうやら、パソ
コンのゲームの台詞の一つであるらしいのだが、詳しい事は不明である。
美都 :「健康に良いのかぁ……別に不健康な生活はしてないけ
:ど……じゃあ、これ一つと……」
挨拶をして既に興味は薄れたのか、さっさとパン選びに戻る美都。
“ししゃもパン”を取り、トレーに移す。
竜胆 :「メロンパンの組み合わせがフルーティ」
更に横から竜胆が助言をする。
美都 :「えーっと、ししゃもパンってしょっぱいんですか?」
竜胆 :「どうして? そりゃちょっとは塩味だよ」
美都 :「しょっぱいのかぁ……じゃあ、甘いのが一つあっても
:良いですね。んじゃ、メロンパン……と」
竜胆 :「美都ちゃんはコーヒー党? 紅茶党?」
美都 :「うーん……ユラさんとは、お茶一緒にするのが多いです」
ハーブティを呑む事が多いのは確かである。
美都 :「店長さん、苦くないコーヒーってありますか?」
SE :カラン、カラン
光 :「こんにちは」
3度、ベーカリーのドアベルだなる。20代半ばくらいの青年は、店内を見
回してすぐに常連達に目を留めた。
光 :「おや?みなさんお揃いでどうしたんです?」
竜胆 :「英国式に言うとアフタヌーンティー。和風に言うと三時
:のおやつ、だよ( ̄▽ ̄)」
光 :「ほほう」
かける :「無道邸風に言うと『まえのくんおやつ』だな」
光 :「…よく分かりませんが、分かりました…」
美都 :「あ、こんにちわっ。常連さんですか? えへへ……私は
:今ごろお昼なんです」(ぺろっと舌を出す)」
光 :「あ、どーも、お初にお目にかかります」
美都 :「お向かいのグリーングラスで働いてます。布施美都です。
:よろしくっ」(ぺこっ)
美都 :(お辞儀をしてトレイを落としそうになる)「ととっ……!」
竜胆 :「危ないよ(支える)」
美都 :「あ……ありがとうございます」
光 :「んー、私より由摩の方が常連かもしれませんね」
由摩……というのは、光の妹の事である。パンをこよなく愛する少女だ。
美都 :「あ、店長さん、これと、後コーヒーをください。お砂
:糖とミルクがたくさん入ったやつ」
奥で何やら作業中の店長の代わりに、店員が対応をする。
美都 :(パンを受け取ってお金を払う)「ありがとうございます。
:えーと……席は……」
竜胆 :「でも今日は店長さん無口ですね〜。機嫌悪いのかな?」
観楠 :「……呼んだ?」
奥でヒートプレスをしていた店長が、一瞬だけ顔を出す。
ヒートプレスとは、パン屋とは全く関係なく、プラモ製作の一過程だ。
美都 :「あ……ごめんなさい……作業中だったんですね……お
:金……ここに置きます」
竜胆 :「営業中にプラモ作ってるんですよ、このヒト( ̄▽ ̄;;」
光 :「くすくすっ」
かける :「やりおるなっ」
観楠 :「だ、だって家じゃなかなかできないし……」
美都 :「えーと……私も店番の時に紫苑ちゃんと遊んでたりする
:し……その……」
かける :「みんなさぼりまだ」
竜胆 :「まじめに労働してるあたしがアホに見えてくるよ
:( ̄▽ ̄::」
光 :「あ、店長、私もコーヒー一つ」
美都 :「うう……ごめんなさい……」(恐縮)
観楠 :「違うぞ。時間を有効に活用してるんだぞ」
美都、バイトを考える
--------------------
竜胆 :「ああ、自営業ってそういうのがうらやましいよぉ……
:雇われ店長代理って悲しい(><)」
かける :「りん姉もがんばって独立するんだ」
竜胆 :「独立資金一千万円くらいは最低必要なんだよ( ̄▽ ̄;;」
無茶な提案をするかけるに、現実的な資金問題で以って対応する竜胆。
美都の耳には、“店長代理”という言葉が一際際立って聞こえた。
美都 :「竜胆さん、店長代理なんですか?」
かける :「たいへんだね」
美都 :「すごいですねぇ……」
竜胆 :「別にすごくないよ(^^;; ただの中間管理職だよ、店長代
:理なんて」
美都 :「店長って、何の店長さんなんですか?」
竜胆 :「レストラン」
美都 :「レストランですかぁ……」
かける :「みんなでタカりに行こう」
美都 :「そこって、バイト募集してます?」
竜胆 :「? そりゃまあ、慢性的に人手不足だから募集は随時
:してるよ? お冷くらいはおごってあげるよ、かけるん」
美都 :「えーと……履歴書が無くて雇ってくれたりします?」
かける :「うぐぅ」
光 :「うぐぅ?」
お決まりのうめきである。元ネタは……(以下略)
竜胆 :「……うぐぅ……せめて、ウソでもいいからほしいな
:……履歴書」
美都 :「あんまり詳しく調べたりしないんですか?」
竜胆 :「うん。だいたい額面どおり受け取るから」
美都 :「そっかぁ……」(考え込んでる)
竜胆 :「……美都ちゃん、バイトしてくれるの?」
美都 :「うーん……まず紫苑ちゃんに……それから……はいっ?!」
色々と頭の中で考え始めた美都は、まだ会話が続いていたのを思い出す。
美都 :「はい……やっぱり、グリーングラスにいつまでもお世話
:になれませんし……時間、いっぱい余ってるから(苦笑)」
竜胆 :「(にこにこ)時給は850円スタートで、時間は最低一日
:四時間ね」
美都 :「4時間どころか……8時間でも大丈夫です(にこっ)」
竜胆 :「じゃ、明日お店にきてね(にこにこ)」
美都 :「え……雇ってくれるんですか?」
竜胆 :「うん。人手足りないもん」
かける :「ヒトデがたりない……」
美都 :「はい!よろしくお願いしますっ!」
なにかぼけようとしたかけるをものともせず。元気に約束を取り付ける。
二人の仲
--------
美都 :「(今日の夜。紫苑ちゃん帰って来るかなぁ……履歴書作
:らなきゃ……)」
紫苑 :「(とてとて)ん?」
噂をすれば……なのか、ベーカリーの外を紫苑が通りかかる。
相変わらず奇抜なファッションであるが、美形青年である事にはかわりない。
美都 :「あ……」(外の紫苑に向かって手を振る)
竜胆 :「ん?」
美都 :「あ……知りあいなんです(あせあせ)」
かける :「あ、紫苑だ」
竜胆 :「しおん?」
かける :「男性か。つまらん」
美都 :「あ、かけるさん紫苑ちゃんの事知ってるんですか?」
紫苑 :「つまらんとは失礼な」
入ってきて早々、つまらん呼ばわりをされれば、機嫌も悪くなろうもの。
しかし、絶世の美女の姿も持つ紫苑に、女性の姿で会いたいと思うのは、男
の性というものであろう。
かける :「ぶーぶーぶ」
美都 :「あ、紫苑ちゃんです」
今までの様子から、何人かは紫苑の事を見知っている様子だが、竜胆は話し
が見えてないらしい。
簡単に紹介する。
竜胆 :「あ、よろしく( ̄▽ ̄)」
紫苑 :「よろしく」
美都 :「紫苑ちゃん」
紫苑 :「なんです?」
美都 :「今夜、私の部屋に来てね(にこ)」
紫苑 :「わかりました」
竜胆 :「ほぇ〜( ̄▽ ̄)」
美都 :「絶対だよ……って、今まで頼んできてくれなかった事
:無かったけどっ(にこっ)」
紫苑 :「いつもいるじゃないですか(苦笑)」
竜胆 :( ̄▽ ̄)
かける :「そーだったのか(めもめも)」
竜胆 :「ラヴだねぇ、かけるん」
かける :「らヴだね」
勝手に、盛り上がる二人。確かに、紫苑と美都の会話を聞いていると、別の
の意味を想像してしまう。
美都 :「たまにいなくなるんだもん」
紫苑 :「少し……所用がある物ですから」
美都 :「いいけどさっ……じゃあ、お願いねっ」
そういうと、残ったカフェオレを一気に飲み干す。
美都 :「じゃあ、店番に戻ります。竜胆さん、明日、いきますね。
:『マリカ』ですよね?」
竜胆 :「うん。それじゃ待ってるからね〜」
美都 :「はいっ……それじゃ。店長さん、おいしかったですっ。
:でも……ししゃもパンは私は駄目みたい……(苦笑)」
観楠 :「……え?」
今度は、マスクをしてエアブラシをかけている。
とてもパン屋の主人とは思えない。
かける :「きいちゃいねぇ」
美都は、そのまま店を出た。
今夜、履歴書を作成すれば、新たなバイトが出来るのだ。
店番中にも、おもむろに笑みが浮かぶ美都であった。
$$
解説
いつもたのしげな雰囲気のベーカリーに、バイトを探している美都が顔を出
す。
竜胆のつてでようやくバイトの糸口が見えてきた。