[KATARIBE 15766] [HA06nv]: 小説『心の痛み』

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Date: Wed, 13 Oct 1999 18:10:54 +0900
From: ソード  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15766] [HA06nv]: 小説『心の痛み』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910130910.SAA27668@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月13日:18時10分49秒
Sub:[HA06nv]:小説『心の痛み』:
From:ソード


こんにちは、ソードです。

 美都の一人称小説です。

 女性の一人称は、初めての試みだったりします。

***********
心の痛み
========

登場人物
布施美都(ふせ・みと):あたし。1999年5月より過去の記憶をさがしてます。
           :現在修行中。
紫苑(しおん)    :あたしが覚えている中で、最初から一緒にいてくれ
           :た猫で男の子で女の子。
小滝ユラ(こたき・ゆら):あたしを引き取ってくれた人。グリーングラスの
           :バイトをしている忙しい大学院生。
豊秋竜胆(とよあき・りんどう):ファミリーレストラン『マリカ』の店長代
           :理。戸籍の無いあたしを雇ってくれてる。

修練
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 朝練終わりっ。
 あたしは、傍らのタオルで汗を拭く。
 ……汗を流すのは気持ちが良いんだけど、なんか、しっくりこない。
 スポーツショップで買った木刀も、なんか違う感じがするし……。
 体が覚えてるのって、もっと長いものだったんだろうなぁ……いっつも、体
に任せて振ると、間合いが足りないみたいだし……。
 これでも、一番長い木刀買って来たんだけどなぁ……。

 あたしは、汗を拭きながら台所まで戻って来る。朝ご飯作らなくっちゃ。

探索
----
「そのようなものは、当店ではちょっと……」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
 これで3軒目。駅前のスポーツショップは全部まわったんじゃないかなぁ
……。結局、あたしの欲しい長さの木刀を置いてあるところはなかった。
 しっくり来る刃の長さを計算したら、2メートルちょっと。こんなの、売っ
てる訳無いものなぁ……。長刀(なぎなた)とか振ってみたけど、使い方も違
うみたいだし、重心が明らかに違った。やっぱり、刀剣のたぐいだと思うんだ
けどなぁ……。

 木刀探しの休憩ついでに、図書館に来る。ここって、熱くも無く寒くも無い
し、静かだし、なんか好き。
 なんとなく目に付いたのは、剣術の本。ふーん……。
 本を広げてみる。うわ……文字多いなぁ……。別に、読めない訳じゃないけ
どさっ。
 ふんふん。なんか、今の剣道の前の形、剣術は、古くは神道の神主さんが神
様に習ったとか書いてある。本当かどうか分からないけど……。
 なんか、特殊な形の武器を使った剣術ってないかなぁ……。
 結局、本を一通り眺めてみたけど、そんな流派はなかった。まあ……そうだ
よね。
 武器……か、そうだ、刃渡り200cm以上の剣って、なんて言うんだろう。
ほんとにそんな武器あるのかなぁ……。
 あたしは、別の棚から武器が沢山載っている本を持って来る。
 うーん……外国にも、長い武器ってあるけど……刃渡りが200cmなんて
のは無いなぁ……。日本の「野太刀」って武器でも、全長で200cmちょっ
とかぁ……刃渡りは180cmだもんなぁ……。
 うーん……だめかぁ……あ、そろそろ戻って、マリカへ行く用意をしなくちゃ。
 結局、今日も収穫は無し……か。

要請
----
 うー……今日はつかれたぁ……。そっかぁ、土曜日だったんだもんなぁ……。
あたし、あまり曜日意識した生活してないしなぁ……。ここまで混むとは思わ
なかった。
「美都」
 バイトの裏口のところで、紫苑ちゃんが待っててくれた。一回、男の子の姿
で来たら、バイトの子に色々聞かれたみたいで、それからはずっと女の子の恰
好できてる。一応、襲われない為の護衛だから、いつも部屋の中で着てる和服
じゃないけど……。
「しおんちゃぁん」
 しなだれかかってみる。華奢な女性に見えるけど、しっかり支えてくれる。
「どうしたんですか?」
「つかれたぁ」
「そうですか」
 そのまま、しばらく支えててくれる。最近、夜にしか会えてないからなぁ……
ちょっと甘えちゃおっ。
「連れて帰ってぇ」
「わかりました」
 うわっ。紫苑ちゃんはそう言うと、私を横抱きにして歩き出そうとした。
 しまった……さすがにこのまま街中を歩かれるのは恥ずかしい。
「紫苑ちゃん、ストップ。もう良いや、大丈夫」
「ん? そうですか」
「うん、大丈夫だから、下ろして」
「はい」
 素直に下ろしてくれる。……もう、相変わらず冗談通じないなぁ……。
「さ、帰ろう」
「はい」
 そのまま、帰路に就いた。
 うすぐらい街灯のなか、会話も無くてくてくと歩いてる。
 うーん……どうしよう……自分だけで強くなりたかったけど……。
 ちょっと悩んでいる。もう、1週間近く探してまわっているのに、自分の武
器の形状すら分からない。これじゃ、いつまで経っても、紫苑ちゃん達に迷惑
かけないようにするなんてできない。
 結局、一人じゃ何にもできないんだなぁ……あたし。いつになったら、一人
前なんだろ……。
 記憶が戻れば、色々分かると思うけど……20年間の記憶が一気に戻っちゃっ
たら、今の事忘れそうで怖い……。
 って、20歳になってるかどうかも分からないんだよねぇ……。竜胆さんや
ユラさんよりは年下みたいだけど……。高校性よりは年上みたいだしなぁ……。
だから、切りが良いところで二十歳って思ってる。
 ……とにかく、武器の形状を特定できれば、前進できるもんね。
「紫苑ちゃん」
「はい?」
「明日の朝、練習に付き合ってくれない?」
「いいですが、珍しいですね。いつもは構わないでくれといっているのに」
「うん。武器が、どうもしっくりこなくて……。前に、紫苑ちゃんが剣になっ
てくれた事があったでしょ? あの時みたいなときに、どんな形になれば一番
良いか調べて置こうと思って……」
「あんな醜態は、もうさらしませんがね。有事の備えとしては、必要な事だと
思います」
 あ……今の顔……ちょっと決意が見えたかも……。
 紫苑ちゃん、いつもは感情が感じられないしゃべり方するんだけど、たまに、
表情が出るときがあるんだよね。
 あの時、私が強くなろうと決めたあの時から、紫苑ちゃんのこういう顔を良
く見るようになったのかも。
 あたしにはしゃべってくれないけど、なんか色々してるみたい。夜遅くに帰っ
てきて、そのまま寝ちゃうときもあるし、朝起きたらもういないときもあるし
……。
「じゃあ、明日ね。今日は疲れたから寝る」
「はい、明日の朝ですね。私はこれから出かけるので、朝までに戻ってきます」
「え……これから?」
「はい」
 ……どこ行くの? ……って、聞けない……。
「そっか。じゃあ、朝にね」
「はい。つきましたね。では」
「うん。がんばってね。わざわざありがとう」
 紫苑ちゃんは、そのままグリーングラスに入らず、歩いていった。あたしは、
背中を見送る事しかできない。
 今日は、寝よう。明日があるんだもん。

発見
----
「もっと長くしてみて……重心は手元。そう、そんな感じかな……」
 あたしと紫苑ちゃんは、朝に二人で調整を始めた。紫苑ちゃんは、姿を自由
に変える事ができる。前に一度、紫苑ちゃんが動けなくなる寸前に武器になっ
てきり抜けた事件があった。その時みたいに、今度はいろいろな形に変化して
もらっている。
「ん……それで取り合えず振ってみるね」
『周囲に注意してくださいね。かなり攻撃範囲は長くなっています』
 武器化したときは、なんとなくくぐもった感じの声になる。表面を硬質化し
てるんだから、しょうがないのかな。
「ん、了解」
 そう言うと、2、3度素振りをしてみる。間合いも、これだけ長いのにしっ
かりと把握できる。
『ど……どうですか?』
「うーん……もっと刀身は細くても良いみたい」
『了解しました』
 紫苑ちゃんが細くなる……って、変な表現だな……。うん。こんな感じかも。
 更に2、3度振ってみる。風を切る音もすごい音。
「ありがと」
 そう言って、改めて紫苑ちゃんを見てみる。すごい細身……普通の刀の3倍
近く刀身があるのに、刃の幅は2倍くらいしかない。
「形状は記憶しました。しかし、普通の金属でこれを再現すると、強度に難が
あるようですね」
「そうなんだ……」
 うーん……難しい事は分からないけど、紫苑ちゃんの言う事ならそうなんだ
ろうなぁ……。金属じゃ再現できないって、じゃあ、なんなんだろう……。
 とにかく、形状は分かった。
「この形状と酷似している武器をあたってみる必要がありますね」
「うん。そうだね。今日、図書館にでも行って見ようっと」
「では、私は出かけます」
「え……だって、寝てないんでしょう」
「少々寝ないでも何とかなります」
 ……紫苑ちゃん、普通の動物じゃあないけど……でも……。
 これ以上は、あたしはいえない。紫苑ちゃんの主人は、あたしじゃないんだ
もん。
「うん。ありがとう。じゃあ……ね」
「どうかしましたか?」
 紫苑ちゃん、あたしの表情には敏感なんだよね……。
「ううん。ちょっと疲れちゃったのかも。朝ご飯食べたら一眠りするから大丈
夫だよ」
「そうですか。では行ってきます」
「いってらっしゃい……」
 また、あたしは紫苑ちゃんの背中を見送った。

 ずきん

 あたしは、その時始めて胸に痛みを覚えた。

解説
 自分の剣術を模索しようとしている美都、最近疎遠になりつつある紫苑に、
複雑な思いが募り始めていた。

*******************

 ってなわけで。紫苑さんの性能、台詞の部分のチェックお願いします。

 はたして紫苑さんは何処に出かけているのか……その答えは紫苑さん主演E
Pにて明かされる筈です……ね? リューさん(爆)

 ではまた





    

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