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Date: Tue, 12 Oct 1999 13:24:57 +0900
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15723] [WP01]EP: 『誰かにとっては朝』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910120424.NAA17047@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 15723
99年10月12日:13時24分52秒
Sub:[WP01]EP:『誰かにとっては朝』:
From:久志
久志です。
続いて、ＷＰ小説『誰かにとっては朝』の最終版です。
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『誰かにとっては朝』
登場人物
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碓氷奏雅(うすい・そうが) ：フリーライター、水神に祟られている
浅生睦美(あそう・むつみ) ：奏雅の親友の一般人、現在妊娠中
本編
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ドアチャイムの音と目覚し時計の音は同時だった。
もそもそと起き上がり、目覚ましのベルをとめ玄関の鍵をあける。いつものよう
に元気良くドアを開けて睦美が入ってきた。近所のスーパーの袋片手に、遠慮無
くあがってくる。
「おはよ奏雅、起きてる？」
「……起きたばっか」
「もう１１時よ、相変わらずヤクザで不健康な生活してるんでしょう」
「ライターとヤクザとはえらい違いなんだけど…」
「不健康なところは似たようなものよ、ほんっとあたしが見てないとどんどん自
堕落な生活突き進んじゃうんだから、奏雅は」
「今日は仕事はいってるから、ちゃんと食べてくわよ」
「仕事無かったらめんどくさがって食べないでしょ」
図星、拗ねたような目でにらむ睦美の顔からばつが悪そうに目をそらす。
「栄養は…とってるのよ。…それなりに」
テーブルの上には幾つものポリエチレンのボトルが置かれている。どれも様々
な種類の栄養補助タブレットのものだ。てっとりばやく栄養がとれて楽なため一
人暮らしをはじめてから愛用している。
「まーた人間ブロイラーしてる、こういうのってあくまで『栄養補助食』なんだ
からね、ちゃんと食べるもの食べなきゃだめなんだから。待ってて、何かお腹に
たまるもの作るから」
勝手知ったるうちのキッチンへとぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら睦美
の姿が消えた。
「ちょっと睦美！あんたもすこしゆっくり歩きなさい、あんた一人じゃないんだ
からっ」
聞いてないな、これは。溜息ひとつついてソファに腰を下ろす。
一人じゃないんだから…
浅生睦美、高校の頃のクラスメイト。あたしにとって親友と言える存在。どっ
ちかというと大人びててとっつきにくかったあたしと、人懐こくて少々子供っぽ
い睦美、なぜか不思議とうまがあってよく一緒につるんでいた。睦美の両親が事
故で亡くなり、睦美が東京へと引越してからも、何度と無く手紙のやりとりをし
たり電話をしたりして連絡を取り合っていたし、あたしが家を飛び出した今では、
足繁く遊びに来ては食事を作ったりしてくれている。
忘れもしない…1999年８月。睦美が謎の失踪をした日のこと。
失踪の原因は未だにわからない、一人で寝ていたはずの睦美が祖父母さえも気
づかぬうちに忽然と姿を消したのだ。三日間、あたしや警察の捜索でも睦美は見
つからず……三日後の雨の日にまた自宅前で倒れているのを発見された。その間、
睦美にはまったく記憶が無く何故失踪したかもまるで覚えていなかったのだ。
そして、睦美のお腹の中には……子供がいた。
あたしに睦美の祖父母、友人、どれだけの人が反対した覚えきれなかった。父
もわからない子供を産むことに。泣いて、怒鳴って、懇願して、なだめて、説得
して……それでも睦美の意志は変わらなかった。
「ねぇ奏雅〜今日ね、いつものお店で新しいコーヒーのブレンド試してみたの、
感想聞かせてね」
ひょっこりと睦美がキッチンから顔を出す。首を傾げ奇麗にそろったおかっぱ
髪が頬にかかってる、昔っから髪型だけは変ってない。
「ああ、いつもの喫茶店？」
「うん、コーヒーなら奏雅も飲むでしょ？」
「ブラックね」
「…ちゃんと食べてからね、すきっ腹にブラックはダメだよ」
「はいはい」
今は妊娠五ヶ月……だと、睦美も周囲も思っている。あまり目立たないが細身
の睦美にしては少々お腹が大きめだろうという風に見える。
ふと、考える。
本当ならば……とっくに生まれていいはずなのだ。
2000年５月30日、最初に教えられた予定日はとっくに来ているはずなのだ。
なのに
今日は…1999年６月９日。
「そうが？」
どうして……1999年が終らない？
「奏雅？」
何故、誰も気づかない？
「奏雅ってば」
「え？」
睦美がトレイに湯気のたつパン入りミルクプディングとホットコーヒーをのせ、
不思議そうな顔で覗き込んでいる。
「ああ、ごめん」
「もぅ…まだ寝ぼけてるの？。はい、特製ミルクプディング、あっついから火傷
しないように気をつけてね」
テーブルの上にトレイを置き、取り分けたミルクプディングをあたしの目の前
に置く。ほのかに甘いバニラの香りとふんわりと焼けた玉子の香りが鼻先をかす
めた。
「ん、ありがと睦美」
「ふふ、お礼は食べてから。いただきまーす」
シンプルなデザインのテーブル、向かいに睦美。食卓にならんだミルクプディ
ングの皿にいれたてのコーヒー。少し冷ましてほおばったミルクプディングはほ
んのり甘くて、ブラックのコーヒーによく合っていた。
生まれぬ子供、変わらぬ時間、それは…睦美にさえわからない。そして、あた
しだけが取り残されて…
「……睦美」
「なぁに？」
「ん……ああ、おいしいよ、これ」
「ふふ、こないだ覚えてきたの、また作ってあげるね」
あとがき
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碓氷奏雅と浅生睦美の日常話。終末の災厄の矛盾に悩む奏雅と、何も気づかない
睦美との精神的なギャップを描いてみました
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いじょ