[KATARIBE 15516] HA06 : Novel :「一人前」

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Date: Mon, 4 Oct 1999 09:09:16 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15516] HA06 : Novel  :「一人前」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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99年10月04日:09時09分11秒
Sub:HA06:Novel:「一人前」:
From:E.R


   こんにちは、E.R@へろり〜 です。

 某日、某氏と話しておりました際の一言より。
 瑞鶴の一断片。

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「一人前」
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 某日、瑞鶴。
 傾きかけた陽光が、硝子戸をさあと突き抜けて、入り口近くの一角を照らし
ている。
 日だまりを踏みつけて、店長が呆れたように外を見ている。

 視線の先に、猫。
 いつも入り口に転がっている猫が、今日は硝子戸の向うにでんと座っている。
 その横に、もう少しやせた猫と、その子供らしい猫が三匹。


「…………………で?」
 しばしのにらめっくらの後で、がし、と頭を掻いて店長が言った。
「にゃあ」
 速攻で返事……らしきものが戻ってくる。
「……つまり」
「餌を要求してる……んでしょうね」
「それは、分かる」
 苦虫を噛み潰すちょっと手前、の顔で店長が呟く。
「にゃあ」
 猫が、もう一度鳴く。


「……で、店長、何がそんなに不満なわけ?」
「不満というか、だなあ」
 ぶすっとして、店長がもう一度髪をかき回す。
「あれが人にものを頼む態度か?」

 確かに、と、花澄は笑いを噛み殺す。
 横の四匹は、それなりに殊勝な……遠慮がちな風情があるのだが、肝心の猫
と来た日には。
「ふにゃあお」
 ふんぞり返って鳴いていたりする。

「で、店長どうします?」
「どうもこうも……」
 にゃあにゃあ、と、猫の鳴き声が段々連続技になってくる。
「……黙らせんといかんだろうなあ」 
「シーチキンの缶ならあったけど……いいかな?」
「あー……と……ああ、構わん」
 あとはやっとけ、と、店長は奥の倉庫に行き……かけて。
「ああ、そだ、花澄」
「はい?」
「昨日お前が作ってくれた煮物……あれも少しやっていいから」
「あ……はいはい」

 冷蔵庫を開けながら、花澄はくすり、と小さく笑う。
 何だかんだといっても、あの猫を店長はえらく可愛がっているのである。


「ちょ……ちょっと待って、ってば」
 古い皿に煮物を盛って、外に出た途端、子猫達が足にまとわりついてくる。
「まだ缶開けてないんだけど……」
「ふがあっ」
 視線を受けて、瑞鶴の猫が子猫達を一喝する。
 小さな毛玉様の猫が、ちん、とその場で座り込んだ。


「…………それで、この猫達って、この猫の……?」
 缶を開け、中身を皿に移す。はぐはぐと食べる四匹の猫を、瑞鶴の猫は、や
はりでんと座ったまま見ている。
「……通訳お願い」
 さわ、と、風が揺らぐ。猫は暫く耳をひくひくさせていたが、じきににゃあ、
と、鳴いた。
『さあ何だろうね、だそうだが?』
「……何なのか、知ってる?」
『そっちの小さいのが、孫になるな』
「……じゃ、こちらのお母さん猫が」
『この猫の子供だよ』
「そうなんだ……」
 視線の先で、猫は、ふわあ、と、欠伸を一つした。
「……貫禄があると思ったら……」
 くん、と、欠伸の尻尾を噛み締めるように、猫が口を閉じ、一つ頷くような
仕種をした。
「おばあちゃん、なんだあ……幾つだろ」
 さあねえ、と、風が微かに笑った。

 にゃあ、と、猫が鳴く。
『あんたは幾つだい、だそうだが?』
「へ?……えーと、31」
 暫しの間の後、猫はふすん、と、一つ鼻を鳴らした。
『その年にしちゃあ餓鬼だね、だとさ』
 笑いを堪えるような、風の声。
 花澄はちょっとむっとする。
「……否定しないけど……言われると腹が立つなあ」
『おや、そうかね』
 きろん、と、琥珀の目を向けて。
『一腹子を育てもしてない奴なんぞ、まだまだ餓鬼だと思うがね』
 ぐっと、花澄が言葉に詰まる。
 風が、跳ね飛ぶように笑った。


 ひとしきり食べ終わると、四匹の猫達は、するりと去っていった。
 瑞鶴の猫は、いつもの場所に陣取って、ごろごろと転がっている。
 如何にも、当然のような顔をして。

「…………何だかなあ」

 レジで、予約の本を確認していた店長が苦笑する。
 空缶を片付けて戻ってきた花澄が、やはり苦笑する。
 猫は、平然として背中を伸ばしている。

 ゆっくりと、射し込む光の色の変わる頃の話である。

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 猫の一言を書きたくて、書いた断片。
 …………まー……
 
 友人の殆どが、奥さんになってたり、おかーさんになってたりしていると、
ああ本当に、彼女達って、二人分も三人分も生きてるなあ、と。
 これは、しみじみ思ったりします。

 というところで、瑞鶴猫の話です(笑)

 ではでは。




    

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