[KATARIBE 15515] HA06 : Novel: 「曼珠沙華」

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Date: Mon, 4 Oct 1999 09:03:27 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15515] HA06 : Novel: 「曼珠沙華」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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99年10月04日:09時03分23秒
Sub:HA06:Novel:「曼珠沙華」:
From:E.R


    こんにちは、E.R@そらゆけっ  です。

 昨日。
 10時過ぎに家に辿り付きまして。
 12時半には寝まして。

 …………その間に、以下のEP、小説+αを書く(爆滅)
 #よほど溜まってたんだなあ……

 てなわけで、まず第一弾。
 花澄の、一人称の短編です。

********************************** 
「曼珠沙華」
===========

 りいん、と。
 首をもたげて開く花。


「……あれ?」
 無道邸への届け物の帰り道。適当に歩いていたら道に迷った。

「……うーん」
 見覚えのある風景である、というのは確かなのだけれど。
 ゆずを連れてくればよかった、と、多少後悔。
 まあ、ゆずを無道邸に連れてゆくというのも……
………なかなかに厄介なのだけれども。


「……あ」


 みどり、みどり。
 一面のみどりは、つうんと澄んだ空の下で、やはりうねるように続く。
 既に刈り入れが終わった田に、けれども短い穂が伸びつつある。
 みどりの畦。
 そこに一列に、緋の珠。
 曼珠沙華。


 ビル群の間の一角に群れて咲く同じ花を見たことがある。
 暮れかけ、うすあかく染まった光の元で、まるで同じ花の亡霊のように
ひどく頼りなく、疲れて咲いている印象があった。


 みどり、みどり。
 みどりの波の中、たあんと響くような緋の色。

「発しては緋朱の連珠となり……って」
 ふと思いついて、口ずさんでみる。
 ほんの、言葉遊び。
 
 天地正大の気が発して咲くのは、桜に限るまい。
 みどりの気の中で、地中より突き上げるように発する、緋の色。
 翠波の押し寄せる中、そのみどりを圧するように。
 
 大地より、発する緋の色。


 ざあ、と、風が吹く。
 ざあ、と、大気が揺れる。


 ぐう、と満ちるみどりの匂いも、既にどこか乾いていて。
 さあ、と、風の端々が尖る中で。
 抜きんでるように、揺れる。
 揺れる、曼珠沙華。


 ……微かに、笑い声。
 

 ………………だれの………?



 かくん、と、膝が折れて、我に返った。
 風は微かに冷たかった。
 

「……で、瑞鶴、どっち?」

 ざあ、と、寄せてゆく風。
 ざあ、と、指し示す無限の波。

「……あ、そっちか」


 もう一度、振り返って。
 みどりの波の中につうと伸びる緋の色をもう一度眺めて。

 風に従って歩き出す。
 秋の匂い、秋の香。

 ゆっくりと季節が動いている。

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19991003 作成。

 発しては〜ってえのは、藤田東湖の「正気の歌」のもじり。
 本来は「発しては万朶の桜となり……」なんですが(笑)
 #藤田東湖。幕末、志士達の精神的な支柱にもなった人ですね。
 #流石に水戸は、本家なので……詳しい方におせーてもらった(笑)

 ビル群の間のってのは、実は新宿で見ました。
 いやあ……気の毒なくらい亡霊じみてたからなあ……

 てなとこで、では。




    

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