[KATARIBE 15498] HA06:Novel: 「秋霖」

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Date: Fri, 1 Oct 1999 14:53:16 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15498] HA06:Novel: 「秋霖」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199910010553.OAA28806@www.mahoroba.ne.jp>
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99年10月01日:14時53分06秒
Sub:HA06:Novel:「秋霖」:
From:E.R


   こんにちは、E.R@ぐうぐう です。

 確かどこかの一行で、「猫なひとが多いですねー」とありまして。
 猫な奴なら……と、ふと連想して。

 瑞鶴店長視点の、瑞鶴風景。

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「秋霖」
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 某日、瑞鶴。
 糸のような雨が朝から降り続いている。
 連日の暑気が嘘のように、今日は涼しい。
 硝子戸を開けておきたいところなのだが、それをやると本が湿り気を帯びる。
ついでに、戸口で寝転がっている猫が抗議の代りに閉めるまでにゃあにゃあと
鳴き続けてくれる。
 厄介なので、やはり、硝子戸は閉まったままになる。

 細い軌線がほぼ垂直に落下するところをみると、殆ど風が吹いていないのだ
ろう。
 ごく細かな、雨。

「……よーやっと、この季節だなあ」
 妹が、レジの前の木製の丸い椅子に座りながら、ほっとしたように笑う。
「なんだそれは」
「一雨ごとに、涼しくなっていくじゃない」
「こっから先は、雨が降らんでも涼しくなるさ」
「…………風情無いなあ」
「お前のは日本の風情じゃないだろ」
 
 妹は、一つ肩をすくめた。

 風の国。乾季が夏、雨季が冬。その感覚でいくと確かに、一雨ごとに涼しく
……というより、寒くなるのだろうが。

「秋の雨………何だっけ」
「は?」
「ああ……秋霖」
「がどうした」
「風情のある字」
「………は?」
「思い付いただけなんだから、そう丁寧に反応しないで欲しいなぁ」
「……よくわからん奴だな」

 妹は、もう一度肩をすくめる。
 すくめた動作からそのまま、背中を一度丸めて、そして手足をうんと伸ばす。
 つられたように、入り口の猫が、やはり背中をうんと伸ばす。

「……なんだろうな、お前らは」
「え?」

 妹がきょとんと、こちらを見る。
 ぐる、と、喉を鳴らして、猫もやはりこちらを見る。
 それが……妙に可笑しい。

「……何、お兄……店長」
「いやなんにも」

 雨はやはり、糸のように降り続いている。
 時間を巻き取り、留めてゆくように。

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 てなもんです。
 であであ。




    

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