[KATARIBE 15318] HA06:Novel: 「封印〜翼のあるクマ」

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Date: Sun, 19 Sep 1999 22:56:16 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15318] HA06:Novel: 「封印〜翼のあるクマ」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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99年09月19日:22時56分11秒
Sub:HA06:Novel:「封印〜翼のあるクマ」:
From:E.R


 こんにちは、E.Rです。
 HA06小説。
 この夏の風景です。

 言い忘れましたが、この前の「ミュシャの画集」も、これも、
視点は花澄のものです。

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「封印〜翼のあるクマ」
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 飛びたい、と願うことは、時にして禁忌である。

「……すみません、あの」
「はいなんでしょう?」
「この色の布……ありますか?」

 麻樹さんに似たクマ、と、本を見た途端思った。
 地色は緑、毛は青の、変わった色合いの。
 真冬の中、春を待ちながら待っているクマ……と。

「あら、この布ねえ……今、無いんですよ」
「……あら」
「輸入物なのね。だから向こうで染めてくれるの待ちなんです」
「……そうなんですか」

 実際、何処を探しても見つからなかったから、他の布で作ってみたけれども、
どの布でも、何だか麻樹さんではなくって。
 灰色のは……美樹さんに似てるし。
 サーモンピンクのは……何だか、らしくなかったし。
 つい最近仕上がった茶色のは、目元が妙に寂しげな顔になってしまった。

「そのうち、入りましたらお知らせしますよ」
「……お待ちしてます」

 それでも、幾つかの買い物をして。

「あ、これ、どうぞ」
「はい?」
「これ、一つどうぞ。おまけです」

 それは、レジの前のかごに一杯に詰めこまれた、翼。

「天使の羽根なんですよ。単純だけど、案外良く出来てるでしょ?」

 白のフリースの、一筆書きのような単純な形の、けれどもいかにもそれらし
い羽根。

「宜しいんですか?」
「ええ。クマにも、人形にも使えますよ」
「……有難うございます」

 手の上に乗るような、翼。


 飛びたい、と願うことは、時にして禁忌である。
 

『花澄花澄、それなあに?』

 家に戻って、買ったものを広げる。と、ゆずが飛び付いてくる。案の定、一
番はじめに手に取ったのは、その翼、だった。

「うん、クマにつける翼なんだって」
『……ふうん』

 ゆずは暫し眺めていたけれども、

『……これ、ニコラスにはちっちゃい』
「ラヘルには?」
『……大きいもん』

 飽きたのか、諦めたのか、ぽうんと放り出して。

「こらゆず、そうやって放り出さないの」
『はああい』

 あまりよろしくもない返事と一緒に、他の買い物に興味を移してしまうのは
いつものことで。

 放り出された翼を、改めて拾う。

「……これなら、いいかな」

 茶色の、どこか寂しげなクマに、糸をたすきがけに渡して括り付ける。
 縫い付けるよりも、背負わせた方が、らしい気がして。

「これ、丁度いいでしょ、ゆず」
『ん?』

 丁度袋から、買ってきた布を引っ張り出したところだったゆずが、布の間か
ら頭を出す。

『あー、羽根がついてるクマさんだあっ』
「羽根じゃなくって、翼」
『つばさ?』
「……イカロスの翼、かな。こういう風につけると」
『……いかろす?』

 断じて。
 嫦娥の翼などではなく。

 二通りの翼。
 一つは……立ち向かうための翼。
 もう一つは……逃げてゆくための翼。

 ああだけど、イカロスの翼も、もともとは逃げるためのもので。
 逃げ出すための、もので。
 
 …………どこから?

 ………………そしてどこへ?

 
『……花澄?』

 ふい、と気がつくと、ゆずがこちらを見上げている。
 金色の目が、ひどく、心配そうに。

『花澄、どーしたの?』
「……どうもしない」

 苦笑。
 本当は、苦笑では済まないのだけれども。

 夏。
 ……もうすぐ、沙都子叔母の命日が来る。

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 というわけで。
 クマに関しては、かなり本当です(爆)
 麻樹さんクマの布は、このまえよーやっと入手しました。

 では。




    

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