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Date: Tue, 14 Sep 1999 23:58:18 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 15264] [HA06][EP] 『明けない夜』十、キノエキノトを消す
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <9909141458.AA00918@avalanche.gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
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ども、D16です。
以前から続けてるEPの「明けない夜」ひとまず一十(にのまえみつる)が十
一(つなしはじめ)にキノエとキノトを打ち、それが打ち返されるシーンです。
疲れた。
自分の文章力の無さを実感。
構成に関しても、前野君が途中で入ってくるはずだったんですが、こっちで
は気力が尽きてしまいました。
ハリ=ハラさん。申し訳ないけれど、ずたぼろの一を拾ってください。
なお、前の話しは
[KATARIBE 13281] [HA06]EP:「明けない、夜」これまでのまとめ・起
[KATARIBE 13282] [HA06]EP:「明けない、夜」これまでのまとめ・承
になおなみさんがまとめてくれました。(ありがとー)
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○罠(3/29午後4時)
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夕方のベーカリー楠。
相変わらず常連がカウンターを占めている。
シシャモパンをぱくついてる八神敦。
真っ黒な衣服に身を包んでいるのは蒼月かける。
ほかにも何人かが思い思いに時間を過ごしている。
からからん
観楠 :「あ、いらっしゃい」
ワークベストに土埃の染み付いたジーンズ。一十だ。
観楠 :「今日も、パンの耳(笑)」
一十 :「いや、今日はこれからからだ使うんで食べます、クリー
:ムパンとチョココロネとウグイスあんパンと正統あんパン
:それにツイストドーナツにコーヒーロール。それにアイス
:ミルクとパンの耳を」
八神 :「結局パンの耳はかうんだな」
一十 :「いや、空腹はこれでなんとかしてから味わって食べるん
:ですよ」
観楠 :「ほいほいと、そういやユラさんが捜してたよ」
一十 :「なにか?」
観楠 :「連絡をよこせって」
一十 :「へぇ、薬の実験台かな」
軽口をたたく一。しかし、観楠は気がつかないもののその表情に一瞬、憔悴
が見えた。
観楠 :「あ、もう一つあった。尊さんがキノエちゃんの復帰いつ
:頃になるかって?」
何気なく、観楠は尋ねた。が、応える十は何か口ごもっていた。
一十 :「もうしばらくかかるって、伝えて置いてください」
観楠 :「もうしばらくしたら、おやつ食べに来るかも」
と、かけるが顔を上げる。
かける :「あれ、あの子たち見たこと無いな」
八神 :「またけものみみでもいたのかよ……。ああ、あれは一さ
:んとこのキノエとキノト姉弟だな」
かける :「ふぅん。なんかけものちっくなんだけどなぁ」
観楠 :「(まぁ、けものといえばけものなんだけどね)」
からからん
キノエ :「ミツル!見つかったよ!」
キノト :「ねえさん!しーっ!」
もごもごと暴れるキノエ。
一十はくすりと笑うと、チョココロネを渡した。
一十 :「疲れたろ、まず食べとけ。ここを出てから『喰わせて』
:やるよ」
二人は頷く。確かにこんなところで血や精気を分け与えるわけには行かない。
観楠 :「ユラさんの方にどう伝えとく?」
一十 :「あとからグリーングラスの方に行きます。そこでまたお
:話を。よろしく。いくぞ、キノエ、キノト。案内してくれ
: 観楠さん、それじゃ尊さんによろしく」
キノエ :「まふぁふひにふぁいっふぇうほ(まだ口に入ってるよ)」
キノト :「せっかちだよお、ミツル」
からからん。きらり。
かけるは視野の角に金属の煌めきを感じた。それは、キノエ、キノトと呼ば
れた姉弟の耳元で光っていた輝きだった。
観楠 :「(トレイを片づけつつ)やれやれ、忙しい人たちだ」
かける :「お姉さんの方が、キノエ。弟さんの方がキノトくんです
:か」
観楠 :「キノエちゃんの方はお隣でアルバイトしてますよ」
八神 :「それでもあんだけびんぼーしてるんだよな、あの人」
かける :「どこに消えるんでしょうね」
観楠 :「食費だって直紀さんがいってたけど……。そういや、直
:紀さん二日ばかり見ないなぁ」
そして、またしばらく静かな時間が過ぎた。
からからん。
尊 :「こんにちは。おやつ食べにきました」
明るい声に、きらきらと光を散らす黒髪。
ベーカリーの人達の目を一瞬引き寄せる華のある表情。
FlowerShop Mikoの女店長にして実は如月流退魔術直系第十六代継承者、如月
尊だった。
観楠 :「あ、いらっしゃい。尊さん。店番はバイトさんに?」
尊 :「(苦笑)んー、ちょっと。キノエちゃんまだ出てこれない
:みたいだから」
観楠 :「でも、もうすぐですよ。さっき、一さんが来てたけど、
:なんか、見つかったらしくってキノエちゃんとキノトくん
:一さん呼びに来てましたから」
尊 :「そうですか……。
: あ、クリームパンとチョココロネ。ミルクティもよろし
:く」
観楠 :「はい、どうぞ」
かける :「ふぅん、でもあのピアスは何か由来があるのかなあ」
尊 :「えっ?」
八神 :「よく、気が付いたな」
かける :「いや、光とねこみみには敏感な物で」
八神 :「ねこみみと光にはのまちがいだろ」
かける :「しくしく」
尊 :「キノエちゃん、元々ピアスなんてしてないわよ」
かける :「でも、あれは多分姉弟でそろいのピアスですよ」
尊 :「だって、キノエちゃんたち金物が大の苦手なんだもの。
:はさみもうまく使えないの。怖がっちゃって」
八神 :「そりゃ、そうだろ。あの二人は風に雷両方とも五行の木
:で金の気には克されるんだから」
かける :「……なんのことです?」
八神 :「ああとな、あの二人は一さんの使い魔みたいなもんなん
:だ」
観楠 :「しょっちゅう一さんの方が使われてるような気がします
:けどね(笑)」
尊 :「……(なにか、変だわ)」
八神 :「ふむ、変やな」
かける :「どれ、見てみましょうか」
そう言うとかけるは袖口から、直径3センチほどの鏡を取り出した。
かける :「特徴のある『光』だったから、捕まえられると思うけど
:……」
鏡の奥に像が揺らめき、かけるの望む映像を結ぶ。
尊 :「……金克木。まさか……。式神返し!」
八神 :「尊さん?」
○卑劣
----------
キノエ :「結局山のほうはどうだったの?」
吹利駅から遠ざかり、春日の丘に向かう道だった。キノエは俺にそう尋ねて
きた。一瞬俺は答えるのを躊躇ったが答えた。
一十 :「梨の礫だった。雪爪先生は山に入って今はどこに居るか
:も知れん。一応、飛式を使いに出したけれど、まに合わん
:だろうな」
キノト :「ふうん」
十のことに関してはほとんどのことがわからなかった。追えたのは山に入る
までの間のことだけ。院号を受け、本格的な山の術士となってからはやつの足
取りは実家の人間にも掴めないものとなっていた。
十の実家に連絡をとるのは辛いことだった。
十が死んだのは六年前。家族を失い悲嘆に暮れる家族はその後さらに悲しむ
ことになる。
十の妹の双逢さんが交通事故で亡くなったのだ。
葬儀の様子を思い出し俺は、唇を噛んだ。
道はやがて春日の丘への道から、外れた。
一十 :「どこに居たんだ、そいつは」
キノト :「もう少し行った所、公園の管理小屋の中だったよ」
一十 :「よし」
キノエ :「ミツル、何を考えているの?」
一十 :「十(つなし)は死んだはずだ。それは、間違いない」
キノエ :「なら、あいつは一体何なんだろうね」
一十 :「何故、十を装う必要があるんだ……」
樹冠をぬけて夕日が差し込んでいた。
一十 :「(闇が、見えないな……)」
鮮紅色の夕日と林の闇。そのコントラストにうずもれて樹の影の闇が見通せ
ない。その状況に俺はかすかな危惧を覚えた。
林の奥にキノエは向かっている。
軽やかに少女は茂みを抜ける。
しばらく誰もが口を開かなかった。藪をぬけて行く枝葉を踏みしめる音だけ
が聞こえた。
キノエ :「ねぇ、ミツル」
一十 :「ん?どした、キノエ」
キノエ :「直紀さんのことどう思ってるの?」
一十 :「へ?」
キノエ :「あたしは、ミツルの何なの?」
一十 :「何、何言ってんだよ。キノエ、お前」
俺は笑っていたとおもう。可笑しかったからでは無い。戸惑っていたのだ。
キノエ :「吹利に来てから、ミツル変ったよ」
一十 :「そうかな」
キノエ :「気がついていないんだ。悔しいな」
一十 :「気がついていないって、何にだよ?」
俺の目の前でキノエが振り返った。と、肩まで届く髪が翻った。
短く刈った髪の姿の少女の姿は無かった。
そこに居るのは剣呑な瞳の輝きはそのままに、翻る黒髪にきらめく火花を纏
わせた女妖だった。
見覚えがあった。
女妖は髪を掻き揚げる。
耳朶にきらめくものがあった。
ピアス?
キノエ :「覚えてる?あたし達がはじめてあった時、あたしの髪が
:長かったの。
: あのあと、あたし達がミツルに調伏されて、ミツルの式
:になった時にあたしミツルが言うように髪を短くしたんだ」
一十 :「キノエ!お前、まさか!!」
背後から声がした。
キノト :「ねぇさんは知ってたよ。全部ね。
:動かないで、ミツル」
俺の周囲で旋風が巻き起こった。しかし、その風はまるで意思持つ者の様に
俺の四肢に絡み付いた。
細い指が背後から、俺の首に回った。
くすりと背後で少年は笑い、俺の動きを制するように抱きついた。背中に耳
が押し当てられた。
キノト :「ふうん、ミツル。動悸が速くなってる。あながち嘘でも
:無いんじゃない。図星だったんだよ、ねぇさん。おかげで
:簡単に縛れた」
女妖はくっくっと喉の奥で笑った。
キノエ :「なら、切り裂いたり、雷で打ち据えたりなんて野暮なこ
:としなくてもいいわね」
一十 :「(風縛!俺としたことが付け入る隙を与えるなんて!)
:やめろ!キノエ、キノト」
間違いなかった、キノエもキノトも既に敵の術士の手に落ちていたのだ。
細くよく動く指が俺の顎を捉える。くい、と顎を引き上げるとキノエは淫蕩
に笑った。
沈む夕日の残照がキノエの耳元できらめいた。何故速くこれに気がつかなか
ったのか。俺はキノエの耳の飾り気の無いピアスを見てほぞを噛む思いだった。
キノエ :「ねぇ、ミツル。あんたがあたし達にどんなことをしたが
:ってたか。あんたがどんな風にあたし達を見てたか。あた
:し、知ってるよ」
一十 :「……お前達、打ち返されたのか!?」
キノト :「さぁ、ね。枷を外されただけかも」
一十 :「お前達、何で……」
ただ打ち返された式であればしゃにむに俺を標的に狙う。しかし、この相手
はキノエたちの性格を残したまま返してきた。それだけの余裕があると言うこ
とか?
一十 :「(何故だ、何故敵は打ち返したのに自律させたままにし
:ている!さらに返せるか?無理だ。畜生、これほどの術者
:だったとは!)」
俺の首筋に鋭く痛みが走った、背後で指を吸う音が聞こえ、やがて、生暖か
い舌の感触がちろちろと傷口に感じられた。後ろでキノトの生気が強くなる。
キノト :「血を舐め尽くそうか」
キノエ :「精を吸い尽くそうか」
にまりとキノエは口を歪めて笑い、舌なめずりをした。同じような粘着質の
音が背後のキノトの元からも聞こえてくる。聞き覚えのある音だった。
三年前、あの時、一人で赴いた仕事。あの時に聞いた音、声。
一十 :「(くっ!)」
逃れねばならない。
俺は身体を封じられたままこつこつと歯を噛み鳴らした。
鳴天鼓、打天鐘、槌天磬。
邪気を打ち砕き、瘴気を断ち斬る道士の技。三天叩歯法。
一噛み毎に俺を縛る風とキノトの腕が緩む。
キノト :「ねぇさん!破られる!」
キノエ :「させないよっ!」
キノエの黒髪が翻り、紫電が走った。
音を立てて枝が降ってきた。煙が上がる。
一十 :「やめろ!俺は、お前達を封じたくない!」
キノエ :「できるはずが無いよね!あんたにそんな事をする資格な
:んてあるものか!
: あたし達を連れ出したのもあんた、名前をつけたのもあ
:んた」
キノト :「約束をしたのも、ミツルだよ。外に連れていってくれる
:って。見た事無いものを見せてくれるって、一緒に居てく
:れるって」
身を隠していた茂みを風が薙いだ。転がり出る。
思い出した。はじめてこいつらに会ったときのことを。
あの時俺は……。
一十 :「すまん……。臨…前!」
刀印を持って十字に印を斬る。
九字活法鞘縛り。
気合に撃たれ、びくりとキノトの体が震えた。姉弟のコンビネーションはキ
ノトが主導権を持っている。
俺の頬を雫が流れた。
汗だ、俺はそう思うことにした。
キノエ :「キノトォォッ!!」
弟を傷つけられた姉は逆上する。雷撃の威力は増すが、制御は甘くなる。
わかっていた。このことも。以前と同じシークエンスだ。違うのはあのとき、
俺は相対する女妖の名を知らなかったが、今は知っているということだ。
ほかならぬ俺のつけた名前。
甲、木の兄、キノエ。
そして弟の名。キノト。
女妖が、キノエが変化した。
俺の与えたもう一つの姿。
雷を身に纏った白き山神の使い。雷獣。
目は怒りに見開かれ、鮮血を思わせる口を開くと青白い電光が明滅した。
雷光が走った。
今度は逃げられなかった。右足が煙を上げ、肉の焦げる匂いが鼻をつく。俺
の足が燻っている。
一十 :「やらなくちゃ、いけないのか?」
木の葉が舞い上がった。らんらんと光る眼で俺を睨んでいる。旋風の中に風
を従えた獣がいた。鎌鼬の姿も俺が与えた姿だ。
被甲護身印を結ぶ。幾度も繰り返した身の所作だ。身に光り輝く鎧を観想す
る。敵の爪牙を防ぐために……。ちがう、奴らは敵じゃない!
風の刃が俺を取り巻いた。
肘、ニの腕、耳、頬。不可視の剃刀が幾度も俺を切りつける。手首と首筋、
目を守って俺は地に伏せた。
キノエ :「あんたは知ってたんだろ!こうされる事を!あたし達を
:打ち従えて、自分のしもべにした時から、こうなる事がわ
:かってたんだろ!」
キノト :「なのに、何もしておかなかった。
: わかるよね、ミツル。ミツルが甘かったんだよ!」
一十 :「……わかってる」
轟音がやんだ。
目の前に2匹のオコジョの姿があった。
キノト :「じゃあ?」
キノエ :「どうやって死にたい?」
遠い約束を思い出した。あれは、山の中だったか、夏の夕立の中だったか。
暑い。
汗が、目に染みる。拭っても拭っても視界が、滲む。
……約束を破ったら。裏切ることがあったら。
……その時には、殺されてやる。好きにしろ。
傲慢な言葉かもしれない。けれど、あの時、俺は確かに思ったのだ。この姉
弟達を裏切ること、傷つけることは命に代えてもしてはならないと。
けれど、
一十 :「今は死ねない。俺一人の命じゃない。すまない」
いま俺は自分の一部を裏切ろうとしている。
一十 :「役行者勧請の修験諸尊の尊名は」
……なぁ、お前達。俺と一緒に来ないか?
飛沫く雨の中俺は姉弟に手を伸ばした。
地に打ち据えられても輝きを失わない、強い瞳。
美しいと、思った。
……なぁ、キノエ。約束覚えてるか?
……約束?
……俺とおまえらとで最初に交した約束
……ああ、あのこと
……そろそろ、人に慣れたよな。キノトも。なぁ、キノエ
……なに?
……今回のこともあって考えたんだが、そろそろおまえらも 外に出ないか?
一十 :「一つ数えて不動王」
俺は約束を今破ろうとしている。
姉弟よ、俺がお前達と出会ったのは果たしてよい事だったのか?
俺はお前達に見せてやれたのか?
広い空を、深い山を、蒼い月を。
結界は成立している。遠くで嵐が聞こえる。
姉と弟の声が聞こえる。
一十 :「二つ重ねて孔雀王」
観想も術式も滞り無く進む。なぜ、躊躇わない?なぜ、心とは別に俺の体は
動くのだ。
と、印契が滑った。血のせいだ。
姉弟よ、あの時から今まで。俺達は偶然の上に居たのだったな。
お前達の瞳を美しいと思ったから、俺はお前達に軛をつけなかった。
だから、お前達の笑いを聞いて満たされていたんだ。
お前達のあの笑い声は心からの物だったのか?
答えの返って来るはずの無い問い。問うてはならなかったからこそ、俺は。
一十 :「三つ蔵王の権現と三尊重ねて、申し奉る。
: それ仏法は広大にして、神威は深遠なり。修験諸尊の名
:のもとに護法の童子として勧請されし神祇の名は……」
お前達には聞き覚えがあるはずだ、この言葉で全てが始まった。
俺とお前たちの間の絆。
苦しむことはない。ただ、絆を解くだけ。俺の与えた姿、名前を解き、全て
を始まりに戻す。
一十 :「巽為風、乙童子。震為雷、甲童女。ともに前生の因、来
:世の果によりて、今生、修験瑞真の護法たる」
キノエ :「奪うの?」
キノト :「ボクたちから」
キノエ :「ミツルが与えた物を」
キノト :「ミツルの手で」
キノエ :「あの約束はなんだったの?」
キノト :「あの日々はなんだったの?」
キノエ :「……なんで、やさしくしてくれたの?」
キノト :「……いずれこうなることがわかっていたの?」
キノエ&キノト:「ぼくたちにないものをあたえ、それをうばうの?」
俺は吠えていた。
二人の静かな声。だから、その声は心に届いた。
俺は何をしているのだ、なぜ。何故。
会わなければ良かった、そんなはずはない。
俺が、俺が、弱かったのだ、愚かだったのだ。
何を考えているのだ俺は、今ここで倒れれば直紀さんはどうなる。
やめろ、言葉を止めろ。
取り返しのつかないことはもうたくさんだ。
やめられるはずもない。
裏切り。
一十 :「今……その縁を断ちて、護法を送る。
:……急く急ぎて……律令に記されたるが如くに」
キノエ :「コンナ…コトニ…ナルナラ……」
キノト :「……ミツルニ…アワナケレバ……ヨカッタ」
一十 :「うわああああああああああああああぁぁっ!!」
俺は、哭いた。
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