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Date: Sun, 29 Aug 1999 14:53:41 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 15097] [HA06L] チャットログ『水切り』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199908290551.OAA27509@mail.geocities.co.jp>
X-Mail-Count: 15097
こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。
IRCのチャンネル#HA06 の
8月28日3時30分頃から6時頃までのログです。
また、以前とよリリさんにご協力頂いて作ったエピソードもどきを後ろに付
けています。重いメールになってしまって申し訳ありません。
どうにか、やっと佳奈の方をひと区切りできました。
とよリリさん、長いことお付き合い頂いてしまってすみませんでした。
また佳奈を使うことがもしあれば、その時は宜しくお願いします。
チャットログ『水切り』
======================
ご注意
これ単独では全く意味不明ですので、末尾にとよリリさんに協力して頂いて
製作したこの前段階の話を掲載します。
以前、「佳奈の話を云々」と書いたものです。
漫然とこの話のみのキャラクターなど出していますので、エピソード化の
時点でその辺りは削っていく予定です。
また、話の中では佳奈がかなり酷いことを口走っていますので、ここについ
てはさまざまなご意見があるところと覚悟はしております。
まずは没部分から〜〜
--------------------
EPでは使用しません(苦笑)
[J_OldFlag] ではすみません、始めさせて頂きます
[Toyolili] うい
[J_OldFlag] 時期は9月にしちくり
[J_OldFlag] 夏は終わったということで
[Toyolili] ほいさ
[J_OldFlag] 夜………かなぁ。昼からいこうか
[Toyolili] ういさ
[J_OldFlag] 午後/どっかの路上、でいいかしら
[Toyolili] うん
[J_OldFlag] りんちゃんは免停解けてる?
[Toyolili] りんちゃんは免停になってません(W
[J_OldFlag] がーん
[J_OldFlag] 奈津は歩いていますでし
竜胆 :(てくてく)「あ、奈津だ。奈津〜(ぶんぶん)」
[J_OldFlag] 麦藁帽子にブラウスという服装でし
奈津 :「あ、こんにちは(ぺこ)」
奈津 :(りんどうに駆け寄って)「あ、あの、こないだは妹が失礼
:なこと言ってしまったそうで、」
奈津 :「す、すみませんでした」
竜胆 :「え? あ……ああ(^^;; 大丈夫、気にしてないから……」
奈津 :「すみません、なんだかお詫びもしないでかえった
:みたいて………」
竜胆 :「ううん、いいって(^^;;」
奈津 :(じっとりんどうを見上げる)「………」
奈津 :「(気にしてないなんて嘘だ………)」
竜胆 :「うん?(^^;;」
奈津 :「すみません……」
[J_OldFlag] しょげしょげしてます
竜胆 :「どうして謝るの?(^^;; そりゃ……ちょっとショック
:だったけど……もう平気だから、ね」
奈津 :「あの………どれいとかそういうこと………
:あの子、口からでまかせ言うことあるから」
竜胆 :(びくっ)「……」
奈津 :「信じないでくださいね、みんなでまかせですから……」
竜胆 :「奈津……その……佳奈ちゃんなんだけど……」
奈津 :「……はい……すみません、今度叱っておきますから……」
[J_OldFlag] #明らかに口だけ
[J_OldFlag] #というか、実行できなさげ
[Toyolili] #むぅん、難しいのう
[J_OldFlag] #キャンセルして夜にいきますか
[Toyolili] #そうしてくれると助かります(^^;;
[J_OldFlag] #そうしましょう
前振りとして採用してもよかったのですが、止めることにしました。
とよリリさんすんまへんでした〜。見積もり違いでこっちも台詞でなかった
ですぅ。
仕切り直して
------------
[J_OldFlag] 夜
[Toyolili] うい
[J_OldFlag] 半月くらいにしませう
[J_OldFlag] って、竜胆さん夜出歩くことってあるのかなぁ
[Toyolili] 気が向いたら出歩くよ
[J_OldFlag] 堤防とかねりねり歩いたりする?
[Toyolili] うん、あると思う
[Toyolili] 出歩き出したら長いと思う
[J_OldFlag] はい
河原にて
--------
[J_OldFlag] 佳奈、河原にいます。ひとりでなんか石を川面に投げつけてる
竜胆 :「……夜風はいいにゃ〜……ん? あ……」
SE :ぽちゃん
SE :ぱちゃっ
竜胆 :「佳奈ちゃん」
佳奈 :「………!」
[J_OldFlag] 振り向いて硬直
竜胆 :「あ……驚かせちゃった?」
佳奈 :「……驚いてなんかない」
竜胆 :「……かたまってるじゃない(堤防を下りてく)」
[J_OldFlag] 振り返って、また石を投げ始めます
竜胆 :「今日は公園じゃないんだ」
佳奈 :「……公園だけじゃないもん」
竜胆 :「前も言ったけど……こんなところは、普通人は歩いて
:ないよ」
佳奈 :「……いいのよ、そんなの。今日は……」
[J_OldFlag] またひとつ石を掴んだところで咳が出る
佳奈 :「………(ごほっごほっ)」
竜胆 :「そう……大丈夫?」
佳奈 :「……帰れば? 面白くないでしょ、見てても」
竜胆 :「……見てるだけはね……」
水を切る
--------
竜胆 :「でも、話するんだったら面白いかな
: (石投げる。三段くらいははねる)」
佳奈 :「………」
[J_OldFlag] 呆然としてる
佳奈 :「……」(石を投げるけどぽちゃっと落ちる)
竜胆 :「? 平たい石をこうやって投げるんだよ(五段くらい)」
佳奈 :「……し、しってたわよっ」
: (平たいのをなげるけどやっぱりだめ)
佳奈 :「………」
竜胆 :「……水平に投げるの。こうやって
: (手を取って投げさせる。一段跳ねてぽちゃん)」
佳奈 :「あっ………」
佳奈 :「ひとりでできるわよっ」
竜胆 :「ごめんごめん」
[J_OldFlag] 手を振りはらって一人でなげてる
佳奈 :「っ……えいっ」
佳奈 :「………」
[J_OldFlag] やっと一段決まる
佳奈 :(子供みたいな笑顔で振り向く)
:「ねえ、今の見た? ねぇ!」
竜胆 :「うん(にこ) 上手だよ」
佳奈 :(はっとして、俯く)
竜胆 :「もうちょっとやれば三段くらいすぐだよ」
佳奈 :「………そうかな」
竜胆 :「うん……」
佳奈 :「やってみる………」
竜胆 :「うん、やってみて」
佳奈 :「うん」
[J_OldFlag] #何度か投げるうちにひょこっとできるんだよな、あれ
[Toyolili] #そそ。
[Toyolili] #んで、コツつかんで三段四段は余裕
[J_OldFlag] 暫く投げてると偶然4段ができる
竜胆 :「……すごい……ほんと、上手!」
佳奈 :「……そ、そうかな……」
竜胆 :「うん、だって、さっき始めたばっかりなのに……」
素直
----
佳奈 :「………ありがと(小声)」
竜胆 :「うん? あたしはなにもしてないよ。
:佳奈ちゃんが上手なだけ(にこにこ)」
佳奈 :「………そんなことないよ………(真っ赤になって俯く)」
竜胆 :「勝負してみる? どっちが多く跳ねるか」
佳奈 :「………う(ごほっごほっ)」
[J_OldFlag] #うんと言いたかったらしい
佳奈 :(身体を折って咳き込む)
竜胆 :「佳奈? 大丈夫?(背中さする)」
佳奈 :「………ぅ………」
:(一頻り咳き込んでいるが、やがて茶色い痰のような物を
:ぺっと吐き出す)
竜胆 :「……大丈夫?」
佳奈 :「………ごめんね………」
竜胆 :「ううん……いいって」
佳奈 :(下向いたまま)「ごめんね、酷いこと言って………」
竜胆 :「え……ううん、いいよ……」
佳奈 :「優しいんだね………奈津みたいだ………」
竜胆 :「優しい……かな?
: 自分じゃあんまり思ってないんだけどね」
佳奈 :「私が優しいと思ってるから、それでいいの」
:(ずっと下むいたまま)
[J_OldFlag] 茶色いものをそっと足で隠す
竜胆 :「ん……ありがと(照れ)
[Toyolili] #見ちゃってるけどね>竜胆
佳奈 :(顔を上げて)「もう行っていいよ、大丈夫だから」
[J_OldFlag] #まーなー
[J_OldFlag] #まさか肉だとかは思うまいし、正体も判っていることであろう
竜胆 :「……優しい竜胆さんは。咳き込んでる女の子を置いて
:帰ったりしません」
佳奈 :「ありがと。でもいいよ、一人で帰れる」
約束
----
竜胆 :「そう……? それじゃ、約束してくれる?」
佳奈 :(赤い顔のまま)「なにを………?」
竜胆 :「今度、石投げの勝負をするって。ここで」
佳奈 :(真っ直ぐに立つが、視線を逸らす)
竜胆 :「……(返事を待ってる)」
佳奈 :「………うん(自信なさそう)」
竜胆 :「……いつがいい?」
佳奈 :「次の満月の日、晴れてたら………」
竜胆 :「うん、わかった……それじゃ……約束ね(小指出してみる)」
佳奈 :(小指を絡める)「うん………」
竜胆 :「それじゃ……すぐ帰る? 途中まで一緒にいこうか?」
佳奈 :(首を振る)「私、飛んで帰る。家が遠いから」
竜胆 :「あ、そっか。それじゃ……また、今度の満月にね?」
佳奈 :「うん………ありがと(ぺこ)」
竜胆 :「それじゃね……(堤防上がったあたりで一度振り返ろう)」
[J_OldFlag] 佳奈は、ずっとこっちを見てまするが、暫くするとお辞儀を
してからコウモリになります。そのまま、ふらふらっと舞い上がって夜空に
消えます
[sf] # 人と闇の存在との、どっちつかずのコウモリ、ですか。
竜胆 :「……蝙蝠……か……」
血
--
[J_OldFlag] 指切った小指に黒っぽい血が付いてます
竜胆 :「……血? こんな色……(汗)」
[J_OldFlag] 血痰だね >さっきのと同じ
竜胆 :「……佳奈……」
[Toyolili] 蝙蝠に変身して後を追えるかにゃあ
[J_OldFlag] うん、相手は遅いと思うにょ
竜胆 :(変身するのはじめてだけど……ええい)#変身してぱたぱた
変身〜〜
--------
[hari] 変身した事ある?(w
[Toyolili] もちろんないよ(W
[sf] # コウモリへの変身:10 技能があるのう
[Toyolili] 変身の仕方は練習してるはずだぞ、一応。
[Toyolili] それだけ技能があるからには(W
[J_OldFlag] うぅ
[hari] なら良かった。飛び方わかんなくて落ちたりしたら(W
[J_OldFlag] 佳奈は一応12なのかぁ。よかったわかった
[sf] # ちなみに佳奈にはコウモリへの変身:12があるんだね
[J_OldFlag] うい
とよリリさんが一旦落ちて再接続しました
[Toyolili] #ただいまーん
[J_OldFlag] おかーでし
[Toyolili] #発言あった?
[J_OldFlag] # ちなみに佳奈にはコウモリへの変身:12があるんだね
[J_OldFlag] うい
[J_OldFlag] まで
[sf] # 発言は自動公開過去ログで確認できますよん
05:16:48 ! Toyolili (Ping timeout)
[Toyolili] #って、それどこ
[J_OldFlag] あうう
[J_OldFlag] http://www.trpg.net/talk/IRC/kataribe/
[J_OldFlag] 不正確
[J_OldFlag] http://www.trpg.net/talk/IRC/kataribe/19990828.HA06.txt
[Toyolili] 見た
[J_OldFlag] うす
[J_OldFlag] #いま一つだけ疑問に思った
[J_OldFlag] #蝙蝠になる時、衣服などはどうなるのであろう
[Toyolili] #それは変身するときから疑問に思ってるけど(W
[sf] # 魔法的なのか、肉体変異なのかによるのであ
[Toyolili] #服ごとにしよう(W
[J_OldFlag] ふむふむ。うむ
[J_OldFlag] #ちなみに佳奈の場合服以外さしたるものは身に付けてないです
[Toyolili] #うむぅ
墜落
----
竜胆蝙蝠 :(ぱたぱた)
佳奈蝙蝠 :(ふらふら)
竜胆蝙蝠 :(大丈夫かな……ちょっと離れて見てた方がいいかな……)
[J_OldFlag] 石田村の方に峠を越える辺りで見えなくなりまして、
どさっという音が聞こえます
竜胆蝙蝠 :「!」
[Toyolili] 音のしたあたりにおりよう
竜胆蝙蝠 :(ぱたぱた)「今の音……落ちたんじゃ……」
佳奈 :「ぅぅ………」(地面に墜落してうめいている)
[J_OldFlag] #おっと、雑木林ね
竜胆 :「あっ! 佳奈ちゃんっ!(汗)」
佳奈 :「………」
竜胆 :「(助け起こして)しっかりして!」
佳奈 :「あ………ぅ、奈津?」
[J_OldFlag] 打撲程度のようだ
[J_OldFlag] というか………死なないからなぁ(^^::
[Toyolili] うむ。
打撲ではね(^^;;
竜胆 :「……よかった……」
佳奈 :「あ……ごめんね……助けに来てくれたんだね……」
竜胆 :「うん……やっぱり……気になったから」
佳奈 :(気付く)「! あ」
竜胆 :「気がついた?」
佳奈 :「…あ、私、……落ちたの?」
竜胆 :「みたいだね……」
佳奈 :(顔が赤い)「あ、ありがと……(ごほっごほっ)」
竜胆 :「……大丈夫……?」
佳奈 :(頷くけど咳が続いている)
[J_OldFlag] そのうち口から茶色い物をはきだす。
ものはりんちゃんを掠めて地面に落ちる
竜胆 :「……佳奈ちゃん……送っていくよ……」
佳奈 :(かぶりを振る)
:「一人で………かえれるから………ひとりでかえる」
竜胆 :「ダメ……。心配だもん」
佳奈 :「ひとりでかえれなくなったら、もう、
:ふぅりにはいけないから」
竜胆 :「……そう……それだったら……」
佳奈 :(立ち上がる)「でも………ありがとう………」
竜胆 :「ん……うん……」
佳奈 :(ぺこっとお辞儀をして、また蝙蝠になって飛んでいく)
竜胆 :「……結構……遠いな……(変身、ぱたぱた)」
[Toyolili] 一応見送る。山の上で
[J_OldFlag] 山のすそ野の旧い小さなアパートに入っていって、やがて、
中からその窓を閉める様子が見える
竜胆蝙蝠 :「……大丈夫みたい……」
竜胆蝙蝠 :(ぱたぱた……)
[Toyolili] では竜胆も帰ろう
[J_OldFlag] うい、 ありがとでした〜〜
[Toyolili] ういうい
にゅー
------
[J_OldFlag] ぅぅぅぅぅ、最悪でもこのログだけは自分で編集させてもらおう
[Toyolili] うぃ
[J_OldFlag] 眠くて書きたいト書きをむちゃくちゃ削ってしまっている
うーむ、茶色い血痰出しすぎ。使うとしても一回にしよう(反省)
肺とかじゃなくてどっか別のところから出血してて、しかもそれが半分凝固
してる痰だと思うのですけど、PLもじいさんが吐いたのを一回見ただけです
ので………。
うぅ、不観樹さんに聞いてからにしようっと。
$$
未整理エピソード(題名なし)
============================
公開時は不要部分を大幅に整理して『水切り』と統合予定。
小見出しもありません。ごめんなさい。
佳奈と竜胆がはじめて出会う話……です。
登場人物を少なくする意味合い(及び、キャラクターをお借りするのが気が
退けてしまったという理由……汗)から、「夏美」という便利過ぎる
「この話のみ」のキャラクターを登場させています。
前中盤の「夏美」の役割は無道千影さんに、最後の部分の「夏美」の役割は
前野浩くんをそれぞれお借りした方がよいのかもしれません。
できたら「このひとならぴったり」「わしがかわってやる〜〜」という
ご意見やお申し出をいただけると、嬉しいです。
(現状では夏美の部分はほぼ削除する予定でいますので)
ある日の夕暮れ。
近くの中学の制服を着た少女と、その知り合いらしい、大きな長物を担いだ
高校生らしい少女が、何やら声高に話し込んでいた。
竜胆が脇を通ると、少女のうち年嵩の方が愛想よく挨拶をしてきた。無道邸
の近くに住んでいる、元気の良い娘だった。
竜胆はにこにこと挨拶を返して、角を曲がろうとした。
と、その足が止まる。向こうの角でぽつねんと立ち尽くしている奈津に気が
付いたからだ。
奈津 :「……」
竜胆 :「奈津?」
竜胆は声をかけて奈津に歩み寄った。
奈津ははっと顔を上げて、竜胆にぺこりとお辞儀をした。
竜胆 :「元気ないみたいだけど……大丈夫?」
奈津 :「あ、な、なんでもないです……ダイジョウブです」
竜胆 :「本当……? 日に当たりすぎたんじゃないの?(おでこ
:に手をあてる)」
奈津 :「あ、そうじゃなくて……いえ、そうなんですけど」
竜胆 :「そうなんですけど?」
奈津 :「あの……前野さんみたいな人がいて、そのあの」
竜胆 :「……前野くんが?」
奈津 :「あ、いえ、似てないんですけど、そこの女の子たちにす
:かれてるらしくて」
竜胆はさっき挨拶をした少女が居た方を見た。
年下の方の少女は帰ったのか、年嵩の方だけがこちらを怪訝そうに見ていた。
竜胆 :「それで?」
前野くんみたいな子だったら、女の子には好かれて当然だろうな、と竜胆は
頷いた。特に夏美辺りだったらほって置かないだろうな、嫌がられるまでくっ
ついて行きそうだ、とこちらを見ている少女のことを考える。
似た名前なのに、どうしてこうも違うのだろう。
奈津 :「その……考えてたら、その………わたしも鏡介さんのこ
:と、好きだったんだ、って」
竜胆 :「……今は好きじゃないの?」
奈津 :「好きじゃ……いけないんです」
竜胆は頷いた。
竜胆 :「奈津……優しいんだね」
奈津 :「や、優しくなんかないです」
竜胆 :「優しくない人が、自分から身を引いたりはしない
:よ……」
奈津は激しく首を横に振った。
奈津 :「違うんですっ、……鏡介さん、わたしのことなんて全然
:好きじゃないですから……鏡介さんは、佳奈が………」
竜胆 :「だから、好きじゃいけないの? 好きなら好きでいれば
:いいじゃない。そこで好きじゃいけないって言うのは、
:佳奈ちゃんのことを思ってるからでしょ?」
奈津 :「うっ……」
竜胆 :「優しくなかったら、そんなこと言えないよ……」
奈津は耐え切れないように声を詰まらせた。
竜胆は奈津の少し癖の付いた髪の毛を撫でた。
奈津 :「ふっ、……ぅっ……くっ」
竜胆 :「奈津…… 奈津が優しいの……あたしは知ってるよ」
竜胆はそっと奈津を抱きしめた。
奈津 :「っっ……ひっく」
竜胆 :「……こういうとき、お姉さんは辛いよね」
言いながら、竜胆は胸に痛みを覚えて思わず奈津をきゅっと強く抱いた。
どうしても自分の身に重ねてしまう。同じ……吸血鬼だからかもしれない。
奈津 :「佳奈は……誰か、一緒に居てくれる人がいなくちゃ生き
:ていけないから。わたしは……、大丈夫だから……
:それに……佳奈のこと、自分のせいでほっからかしに
:しちゃったし……」
竜胆 :「奈津……」
奈津 :「ごめんなさい、りんどうさん……泣いてばっかり
:で……」
竜胆 :「ん? 気にしないでいいよ。それで、奈津が少しでも楽
:になるんだったら」
奈津 :「りんどうさん……優しい……」
竜胆 :「こういう時に、支えになれるなら……なってあげたいか
:らね」
奈津 :「……どうして、そんなに優しくしてくれるんですか……
:わたしなんかに」
竜胆 :「……どうしてかな? ただ……奈津が悲しそうにしてる
:のは……耐えられないの……」
夏美 :「似てるのかもね、二人とも」
何時の間にか、夏美が間近で二人を見ていた。
彼女は、たまに、何もかも知っているような素振りをすることがある。
竜胆はそういう人物なのだろうと思うことにしていた。夏美に興味がないわ
けではなかったが、詮索しても何も出てきはしないように思えたのだった。
竜胆 :「そうだね……昔のあたしに……似てるんだ」
ふともらす一言。
奈津や夏美はもちろん、竜胆を知る人間のなかで、竜胆の過去まで深く知る
人間は非常に少ない。
夏美 :「うん。あ、えーと、取り敢えず、ここは天下の公道だか
:ら、そういうことはどこか別のとこでやった方が良いよ」
夏美は緊張感のない台詞を口にした。
奈津はぱっと竜胆からはなれた。顔は一瞬で真っ赤に染まっている。
奈津 :「あ、す、すみませんっっ」
竜胆 :「ん……」
奈津 :「大丈夫ですりんどうさん、わたしっ」
竜胆 :「……元気出る?」
奈津 :「………出します、頑張って………」
まだ目の端に涙は浮かべていたが、それでも奈津はなんとか泣くのを堪えて
いた。
竜胆 :「……辛かったら、いつでも言うんだよ? 一人でいた
:ら……ダメになっちゃうから……」
奈津 :「はい……」
竜胆 :「約束だよ」
奈津 :「………」
竜胆 :「ほら、また泣きそうになってるよ」
優しい言葉では却って泣かせてしまうのか、と竜胆は焦った。
奈津はすみませんというような言葉を口の中で呟き、ぺこりと頭を下げて小
走りに去っていった。
夏美はやれやれと肩を竦めた。頼りなさそうな足取りの奈津を見遣ってから、
竜胆を振り返る。
夏美 :「そうやって依頼心をあおってちゃ、あの子、ぐずになっ
:てくだけだよ」
竜胆 :「……でも……あたしは放っておけない……」
夏美 :「優しいんだね、りんちゃん」
やや、揶揄を含んだ語調だった。奈津のことが気に入らないのかも知れない。
夏美は即断型でやや短気なところがあった。
竜胆は苦笑いした。実は夏美にも奈津と似た所があるのかもしれない。
竜胆 :「……甘いだけかもね。人に厳しく……できない」
夏美 :「甘えてね、恋人に。寂しくなったら」
まだ高校一年生だというのに、夏美はしれっとそんなことを言った。
担いでいる長物をとんとんと肩を叩くように動かす。やがて、羨ましそうな
声音がその口から漏れた。
夏美 :「なんでも許せるって、強さだよね」
竜胆 :「昔は……違ったよ」
夏美 :「今のりんちゃんが強ければ、あの子にはそれでいいの
:よ」
竜胆 :「うん……」
そこでまた、夏美は明るい冗談染みた口調に戻った。さっきのと矛盾してた
ねぇ、えへへ、とちらりと舌を出す。そして、やけに間延びしたような調子で、
にっと笑って続けた。
夏美 :「わたしは、りんちゃんみたいな人もほっとけないけど
:なぁ。けなげよね」
竜胆 :「そうかな……一人じゃダメだって……知ってるだけだ
:よ」
夏美 :「それだけじゃないよ〜」
竜胆 :「そ、そう?」
夏美 :「りんちゃんは、素敵だよ」
悪戯っぽく笑い、夏美はさらりとそんなことを言ってのける。
竜胆はちょっと照れくさかった。
竜胆 :「……そ、そうかな」
夏美 :「わたしも好きだよ、りんちゃんのこと」
竜胆 :「え? そう言ってもらえると……すごく嬉しいな……」
夏美 :「ふふ」
竜胆 :「独りは……辛いから」
夏美 :「そうだね、辛いよね。あのこも、ひとりなのかもね」
竜胆 :「うん……昔のあたしと同じ……」
二人はそのまま黙って同じ道を帰り始めた。
分かれ道にまたところで、夏美は意を決したように竜胆を見た。
夏美 :「やっぱりいつまでも甘やかしておいちゃ、いけないよ」
竜胆 :「うん……それはわかってる……」
夏美 :「どうしたらいいのかなぁ」
竜胆 :「やっぱり新しい……恋だね」
夏美 :「りんちゃんも恋で変ったの?」
竜胆 :「え……う、うん……」
夏美 :「あー、照れてるぅ」
思わず頬を染めてしまった竜胆を夏美はちょんちょんとつついた。
竜胆 :「も、もう、からかわないでよぉ……」
夏美 :「そんなりんちゃんが好きなんだね、恋人さんは」
竜胆 :「そう……かなぁ……」
赤くなった竜胆をくすくす笑うと、夏美は手を振って駈け去っていった。
元気の良い仕種だった。
その日、竜胆はいつものように無道邸で食事を済ませた。そのまま泊っても
良かったのだが、なんとなくそうしたくないような気がしていた。
門を出て夜の街路に踏み出す。空は高く、細い月が出ていた。
暫く歩いた夜の住宅街で、蹲っている人影が目に留まった。
厭な、明らかに病的な咳の音がしていた。
竜胆 :「……?」
水色のワンピースを着た、小柄で痩せた少女が背を丸めて咳をしていた。
髪の色はにび色だったが、竜胆はその横顔をよく知っていた。
竜胆 :「……奈津?」
竜胆は急いで駆け寄った。
佳奈 :「……ちがいます」
竜胆 :「……! あ、もしかして……佳奈……さん?」
奈津から打ち明けられてはいた。
水着を選んでやった翌日、行き場を失った小猫のように夜の公園で泣いてい
た奈津を、竜胆は部屋に連れ帰って朝まで側に居てやったことがあった。
なかなか遠慮して話をしない奈津に、竜胆は自分の身の上も話していた。
佳奈も竜胆のことは奈津から聞いているようだった。すっと軽く頭を下げる。
佳奈 :「そうです………吸血鬼の方。奈津はいろいろなお友達が
:いるんですね」
竜胆 :「奈津から話は聞いてるよ……」
佳奈 :「そうですか………」
佳奈はまた咳込んだ。
竜胆 :「だ、大丈夫? さっきから、咳して……」
佳奈 :「いえ、月が満ちてくれば……治りますから」
竜胆 :「月……まだ、満月まで何日もあるよ……」
佳奈 :「大丈夫………余計な心配しないで。血を吸えば……
:治るんだから」
佳奈の声が頑なな響きを帯びた。
竜胆 :「いくら治るって言っても……こんな時間に人なんて
:歩いてないよ、滅多に」
佳奈 :「それなら……我慢するからいいわ、仕方ないもの」
竜胆 :「……あんまり美味しくないけど……これ……」
咳込む佳奈の目の前に、竜胆はそっと輸血パックを差し出した。
佳奈はそれを左手で払いのけようとしたが、その手は力なくパックを叩いた
だけだった。
佳奈 :「馬鹿にしないでっ」
竜胆 :「馬鹿になんてしてない。血を吸わなきゃダメだって……
:わかるの」
佳奈 :「私は………人間じゃないの、狩猟者なのよ」
竜胆 :「それに……狩猟って……」
佳奈の眼がすっと細くなった。にび色の瞳が一瞬だけぎらりと輝いた。
佳奈 :「あなただって……なんだ、人間か」
竜胆 :「……人間?」
佳奈 :「もとは……ヒトでしょ、あなた」
竜胆 :「そうだよ……」
佳奈 :「だからヒトの中で生きていられるのね」
竜胆 :「……そうかもしれない……」
佳奈 :「……じゃ」
佳奈はのろのろと立ち上がってゆらりと背を向けた。
竜胆 :「待って! あたしが人間なのと、あなたが倒れそうなの
:は関係ない!」
佳奈 :「……関係はあるわ……私は被支配者の指図は受けないわ、
:奴隷」
ひどく残酷な言葉を、佳奈は無造作に口にした。
一瞬、竜胆の動きが止まる。か、彼女は唇を噛んで佳奈の手を掴み、振り向
かせた。
竜胆 :「! 何言ってるの……人間も吸血鬼も……一緒よ!」
佳奈 :「あんたはもう人でもないし吸血鬼でもないでしょう?
: かりそめの命を与えられたに過ぎない死体じゃない。
:その汚い手を放して」
佳奈は無表情に言った。が、その仕種はどことなく子供じみていた。
竜胆 :「(ぺち!)……どうして……そんなこと言えるの?」
佳奈 :「……………事実でしょ」
竜胆 :「たしかに……人じゃないし、吸血鬼としても不完全
:よ……」
佳奈 :「………」
竜胆 :「でも……呼吸だってするし、心臓だって動いてる……死
:体なんかじゃない」
佳奈 :「………それは、毎日の吸血で支えられている
:仮の命なのよ」
竜胆 :「……何を根拠にそんなこと言うの……そんなの、生きて
:たらなんだってそうじゃない」
佳奈の顔に僅かに苛立ちが混じった。
佳奈 :「まだわかんないの、あんたは一度死んでるのよっ、
:血を吸われた時に」
竜胆 :「……違う、死にかけたのは事実だけど……」
佳奈 :「そうじゃないのよ、そうじゃ……
: 吸血鬼は血を吸う事で相手を奴隷にデキルのよ」
竜胆 :「……」
佳奈 :「あんたはもう誰かの奴隷なのよ」
竜胆 :「……どれい……あたしが……?」
佳奈 :「血を吸われた相手に頼っているか、利用されている筈よ」
竜胆 :「利用……なんて……でも……」
佳奈 :「あんたはそいつに『生かされてる』だけ」
竜胆 :「生かされてる……それでも……生きてるのには違いない
:よ……」
佳奈 :「神様がくれた命じゃないわ、誰かがかりそめに与えたもの
:じゃない。本物じゃないわ」
竜胆 :「本物か偽物かなんて……意味ないよ。
: それに……ちかは、あたしが必要だって……
:言ってくれたもの。
: あたし達は……そんな関係じゃない」
佳奈 :「必要だから、『生かしてもらって』いるんでしょう」
竜胆 :「それでも……あたしは生きてる、こうして。
: それ以上、どんな意味があるの?」
佳奈 :「………」
竜胆 :「あたしはそれだけで……十分」
佳奈 :「そう………奴隷らしい意見ね」
竜胆 :「どうして、そんなことにこだわるの……?」
いつしか、竜胆の目には涙が光っていた。
佳奈は、しかしそんなことを見てもいなかった。彼女は自分の言葉で気持ち
を昂ぶらせたようだった。
佳奈 :「………だって、私はにんげんじゃないもの………
:奈津はにんげんなのにッ!
: 双子なのに、あの子はにんげんなのよ………
:普通の人となにも変らないのよ」
竜胆 :「……」
佳奈 :「あの子は人間になれる、私はなれない」
吐き出すような調子だった。その後で、佳奈は一頻りまた咳をした。茶色い
痰のような物を路上に吐き出すと、彼女はやっと静かになった。
竜胆 :「……奈津の心も知らないで……よく言うわ」
佳奈 :「奈津が………奈津なんて、私の事なんかゼンゼン
:判ってない」
竜胆 :「ううん、佳奈ちゃんの方がわかってないよ……」
佳奈 :「………」
竜胆 :「ずっと一緒にいることだって出来たのに、どうして奈津
:が自分だけ学校に行ったりしてると思うの?」
佳奈 :「………にんげんになりたいから………
:奈津は、そう言ってた……」
竜胆 :「それは違うよ……佳奈ちゃんに、外の出来事を教えてあ
:げたいから……自分は外に出てるんだと思うよ」
佳奈 :「私は、………私、わたし、………
: おねえちゃんにずっといっしょにいてほしいだけ
:なのに………」
竜胆 :「奈津がこの前言ってたよ……最近、佳奈のことほったら
:かしだって……奈津ね、佳奈ちゃんのこと話すとき、
:すごく優しい顔してるんだよ」
佳奈 :「………そんなの、うそだもん」
竜胆 :「ウソじゃないよ……それに、奈津は、佳奈ちゃんのため
:だったら……自分を犠牲にすると思う……」
佳奈 :「そんなこと、なんでわかるのよう」
竜胆 :「……そんな瞳をしてるから……ね」
佳奈 :「そんなの……思い込みよ」
竜胆 :「さっきから佳奈ちゃんが言ってるのこそ……思い込み
:じゃないの?」
佳奈は不健康そうに尖った肩を震わせた。
竜胆 :「奈津が……佳奈ちゃんのこと、嫌いになったとか思って
:たんじゃない?」
佳奈 :「……奈津、私の事なんか嫌いになったんだもん。………
:この春までは、ずっと一緒だったのに……」
竜胆 :「佳奈ちゃん……奈津のこと……もうちょっとちゃんと見
:てあげようよ」
佳奈 :「………」
佳奈 :「きらい………」
竜胆 :「え?」
佳奈 :「みんなきらい!にんげんなんてきらい!」
佳奈は驚くほど強い力で竜胆の手を振り払った。
………そのまま、一瞬でコウモリに姿を変え、ばさばさと飛び去っていった。
竜胆 :「あっ……佳奈ちゃん!」
竜胆は手を伸ばしかけたが、それを胸に戻した。
追いかけて追いかけられないことはなかった。しかし、そういう気分にはな
れなかった。
竜胆 :「……あたしじゃ……ダメかな……あの子のこと、ちゃん
:と知らないし……」
夏美 :「ううん、りんちゃんは頑張ったと思うよ……」
竜胆 :「ナツ……?」
夏美が小さなタオルを持って立っていた。
夏美 :「ん、わたしの家、すぐそこなんだよ、気付かなかっ
:た?」
竜胆 :「全然……」
夏美 :「残念、だったね」
竜胆 :「……」
竜胆は俯いた。その顔に、下からタオルが押し付けられた。
夏美 :「きっと、次はうまく行くよ」
竜胆 :「そう……? 自信ないな……」
夏美 :「でも、あの説得は、りんちゃんにしかできなかったと思
う」
竜胆 :「でも……あたしは奴隷だよ……」
竜胆の声はタオルでくぐもった。夏美はそれを聞かない振りをした。
夏美 :「月、綺麗だね。わたしも散歩したくなっちゃった」
二人は空を見上げた。月は相変わらず心細い光を放っていた。
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Djinny(ランプの魔物)
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