[KATARIBE 15041] [HA06P] 『氾濫』完成版

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Date: Thu, 26 Aug 1999 01:38:04 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15041] [HA06P] 『氾濫』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
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 ごんべです。

 「吹利史」関連エピソードの第3弾で、やはりいー・あーるさんからの
お預かりものです。いー・あーるさんのチェックを受けましたので、完成版と
してお送りします。


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[HA06P] 『氾濫』
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本文
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 知ることは、力にもなる……と、時折聞く。
 ただ、それを振りまわすのか、振りまわされるのか。

 
 からからと、シャッターを降ろす音。そして裏口が開く音。
 瑞鶴、夜。
 しゅんしゅんと元気良く音を立てるやかんを火から下ろしながら、ふと、
花澄が首を傾げる。

 花澄     :「そういえば……店長」
 店長     :「え?」
 花澄     :「『吹利史』の本、どうするの?」
 店長     :「……お前なんで……ってああ」
 花澄     :「この前お茶持ってった時、机の上に焦げた本があったから
        :……」

 ふむ、と、店長は合点する。

 花澄     :「で、あの本どうするの?」
 店長     :「うん……さてどうしようかな、と」
 花澄     :「あの本だとね(苦笑)」
 店長     :「入手経路聞かれても困るしなあ(苦笑)」

 流石に、「焦げた本」を新刊書です、と胸を張って渡せるわけもない。

 店長     :「そういえば内容については何か言ってたか?」
 花澄     :「ううん。聞かなかったから」
 店長     :「……そか」

 やはり納得する。
 知る必要の無いことを知らないでいること。
 そのことを……お互い、知っている。

 花澄     :「内容……て、店長、中見てないの?」
 店長     :「俺の本じゃないからな。……ああ、流石に表紙開けて中身
        :を確認することはしたけれども」
 花澄     :「……それは別として(汗)」
 店長     :「やっぱり、あれを初めに読む権利があるのは堀川さんだろう」
 花澄     :「まあ、それはそうだけど」

 とん、と、湯のみを目の前に置いて。

 花澄     :「でも、そしたら何であの本の内容が気になるの?」
 店長     :「……うん」

 本が焼かれるということ。
 その本の持つ……誰かにとっての危険性。
 『吹利史』という題。

 花澄     :「あれが、古代史だったら、って考えた?(苦笑)」
 店長     :「……やな奴だなお前は(嘆息)」

 奥六郡郷土史保存協会。
 東北地方の地祇(国津神)をまつる、と。
 多分それは、古代の域まで遡る話だろう。
 
 …………何故そんなものに、記憶の無い娘が追いかけられるのか。

 店長     :「まあ……俺が調べていいことでもないのかもしれないが」
 花澄     :「って?」
 店長     :「記憶が戻ることがあるとして……そのときに、美都さんが、
        :知られたくない過去まで含まれるかもしれないだろ」
 花澄     :「……そうかもしれないけど……」

 困ったものだ、といいたげな、笑み。

 花澄     :「……でも、美都さんは怒らないと思うけどなあ」
 店長     :「そういう問題でもないだろ」
 花澄     :「じゃ、何が問題?」

 さて、と言葉を濁して、店長はそのまま立ちあがった。


 人には、多分、見て欲しい自分と、見て欲しくない自分が居るのだと思う。
 見て欲しくない自分に、けれども気がついても欲しいのだろうと思う。
 けれども……気がついて欲しい相手と、欲しくもない相手が、いることと思う。
 気がつくべき相手も、いるのだと思う。

 布施美都、という人間から、今は、その全ての判断が消えてしまっている。
 その彼女の過去を調べること自体が……ある意味踏みこみすぎているのでは
ないだろうか、と。

 がたん、と硝子戸を開いて、瓶とグラスを取り出す。
 花澄が肩をすくめる。

 花澄     :「……多分、考えすぎよ、お兄ちゃん」
 店長     :「まあ多分」

 知ることは、関わること。
 関わることは、恐らくより深く相手の領域に踏み込むこと。
 踏みこまざるを得なくなること。
 そして……恐らく、知ったことを呑みこむこと。

 店長     :「……まあ、この場合、仕方ないか」
 花澄     :「?」
 店長     :「まとめて、呑む」
 花澄     :「……そーだねー」

 くすんと笑う。
 恐らくは既に、自分よりも多くの知識を、呑みこんできた者の笑い。
 
 店長     :「酒代がかさむな(苦笑)」
 花澄     :「それは仕方ないもん(苦笑)」

 からん、と瓶のふちがグラスにあたり、硬い音をたてた。


登場人物
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平塚花澄(ひらつか・かすみ)
    四大の力を従え「春の結界」を身にまとう女性。
    書店「瑞鶴」の店番でもある。
平塚英一(ひらつか・えいいち、店長)
    書店「瑞鶴」の店長。花澄の兄。
    自身も異能者だが、「本が湧く本屋」である瑞鶴の性質を
    最もよく知る人物。


解説
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 平成11年(1999年)5月上旬、書店「瑞鶴」での出来事。
 『吹利史』シリーズの第3弾です。EP『過去無き娘』に登場した美都さんの
存在を受けてのお話になっています。

 作者はE.Rさん、元原稿は
1999/5/7 "[KATARIBE 12871] [HA06][EP] 「氾濫」" です。

(解説・文責:ごんべ)


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堀田 拓司 (ごんべ)  gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/
    

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