[KATARIBE 15040] [HA06P] 『夢渡り〜風糸』完成版

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Date: Thu, 26 Aug 1999 01:37:17 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15040] [HA06P] 『夢渡り〜風糸』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
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 ごんべです。

 「吹利史」関連エピソードの第2弾です。いー・あーるさんからのお預かり
ものですが、完成版を作りましたのでお送りします。
 もちろんいー・あーるさんのチェック済みです。


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[HA06P] 『夢渡り〜風糸』
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本文
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 某日、昼休み。
 朝から降っていた雨が止んで、少し日の射してくる……

 祐司     :「……」(欠伸)

 昨日、一昨日と良く眠った筈なのだが……

 祐司     :「(眠りすぎ、か……)」

 論文は、詰めの段階までいっている。
 いっては、いるのだが………………

 祐司     :「(最後の一歩が、なあ……)」

 切羽詰っているだけに、夢にまで論文内容が出てくる始末である。
 溜息をつくしかない、状況では、ある。

 溜息をつく……………
 
 ……………………
 ……………
 ……


 祐司     :「?」

 穏やかな、波の音。潮の香り。
 その割に、奇妙にさらさらとした風の手触り。
 まだ少し、灰色がかった淡い蒼の空。
 人気の無い、不思議に明るい灰色を重ねた、街。
 
 ぱたぱた、と、足音。

 祐司     :「っと」
 少女     :「わあっ」

 角から飛び出してきた子供と正面衝突しかけたのを、慌てて支えてやる。
 五、六歳くらいの、ようやっと「幼女」から「少女」になりかかった子供。
 紺のワンピースと、黒い靴。

 少女     :「あ、すみませんっ」
 祐司     :「いや……」
 
 ぺこん、と元気良く頭を下げる。
 少し長めのおかっぱの髪が、はずみでぱさんと揺れた。
 
 少女     :「あの、こっちに電車来ませんでした?」
 祐司     :「電車?」
 少女     :「はいっ」
 祐司     :「さあ……見なかったね」
 少女     :「はあ…………」(ちょっとしょんぼり)

 改めて辺りを見まわすが、電車らしいものは、ない。
 そも、レールも何も見えてこない。

 少女     :「あの、そしたら……海、どっちか、ごぞんじですか?
        :(にこにこ)」
 祐司     :「海……」

 波の音を追いかける。

 祐司     :「こっち、かなあ……」
 少女     :「こっち、ですね」

 ありがとうございますっ、と、また一つ礼をしてから、少女はぱたぱたと
駆けて行く。
 何となく祐司もついて行く。

 と。
 不意に、ぽかりと左右が広がった。
 やはり明るい灰色のコンクリートの地面が、ひろびろと広がったまま、海へ
と突き出している。
 その向こうに。

 少女     :「あ、あった(嬉々)」
 祐司     :「……(汗)」

 緋色の帆は、けれども光に透けるほど薄く、海からの風に翻っている。
 それを掲げているのは……

 祐司     :「(……摩天楼……まではいかんかもしれんが(汗))」

 やはりどこか明るい色合いの、灰色の……
 窓硝子に、一面のあおが映っている。

 少女     :「よーし……あ、栢々君!」
 
 少女の高い声に応ずるように、ちゃぷん、と波が一つ跳ねる。
 緋の色と、蒼の色。そのどちらにも染まることの無い、白い……

 祐司     :「鯨?(汗)」

 呟いた祐司の横を、風が細い筋になって過ぎて行く。
 透明の、細い鋼を思わせる風の束。
 見えぬ筈のその風の束を、少女の手が掴む。
 それを、くるりと手に巻いて。

 と、たん、と、黒い靴が、軽い音を立てて。
 そのまま少女の体が、宙に飛ぶ。

 祐司     :「あ……危ないっ!」
 少女     :「大丈夫、ですっ(にこにこ)」

 くるり、と、まるで風が巻き付くように、少女の身体が祐司の頭上でさかし
まになって。
 と。

 少女     :「…………あ、わかった!(ぽむ)」
 
 手を一つ打って。

 少女     :「堀川さんだ!」
 祐司     :「そうやけど?」
 少女     :「ああ、だから知ってたんだあ……あ、そうだ!」

 この少女を見たことがあるか……いや、ない。
 改めて記憶をひっくり返して、確認している祐司の頭上で、少女はまたくる
り、と向きを変えた。

 少女     :「あの!『吹利史』、ありましたから!」
 祐司     :「吹利史?!」
 少女     :「探してらっしゃいましたよね?」
 
 不意に、一つの顔を思い出す。
 印象はそのまま、ただ、年を経た……
 少女はそのままどんどんと海のほうへと吹き飛ばされてゆく。

 少女     :「あのっ!兄が持て余してますから…………に……」

 ………………

 すとんっ。

 祐司     :「は?」

 がくん、と、手が滑ったはずみで目が醒めて……
 
 祐司     :「あ、夢か(汗)」

 時計を見る。まださほどの時間は過ぎてはいない。
 ……が。

 祐司     :「…………正夢?」

 もう一度時間を見、今日の予定を確認する。
 
 祐司     :「行ってみようか……瑞鶴」


 で、一方の瑞鶴では。

 店長     :「……おーまえはっ!」
 花澄     :「だからってそんな、殴らなくってもっ!」
 店長     :「レジの前で寝てる奴がいるかっ!」


登場人物
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堀川祐司(ほりかわ・ゆうじ)
    静電気を操る、生きた電源装置。
    紅雀院大学の考古学教室に助手で勤務。
平塚花澄(ひらつか・かすみ)
    四大の力を従え「春の結界」を身にまとう女性。
    書店「瑞鶴」の店番でもある。
平塚英一(ひらつか・えいいち、店長)
    書店「瑞鶴」の店長。花澄の兄。
    自身も異能者だが、「本が湧く本屋」である瑞鶴の性質を
    最もよく知る人物。


解説
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 『吹利史』シリーズの第2弾、平成11年(1999年)4月下旬の出来事です。

 作者はE.Rさん、元原稿は
1999/4/26 "[KATARIBE 12801] [HA06][EP] 「夢渡り〜風糸」" です。

(解説・文責:ごんべ)


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堀田 拓司 (ごんべ)  gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/
    

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