Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Thu, 26 Aug 1999 01:31:45 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 15039] [HA06P] 『「吹利史」』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <9908251631.AA00297@gombe.osk3.3web.ne.jp>
X-Mail-Count: 15039
ごんべです。
春先に走っていた「吹利史」関連の最初のエピソードの完成版を作りました
ので、お送りします。
いー・あーるさんのチェック済みです。
**********************************************************************
[HA06P] 『「吹利史」』
======================
さがしものはなんですか
----------------------
祐司 :「……ない」
吹利大学通りのとある古本屋に入っていた堀川祐司は、やがてがっくりと肩
を落として店を出てきた。
吹利の古代王朝史・豪族史を研究していると、どうしてもある戦前の文献の
名前に行き当たる。しかしその本、どこを探しても出てこないのだ。
既に週末に奈良市内の古本屋という古本屋を調べてみたが、見つからなかっ
た。(もっとも、元々奈良市内に古本屋は多くはないのだが) そして今日も、
吹利の大学通りにおいて既に数軒を「はしご」している。
祐司 :「大学(※紅雀院大学)の図書館にもあれへんだしなぁ。
:大学通りやったら、と思ったけど……望み薄かな……」
駅に向かいとぼとぼと歩いていた祐司は、ふと目に入った落ち着いた風情の
本屋に思わず吸い込まれていた。ここならあるかも、との一縷の望みを抱いて。
その名は、「瑞鶴」。
SE :からからから
花澄 :「いらっしゃいませ」
ふ、と歩を進めようとした祐司の足の前には、一匹の猫。
祐司 :「……通しておくれでないかね」
瑞鶴の猫 :(ちらりと見上げて)
:「…………(言葉遣いがなってないけど、礼儀はわきまえ
:ているようだね)」(すい、と立ち上がる)
花澄は、入ってきた客が、棚の一つの前に釘付けになったのに気付いて顔を
上げた。歴史書の並ぶ一角をのぞき込む男は、まるでなめるように視線を動か
している、というか、並んだ本の **背表紙たちをまさに熟読** していた。
花澄 :「(苦笑)……何かお探しですか?」
祐司 :「あ、すみません……戦前の本なんですが、扱っておられ
:ますか?」
花澄 :「えーと……物にもよると思いますけど、どのような?」
祐司 :「日本の古代史の論文本なんですが……吹利が題材なんで
:郷土史かも知れませんが、昭和12年の本で、山口淵鳴と
:いう著者の『吹利史』という本なんですが」
花澄 :「…………棚に出ていなければないかも知れませんね……
:今日は店長が留守ですので、また聞いて探しておきますけ
:ど?」
祐司 :「そうですか? 是非お願いします」
そう言って一礼して店を出て行った祐司の肩は、花澄が見てわかるほどがっ
くりと下がっていた。目の光も、書棚をにらんでいたときのそれとは比べるべ
くもない。
花澄 :「あるといいんだけど……また来てもらえるかしら」
で、翌日。その客は再び来た。
SE :からからから
花澄 :「いらっしゃいませ……あ」
祐司 :「こんにちは。
:……ちょっとごめん」>猫
瑞鶴の猫 :「なう(勝手におし)」
祐司 :「昨日お聞きした本なんですが……ありましたか?」
花澄 :「それが……もう少し探してみますね」
祐司 :「そうですか……」
……と、急に祐司の目が一点に引き寄せられる。
その目の光の変化に花澄が驚いていることにも、もはや気づいていない。
祐司 :「こっこれは……『ローティス・ナージャ』の単行本、
:しかも新刊! こんなところで、今頃……
:(花澄に)あの、これは売り物ですよね?!」
花澄 :「(……あんな漫画、仕入れたかしら?)
:はい、もちろん」
祐司 :「あ、じゃあ、これ下さい!」
花澄 :「……はぁ」
どうも彼の場合、本当の意中の本が湧くようになるまでには、相当の時間が
かかりそうである。
出現
----
さてその夜、瑞鶴閉店の後。
花澄 :「で……この前言ってた本だけど」
店長 :「ああ、名前、書いといてくれたか」
花澄 :「はい」
『吹利史』 …… 著者:山口淵鳴、昭和12年初版
花澄 :「何だか、只事でない様子で探してたから……出来るだけ早く
:探し出せるといいんだけど」
店長 :「……うん」
本に関する執着については、この兄妹揃って、人事には思えぬのだろう。
店長 :「しかし、昭和12年……(汗)……親父の生まれた年か」
花澄 :「あ、本当だ(笑)」
とにかく後はお願いします、と、花澄が帰っていった後。
店長は瑞鶴店内に戻った。
電気をつけ、歴史書の並ぶ辺りに題名を書いた紙切れを突っ込む。
店長 :「さて、鬼と出るか蛇と出るか」
一度なりとも読まれて、その後捨てられるのならばともかく。
印刷され、製本され……そのまま廃棄されて行く本の恨みは如何ばかりか。
それも、遠い時の果てに、その本を呼ぶ者がいるというのに。
選択肢の片一方に、本。
選択肢の片一方に、読者。
結ぶ糸の有りや無しや。
店長 :「まあ、後は運だ(達観)……っと」
仕事は終い、と思っていても、ふと気がつくとつい手を伸ばしてしまう。
近くの棚の本が、半分引っ張り出されているのに気づいて、手を伸ばし……た時。
店長 :「……?」
微かに、きな臭い。
店長 :「…………!」
慌てて、先程紙を挟んだ本のあたりを引きずり出し、床に落とす。
どさばさ、と落ちた本の数は………
店長 :「なんつう本を探してるんだか(嘆息)」
両隣の本のカバーが、一冊は焦げ、一冊はわずかに変色している。
その間の、完全に表紙が焦げた本を店長はそっと拾い上げた。
店長 :「…………ふむ(思案)」
背表紙の下側、著者名は確かに「山口淵鳴」。
店長 :「…………しかしなあ(思案)」
知る由もなく……
----------------
で、何だかんだと悪戦苦闘した末に、祐司は結局とある結論を出さねばなら
なくなった。
……実際はいい線いっていたのだが、まあしかたがない。>瑞鶴での本探し
祐司 :「教授」
教授 :「どうした、堀川君」
祐司 :「すみません……この文献だけ、どうしても当たれそうに
:ないので」
教授 :「あー……いいよいいよ。この"1937山口"を基にある程度
:の結論を出した文献の方には、当たれたんだろう? この
:"1948森本"とか、"1953境"とかがそうなのかな?」
祐司 :「えぇ、まぁ」
教授 :「ならいいんじゃないかな」
祐司 :「わかりました。ありがとうございます」(ぺこ)
教授 :「まぁ参考資料には書けないが……"森本""境"があれば大
:丈夫だろう。それ以外に、"山口"に言及している資料はな
:いのかね」
祐司 :「ありませんね。その後の研究者は、僕のようにこの"山口"
:に当たれていないだけ、かも知れません(^^;」
教授 :「ははは、なるほど」
祐司 :「何を読んで"森本""境"がこういう論の展開をしたのか、
:は、どうにも気になるんですが」
教授 :「まぁね……ただ"森本"や"境"は他の文献も使って持論を
:補強しているから、それらを参考にするとして、"山口"自
:体の内容にはあまりこだわらなくても支障はないんじゃな
:いかね? その……『吹利史』だったかね」
祐司 :「ええ」
教授 :「まぁ無視しておきたまえよ。確かに思わせぶりな題名で、
:気になるがね」
祐司 :「はぁ……わかりました。じゃあ、もう少し書き上がった
:ら見ていただきますので」
そう言って教授の部屋から退出したとき。
SE :ぶつっ!(右の靴ひもがはじけ飛んだ音)
祐司 :「…………何つう不吉な(-_-;;;;
:これは論文にリテイクをくらうと言う前触れだろうか(汗)」
これから待ち受ける真の運命について、祐司には知る由もなかった。
登場人物
--------
堀川祐司(ほりかわ・ゆうじ)
静電気を操る、生きた電源装置。
紅雀院大学の考古学教室に助手で勤務。
平塚花澄(ひらつか・かすみ)
四大の力を従え「春の結界」を身にまとう女性。
書店「瑞鶴」の店番でもある。
平塚英一(ひらつか・えいいち、店長)
書店「瑞鶴」の店長。花澄の兄。
自身も異能者だが、「本が湧く本屋」である瑞鶴の性質を
最もよく知る人物。
解説
----
ごく普通の歴史学者・堀川祐司が、吹利の古代史を研究するうちに知った謎
の文献『吹利史』。祐司は気楽な気持ちで本探しを開始するが、捜索は困難を
極める。偶然彼が足を運んだのは、書店「瑞鶴」。本に記された内容とは……?
堀川祐司が『吹利史』の捜索を思い立つ、『吹利史』シリーズの初作品です。
平成11年(1999年)3月上旬、吹利市内での出来事です。
各章の作者と元原稿は下記の通りです。
さがしものはなんですか
1999/3/8 ごんべ
[KATARIBE 12168] [HA06][EP] さがしものはなんですか(仮)
出現
1999/3/8 E.R
[KATARIBE 12173] Re: [HA06][EP] さがしものはなんですか(仮)
知る由もなく……
1999/3/12 ごんべ
[KATARIBE 12261] [HA06] EP: 「『吹利史』」
(解説・文責:ごんべ)
$$
**********************************************************************
========================================================
堀田 拓司 (ごんべ) gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/