[KATARIBE 14860] [HA06P] エピソード『さよなら、そして……』(仮)

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Date: Wed, 18 Aug 1999 11:59:17 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14860] [HA06P] エピソード『さよなら、そして……』(仮)
To: kataribe-ml@trpg.net
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 こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。

 [KATARIBE 14643] [HA06L] チャットログ『鏡介の決断』(仮)
 のEP(エピソード)化です。

 EP化にあたって題名を『さよなら、そして……』と仮に変更しました。

 いい題名って思い付かないよぅ。
 「さよなら」とかってネガティブなイメージあるしなぁ。
 なんかいい題名……ないかなぁ。

 いろいろあって Gallows さん、 BOBU さんとリューさんにはお手数を掛け
ますが、一応エピソード化しました。
 ただし、これからMLで主に後ろを増補していく予定ですので、いつものよ
うな心情描写は(奈津以外)あまり書き足しませんでした。
 結果として、現状では奈津の視点ばかりになっていて非常にバランスが悪い
と思います。(口調修正や心情説明などから入りましょう >お三方)


エピソード『さよなら、そして……』(仮)
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登場人物(現時点)
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向坂次郎(さきさか・つぎお):
  フリーターのおっさん。神出鬼没。口が軽くてお調子者。
  奈津と佳奈にそれぞれ別の所で逢った事がある。

佐久間拓巳(さくま・たくみ):
  自分が幽霊だと思いこんでいる。実は幽体化能力者。
  向坂の見立てでは佳奈に一方的に思いを寄せられていたらしい。

里見鏡介(さとみ・きょうすけ):
  ネクロマンサー。幽霊である遠野勇那と一緒に暮らしている。
  津村姉妹に見せた優しさが、皮肉にも誤解と葛藤を生んでしまう。

津村奈津(つむら・なつ):
  吸血鬼のクォーター。津村佳奈の双子の姉。。
  鏡介が自分の妹である佳奈の事を大切にしていると思いたがっている。

水島緑(みずしま・みどり)
  全身完全戦闘サイボーグの女子大生。
  奈津とは知り合い。佳奈と逢った事もある。

日時と場所
----------
1999 年夏、ある午後のベーカリー。


本筋
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 小見出しはすべて仮のものです。
 訂正などよしなに。

ベーカリー
----------
 ある午後のベーカリー。
 佐久間は心地よく涼みながらししゃもパンを食べていた。
 レジの前ではこの時間には珍しく鏡介がパンを選んでいた。
 カウンターでは緑が物思いにふけりつつ遅い昼食を食べていた。

 心地よい沈黙が支配する、けだるく長い夏の午後だった。

 SE      :「カランカラン」
 緑      :「……んー」

 ふらふらと奈津がベーカリーに入って来た。

 奈津     :「こんにちは……」(暑い……)
 緑      :「あ、こ……こんにちは……」

 鏡介     :「…真夏の日差し」
 佐久間    :「ここで涼んでるとそんな物は忘れそうになるねぇ」

 奈津     :「すみません、ミックスピザパンと野菜ジュースください」
 鏡介     :「…(アイスティとカレーパンを買ってる)」

 奈津     :「奥で食べてきたいんですけど……いいでしょうか」>緑
 緑      :「あ、いいですよ……」

 奈津はのぼせていた。緑を店員と間違えていた。
 緑は緑でつい反射的にそれに答えていた。昔ここでアルバイトをしていた事
があったからだ。

 佐久間    :(アイスコーヒーを飲んでいる)
 奈津     :「はふ……」(パンとオレンジジュースを買って佐久間の
        :隣に座る)

 横に座ってから、やっと奈津は佐久間に気が付いた。
 誰かがそこにいる事自体、座るまで気付かなかったようだった。

 奈津     :「あ、どうもこんにちは……」
 佐久間    :「あ、どうも……」

鏡介の場所
----------
 鏡介はレジをすませた。座れる場所を探す。

 鏡介     :「…(ここにくるのは久しぶりだな)」
 緑      :「ふぅ(あー、冷気が気持ちいいー)」
 奈津     :(気付く)「あれ? どこかでおあいしませんでしたっ
        :け?」
 佐久間    :「(少し考えて)……ああ、いつぞや公園であったんじゃ
        :なかったかな?」
 奈津     :「あ、あのときの……散歩で、怖い目に逢いませんでした
        :か?」
 佐久間    :「いや、夜道には結構慣れてるからね」
 奈津     :「そうですか。わたしなんか、いつまでも慣れませんけど
        :……」

 鏡介がすっと奈津の脇を抜けようとした。

 奈津     :(手が止まる)「あ」

 二人の動きが止まり、視線が一瞬だけ交差する。

 奈津     :「あ……(鏡介さんだ……)」
 鏡介     :「……(津村…奈津…)」

 緑      :「(ごくごく)ふぅ」
 佐久間    :「まぁ、女の子は夜はあまり出歩かない方がいいと思うけ
        :どね(苦笑)」

 佐久間は二人の変化には気付かなかった。
 彼の言葉にはっとして、奈津は視線を佐久間に戻した。
 鏡介はそっと佐久間の隣、彼を挟んで奈津と反対側に腰を下ろした。
 やや無理のあるぎこちない笑顔を佐久間に向ける。

 奈津     :(はっとして、笑顔笑顔)「あ、はいっ、そうですね。
        :バイトなんか入れちゃってるから。あははっ」

 奈津はパンを一口分だけ口に入れ、野菜ジュースを呑んだ。

 奈津     :「ふぅ……おにいさんは、夜の散歩が趣味なんでしたっけ」
 佐久間    :「ま、僕もバイト帰りにふらついてるだけなんだけどね」

 鏡介     :「……うす」

 鏡介は低い声で佐久間に挨拶した。
 奈津とも視線が合う。今度は、奈津も逃げる訳にはいかなかった。

 奈津     :「あ、……こ、こんにちは……(ぺこ)」
 佐久間    :「やあ。顔会わせるのは久しぶりだね」
 鏡介     :「隣人だというのに、なんでだろうね」

 鏡介はまず佐久間と話を始めた。
 奈津は視線をあちこちに流した。緑がカウンターの端に座っている事に漸く
気付く。

 奈津     :「あ、みどりさん」

 佐久間    :「行動時間帯が違うからね…って鏡介君、知り合い
        :なの?」

 佐久間は奈津を指した。奈津はびくりと震える。

 緑      :「え、あ?は、な……なんでしょう?」
 奈津     :「こ、こんにちは……」
 緑      :「あ、こんにちは〜」
 奈津     :「あ、見付けたから、つい声をかけてしまっただけ
        :です……」
 緑      :「あ、そうでしたか(び、びっくりしたですぅ)」
 奈津     :「ごめんなさい……」

 驚いた様子の緑に、奈津はそれ以上言葉を続けられなくなった。
 鏡介もなにも言わなかった。
 佐久間は首をかしげていた。

 なんとなく息苦しい沈黙がその場に立ち込めた。
 誰かの時計がこちこちと鳴っていた。

奈津、自爆
----------
 佐久間    :(何かまずいことを言ったのかな……)
 鏡介     :「…」
 奈津     :「あ、あの、鏡介さん」

 奈津はとうとう沈黙に耐えかねて喋ってしまった。

 鏡介     :「なに」
 奈津     :「佳奈と、……仲良くしてますか?」

 奈津にはつらい言葉だった。だが、他にいい言葉が出てこなかった。

 鏡介の家で二人が抱き合っていた所を見、佳奈が鏡介との関係を口にしてか
ら、奈津は「鏡介の恋人の姉」になろうと思っていた。
 その代わり、自分は新しい何かを見付けようとしていた。それが何であるか
は判らなかったけれど、彼女は取り敢えず昼間の世界にそれを求めようとして
いた。
 実際にはそんなことは彼女の思い過ごしだった。
 佳奈は偶然鏡介の家に泊ったのだし、鏡介が佳奈と同じ布団に寝ていたのは
他に横になる所がなかったせいでもあった。
 佳奈の言葉も、いつも自分より外向きだった姉に対する虚勢や嫉妬から来た
もので、あの一件以後佳奈はほとんど鏡介とは逢っていなかった。

 しかし、奈津はそれを知らなかった。
 彼女は持ち前の性急さで自分なりにすべてを誤解してしまっていたし、また
それを訂正してくれる人もいなかった。
 奈津は、佳奈が鏡介とそれなりの関係にあると思ってしまっていた。

 いや、思おうとしていたのかも知れない。

 奈津     :「ほら、あの子、あんまり素直じゃないし、家に帰っても
        :あまり喋らないから、全然わかんないんですよ」

 鏡介は暫く間を置いてから答えた。

 鏡介     :「ああ…あれから会ってない、色々と忙しかったし」

 奈津はびくりとした。意外な台詞だったが、何故か、そう言われる事を予想
していたような気がした。

 奈津     :「そ、……そうですか……ごめんなさい」

 佐久間は眉根を寄せた。なんか、みょーな雰囲気だな、と思う。

 奈津     :「でも、あ、あれから、あの子、あんまりちょくちょく夜
        :でかけていくこともなくなったし……一時期、取り憑かれ
        :たみたいに『命の光をみてあげなくちゃ』とかいっていた
        :のも収まったみたいだし」
 鏡介     :「…そうなんだ」

 奈津はなんとか笑顔を作った。
 まだ、鏡介が佳奈を好きだと信じていたかった。
 何故そんなことを信じていたかったのかは、その時の彼女には判らなかった。
 そう信じようとすればするほど、心が痛むのに。

 奈津     :「ええ……みんな、鏡介さんのお陰です」

すれ違う意図
------------
 奈津は自分の気持ちは無理に隠して言ったのだが、鏡介にはそれを皮肉とし
て受け取ってしまっていた。

 鏡介     :「別に…」
 奈津     :「あ……」
 鏡介     :「(もふもふ)」
 緑      :「(人間関係……難しそう)」
 奈津     :「でも、あの子が好きになった相手が鏡介さんだなんて思
        :わなかった……てっきり、公園で『命の光』を見てあげる
        :相手の人だと思ってたから」

 佐久間は心の中だけで肩を竦めた、さすがに口を挟みにくかった。

 佐久間    :(…世間は狭いねぇ)
 緑      :(命の光……)

 緑はちらりと三人を見た。『命の光』という単語に聞き覚えがあった。
 が、彼女にはそれ以上詮索していられる時間はなかった。柔和な顔に心配そ
うな色を浮かべつつ、彼女は音を立てないようにしながらそっとベーカリーを
出ていった。

 奈津     :「……」


鏡介、決断する
--------------
 鏡介はカレーパンの最後のひとかけを嚥下した。
 視線をそのまま手元に落としつつ、彼はある決断をした。

 鏡介     :「別に、なんとなく声かけたらほいほい付いてきただけの
        :付き合いだし。案外尻が軽いだけなんじゃないか?)」

 奈津はびくりとして立ちあがった。

 奈津     :「そんなこと、ないですっ」

 ほとんど人と会えない佳奈を、それも、佳奈が想いを寄せているらしい鏡介
がそう見ていることが心外だった。
 いや、それは自分が好きな鏡介が自分達を誤解しているように思えたからか
もしれない。

 佐久間    :「鏡介君、そりゃちょっと言い過ぎだと思うけど…」

 鏡介は無言で立ちあがった。
 そのまま、入り口に向かって大股に歩き出す。
 奈津の悲鳴のような声が追いかけた。

 奈津     :「……鏡介さんっ」

 SE      :からんからん

 緊張感のない雰囲気の小男がドアを押して入って来た。
 モルタルのあちこちに付いた作業服を着ている向坂だった。

 向坂     :「今日は早く終わったぜ〜〜っと、青年、どうしたくらい
        :顔して」

 彼はつかつかとこちらに歩いてくる鏡介に片手を上げた。

 鏡介     :「お疲れさま(無視して出ていく)」
 向坂     :「ん? ああ……」

 SE      :カランカラン

 奈津     :「鏡介さんっ、待ってくださいっっ」(おいかける)

 ふたりはベーカリーから出ていった。
 向坂は呆気に取られてそれを見送っていたが、すぐににやりとした。

おっさんのばか話
----------------
 向坂     :「……ふうん、もててるねぇ、青年」

 向坂は店内を面白そうに見回した。
 すぐにこちらを見てる佐久間に気付いて、左手の親指で背後を指す。

 向坂     :「……修羅場?」
 佐久間    :「みたいですね」

 向坂はテーブルの上に置かれたトレイやごみを見て、ふんふんと頷いた。
 彼なりの納得をしたらしかった。

 向坂     :「……君も当事者かね、青年」
 佐久間    :「いえ、偶然居合わせただけです」
 向坂     :「はは、そいつは災難だったな」
 佐久間    :「人間関係って難しいですよ」
 向坂     :「そうだねぇ」

 向坂は出てきたアルバイトに、いゃぁご苦労さん、と人の悪い笑みを浮かべ
てから、バゲットとマーガリンを買って佐久間の向かいに座った。

 向坂     :「なあ、出歯亀根性丸出しにして聞くんだが、あいつ、…
        :…って青年だが、ふたまたでもかけてたのかい」
 佐久間    :「詳しい事情は知らないんですよ」
 向坂     :「フム……(もしゃもしゃ)ん?」

 向坂は佐久間のいぶかしむような視線に気が付いた。

 向坂     :(苦笑)「あの青年とお嬢ちゃんにはちと別々のところで縁
        :があってねえ」
 佐久間    :「あ、2人と知り合いだったんですか」
 向坂     :「ああ。しかしまぁ、難儀な奴等だ。片方は趣味が変だ
        :し、もう一方の妹は自分が吸血鬼だと思い込んでるしな」

 事情を知らない人の無責任な発言は続く。

 向坂     :「妹の方にもあったが……なんでも公園であった奴に人目
        :ぼれしたとかで」
 佐久間    :「……まぁ、世の中色々ですよ」
 向坂     :「ふられたんで腹いせに姉貴の彼氏でも取っちゃった、
        :なんてとこだったりしてな。ははは」

 佐久間はむせた。それは……知らなかった。

 佐久間    :「げほっ……そうなんですか?」

 向坂は水も飲まずにバゲットを一本腹に収めてしまった。

 向坂     :「あはは。推測推測。妄想。しかし、男に振られちまった
        :ってとこは事実」
 佐久間    :「……」
 向坂     :「しかしまあ、あれだ。男の方も酷いね。妹の方の冗談く
        :らい付き合ってやっても良かったんじゃないかな。ありゃ、
        :まともにいろいろ恋愛したいんじゃなくて、その雰囲気が
        :欲しかったんだと思うんだな、俺は」

 そこで、大きく反り返って伸びをしてから、ばりばりと頭を掻きつつ、独り
言のようにぼそぼそと続けた。

 向坂     :(ぼそぼそ)「いのちのひかりだかなんだかしらないが、見
        :たいんなら見せてやったって良かったんだよ。どうせ作り
        :事だろうし、見せて減るモンじゃないだろうしなぁ」
 佐久間    :「……ま、世の中色んなやつがいるって事でしょうね」
 向坂     :「まあ、事実が俺の妄想どおりなら、妹の相手が遠因って
        :やつなんだろうなぁ」

 向坂は楽しそうに笑う。ネタが出来たと思っているのかもしれないし、ただ
冷笑しているのかもしれない。

 佐久間    :「そういうこと、興味本位で話しをしない方がいいと思い
        :ますよ。本人達は真剣なんですから」
 向坂     :「そうだな。こりゃ失敬。
        : しかしまぁ、なんだね。ああいうのは、当事者全員が真
        :剣であるべきだな。そうは思わないか、青年」
 佐久間    :「まあ、そうあるべきでしょうけど。結局、その人次第で
        :しょうね」
 向坂     :「まぁね。ま、得てして、そういうのがキャスティングボ
        :ードを握ってたりするんだよな、これが」
 佐久間    :「というと?」
 向坂     :「いやまあ、これも妄想さ。妄想〜〜」

 茶化すように言って立ち上がる

 佐久間    :「妄想、ですか……」

 向坂はおやと振り返った。

 向坂     :(意外そうに)「まじめな奴だなぁ、君は。そんなに考え込
        :むなよ、他人事だろう? 疲れちまうぜ、他人のことで悩
        :んでると」
 佐久間    :「……そうですね」

 とは言ったものの、やはり佐久間は考えている。

 向坂     :「ふん……(まさか全部当たってたりして……ンなバカな)」
 佐久間    :「どうしたんですか?」
 向坂     :「いやあ、こいつも妄想妄想。……はは。しかし、なんだ
        :ね、まじめだな青年」
 佐久間    :「そりゃあ、真面目ですよ」

 その言葉に向坂はまたなにか興味を抱いたようだった。
 元の場所に座り直す。

 向坂     :「仮に、君がその妹を振った奴だったら、どうするね?」
 佐久間    :「さぁ? 実際に当事者になってみなきゃ判りませんよ」
 向坂     :「ふん……まじめそうだから、まともに悩むかと期待した
        :んだが……まぁいいか」

 向坂は肩をすくめた。立ち上がり、じゃあな、青年と佐久間に片手を上げ、
ごちそうさんとレジに声を掛けてから、悠然とドアの外に消えていった。

 佐久間    :(……ほんと、人間関係ってのは面倒だね)

 佐久間はため息をついた。
 少ししてから佐久間も店を出ていった。

 ベーカリーには沈黙が戻った。アルバイトはふっと溜息を吐いた。


−−続く?−−


$$


 それでは失礼します。


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 Djinny(ランプの魔物)
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