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Date: Wed, 11 Aug 1999 10:58:49 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14783] [HA06P] エピソード『好意の条件』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <19990811105849KY.aMq@geocities.co.jp>
X-Mail-Count: 14783
こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。
夏（チャット）休み特別企画・溜まってるログのエピソード化ということで、
初登場から失恋までの奈津を追い掛けてみました。
うーむ。僅か一か月にいろいろあったのですにゃ。まるで前後編の漫画のご
とくであります。
今から考えればひどくオーバーペースでした。
コミュニティの流れを無視して申し訳ありませんでした。
（いずみみさんに「ジェットコースター」と言われるのも分かるわな）
エピソードは全て暫定稿です。
今回は第２弾・おそらくログの中ではもっとも奈津＆鏡介らしい、
『好意の条件』です。日付を見ると７／８ってなってますねえ。
この時点でははっきりしていなかった設定を、少しくどいですがあちこち
に（行動の補足という形で）ばらまいてみました。邪道かも知れませんが、
それなりに纏められているかと思います。
なお、この稿では会話文にはなるべく手を入れないようにしましたので、
やや読みにくいかも知れませんが、ご了承ください。
ぎゃろぅずさん、鏡介の台詞や行動の訂正などよろしくお願いします。
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エピソード『好意の条件』
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登場人物
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里見鏡介（さとみ・きょうすけ）
退魔（死霊）術師。遠野勇那（とおの・ゆうな）と暮している。
風見アパートの住人。美術系の予備校に通っている。
津村奈津（つむら・なつ）
吸血鬼のクォーター。
昼間に弱い体質の為、夕方から授業のある定時制高校に通っている。
好意の条件
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日も落ちて、夕焼けの残光が西の空の雲をバイオレットに染めていた。
奈津と鏡介は堤防の上を歩いていた。
予備校帰りの鏡介と、学校が休みなのでアルバイトの申込みをしてきたとい
う奈津が偶然顔を合わせただけの話だった。
少し回り道をして帰ろうとする鏡介に、奈津は赤い自転車を引いてついてき
た。それほど口が達者な二人ではなかったから、それほど話が弾むわけでもな
く、ただ、世間話のようなものを交わしているだけだった。
ふと、奈津が、鏡介さんは「好意の条件」ってなんだと思いますか、と尋ね
た。昨日学校で年上の生徒たちがそういう話で盛り上がっていたのだ。
鏡介は首を傾げた。
鏡介 ：「……好意の条件……」
奈津 ：「……よく、わかんないですぅ、難しくて……」
奈津はしょげた。実は、わからないということで大分からかわれていた。
鏡介 ：「……答えは自分の中にあるよ」
奈津 ：「……自分の中って言われても、よくわかんないです……」
鏡介 ：「……ふーん、まあ確かにわからないというのも一つの結
：論だよね」
鏡介の頭の中をちらりと影が掠めた。
勇那のようでもあり、無道千影のようでもあった。
鏡介 ：「……いくら考えた末の結論も自分の都合のいいように解
：釈しただけのモノかもしれない」
それは自分の心に対する呟きだったが、奈津はそうは取らなかった。
彼女は口を尖らせた。
奈津 ：「そんなぁ……なんかずるいです、鏡介さんって(はっ)
： えとあの、さとみさんって」
鏡介 ：「……どっちでもいいよ(と、口だけで笑う)」
奈津 ：「あ、でも、そのあの(赤)
： ……(こうやって笑ってる鏡介さんと、ぼーっとしてる
：鏡介さん、なんだか別の人みたい)」
うす暗い中で、奈津はかすかに誤解した。彼女には、気だるさに浸食された
鏡介の笑いが、闊達な時の彼の笑顔に見えていた。
鏡介 ：「……(夜に華開く黒い月が頭の中の虫を呼ぶ)」
奈津 ：「……(なにを考えているんだろう)」
鏡介は奈津の視線に気付いた。
ポケットから、持ち歩いているガムを取り出し、こちらを見上げている小柄
な少女の目の前に差し出した。
鏡介 ：「……奈津、ガムをあげるよ」
と言って自分の口にも一枚放り込んだ。
奈津 ：「あ、ありがとうございますぅ……」
奈津は慌ててそれを受取り、はっとして鏡介の顔を見直した。
奈津 ：「あ、あのぅ、鏡介さんっ」
鏡介 ：「なんだい？」
奈津 ：「なんでもないですぅ……
：(いま、なつって呼んでくれた……)」
たったそれだけのことたったが、彼女にはそれがひどく嬉しいことに思えた。
これまで、男性で自分を自然に呼び捨てで呼んでくれる人はいなかった。
小学校でも中学でも、太陽の光に強くない奈津は、表向きは病弱と言うこと
で、外に出る授業にろくに参加しなかった。
自然と、彼女は周囲から同情と庇護を受ける存在になった。それは、ある意
味では当然の帰結だったが、同時に、周囲に対して常に遠慮の気持ちを持つよ
うな気分を彼女に植え付けていた。
表向きは明るく振る舞っていても、いざとなると遠慮が勝って引っ込み思案
になってしまう彼女にとっては、幼い恋愛すら遠い存在だった。
鏡介 ：「ふーん……(渦巻く混沌が足を地の底に引きずる感じか
：な……)」
鏡介はイメージと現実のの間を彷徨っていた。
ガムを噛むと、その口の中に広がる感触が、彼を僅かに現実側に引き戻すよ
うだった。
涙の意味
--------
月が出ていた。大きな月だった。
梅雨明け前には珍しい、明るい月夜だった。
鏡介のアパートから見る月は、余り良い眺めとまでは行かなかったが、それ
でも奈津は窓を大きく開けて月を見ていた。
鏡介 ：「……夜は気持ちいいな」
奈津 ：「そうですね。わたし、夜の方が好き。
： 昼間はちょっと苦手なんです」
鏡介 ：「……夜は秘密を包み隠してくれる
：(殺人とか死体損壊とか……)」
奈津 ：「あ、なんかかっこいいですぅ、その台詞」
そして、その死者を救済するのが鏡介の使命だった。
彼の思考を知るはずもない奈津は、屈託なく見当違いの言葉を口にした。
ややあって、些細なことを尋ねるにしては臆病すぎる仕草で、彼女は鏡介を
見た。
奈津 ：「鏡介さんも……昼間は苦手なんですか……？」
鏡介 ：「……起きれないから、苦手と言えば苦手かな」
奈津 ：「あ、そうなんですか……
：(やっぱり、その程度ですよね、普通の人なら……)」
奈津の心に、急に言いようのない寂しさが押し寄せてきた。
とうして、自分は吸血鬼の血なんて引いているのだろう、と思う。
それさえなければ、普通の人と同じはずなのに……
鏡介 ：「特に夏の昼は腐りやすいしね……」
鏡介は元の話に戻った。死体の工作をするには夏は最適ではないかとも思う。
夜間じっくり作業した跡を昼間の腐敗かきれいに隠してくれる。
奈津 ：「……」
奈津は鏡介の言うことをもうほとんど聞いていなかった。
ただ、涙だけが込み上げてきていた。
鏡介 ：「……奈津、なんで泣いてるんだい？」
奈津 ：「……え、な、泣いてなんて、ないです」
奈津 ：(慌てて涙を手の甲で拭いて)
：「あ、あははっ、どうして涙なんかでてるんだろ」
鏡介 ：「……いいんだよ、泣いて(生きてるウチは仕方ない)」
死んでしまえば、泣くことは出来なくなるのだ。
奈津 ：「……」
奈津は下を向いた。ややあって顔を上げた時には、彼女の頬には涙が流れて
いた。
奈津 ：「……鏡介さぁん」
鏡介 ：「……」
鏡介をまた気だるさが襲った。彼は感情の乏しくなった顔で、奈津を眺めた。
奈津には、月明りの逆光で鏡介の表情は見えなかった。
それよりも、その前の言葉が耳に残っていた。
奈津 ：「……ううっ……ひっく……」
奈津 ：(胸にしがみついて)
：「うわぁ〜〜〜〜ん」
燻っていたものに火が点いたようだった。どうしてこんなに涙が出るのだろ
うと思うくらい、勢いよく彼女は泣き続けた。
鏡介 ：「……(手のやり場に困ってとりあえず背中に回す)」
鏡介 ：「……(ぼーっと月見てる)」
血と牙
------
どのくらい経っただろうか。やがて、奈津の泣き声は小さくなり、そのうち
に止んだ。彼女は自分の涙でぐしょぐしょになってしまった鏡介の胸から顔を
上げた。
奈津 ：「……ごめんなさい、鏡介さん」
鏡介 ：「……別に、構わないよ」
奈津 ：「……わたし、変ですよね」
鏡介 ：「そうかい？ 全くそんなことは感じないよ」
気負って言った台詞ではなかった。十五、六くらいまでの時期には、こうい
う風に情緒が不安定になることがあるものだった。ごく普通の思春期の少女で
あるように鏡介には思えた。
鏡介 ：「変だとしたら、それはそう思うことに問題があるん
：だ……。
：(わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい……
：というCMがあったな)」
奈津 ：「……でも、わたし、人間じゃないし……
：(優しいんだ、鏡介さんって)」
鏡介 ：「別にそこに大した意味はないよ、問題なのはどのコミュ
：ニティに生きれるかということだ。奈津は……人間の領域
：に住んでいるよ(勇那や彼女もそうだなあ)」
勇那の苦笑いする顔と千影の顔が過った。
奈津 ：「……わたし、吸血鬼なんです、だから、だからこの間
：だって鏡介さんの血を吸っちゃったし」
おずおずと、奈津は鏡介に告げた。
ひとにこの話をするのは初めてだった。自分が触れたくないせいもあって、
ひたすら、隠し続けてきたのだった。
奈津 ：「……い、今だって、牙が……」
鏡介 ：「ふーん、格好いいじゃないか」
鏡介は取り敢えず月並な台詞を口に出した。
それよりも、彼としては初めて間直に見る牙の方に興味があった。
彼は片手で奈津の頬からこめかみの辺りを押え、空いている方の手で色の着
いた眼鏡を外すと、小さな牙に触れた。
鏡介 ：「まあそんなに気になるのならば自制の訓練をすればいい
：よ」
奈津 ：「はう……」
間直に顔を近づけられて、奈津はまた真っ赤になった。
鏡介 ：「……(牙か、僕も欲しいな)」
奈津 ：「優しいんですね……そんなに優しくされたら、
：わたし……」
奈津は俯いて口の中でもぞもぞと呟いた。
鏡介が何気なく言ったつもりの言葉が、奈津にはとても優しいもののように
思えていた。
鏡介 ：「……(牙……牙……)」
鏡介は白く輝いている牙を撫でた。ふと、自分が血の幻想に酔っている事に
気が付いたが、彼はその麻薬のような心地好い陶酔感に浸った。
奈津 ：「好きになっても……いいんですか？
： 鏡介さんのこと……」
奈津は顔を上げた。金色の瞳が鏡介を見返した。ざらついたような感覚とと
もに、鏡介は現実に引き戻された。
鏡介 ：「……え？ 恋愛は自由だよ、好意を押さえる必要はない」
奈津 ：「……」
鏡介 ：「……もうこんな時間だ、泊まっていくといい」
奈津 ：「……あ」
奈津は腕時計を見た。終電は行ってしまっていた。
奈津 ：「で、でも……」
鏡介 ：「……」
鏡介は軽い寝息を立てていた。
奈津 ：「鏡介さん？」
声を掛けたが、答えはなかった。
奈津はきょろきょろと辺りを見回し、上に掛けてもよさそうな物を見付けて
鏡介に掛けた。
鏡介 ：「……(ぼそ) 端的に言えば君も僕に望みを与えてくれる
：大切な存在だよ、夕焼けの奈津」
奈津は振り向いた。鏡介は向こうに寝返りを打った。
鏡介 ：「……」
奈津は一瞬泣き出しそうな顔になった。が、そのまま鏡介の耳元に顔を近づ
けると、聞き取れるか聞き取れないかの声で囁いた。
奈津 ：「鏡介さん……今日は、ありがとうございました」
そのまま、思い切って頬にキスをし、何か熱い物に触れてしまったかのよう
にさっと離れると、真っ赤になって戸口までこそこそとさがった。
奈津 ：「好きです、きょうすけさん♪」
小さな声で言うと、彼女は慌てたようにドアを開け、アパートの廊下を走っ
て行った。
鏡介 ：「まあいつもどおりにやるさ」
柔らかい肉の塊がおしつけられた部分を触りながら、鏡介はひとりごちた。
指先にはまだ牙の感触と、なぜか無雑作に触れていた奈津の頬と髪の感触が
あった。
鏡介 ：「(……死者救済、それが僕の……)」
不意に強烈な気だるさが襲ってきた。時折やってくる頭痛も。
鏡介 ：「(そう、僕はその為の存在だ) 勇那……頭が痛い、虫が
：居る……」
勇那は返事をしなかった。
呆れているのかもしれなかったし、何処かに出掛けているのかもしれなかっ
た。
気だるさが去ったら、使命を果たしに行こう、と鏡介は思った。
こういう月の美しい日は、果たすべき使命も多いはずだった。
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なかなか……見事なずれでありました。
しかし、こう編集してみると、落語のなにかのように、どちらもそれなりに
会話した気分になっているのが笑えます。
本来、こういう言葉遊びこそ、Ｊ指定のログに求められているのでしょうね。
追伸
鏡介、どうしても巧い具合に「サイコさん」にできませんでした。
少し壊れかけたハンター、くらいのイメージですが、これについては修正な
どよろしくお願いします。
それでは失礼します。
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Ｄｊｉｎｎｙ（ランプの魔物）
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