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Date: Fri, 06 Aug 1999 23:05:46 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14709] [HA06P] 『解き放たれし時』序章、暫定二版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199908061404.XAA01581@mail.geocities.co.jp>
X-Mail-Count: 14709
こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。
エピソード『解き放たれし時』序章、暫定二版(シナリオ風)
をお目に掛けます。
ごんべさん、球形さん、極隊さん、修正などありがとうございました。
ご指摘のあった部分などを手直ししましたのでご覧ください。
なお今回、表記の統一を取るために、ト書き部分に付いてはシナリオ台本の
ト書き風にしてみました。個々の描写の美しさは損なわれますが、全体として
あるリズムが生まれることを期待してみました。
成功しているか失敗しているかについては自信がありませんが……
なお、暫定版は[KATARIBE 14563]、
関連するレスは同[14568]、[14598]、[14618]です。
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エビソード『解き放たれし時』序章
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登場人物
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伊左見由摩 (いさみ・ゆま)
本編の主人公。古代文明の有機コンピューター。
自分でも気付かない何かを秘めているらしい。
伊左見光 (いさみ・ひかる)
由摩の兄。同じく、古代文明の有機コンピューター。
由摩の秘密の一端を知っている。
滝郁代 (たき・いくよ)
変身能力者。対象となった人物の性格を獲得する。
が、能力は使わないことにしている。
夜の公園を通りかかる
津村奈津 (つむら・なつ)
吸血鬼の血を引く少女。その力は未覚醒である部分が多い。
アルバイトの帰り道、由摩を見かける。
月の光の中にひとり
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由摩 :「……私の呪縛は、何時解き放たれるのだろう…」
吹利県吹利市、住宅地近くのとある公園。
丸い月の出ている晩。
由摩、ぽつんと独り立ち尽くしている。月を見上げ、呟く。
由摩 :「……私の魂の安らぐ時は来るのだろうか…」
虚ろな眼差し。
月を見ているのか、或いは、瞳に映るのは虚空なのか。
公園の脇の道路を奈津の赤い自転車が通りかかる。
奈津、アルバイト帰りである。なにやら疲れている。
奈津 :「はあ、晩くなっちゃった〜〜」
奈津、ふと公園の中を見る。
小さな人影がぽつんと独り、まるで彫像のように立ち尽くしている。
奈津 :「あれ……こんな時間に誰だろう……?」
奈津、自転車を引いて公園に入る。
奈津 :「あ、由摩ちゃん、どうしたのこんな時間に」
由摩、ゆっくり奈津を見る。が……その顔には反応は無い。
奈津 :「……?」
由摩、また月を眺めている。
奈津、自転車のスタンドを立てて歩み寄る。
奈津 :「どうしたの由摩ちゃん、こんな時間にこんなところで」
由摩 :「月は…いつ見ても変わらないのに……」
奈津 :「ゆ、由摩ちゃん……どうしたの?」
由摩、もう一度奈津を見る。だが、目は虚ろ…。
由摩 :「…どうして、人は運命に縛られ続けなければならないの
:でしょうか?」
奈津 :「え? な、なに……」
由摩の口調は、明らかにいつもとは違う。
由摩 :「…どうして?…」
奈津、由摩の肩を持ってゆさゆさとゆする。
由摩、奈津を見ている。が、そこには感情のきらめきはない。
奈津 :「し、しっかりして、由摩ちゃんっ」
由摩の目から、涙がこぼれる。
奈津、思わず手を止めてしまう。
奈津 :「あ……」
由摩、ただ涙を流している。瞳には悲しみの色がある。
奈津、たじろぐが、かがみこんで目の高さをあわせ、つたない言葉で
慰めようとする。
由摩 :「……」
奈津 :「……悲しいことが、あったの?」
由摩 :「……かなしいこと…多分、そうかもしれない…」
奈津 :「……由摩ちゃん」
奈津には由摩がいつもの明るい少女に見えない。
まるで、疲れきった大人の女性のようだと思う。
奈津 :(やっぱり、ちょっと変だ……)「おうち、かえろ?
:ね?」
郁代の登場
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郁代、切らした煙草を買った帰りに公園に差しかかる。
ふと、月夜に2人の少女のシルエットが視界に入る。
郁代 :「こんな時間に……? なんや?」
郁代、近づいていく。次第に話し声が聞こえてくる。
片方のせっぱ詰まった声に聞き覚えがある。
奈津の声 :「泣きたかったら、泣いてもいいから、ね? かえろ?
:独りで歩いていたら、みんな心配するよ」
奈津、必死に、通じない言葉を由摩にかけている。
と、人の気配を感じ、はっと振り返る。
奈津 :「あ、……こ、こんばんわ」
郁代、振り向いた顔には見覚えがある。
郁代 :「奈津ちゃん……? どうしたん?こんな時間に……?」
心を解き放つもの
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由摩 :「……あなたは、私の心を解き放つことが出来ますか?」
由摩、奈津に声を掛ける。真摯な視線。
奈津 :「え? ときはなつって……」
向き直る奈津。由摩の視線が射るように彼女の目に飛び込んでくる。
しかし、由摩は奈津の声には答えない。
郁代 :「?由摩……ちゃんやったっけ?
:どうしたん?2人とも?」
奈津 :「あの、この子、こんな時間に月を見上げてて……」
郁代 :「一人で……?」
奈津 :「はい、他には誰も……わたしが見た時には」
郁代 :「月を……?}
郁代、月を見上げる。
郁代 :「月……解き放つ……心を……」
由摩も再び月を見上げる。
由摩 :「……幾百、幾千の時が流れても…月だけは変わらないの
:ね…」
郁代、つられるようにして月を見詰める。
月の光で心が乱されているようにも見える。
郁代 :「月……不変であり、変化でもある……満ち欠け……?」
郁代の体の輪郭が、一瞬、あたかも月の光に溶けるかのようにぼやける。
奈津、由摩の肩を掴んだまま、自分もどことなく辛そうに月を見上げる。
が、すぐに視線を逸らし、郁代を見、その姿に驚愕する。
奈津 :「い、郁代さん……?」
郁代 :「……は、はい?」
郁代、はっと奈津を振り向く。
一つ首を振ると、二人の風下に立ち、煙草をくわえる。
その姿は既に普段のそれに戻っている。
奈津 :「ど、どうしたんですか、急に……」
SE:「ぼっ」
ライターの炎が揺らめき、幽鬼のように郁代の顔が浮かび上がる。
奈津 :「なにか、月に吸い込まれそうな雰囲気でしたよ……」
郁代 :「いや、ごめん。月を観てると確かに吸い込まれそうに
:なるんだ」
由摩 :「……」
郁代 :「いろんな想いが……ね」
郁代、煙を吐き出す。由摩に視線を向ける。
郁代 :「で、由摩ちゃん。どうした?」
涙の意味
--------
奈津、ましまじと由摩の顔を見る。
郁代、不思議そうに由摩を見る。
月の光に涙を流す由摩が浮かび上がっている。
由摩の口から、細くさみしげな声が漏れる。
由摩 :「…人も、国も、文化も…移りゆくのに…私も変わること
:はないの…」
光 :「おーい…由摩〜…」
遠くから呼び声がする。
郁代、ぴくりとする。
奈津、耳をそばだてる。
二人の体から、ある種の緊張感が抜けていく。
奈津 :「あ、光さん」
郁代 :「(誰だ?)」
奈津 :「由摩ちゃんのお兄さんです」
奈津、まるで郁代の心を読んだかのように答える。
郁代 :「ああ、そういや一回会ったことあったけ」
光 :「…おや?奈津さんじゃないですか…」
光、二人の姿を見付けて駆け寄ってくる。
かがんだ奈津の前で立ち尽くしている由摩に気付く。
光 :「あ、由摩!ここに居たのか」
奈津 :「あ、光さん。由摩ちゃんが変なんですっ」
光 :「由摩が変?」
奈津 :「ええ。ほら……」
奈津、少し由摩の体を離す。
光、蒼ざめて由摩の頬に手を遣る。
光 :「由摩?……由摩っ!!……」
由摩 :「………」
奈津 :「由摩ちゃんっ!」
光 :「ほらっ、しっかりしろ!お兄ちゃんだぞ。」
由摩の瞳が、次第に精気を帯びて来る。
由摩 :「………ほえ?」
奈津 :「よ、よかったぁっ」
奈津、思わず由摩の肩を抱きしめる。
奈津 :「どうしたかと思っちゃったよ、由摩ちゃん」
郁代、得心したように頷く。
郁代 :「(ほう……親族の呼びかけには応じるか……)」
「連想」
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郁代、ちらりと月を見上げる。
口にくわえた煙草の光がぽつんと赤く浮かんでいる。
郁代 :「(月の……魔力か……?)」
郁代、しかしすぐに視線を戻す。
郁代 :「ま、なんにせよ正気に戻って良かった」
奈津 :(顔を上げて)「……はい」
光 :「由摩っ、大丈夫か?お兄ちゃんだぞ、分かるか?」
由摩 :「お…にい…ちゃん?…」
郁代 :「光君だっけ、由摩ちゃんたまにこうなるの?」
郁代、さりげなく問い掛ける。
光、一瞬躊躇した後、苦笑して首を横に振る。
光 :「……うーむ…こんなことは初めてですよ…」
郁代、ふと何かに気づく。
郁代 :「(月……、不変……、流転……、光?)」
光、内心舌を鳴らす。
光 :「(まずいな……もしかして、『封印』が解け掛かって
:いるのかな…)」
奈津 :「え? 何か言いましたか?」
奈津、いぶかしげな表情でこちらを向く。
光、何故かそれに焦りに似た物を覚える。
光 :「いえ、別に何も…(汗)」
郁代 :「ん、女の子の一人歩きする時間じゃないしな」
郁代、努めてノーマルな言葉を口にしながら、ちら、と奈津をみる。
奈津、目を瞬いてから、郁代に応える。
奈津 :「ええ……あ、わたし、バイトの帰りなんです」
郁代 :「ん。」
光 :「え?…ああ、ご迷惑おかけしました。」
郁代、内心で思考を巡らせている。
郁代 :「(光……か)」
奈津 :「(郁代さん……何をかんがえてるんだろ)」
郁代、奈津の視線を感じて口を開く。
郁代 :「まあ、由摩ちゃん具合悪そうやし、連れて帰った方が
:ええで。」
光 :「…うーん…そうですね。」
郁代、再び月を見上げる。
郁代 :「(鍵……か?)」
郁代、また首を一つ振る。
煙草を放り投げ、赤い光を踏み消す。その僅かな音が大きく響く。
「帰宅」
--------
由摩、奈津の腕の中でもぞもぞと動き、顔を光にむける。
由摩の瞳にはいつもの光が戻っている。
由摩 :「…ねぇねぇ、お兄ちゃん、私なんでここにいるの?」
奈津、気付いて由摩の体をそっと離す。
奈津 :「由摩ちゃん(……そうか、覚えてないんだね、
:なにも……)」
由摩 :「あ、奈津さん、こんにちはっ」
奈津 :「こんばんわ、だよ。こんにちはじゃなくて」
由摩、元気よく挨拶をする。
奈津、微笑んで由摩の鼻をちょんとつつく。
今のことは本人に知らせない方がいい、と、半ば本能で感じ取る。
由摩、訳が分からないなりに微笑む。
由摩 :「ふふふ…(にこっ)」
奈津 :「お兄さんに連れて帰ってもらってね。もう、ひとりで出
:歩いちゃ駄目だよ?」
由摩 :「ほえ?」
奈津 :「えーっとね(どう説明しよう……)」
光、由摩の手を取る。
光 :「ま、まぁ、今日の所は、由摩も無事見つかって良かった
:と言うことで…(苦笑)」
郁代 :「……ま、気いつけえや。何が起こるかわからへんし……」
:>光
光 :「んー…夢遊病の一種かな?……そうですね、とにかく
:今日は遅いですから、これで帰りますよ」
奈津 :「はい。良かったぁ、お兄さんが来てくれて」
奈津、立ち上がる。
郁代、奈津の肩に手を置き、由摩と光に笑いかける。
郁代 :「ま、奈津ちゃんはこっちで引き受けるから、
:……がんばりや」
奈津 :「じゃ、由摩ちゃん、またね」
光 :「はいよ。じゃあ、これで…」
由摩 :「ばいばーい☆」
郁代 :「由摩ちゃんお休みな(笑)」
4人、それぞれに手を振って別れる。
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由摩…彼女に隠された、真の「心」とは?
そして、真の「心」が解き放たれる時……一体、何が待っているのか?
次回、EP『解き放たれし時』第一話「愁い」
「運命は……悲しき過去と共に…」
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Djinny(ランプの魔物)
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