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Date: Wed, 04 Aug 1999 23:42:56 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14642] [HA06P]:EP: 『そのもの、深き淵より ( 仮称) :序章』(暫定版)
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <199908042342561jFc?B@geocities.co.jp>
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こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。
大袈裟な名前を冠したエピソードを編集してみました。(暫定版です)
しかし、その内容はただの日常だったりします(今の所)。
かけるん//美化なしモードです(笑)。
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エピソード『そのもの、深き淵より(仮称):序章』
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登場人物
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蒼月かける
ねこみみフェチのナイスガイは仮の姿、その実は光を操る異能者。
津村奈津
吸血鬼のクォーター。粗忽者のお騒がせ娘。
ある晴れた昼下がり
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じーりじり。
夏の日差しが真上からそそいでいる。
吹利市の上空には雲一つ居座っていない。今日も厭になるくらい良い天気だ。
愛用の自転車にまたがった蒼月かけるは、「はずれ」と書かれたアイスの棒
を口に咥えながら、双眼鏡を目に当てていた。その先には市民プールがある。
かける :「きょうもいじょうなしっと」
あ、読者諸君、誤解してはいけない。かけるがプールを見ているのは、何割
かは確かに彼の趣味性に依るものだが、残りの理由はプールの監視にある。
と言って彼は監視員というわけではない……とか書くと、さらに誤解を呼び
そうだが、ともかく、彼は自分しかできない監視を義務感から行っているのだ。
しかし、彼の秘密裏の監視は、忽ちの内に白日の下にさらされてしまう。
声 :「ふー……あ、かけるさーん」
かけるの口が「あ”」の状態まで開いた。歯形の付いたアイスの棒が道に落
ちた。
声 :「またプール覗いてる〜〜」
かけるは声の主をよく知っていた。思い込みが激しくて粗忽者の少女だ。
名前は津村奈津。夜しかまともに動けない癖に、近頃昼間も出没している。
悪意はないのだが、今の彼にとっては一番厄介な相手の一人だった。
ベーカリーあたりなら相手をしてやっても良いが、今はやばい。
何しろ、純然たる趣味で同じ行動をしている所を、前に一度見られているか
らだ。
かけるは咄嗟に自転車をウイリーターンさせると、座りの悪いベルを派手に
鳴らしながら、すばらしいスタートダッシュで逃走を始めた。
奈津 :「あっ、待て〜〜」
かける :『は〜はっはっは。また会おう明智君』
逃走時に唱えると絶対捕まらないという取って置きの呪文を高らかに唱え、
かけるは一目散に逃げ出した。呪文の効果は完璧で、声はどんどん後ろに遠ざ
かって行く。
(人間と自転車との速度差などと言う些細な事は、この際考えてはいけない)
お騒がせな追跡者
----------------
奈津 :「かけるさーん、はあっ、はあっ……くぅ」
執拗な追跡者は終に諦めたようだった。かけるは念の為に後ろを振り向く。
麦藁帽子に水色のワンピース姿の敵は、路上に倒れていた。
……勝った。
しかし、彼はこのささやかな勝利に酔うことは出来なかった。知り合いの女
の子が道路にへたっているのをほおって置くわけにはいかない。
かけるはゆっくりと奈津の所に戻った。
かける :「おーい。生きているか」
奈津は返事ができないようだった。ぐた〜〜っとしてかけるをぼんやり見て
いるだけだ。汗はさほど出ていないが、顔が真っ赤だった。
無論、「この俺様に声をかけられて照れてるんだろう」などと思い上がるか
けるではなかった。彼はある種の浪漫を持ってはいたが、こういうことには現
実的だった。
かける :「日射病かのぅ」
かけるは自転車を道路脇の歩道に停め、とりあえず小柄なゆでだこ少女を日
陰になっている軒下にずりずりと引っ張りこんだ。
段になったコンクリートのところに自分の持っていた大き目のハンカチを広
げ、その上に座らせる。
奈津 :(ぼそ)「……トマトジュース欲しい……」
奈津はお礼の前に要求の方を口に出した。
かけるはそれを礼儀正しく黙殺した。
すっと手を伸ばして額に触れる。
かける :「熱は……」
熱はあるのかどうか良く分からなかった。額はけっこう熱いことは熱く、の
ぼせていることは良く分かった。
誤解の元
--------
奈津 :「ごめんなさぁい、なんかご迷惑かけちゃって……」
かける :「なにか買ってこよう」
奈津 :「ありがとうございます……」
近くの商店の軒先に清涼飲料水の自動販売機がある。かけるはトマトジュー
スを探したが、その販売機には見つからなかった。
彼は仕方なくコーラとスポーツドリンクを買って戻った。
脇に腰を下ろし、一本を奈津に差し出す。
かける :「コーラで良かったかな」
奈津 :「はい」
あ、いかん、こういう時にはスポーツドリンクの方が良かったんだっけ、と
かけるが思っている内に、奈津は喉を鳴らして黒い炭酸飲料を異に流し込んで
しまっていた。
奈津 :「……ふー。(じーっとかけるんを見て)
: ありがとうございます」
かけるは無言でスポーツドリンクを飲んでいる。若干ばつが悪いような気分
がするが、相手が気付いていないからよしとしよう。
奈津は火照ったような顔色のまま続けた。
奈津 :「このあいだも、助けてもらっちゃって……」
かけるはちびちびとスポーツドリンクを飲んでいる。奈津の視線がスポーツ
ドリンクに当てられているような気がしてならないが、こうなると慌てて缶を
干すのも妙な話だった。しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
ややあって、ドリンクを飲み終えたかけるが視線を奈津に向けると、彼女は
少し怒ったような顔をしていた。
やはり気付かれたか、とかけるは緊張する。
奈津 :「むー。かけるさんっていいひとなのに、そーゆーとこが
:駄目」
かける :「ん?」
ほら来た、とかけるは覚悟を決めた。さりげなく焦点である筈の缶を彼女か
ら見て死角になる所に置く。今更遅いのだが。
が、奈津はこちらを見て笑っている。どうやら別のことを気にしているらし
い。
奈津 :「もっと優しくすれば、もっと印象いいのに」
かける :「そうか」
奈津 :「彼女にもそーゆー接し方するんですか〜〜?」
かける :「(うぐっ)」
半ばほっとした所に、予期せぬ方向からダメージが来た。
かけるの脳裏をさまざまな映像が駆け抜ける。
走馬灯と言うのは死に際だけでなく図星を指された時にも回るもののようだ。
奈津 :「嫌われちゃいますよ〜〜だ」
かける :「優しくか〜。善処しましょう」
かけるは思わずまじめな声になっていた。
奈津はそれを聞いてか、舌をちろっと出してみせる。
やられた、とかけるは思った。
かける :「うーむ(^^;」
奈津 :「じょーだんですよ〜〜」
かける :「そうか(^^;」
奈津 :「はいっ(にこにこ)」
奈津は屈託なく笑った。かけるもつられて笑ったが、すぐにはっと気が付い
て笑いを引っ込める。
こんな処を、もし煌が見たら……
煌 :「よかったな。ふぇちぞー」(ぽんぽん)
かける :「ちがう〜(TT)]
せっかく煌に「信じてあげる」と言ってもらえたのに、これじゃあまた元の
木阿弥じゃないか。
げに誤解の種は尽きまじ。人間至る所青山ありだ。桑原桑原。
手伝いたいとはいわれても
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かけるが仏頂面になったのを見てか、奈津はまじめな表情になり、立ち上が
ってぺこりと頭を下げた。
奈津 :「ほんとに、ありがとうございました。
:あの……」
かける :「どういたしまして。 ん?」
奈津 :「こないだも聞こうと思ってたんですけど……プールに、
:なにかいるんですか?」
かける :「秘密(笑)」
取りあえず、さっきは何人か知った女性の顔があったような気がする。
奈津はまじめな顔で念を押してきた。
奈津 :「のぞきじゃ、ないですよね……」
かける :「うん」
かけるは力強く頷いた。
少なくとも何割かは監視だった。いや、少なくとも大義名分はある。
しかし、煌にはその言い訳は通じそうもないが……
奈津 :「この間のことも、誰もわたしに教えてくれないんです。
:もしかして……ああいうことがおきるんじゃないんです
:か?」
かける :「……まぁ。そういうこともあるかもね」
かけるは曖昧に答えた。
いくら吸血鬼の血を引いているとはいえ、これといった力を持っていない
このおっちょこちょいの女の子を、自分達の仕事に巻き込みたくはない。
奈津はうっと詰まったが、別の質問をしてきた。
奈津 :「かけるさんも、超能力者なんですか?」
かける :「ただの怪しい占い師だよ〜(笑)」
自分で言うのもなんだが、それがぴったりあっているように思える。
少なくとも「ふぇちぞー」は煌の思い過ごしだと思いたかった。
奈津 :「風水師とか、ああいうのなんですか?」
奈津は「占い師」という言葉に興味を持ったようだった。
かける :「違うよ。カードが専門だよ〜」
奈津 :「……恋愛運とか、占えるんですか?」
かける :「うん」
奈津 :「……(自分のって、占えないのかな)」
かける :「ん?」
奈津 :「あ、いえ……」
脱線していたことに気付いたのか、奈津はぶんぶんと頭を振った。栗色の髪
が、麦藁帽子の下で左右に揺れる。
奈津 :「わたし、なにか皆さんのお手伝いできることって、ない
:でしょうか」
かける :「手伝いってもなぁ……」
自分だって監視をしているだけなのだ。
奈津 :「あ、そんな、たいしたことは出来ないですけど……でも
:夜は強いし……」
かけるは苦笑するしかなかった。奈津にはおろか、自分にだってどうしよう
もない世界じゃないか、「あれ」が出てきたら。
奈津 :「かけるさんには、いろいろお世話になっちゃったし」
かける :「きにしないきにしない」
奈津 :「それに、わたしって、いままでただの味噌っかすでした
:から、なんかわたしの力で出来ることがあったら、やって
:みたいんです」
その意気は良いが、いざとなったら何も出来そうにないのも事実だった。
かける :「うーむ。まぁ、危ないからべつのことで役立つことを勧
:めるね」
危機一髪
--------
真剣な声で言ったかけるの胸元に、奈津がいきなりしがみついてきた。
奈津 :「かけるさんっ、わたし、じゃまなんでしょうか。わたし
:がいたら、お仕事できなくなっちゃうんですか?」
かける :「いや、べつにじゃまとかそういうことじゃなくて」
奈津 :「だったら、お手伝いさせてください……。か、かけるさ
:んのお役にたちたいんですっ。命をたすけてもらっちゃっ
:たしっ」
勘弁してくれっ、とかけるは思った。これは、前野か、千影さんか、奈津が
想いを寄せている鏡介あたりの役目だった。いくら普段気安くしているからと
言って、自分がされることじゃない。
かける :「私のしていることって、(いまのところ)ここをみている
:だけだから、特に手伝うこともないと思うけど」
奈津 :「で、でもっ、夜代わりに見に来るとか、夜だけでも一緒
:に見て回るとかっっ」
かける :「夜は見回ってないから」
それに、夜になったら、目的の半分以上はなくなってしまう。
奈津はしゅんとして手を引いた。かけるは心の中で胸をなで下ろした。
危機一髪だった。煌に見られたら酷いことになる所だった。
奈津 :「すみませんでした、無理言っちゃって……。今日も、あ
:りがとうございました」
かける :「いえいえ」
奈津はぺこりと頭を下げた。麦藁帽子の下に隠れた顔がまた上を向いた時に
は、彼女はもう笑いを浮かべていた。
奈津 :「それじゃ、……お引き止めして、ごめんなさい」
かける :「じゃあ……また倒れないように」
奈津 :「はいっ」
奈津は手を振って歩いていく。かけるは手を振り返してやった。
しばらく見送っていると、彼女はくるっと振り向き、口に手を当てた。
奈津 :「今度倒れてた時はトマトジュースおねがいしますね〜〜」
かける :「倒れるのが前提かいっ」
奈津 :「あははっ、それじゃあ〜〜」
大きく手を振って奈津は歩み去っていった。
かけるは大きく息をつき、肩を一つ竦めて自転車に向かった。
その様子を通りの向こうから眺めていた少女がいる。
マイア :「(あれ、奈津さんかな……? 男の人と楽しそうに話し
:てたなぁ)」
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『そのもの、深き淵より』(仮称)序章、了
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Djinny 的かけるん、いかがでしたでしょうか。
それでは失礼します。
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Djinny(ランプの魔物)
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