[KATARIBE 14573] [ HA06 ] [Novel]  『うれないものかき』(後編)その1

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Date: Sun, 01 Aug 1999 12:34:26 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14573] [ HA06 ]  [Novel]  『うれないものかき』(後編)その1
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
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 こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。

 「うれないものかき」(後編)です。ただし、その1……になってしまいま
した。
 長さ云々でなく、スランプでして……すみません。

 なんかこー……自己完結っぽいなぁ……まぁいいか。
 今度は誰か別の方のキャラクターも登場させたいです。宜しければ、また、
お声をお掛け下さいまし。

 他人様のキャラクターの方がかわいい Djinny でありましたとさ。

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 [ HA06 ][Novel] 『うれないものかき』(後)その1
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 登場人物 : 向坂次郎&津村佳奈
 時  期 : 恐らくEP『命の光』の後、向坂の継続的なバイトが決まる前
        (中編の直後)


 ベンチに腰掛けて待っているようにと言って、向坂は近くの自動販売機に向
かった。トマトジュースを2本買った。半ば冗談のつもりだった。

 戻ってくると、相手は言われた通りにベンチに腰掛けて待っていた。
「ほい、吸血鬼さん」
 トマトジュースを手渡すと、相手は向坂を見上げて苦笑した。
 月明かりに正面から照らし出された彼女は、やはり顔立ちも年頃も“なっちゃ
ん”に似たりよったりの少女のように見えた。ただ、にび色の髪の色と煌く瞳
の色が、彼女を明らかに”なっちゃん”と別人に見せていた。
 綺麗な娘だ、と向坂は思った。だが、それはどこか生気のない綺麗さのよう
に見えた。

───まさか、本当に吸血鬼だったりして、な。

 ばかばかしい。月の光の加減だ、そんなことがあるわけがないじゃないか、
と彼は自分の考えをあざ笑い、立ったままトマトジュースを呷った。向坂の軟
弱な胃はそれだけでちりちりと痛み、夕食を結局食べ損ねていたことを彼に思
い出させた。
 缶をベンチの脇にあった缶入れに入れ、振り向くと、少女が飲み終えた缶を
こちらに差し出していた。
「ありがとうございます、ちょっと薄かったけど美味しかった」
 今までの言動にそぐわないような、素直な言葉だった。
「確かに、吸血鬼さんには薄味だったかもな」
 にやりと笑って缶を捨ててやると、少女は向坂に複雑な表情を浮かべて見せ
た。冗談だとはわかっていても、あまり吸血鬼吸血鬼と連発されるのが気に入
らなかったのかも知れない。
「さて、何か話があったんだよな」
 少女の脇にだらしなく腰掛けながら、向坂は尋ねてみた。
「話?」
 少女はまたおうむ返しに尋ね返して来た。
「話があるから、声を掛けて来たんだろう?」
 向坂は煙草を取り出した。吸う訳ではないが、間を持たせたかった。
「おっさんは安眠を妨害されて怒ってるんだ。たとえ話がなかったとしても、
何か話をでっち上げなさい。聞いてやるから」
 少女は領いた。素直な仕草だった。が、こちらに一度視線を走らせると、後
はうつむいてしまった。
 向坂は少々失望した。もう少しは相手が話し上手の面白い人物だと思ってい
たかった。毎日くたくたに疲れては帰って寝るという生活を続けていたので、
たまには思い切り馬鹿な話を楽しみたい心境だったのだ。

「人を待っているって言ってたけど、どういう人を待ってたのかね」
 少女が何も言わないので、我慢が切れて煙草に火を付けながら向坂は尋ねた。
「やはり吸血鬼の親分かい?」
 少女は首を振った。一度自分のペースが崩されてしまうと途端に受動的にな
るタイプがいるが、どうやら彼女もその伝のようだった。とんだ見込み違いを
したようだった。
「……男の、人間さん」
 ややあって少女は小さい声で答えた。まだ、一応だが吸血鬼ごっこを続ける
つもりはあるようだった。
「血を吸うお相手さんかな」
 向坂はケントマイルドの薄い白煙を吐き出しながら茶化すように言った。実
際のところは、デートをすっぽかされて公園をうろうろしていて俺を見つけた
って寸法か、と当たりをつける。
「違います」
 少女は即答した。おや、と向坂は顔をそちらに向けた。
「命の光を見てあげるって約束したの」
「命の光?」
 新しい話の種らしかった。それにしては妙に話を急ぐな、といぶかしく思い
はしたが、向坂はそのまま話に乗った。
「生命エネルギーでも見えるのかね」
 少女はこくりと、真剣な表情でうなずいた。
「その人、とても寂しそうで……なんだか、自分が生きていることが信じられ
ないみたいだった」
 話がつまらなくなって来た。どちらかといえば生命エネルギーそのものの話
の方が馬鹿馬鹿しくて良さそうなのだが、少女は架空の人物を作るほうが好み
のようだった。
「死んじまえばそんなことを思うことも出来なくなるんだろうに。難儀な話だ
ねぇ」
 向坂は適当に合いの手を入れた。その人物は少女の中には実在している、少
女そのものの投影ではないのか、という邪推が頭を横切った。
 少女は首を振った。
「世の中には、自分が死んだのかどうかさえ分からずに漂っている人もいるの」
 向坂は口を少し尖らせるようにして小刻みに頷いた。心霊関係の話はあまり
得意ではなかった。
「俺にはよくわからんな、その辺は」
 そういうのが見える体質の人間もいるという話だったが、彼はそうではなか
った。お陰で人生が大分つまらなくなっているような気がする。
 また薄い煙を吐き出して少女の方を向くと、彼女は月に視線を向けていた。
「だから、見てあげなくてはいけないの……証明するために」
 深閑とした夜の公園でもなければ聞き取れないような声で少女は呟いた。
 向坂は口の端を少し歪めた。
───俺と話をしてるって言うより、合いの手を入れてもらって考えを吐き出
してるって風情だな。
 自分がべらべら喋るのも嫌いではなかったが、こうして誰かの話の相手をし
ながら聞いているのも悪くはなかった。
 しかし、面白い話には違いなかったが、どうも相手の口は重いようだった。
次の話を必死に頭の中で考えていると言うよりは、話すのを躊躇しているよう
にも見えた。
「すると、こないだは見なかった訳だ」
 向坂は取り敢えず無難に先を促した。
 少女は頷いた。
「他の人間さんが来たから……やめてしまったの」
 ありそうな話ではあった。もっとも、現実に生命エネルギーだのキルリアン
放射だのが見える超能力者がいるのかどうか、向坂は今一つ疑問に思ってはい
た。
「やっぱり、気が散ると駄目なのかね」
 少女は黙って首を振った。
 昔、せがまれて見たことがあって、それが嫌な記憶に結び付いている、とか、
その手の話なのかも知れない。

「ふーむ」
 向坂は暫く少女を見詰めた。どうにも話しづらい、という表情だった。
 話を楽しんでいるという風情は消えていた。してみると、ひょっとすると少
女の言葉にはなにがしかの事実が含まれているのかも知れなかった。
───これは、真面目に聞いてやった方がよさそうだな。
 最初の切っ掛けがどうあれ、話している言葉のほとんどが作り事であれ、少
女がなにがしかの(彼女に取っての)真実をそこに込めようとしているのだと
向坂は理解した。それは彼の思い込みかも知れなかったが、聞いてやっても不
利益がある訳でもないだろうと思えた。
「よし」
 向坂は短くなった煙草を消し、鼻の前で両手を打ち合せた。
 少女が少し驚いたような顔でこちらを向いた。
「いやなに」
 向坂は苦笑いを浮かべた。どうも間抜けな間合いだった。
「今まで実は真面目に聞いてなかったのさ。すまんな」
 こういう時には向坂は正直だった。
「というか、お嬢ちゃんの話を作り事だと思って楽しんでたんだが……こりゃ、
少しは真面目に聞いた方がいい話みたいだな」
 こういう言い方で傷つく相手もいる。が、逆に話を積極的にしてくる相手も
いた。
「作り話、ですよ」
 少女も苦笑いをうかべた。
「そんなこと、ある訳ないじゃないですか」
「まぁ、それでもいいやね」
 なにがしかの真実の寓意がそこに込められているなら、やはり真面目に聞い
てやった方がいい。なにより、気楽に聞くには話が重い方に流れて行きそうだっ
た。
「よく出来た作り話なら、真剣に聞く価値もあるってもんだ。ひとつ気合いを
入れて話を作ってくれ。なにしろ、おっさんは安眠を妨害されてご立腹なんだ
からな」

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 その2に続く……

 それでは失礼します。


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 Djinny(ランプの魔物)
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