[KATARIBE 14563] [HA06P]: EP 『解き放たれし時』序章

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Date: Sat, 31 Jul 1999 21:53:07 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14563] [HA06P]: EP 『解き放たれし時』序章
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
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 こんにちは、 Djinny こと 古旗 仁 です。
  EP 『解き放たれし時』序章、暫定版をお目に掛けます。

 球形さん、極隊さん、 EP 修正よろしくお願いします。
 (特に個人描写まわり)

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  EP 『解き放たれし時』序章
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登場人物
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伊左見由摩 (いさみ・ゆま)
 本編の主人公。古代文明の有機コンピューター。
 自分でも気付かない何かを秘めているらしい。

伊左見光  (いさみ・ひかる)
 由摩の兄。同じく、古代文明の有機コンピューター。
 由摩の秘密の一端を知っている。

滝郁代   (たき・いくよ)
 変身能力者。夜の公園を通りかかる。

津村奈津  (つむら・なつ)
 吸血鬼の血を引く少女。アルバイトの帰り道、由摩を見かける。


月の光の中にひとり
------------------
 由摩     :「……私の呪縛は、何時解き放たれるのだろう…」

 吹利県吹利市、住宅地近くのとある公園。
 丸い月の出ている晩。
 ぽつんと立ち尽くす由摩。
 月を見上げ、一人呟く……。

 由摩     :「……私の魂の安らぐ時は来るのだろうか…」

 虚ろな眼差し。
 月を見ているのか。
 或いは、瞳に映るのは虚空なのか。

 公園の脇の道路を赤い自転車が通りかかる。
 アルバイト帰りの奈津。なにやら疲れている。

 奈津     :「はあ、晩くなっちゃった〜〜」

 ふと、公園を見る。
 小さな人影。ぽつんとひとり、まるで彫像のように立ち尽くしている。

 奈津     :「あれ……こんな時間に誰だろう……?」

 迷子なら、交番に連れていった方がいい。
 子供が一人で出歩くには、遅すぎる時間だ。

 自転車を引いて公園に入る。
 人影は、奈津の知っている人物だった。

 奈津     :「あ、由摩ちゃん、どうしたのこんな時間に」

 由摩、ゆっくり奈津を見る。が……その顔には反応は無い。

 奈津     :「……?」

 そして、又月を眺めている…。
 奈津、自転車のスタンドを立てて歩み寄る。

 奈津     :「どうしたの由摩ちゃん、こんな時間にこんなところで」
 由摩     :「月は…いつ見ても変わらないのに……」
 奈津     :「ゆ、由摩ちゃん……どうしたの?」

 由摩、もう一度奈津を見る。だが、目は虚ろ…。

 由摩     :「…どうして、人は運命に縛られ続けなければならないの
        :でしょうか?」
 奈津     :「え? な、なに……」

 明らかに、何時もの口調とは違う…。

 由摩     :「…どうして?…」

 奈津は、由摩の肩を持ってゆさゆさとゆする。
 由摩は奈津を見ている。が、そこには感情のきらめきはない。

 奈津     :「し、しっかりして、由摩ちゃんっ」

 由摩の目から、涙がこぼれる…。
 奈津は、思わず手を止めてしまう。

 奈津     :「あ……」

 由摩はただ涙を流している。
 瞳には、今は悲しみの色があった。
 奈津はたじろぐが、かがみこんで目の高さをあわせ、つたない言葉で慰め
ようとする。

 由摩     :「……」
 奈津     :「……悲しいことが、あったの?」
 由摩     :「……かなしいこと…多分、そうかもしれない…」
 奈津     :「……由摩ちゃん」

 奈津には由摩がいつもの明るい少女に見えない。
 まるで、疲れきった大人の女性のようだ。

 奈津     :(やっぱり、ちょっと変だ……)「おうち、かえろ?
        :ね?」


郁代の登場
----------
 切らした煙草を買った帰りの郁代、公園に差しかかる。
 ふと、月夜に2人の少女のシルエットが視界に入る。

 郁代     :「こんな時間に……?」

 近づいていく郁代、次第に話し声が聞こえてくる。
 片方のせっぱ詰まった声に、聞き覚えがある。

 奈津の声   :「泣きたかったら、泣いてもいいから、ね? かえろ?
        :独りで歩いていたら、みんな心配するよ」

 奈津は必死に、通じない言葉を由摩にかけている。
 人の気配を感じてはっと振り返る。

 奈津     :「あ、……こ、こんばんわ」

 郁代は、振り向いた顔に見覚えがある。

 郁代     :「奈津ちゃん……?」
 郁代     :「どうしたの?こんな時間に……?」


心を解き放つもの
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 由摩     :「……あなたは、私の心を解き放つことが出来ますか?」

 奈津に声を掛ける。真摯な視線。

 奈津     :「え? ときはなつって……」

 向き直る奈津。由摩の視線が射るように彼女の目に飛び込んでくる。
 しかし、由摩は奈津の声には答えない。

 郁代     :「?由摩……ちゃんだっけ?どうしたの?2人とも?」
 奈津     :「あの、この子、こんな時間に月を見上げてて……」
 郁代     :「一人で……?」
 奈津     :「はい、他には誰も……わたしが見た時には」
 郁代     :「月を……?}

 と、月を見上げる郁代。由摩も再び月を見上げる。

 郁代     :「月……解き放つ……心を……」

 由摩     :「……幾百、幾千の時が流れても…月だけは変わらないの
        :ね…」

 郁代     :「月……不変であり、変化でもある……満ち欠け……?」

 つられるようにして月を見詰める郁代。
 月の光で心が乱されているようでもある。
 由摩の肩を掴んだまま、自分もどことなく辛そうに月を見上げた奈津は、
郁代にふと視線を向け、その姿に異常ななにかを感じ取る。

 奈津     :「い、郁代さん……?」
 郁代     :「……は、はい?」

 幾代、はっと奈津を振り向く。そして、一つ首を振ると、二人の風下に立ち、
煙草をくわえる。

 奈津     :「ど、どうしたんですか、急に……」

SE:「ぼっ」
 揺らめくライターの炎、浮かび上がる顔。

 奈津     :「なにか、月に吸い込まれそうな雰囲気でしたよ……」
 郁代     :「いや、ごめん。月を観てると確かに吸い込まれそうに 
       :なるんだ」
 由摩     :「……」
 郁代     :「いろんな想いが……ね」

 煙を吐き出す郁代。由摩に視線を向ける。

 郁代     :「で、由摩ちゃん。どうした?」


涙の意味
--------
 奈津は、ましまじと由摩の顔を見る。
 郁代は、不思議そうに由摩をみる。
 月の光に涙を流す由摩が浮かび上がっている。
 その口から、細くさみしげな声が漏れる。

 由摩     :「…人も、国も、文化も…移りゆくのに…私も変わること
        :はないの…」

 光      :「おーい…由摩〜…」

 遠くで、由摩を呼ぶ声がする。
 ぴくりとする郁代。耳をそばだてる奈津。
 二人の体から、ある種の緊張感が抜けていく。

 奈津     :「あ、光さん」
 郁代     :「(誰だ?)」
 奈津     :「由摩ちゃんのお兄さんです」

 まるで郁代の心を読んだかのように、奈津が答える。

 郁代     :「ああ、そういや一回会ったことあったけ」

 光      :「…おや?奈津さんじゃないですか…」

 光、二人の姿を見付けて駆け寄ってくる。
 かがんだ奈津の前で立ち尽くしている由摩に気付く。

 光      :「あ、由摩!ここに居たのか」
 奈津     :「あ、光さん。由摩ちゃんが変なんですっ」
 光      :「由摩が変?」
 奈津     :「ええ。ほら……」

 少し体を離す奈津。光、蒼ざめて由摩の頬に手を遣る。

 光      :「由摩?……由摩っ!!……」
 由摩     :「………」
 奈津     :「由摩ちゃんっ!」
 光      :「ほらっ、しっかりしろ!お兄ちゃんだぞ。」

 由摩の瞳が、次第に精気を帯びて来る…。

 由摩     :「………ほえ?」
 奈津     :「よ、よかったぁっ」

 奈津、思わず由摩の肩を抱きしめる。

 奈津     :「どうしたかと思っちゃったよ、由摩ちゃん」

 郁代、得心したように頷く。

 郁代     :「(ほう……親族の呼びかけには応じるか……)」


「連想」
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 郁代、ちらりと月を見上げる。
 口にくわえた煙草の光がぽつんと赤く浮かんでいる。

 郁代     :「(月の……魔力か……?)」

 しかしすぐに視線を戻す。

 郁代     :「ま、なんにせよ正気に戻って良かった」
 奈津     :(顔を上げて)「……はい」
 光      :「由摩っ、大丈夫か?お兄ちゃんだぞ、分かるか?」
 由摩     :「お…にい…ちゃん?…」
 郁代     :「光君だっけ、由摩ちゃんたまにこうなるの?」

 郁代、さりげなく問い掛ける。
 光は一瞬躊躇した後、苦笑して首を横に振る。

 光      :「……うーむ…こんなことは初めてですよ…」

 郁代、ふと何かに気づく。

 郁代     :「(月……、不変……、流転……、光?)」

 光、内心舌を鳴らす。

 光      :「(まずいな……もしかして、『封印』が解け掛かって
        :いるのかな…)」
 奈津     :「え? 何か言いましたか?」

 いぶかしげな表情でこちらを向く奈津に、光は何故か焦りに似た物を覚える。

 光      :「いえ、別に何も…(汗)」

 郁代     :「ん、女の子の一人歩きする時間じゃないしな」

 郁代、努めてノーマルな言葉を口にしながら、ちら、と奈津をみる。
 奈津は目を瞬いてから、こたえる。

 奈津     :「ええ……あ、わたし、バイトの帰りなんです」
 郁代     :「ん。」
 光      :「え?…ああ、ご迷惑おかけしました。」

 会話の流れが、それで日常的な物に戻る。
 が、郁代は思考を巡らせていた。

 郁代     :「(光……か)」
 奈津     :「(郁代さん……何をかんがえてるんだろ)」

 奈津の視線を感じて、郁代は口を開く。

 郁代     :「まあ、由摩ちゃん具合悪そうやし、連れて帰った方が
        :ええで。」
 光      :「…うーん…そうですね。」

 郁代は再び月を見上げる。

 郁代     :「(鍵……か?)」


「帰宅」
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 由摩は、奈津の腕の中でもぞもぞと動き、顔を光にむける。
 その瞳にはいつもの光が戻っている。

 由摩     :「…ねぇねぇ、お兄ちゃん、私なんでここにいるの?」

 奈津、気付いて由摩の体をそっと離す。

 奈津     :「由摩ちゃん(……そうか、覚えてないんだね、
        :なにも……)」
 由摩     :「あ、奈津さん、こんにちはっ」
 奈津     :「こんばんわ、だよ。こんにちはじゃなくて」

 元気よく挨拶をした由摩の鼻を、奈津は微笑んでちょんとつつく。
 今のことは本人に知らせない方がいい、と、半ば本能でそう感じ取る。

 由摩は訳が分からないなりに微笑む。

 由摩     :「ふふふ…(にこっ)」
 奈津     :「お兄さんに連れて帰ってもらってね。もう、ひとりで出
        :歩いちゃ駄目だよ?」
 由摩     :「ほえ?」
 奈津     :「えーっとね(どう説明しよう……)」

 光、由摩の手を取る。

 光      :「ま、まぁ、今日の所は、由摩も無事見つかって良かった
        :と言うことで…(苦笑)」
 郁代     :「……ま、気いつけえや。何が起こるかわからへんし……」
        :>光
 光      :「んー…夢遊病の一種かな?……そうですね、とにかく
        :今日は遅いですから、これで帰りますよ」
 奈津     :「はい。良かったぁ、お兄さんが来てくれて」

 奈津、立ち上がる。郁代がその肩に手を置く。

 郁代     :「ま、奈津ちゃんはこっちで引き受けるから、
        :……がんばりや」
 奈津     :「じゃ、由摩ちゃん、またね」
 光      :「はいよ。じゃあ、これで…」
 由摩     :「ばいばーい☆」
 郁代     :「由摩ちゃんお休みな(笑)」

 それぞれに手を振って、4人は別れた。


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 由摩の今回の行動の真の意味は何なのか。
 そして「解き放つもの」とは何を指すのか。
 さまざまな謎を残しつつ、『解き放たれし時』第一章へ……。


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 Djinny(ランプの魔物)
 MAIL_TO :djinny@geocities.co.jp
 WEBPAGE :http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/1293
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