[KATARIBE 14453] [ HA06 ] [Novel]  『11年目の真実』 第三章 『約束を果たす為に…』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 25 Jul 1999 01:11:53 +0900
From: 球形弐型  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 14453] [ HA06 ] [Novel]  『11年目の真実』 第三章 『約束を果たす為に…』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199907241611.BAA15495@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 14453

99年07月25日:01時11分49秒
Sub:[HA06][Novel] 『11年目の真実』 第三章 『約束を果たす為に…』:
From:球形弐型


ういっす、球形弐型です。

ようやく、第三章書き終わりました。

では、続きです。

=====================================
[HA06][Novel] 『11年目の真実』
=====================================
第三章 『約束を果たす為に…』
===============

昭和60年 冬…

私は吹利に居た…。
少女との約束を果たしたい…その理由だけで、又吹利に戻って来たのだ。
しかし、この一年半、これと言って収穫は無いも同然だった。
結局、あの少女から貰った「かけら」だけが頼みの綱となっていた。

あの日から、私は吹利に度々戻っては、何かの「きっかけ」を探していた。
いくつもの文献を漁り、いくつもの社を訪ね……
それでも、少女に繋がる「きっかけ」を見つけることは出来なかった。

  木原:「ふう…やはり、ただの幻だったのか…」

私は「かけら」を見つめながら、ふと呟いてみる…。
一体この「かけら」は何なのか?私は、考古学的に考えながら、これが何かの
文明を示すものだと、目星は付けていた。
だが、如何せん「かけら」に書かれた模様だけでは、それが何を示すものなのか
私には、其処までは分からない…。
少女との約束を果たせぬまま、ただ、徒に時は過ぎていた。

  晴樹:「どうしました、賢治兄さん?」

私の従弟の晴樹だ。
両親が既に他界した私には、吹利に家は無い。
だから、吹利に来た時は、従弟の晴樹の家に厄介となる他無いのだ。

  晴樹:「そうそう、賢治兄さんが言ってた物、借りてきましたよ。」

私は、晴樹に吹利にまつわる文献があるかどうか、探してもらっていた。
晴樹は、知り合いにお願いして、集められるだけの文献を集めてもらっているのだ。

  木原:「ああ、悪いね晴樹。其処に置いといてくれ。」
  晴樹:「しかし、賢治兄さんも研究熱心だねぇ。何も田舎に帰って来てまで、文献
    :を漁ることないのに…。」
  木原:「うーむ…いやどうしても調べておきたいことが有ってな……。」

晴樹の持ってきた文献を傍らに置き、私は一息ついた。
ごろっと、畳に寝転がり、天井を見ながら物思いにふけこむ…。

  晴樹:「賢治兄さん、あまり根を詰めると体に良く無いですよ。」
  木原:「…ああ。」
  晴樹:「気晴らしに散歩にでも出かけたらどうです?今日は日が出て暖かいですか
    :ら、散歩日寄りですよ。」
  木原:「…ふむ、そうだな。」

         ******

私は晴樹の薦めもあって、散歩に出かけることにした。
吹利は四方を山に囲まれ、冬は寒い。今日はいつもより暖かいと言っても、東京に比べ
たら、まだまだ寒い方だ。

  木原:「そうだな…久しぶりに町中にでも行ってみるか……。」

私は、吹利の中町まで、足を伸ばしてみることにした。
吹利中町は、元々吹利の中心街で、私の若い頃は活気に溢れていたものだ。
最近は、近代化の波に押されて、昔ほどでは無くなってしまった様だ。
昔ながらの建物が建ち並ぶ、趣のある町並みとなっている。
その中を歩いていく…。私はふとした表示に気づいた。

   『吹利県立民俗資料館』

私の子供の頃には、こんな所無かったな……。
建物の外観から言って、多分、古い銀行か何かを改装し、利用しているものだろう。
……民俗資料か…此処に何か「きっかけ」はないだろうか?
と思うと、私は中へと入っていった。

  木原:「…すいません…誰か居りませんか?…」

私は、中へと入った後、人が居ないか呼んでみた。
……しかし、返事はない。
仕方がないので、もう一度呼んでみる…。
……暫くすると、奥の方でガタンと音がして、人が出てきた。

   男:「よいしょ……あー、はいはい……えっと……何でしょう?」

男は、山積みの本を抱えて、私の前に現れた。
見た目は、私と同い年くらいの初老の男だ。私は用件を彼に言ってみる。

  木原:「私は、東京の某大学で教授をしている『木原』と言うものです。」

と言って、私は彼に名刺を渡した。

   男:「……ほうほう、考古学者なのですか?……なるほど。それで、何か御用
    :ですか?」
  木原:「ええ、実は、とある資料を探しているのです。」
   男:「とある資料?……と言いますと?」
  木原:「実は、吹利に纏わる昔の文献を探しているのです。」
   男:「昔と言いましても、どのくらいの時代のものでしようか?」
  木原:「まぁ、なるべく昔……出来る限り昔の資料が欲しいのです。……そうで
    :すねぇ…少なくとも、南北朝時代よりは前になると思います。」

南北朝時代より前…それについての根拠は無い。ただ、私の知る限り、あの「かけら」
に書かれた模様が、それより後の時代には無いものだと言う感じだった。

   男:「はっはっはっ…いくら何でも、そんなに古い文献は無いですよ。」
  木原:「いや、それより古い時代のことが書かれている物で良いのですよ。」
   男:「そうですか…そうですねぇ…」

と言うと、男は暫く考えてから…。

   男:「…まぁ、無くはないですが、ちょっと待ってください…。」

男は、そう言うと、奥に入って行った。
暫くして、男がドアから顔を出して、私を手招きする。
私はそれに従って、奥へと入ってみた。

   男:「いやー、今、新館を建設してましてね、それに伴って、この旧館の書物
    :の整理をしてるんですよ。」
  木原:「ほう…」

ふと見渡すと、あちらこちらに本が山積みになって、散らかっている。
男と話しながら、私は奥へ奥へと歩いていった。

   男:「ここですよ。……ちょっと待ってください。」

と男は、ポケットから鍵を出し、掛かっている鍵を外した。
其処には「民族資料室」と言うプレートが書かれていた。

   男:「そうですねぇ、南北朝時代より古いとは限らないと思いますが、時代が
    :不確定な物や、時代背景が掴めていない古代資料などなら、此処に有る物
    :だけですね。」
  木原:「ほほう…これはこれは…。」
   男:「ただ、民話紛いな物ばかりなのでねぇ…ご参考になるかどうか…。」
  木原:「いえいえ、そんなことはありませんよ……。」

この日から私は、数日の間、この資料館に通うことにした。

         ******

数日経ったある日のこと…。
私は、いつもの様に、この「民族資料室」に隠って調べていた。
ここに有る物は、主にこの吹利に纏わる伝説や民話など…民話紛い所の騒ぎでは無い。
正に、そのものと言う資料ばかりだろう。
だが、行き詰まっている私には、もう、伝説や民話レベルでの資料探ししか残されて
いなかった。
どんな「きっかけ」だって良い。そう縋る以外に道はない。
などと思いつつ、既にここに来て数日経っているのだ。たが、未だ道は開けていない。

  木原:「うーむ……必ず『少女』に繋がるきっかけはあるはずなのだ…。」

などと、呟きつつ…

  木原:「……おや?これはなんだろう?」

私は、一つの書物の中から、何かとっかかるものを感じた。
それは、民話として語り継がれている物らしい。
ある国の姫が、国の滅びようとしている時に生け贄として、神に捧げられたと言う話の
様だ。
その時に王は、何時か姫が蘇ることが出来る様にと、魂を一緒に封じ込めたと言うこ
とになっている。
そして、その魂が「加由羅」付近にて、彷徨っていると言うことらしい。
「加由羅」とは、かなり昔の伊吹山周辺の地名らしい。
何となく、胡散臭い気もするが……何故かとっかかりを感じたのだった。
そう思いつつ、私はその本をペラペラと捲っていく…。

  木原:「ん?……こ、これは!?」

私は、驚愕した…。なんと、その本には、少女から貰った「かけら」に書いてある模様
と同じ模様が書かれていたページが有ったのだ。
どうやら、その模様はその「国」を象徴するものの様だ。

  木原:「……しかし……いや、間違い無いだろう…だが…。」

如何せん、民話である。民話と言うのは、何かの根拠があって成り立つものだが、
あまりにも、この場合根拠が無さ過ぎるとも言える。
その時、私は少女の声を聞いた…。

  少女:「約束だよ…」

私は、心で少女が呼んだと思い、ふと天井を見上げる…。
そう、私は約束を果たさねばならないのだった…。

  少女:「約束だからね、賢治君…」

いや、空耳では無い……、私は振り向くと、其処に少女が立っていた。

  木原:「……き、君は、一体……」
  少女:「約束……守ってくれるよね?」
  木原:「……ああ、守る…絶対、守るとも…」
  少女:「良かった……」

少女は安心した様に、微笑みながらすーっと消えていった…。

         *****

その日から、私の「加由羅」探しが始まった。
だが、私は、このことを論文にしてみたが、あまりにも根拠が無い。
あるのは分かっている……だが、存在を実証出来ない…。
こんな根拠ない話に、大学が金を出してくれるはずも無い。
私は、悶々とした日々を送るより仕方がなかった…。
そう、昭和62年の「あの出来事」が来るまでは……。

                        つづく
==================================

次は、いよいよ加由羅発見か!?
こうご期待!

次回は、第四章『加由羅』です。

では。
---------------------------------------------------

球形弐型こと「伊沢英人」

hi-izawa@m1.interq.or.jp又はBallMk-2@trpg.net

http://www.interq.or.jp/www1/hi-izawa/swan.htm
<ひでSWANの暇つぶしに出来たHP>

---------------------------------------------------






    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage