[KATARIBE 14447] [ HA06 ] [Novel]  『うれないものかき』(中)

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Date: Sat, 24 Jul 1999 15:20:53 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14447] [ HA06 ] [Novel]  『うれないものかき』(中)
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 こんにちは、 Djinny こと古旗 仁( J_OldFlag )です。

 『うれないものかき』中編です。なんだか、まだ話がはじまりません。
 纏まらなかったりしている部分については、またご指摘等宜しくお願いしま
す。

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 [ HA06 ][Novel] 『うれないものかき』(中)
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 登場人物 : 向坂次郎&津村佳奈
 時  期 : 恐らくEP『命の光』の後、向坂の継続的なバイトが決まる前
        (前編の数日後、一時的なアルバイトが決まった後)


 向坂は酷くくたびれていた。
 日給八千円、技術不問、それよりなにより給料即日払いに吊られて始めたバ
イトは、条件なりにしんどいものだった。
 彼がやっている仕事は、土方、というよりは鳶職の連中が使う足場の仮設と
解体だった。
 アルミ合金製の足場板を一日中持って歩くのや、高い所に登って落下防止
ネットを引っかけるためのクランプを外すのは別に苦にならなかったが、身長
が低い彼には足場を組みたてる作業が骨だった。
 しかも、困ったことにそれが向坂のバイト先での主な仕事のようだった。

 工務店に帰って着替えをし、残業手当と日給合わせて一万二千円をジーンズ
のポケットにねじ込んで原付にまたがると、周りがやけに明るいことに気が
付いた。
 空を見上げると、見事な満月が出ていた。午後までの雨のせいか、妙に澄み
渡った空は、星々をちりばめて青くさえ見えた。
 月見には良さそうな晩だったが、今日は流石に向かいの牛丼屋で飯を食べる
気力すら失せていた。彼は悄然と原付を走らせた。

 これは家まで辿り着けないな、と向坂が直感したのは、公園に差し掛かった
辺りだった。いつもなら風を切っていれば眠気が取れてくるのだが、今日に
限っては疲労感がそれを上回っていた。
 転がり込む友人の家は幾つかないでもなかったが、どこもかしこもここから
は遠かった。そこまで、とても意識が保ちそうになかった。
 回らない頭で暫く考えた後で、彼は公園の入り口に向った。ベンチでぐった
りするのも嬉しくはなかったが、他にいい場所が思い浮かばなかった。
 人気のない公園に原付を押して入り、手近なベンチの前に停めた。
 ベンチの上にごろんと横になると、現金なものでもう体は動こうとしなかっ
た。
 見上げてみると、月が煌煌と輝いていた。本が読めそうな明るさだった。

───こういう時に、なんか一句出てくるようならいいんだがなぁ。まぁ、
俳句では最近食っていけないらしいが……

 そんなことを漠然と考えながら彼は眠りに落ちていった。

 月の光が翳ったような気がして、向坂は何気なく目を開けた。月は中天から
西に動いており、汗の染み込んだシャツがひどく冷たく思えた。

「こんばんわ、疲れた人間さん」

 不意に視界の外から声が掛けられた。
 咄嗟に、“無職の男性を少年グループが殴殺”という文字が頭に浮かんだ。
 向坂は出来るだけ素早く体を起こし、枕にしていたデイパックに手を伸ばし
た。
「確かに疲れてる。……勝手に起こすな」
 言いつつ声のした方を向いた彼は、安堵すると同時に拍子抜けした。
 月の光に照らされて立っていたのは、女性らしい人影ひとつだけだった。
 人影はくすくすと笑い声を立てた。
「ごめんなさいね、今日はあなたしかここにいなかったから」
 声の調子からすると、若い女のようだった。
 彼は月をもう一度見遣った。十五夜の月はやはり西に傾きつつあった。
 こんな時間に女性が一人で出歩くのは妙と言えば妙だった。変質者か、新手
の新興宗教の勧誘なのか、いずれにしてもいきなり話し掛けてきたのはどこか
変だった。
 もっとも、それを言うなら、こんな所でひっくり返っている男というのも妙
なものではあった。こちらはおおむね浮浪者というところだった。
「一人しかいなければ相手の都合はお構いなしに声を掛けるのかね」
 彼はむっとして立ち上がった。寝起きで頭痛がしている所に加えて、ベンチ
で寝ていたせいで体のあちこちに痛みがあった。それが彼の気分をいくらかさ
さくれたものにしていた。
「なんだか知らないが、人の安眠を邪魔するもんじゃない」
 朝まで寝ていたら体の節々がどういう状態になったのかということはこの際
考えないことにした。
「そう? そういうものなの」
 女は含み笑いをもらして数歩近付いた。すると、よく分からなかった顔がど
うにか判別できるようになった。

「なんだ、脅かすなよ」
 向坂は肩から力を抜いた。
 それは、彼のよく知っている顔だった。工務店の向かいにある牛丼屋で夜間
バイトをしている少女だった。
「誰かと思ったぜ、えーと、“なっちゃん”だったか」
 彼女は割合気安い感じの少女だった。暇な時間帯に店に行くせいか、アルバ
イトを紹介されてからは多少言葉を交わすようにはなっていた。
 しかし、相手の女は首を傾げてみせただけだった。
「……なっちゃん?」
 女はおうむ返しに尋ね返した。
「すまん、人違いだ」
 向坂は頭を掻いた。相手の顔もよく分からないような時にそんなことを言う
べきではなかった。
「まぁ、それはそれとして、だ」
 勢いを失ってしまったので上手く会話の主導権が握れそうにない。相手が新
興宗教の勧誘でないことを祈るのみだった。
「あんたは、なんでこんな時間に公園なんぞうろついてるんだ?」
 向坂は原付にキーを挿し込んだ。神様がどうのこうの言い出すなら、公園の
中だろうとお構いなしにまたがって走り出すつもりだった。

「ひとを……待っているの」
 ややあってから相手はそう答えた。
 いきなり安眠中の他人に声を掛けることと人を待っていることがどう関係す
るのか、向坂には分からなかった。胡散臭い理由付けだ、という印象だった。
「こんな時間にかね」
 そう言ってやると相手はしばらく間を置いた。向坂は息を一つつき、ヘルメ
ットに手を伸ばしかけた。
「こんな時間でないと、私は外を出歩けないから……」
 わずかだが、女の声が揺れたようだった。
 向坂は彼女に視線を戻した。
 逆光線のせいか、彼女の顔は相変わらず“なっちゃん”のように見えた。言
い換えれば、そのくらい薄ぼんやりとしか、彼女の顔は見えなかった。
「変わった体質だな、そいつは」
 話が妙な方に転がりそうだった。新興宗教の勧誘にしては言うことが振るっ
ていた。尤も、夜間のみの布教活動でもしているのかも知れない。
 女はふふっと笑った。笑った顔は“なっちゃん”とは別人にも見えた。
「ええ。……日の光が、駄目なんです」
 向坂はふむと鼻を鳴らしてあごに手を遣った。皮膚が紫外線などに弱い体質
というのは聞いたことがあったが、相手がここでそういう話を持ち出してくる
のは予想外だった。
「そりゃ、大変だな」
 取り敢えず彼は無難に相槌を打った。が、すぐに、そういう体質とこういう
場所を夜半すぎにうろつくこととは無関係だということに気が付いた。
 夜中の徘徊と日光に弱いことに関係がある体質なら、すぐに思い付くものが
あるにはあった。

「実は吸血鬼……とかね」
 向坂はにやりとしてみせた。そういう馬鹿話をだらだらと流すのは好きだっ
た。
「……そうですよ」
 女はこくりと頷いた。彼の冗談に乗る気になったらしかった。
 取り敢えず、何かの勧誘などではないことはそれでわかった。案外、本当に
デートの相手でも待ちそびれていたのかも知れなかった。
「ふむ……ボスのお帰りでも待ってるのかね」
 向坂は苦笑に近い笑いを浮かべ、バイクのキーを元に戻した。彼女は、話し
相手としてはなかなか面白そうだった。
 冗談なら付き合ってやるのもいい、という気分になっていた。相変わらず彼
女の目的は分からなかったが、気になれば話の中で聞き出していけばいいし、
話がつまらなくなれば逃げ出しても良い。

 女は曖昧に笑った。いや、曖昧に見えたのは、相変わらずの逆光線でよく表
情が分からないせいかもしれない。

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 うみぃ。纏まらん(苦笑)。


 それでは失礼します。

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  Djinny (ランプの魔物)
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