[KATARIBE 14377] [ HA06 ] [Novel]  『うれないものかき』

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Date: Tue, 20 Jul 1999 02:09:06 +0900
From: Djinny <djinny@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 14377] [ HA06 ]  [Novel]  『うれないものかき』
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 これは、どこかの時点での、マイキャラ同士の遭遇のお話ってことで。
 前半、以前ごく一部の人に御見せしたものと被るものがふくまれています
が、乱筆雑文冗長なども含めてご指南のほど宜しくお願いします。

 前中後3分割の予定です。
 中編以降は・・・また、後日・・・。(げほげほ)

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 [HA06][Novel] 『うれないものかき』(前)
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 登場人物 : 向坂次郎&津村奈津
 時  期 : 恐らくEP『命の光』の後、向坂の継続的なバイトが決まる前

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 ぴ。

 向坂は手を伸ばしてパソコンの電源を落した。
「あ〜あ」
 暗くなった液晶パネルを見ながら、自分の書くキャラクターに思い入れが出
来ないとはなんて素晴らしい奴なんだろうとにやにやしてみる。所詮物書きの
器ではないのだ。
 時計を見ると、5時間もキーボードに向っていたことが分かった。
 いくら失業中で時間が余っているとはいえ、それなりにまだ物を書く気分が
残っていたのかと彼は我ながら少々意外に思った。
 ふと、あることに気付いて財布を見てみる。一応、まだ空ではなかった。
 そろそろ本気で新しいバイトをしなくちゃなぁ、と思いつつ、彼は部屋を出
た。
 金はまだ数日はもつが、腹が、もうもたないと悲鳴を上げていた。

 月がきれいな晩だった。
 いつもの牛丼屋くらいしか、彼の財布が許す食べ物屋は開いていない時間帯
だった。
 とてとてと原付で夜の道を走り、向坂は牛丼屋に行った。

 時間帯が時間帯だけに、店は閑散としていた。長距離トラックの運転手らし
い男が入れ違いに出て行くと、店の中には向坂以外の客はいなくなった。
 座る前から注文を取りに来た、いつも見掛けるアルバイトの少女に、いつも
通り一番安いセットを注文すると、彼はカウンターに向って座り、ジーンズの
右ポケットから携帯端末を取り出した。
 電源を入れると、書きかけの小説のファイルが開いた。
 家にいない時にふと思い付いたら書き進められるように、と携帯端末にコ
ピーしていたファイルだった。

” うららかな午後だった。
  空は青く、雲は白く、風は優しく頬をなぶっていた。
  小鳥の鳴く声は聞こえなかったが、町のざわめきはそれなりに耳に
 優しかった。
  彼は右手の人差し指で回していたキィを自動二輪車に挿した。
  長い脚が無造作に投げ出され、彼は二輪車の上の人となった。
  右手の親指がセルスターターを押す。軽いモーター音が響き、続い
 て、ついこの間まで市販車最高速を誇っていた直4:1100cc、164psの
 パワーユニットが目を覚ます。
  黒い怪鳥という意味の愛称が付けられたその自動二輪の、ガンメタ
 ルに輝くフルカウルのボディは、僅かに震えながらも恐るべきトルク
 をまだその内に隠している。
  右手がスロットルを軽く開ける。”

「お待たせしましたぁ」
 アルバイトの少女がセットの盆を向坂の目の前に置いた。
「お、ども」
 彼はその盆を脇にやって、端末の電卓のようなキーボードを叩き始めた。店
にしてみればひどくいやな客だということは分かってはいたが、どういう訳か
こういう時のほうが筆が進んでしまう。

” 次の瞬間、辺りは、ある種の二輪車しか発し得ない、狂暴だがどこ
 かで人を惹き付けて止まない音に包まれる。
  彼は左手を横に伸ばし、ついで肘を曲げて、照れたように微笑みな
 がらヘルメットのバイザーあたりに手をやった。
  それが、はにかみ屋の彼の、少女への挨拶だった。
  名残り惜し気に、しかし少し離れて見送ろうとしていた少女は、
 精一杯の笑顔を彼に向けて小さく手を振った。
  彼は一つ頷き、バイザーを下ろした。
  左手の二本の指がクラッチレバーに掛かる。それを無造作に引き、”

 一息ついて、向坂は牛丼を胃に詰め込んだ。
 話は佳境に入っていたが、食事のほうは、佳境どころでなく、既に冷め始め
ていた。
 不味い牛丼だと思う暇もなく、食事は終わってしまった。胃腸が弱いくせに
そんな食べ方をしているせいか、彼はよく下痢になるのだが、食事の時の彼は
そういうことには無頓着だった。

 空にしたセットの盆をまた脇に押しやり、彼は再びキーボードを叩き始めた。

” 左足の先でペダルを踏み込むと、彼はもう一度少女に視線を送る。フ
 ルフェイスのヘルメットの中での、僅かな時間の視線だけの移動だっ
 た。
  ………行ってくるよ。
  心の中だけでそう呟き、彼はクラッチをリリースした。
  巨大なトルクを伝えられた後輪は、悲鳴を上げつつも、しかしあく
 までも従順に自分の役割を果たす。
  素晴らしい、まさに怪鳥の名に恥じない加速で、彼と彼の二輪車は
 走り去っていった。”

「お客さん、小説家だったんですね」
 不意に声がして、向坂は慌てて顔を上げた。アルバイトの少女が業務用なの
かどうか分からない笑顔で、彼の盆を片付けようとしていた。
「売れない物書きだよ」
 向坂はそう言うことにしていた。半分は嘘ではなかった。一冊も出版物を出
していないのだから、売れる筈がないのだ。
「なんかいいアルバイトでもあればいいんだけどねぇ」
 少女は少し色の着いた眼鏡の奥の目を細めて笑ったが、何も言わずに盆を片
付けた。
「アルバイト先ならなくもないですけど」
 店の奥のほうから店員が顔を出した。
「肉体労働ですけど、そこの工務店が土方のアルバイト募集してましたよ」
 店員は通りの向かいの小さな工務店のほうを指し示した。
「日払いかな」
 向坂は切実なことを尋ねた。月締めでは給料が出るまで生きていられるかど
うか分からなかった。
 店員は苦笑した。
「さあ、それは……。どうだっけ、なっちゃん」
 アルバイトの少女が手を拭きながら奥からでてきた。店の制服は脱いでいる。
交代の時間になったらしかった。
「一日払いもやってますよ」
 向坂は眠そうな眉を上げた。
「土方してたのかい、お嬢ちゃん」
「まさかぁ」
 “なっちゃん”と言われた少女は失笑した。
「電話番のバイトしてただけですよ」
 それもそうだな、と向坂は苦笑した。夜のせいか、それともずっとキーボー
ドに向っていたせいか、些細なことを類推する力がひどく落ちていた。
 食事代を払い、店員に礼を言って外に出ると、“なっちゃん”もちょうど従
業員口から出てくる所だった。
「あ、かわいいバイクですね」
 原付にまたがった向坂に彼女はにこにこと声を掛けてきた。
「そうかね」
 燃費がいいから使っているんだと向坂が言うと、少女は声を上げて笑った。
「なんか、すごい理由ですね、それ」
 向坂は苦笑するしかなかった。
「そのくらい困ってるんだよ」
 少女は笑いを引っ込めた。
「それで、日払いなんですか」
「情けない話だけどね」
 こんなことまで喋らなくても良さそうなもんだが、と向坂は自分の口を内心
でののしった。ある「力」があることの反動なのか、それともただ単に口が軽
いのか、彼はどうしても一言多く物を言ってしまうところがあった。
 少女は何と言っていいか分からない顔をしたが、一拍置いて、大変ですねぇ
と言った。それから、思い付いたように、口調を変えて続けた。
「今度、小説、読ませて下さいね」
「ああ、いいよ」
 話の継ぎ方が下手だな、と思いながら、向坂は原付のキックスターターを蹴
り下ろした。すとととんという音が始まった。
「そいじゃ。情報提供ありがとさん」
「いえいえ。またのご来店を〜〜」
 少女は愛想良く手を振って去っていった。
 向坂は何気なくそれを見送ってから、原付を走らせた。ふと、自分の書いた
文章と今の状況を照らし合わせてみて、にやりとしてしまう。

───現実はこんなものだ。
 月夜に照らされたアルバイトの少女だけは、文章の中の娘と比較しても遜色
ないかもしれない。少々ひと懐こすぎる気はしたが、それもまあ良し、だと彼
は思った。

 なんにしろ、バイト先が見付かりそうなのはいい事だった。
 いい月が出ていた。公園で月見でもしようか、と、少しばかりうきうきした
気分で彼は思った。

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 まあ、取り敢えず、こんな感じ、ということで……
 前半は前振りなので、筋も何も殆どありませんので、心苦しいのですが・・
・(後半もなかったりして)。



 それでは失礼します。

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 Djinny(ランプの魔物)
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