[KATARIBE 14365] [HA06P] 『命の光』完成版

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Date: Mon, 19 Jul 1999 00:03:15 +0900
From: ICHIKAWA Takuaki <bobu@din.or.jp>
Subject: [KATARIBE 14365] [HA06P] 『命の光』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
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ども、BOBUです。

「命の光」、完成版です。

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エピソード 『命の光』
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登場人物
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佐久間拓巳(さくま・たくみ):
  自分が幽霊だと思いこんでいる。実は幽体化能力者。

津村佳奈(つむら・かな):
  吸血鬼のクォーター。津村奈津の双子の妹。

水島緑(みずしま・みどり):
  女子大生にして全身完全戦闘サイボーグ。


本編
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 六月も終わりに近付き、久しぶりに晴れた夜。
 佐久間は夜の街を散歩していた。

 佐久間     :「今日の月は結構細いな…」

 ふらり、と公園に入る。

 佐久間     :「それもまたよし…」

 独り言のつもりだったのだが。

 佳奈      :「そうですね……」

 と、返す言葉があった。
 声のした方を向くと、女の子が一人。
 高校生くらいだろうか。

 佳奈      :「こんばんわ(微笑)」
 佐久間     :「こんばんは…こんな時間に散歩ですか?」
 佳奈      :「私は、こんな時間じゃないと、散歩できないから……。
         :あなたこそ、そうなんですか?(くすくす)」
 佐久間     :「僕もそうですね……夜の静けさは気持ちいいですから」
 佳奈      :「ふふふ……珍しい、人間さんなのに(くすくす)」
 佐久間     :「そういうあなたは、人間ではない?」
 佳奈      :「あ、3/4は人間ですよ、多分……」

 そう言って笑った口に牙が見え隠れした。

 佐久間     :「いいんですか? そんなに簡単に正体を見せて」
 佳奈      :(小首を傾げて)「そうですね……あなたなら、良いよ
         :うな気がしたんです」
 佐久間     :「ま、似たもの同士ですからね」

 一瞬、そう言った佐久間の身体が透けて見えた。

 佳奈      :「あは、素敵ですね、貴方」
 佐久間     :「……素敵、ですか?」
 佳奈      :「ええ、とっても」
 佳奈      :(くすくす)「月の光の中に溶けていきそうで、とって
         :もはかない感じで」
 佐久間     :「月の光に溶ける……それも素晴らしいかも知れない」

 でも。

 佐久間     :「でも、それは本当に最期の時だけにしたいものです」

 そう言った佐久間の前に、回りこむ佳奈。

 佳奈      :「ふふ、冗談ですよ。そんなに貴方の命の光は弱々しく
         :ないもの」
 佐久間     :(命の光……僕にもそんな物があるのか)
         :「見えるんですか? 僕の命の光が」
 佳奈      :(ちょっと狼狽して)「……冗談ですよ、見えたら厭で
         :しょ?」
 佐久間     :「そうですか……そうですよね」

 会話がとぎれる。
 少しして。

 佳奈      :「そういうものを、もし、私が見えるのだとしたら、あ
         :なたは……見て欲しいですか?」
 佐久間     :「そうですね……

 少し考えこむ佐久間

 佐久間     :「やはり、見て欲しいですね。僕にまだ命があるのかど
         :うかを」
 佳奈      :「そう、そういうものなの……なら……」
 佐久間     :「……なら?」
 佳奈      :「まだ、本気で見た事は、ないんです」
 佐久間     :「ということは、見ることができるんですね?」
 佳奈      :「ええ、できます」
 佐久間     :「そう……ですか」

 胸に迷いが広がる。
 自分が何者か。
 その答えを知りたいはずだったのだけれど。
 知るのが……怖い。

 SE  :たったったったっ

 遠くで聞こえていた足音が、公園の中に入ってきた。

 佳奈      :(はっとして緑ちゃんの方を向く)
 佐久間     :「?」

 佐久間が視線を追うと、そこには緑の姿があった。
 ランニング中だったのか、少し息を切らしている。

 緑       :「あ、こ……こんばんわ……」
 佐久間     :「ああ……こんばんわ」
 佳奈      :「こんばんわ……」
 緑       :「お散歩……ですか?」
 佐久間     :「ん、まあね……」
 佳奈      :「ええ……こんな時間にしか出歩けないものですから」

 どこか歯切れの悪い答え。

 緑       :「あ、お邪魔……かな」
 佳奈      :(視線が揺れる)
         :「……いいえ、そんなことはありませんよ」

 なんとなく、沈黙する3人。
 やがて、どこか寂しそうに笑って。

 佳奈      :「また今度ね、素敵な人間さん」
 佐久間     :「あ、ああ……また、どこかで」
 緑       :「?」
 佳奈      :「さあ、それは……あえたら、また……」

 そう言うと、佳奈はまた歩き始めた。
 やがて、佳奈の姿は噴水を回り込むようにして消える。

 緑       :「不思議な……人」
         :(奈津さんに……そっくりだったけど……)

解説
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 津村佳奈と佐久間拓巳の出会い。
 佐久間は自分自身を知るきっかけを得るが、それを知ることをためらう。

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それでは。
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BOBU <Takuaki Ichikawa>
E-Mail   : bobu@din.or.jp

    

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