[KATARIBE 14244] [WP01] EP: 『雨宿りの友』・完全版

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Date: Tue, 13 Jul 1999 00:34:24 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 14244] [WP01] EP: 『雨宿りの友』・完全版
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 どうも、ごんべです。

 鞍馬の日常EP『雨宿りの友』完全版です。


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[WP01]EP:『雨宿りの友』
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本文
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 降りしきる雨。

 SE     :ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 緑の広がる田園風景。その真ん中にぽつんとたたずむ一本杉の足元。

 SE     :ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 鞍馬は、急な驟雨に降り込められて雨宿りをしていた。
 いつもは雨の中でも気にせず走るところだが、にわか雨ほど、逆に濡れるの
が億劫になるものである。そう思って始めた雨宿り、しかし雨は一向に止む気
配はない。しかし今更雨の中を出ていく気にはならない。

 鞍馬     :「…………にゃあ…………」

 水煙にしっとりと濡れそぼってうずくまっている姿は、名実ともにまるで猫
である(笑)。

 鞍馬     :「……くしゃんっ …………(ごそごそ)」

 脇に置いたディパックから、乾いたタオルを取り出し、懐に突っ込む。そう
しておいてから、鞍馬は両膝を抱えて膝頭に頬を挟んだ。
 身体の暖かみが戻ってくる。心細さも紛れる。

 SE     :バシャバシャ
        :カタカタカタカタ
 鞍馬     :「…………?」

 鞍馬はふと顔を上げた。
 一つの小さな影が灰色の空を背に駆けてくる。人だ。胸元にタオルを入れて
いるのは、恥ずかしいので取り出す。
 近付いて来たのを見ると、それは鞍馬と同じくらいの年頃の少年だった。

 少年     :「はあ、はあ……くそっ…………あ」

 木の下に飛び込んでから先客がいるのに気付いたが、戻るわけにもいかない。
全身濡れみずくの少年は、鞍馬の座る位置から微妙な角度を取って、一本杉の
大きな根っこの一つに座り込んだ。
 鞍馬はちらと少年を見やった。ランドセルを背負っているのを見ると、おそ
らく小学校の帰りなのだろう。もう少し様子をうかがおうとして……鞍馬と少
年の目が正面から合ってしまった。

 鞍馬     :「………………」(視線を逸らして前を向く)
 少年     :「………………」(視線を逸らして前を向く)

 並んで座るわけにもいかない。幹の反対側に座るのも白々しい。
 ……どうにも厄介な角度である(笑)。

 少年     :「……………………なあ」

 口を開いたのは、ランドセルの少年の方であった。

 鞍馬     :「…………え?」
 少年     :「お前…………何年生だ?」
 鞍馬     :「…………5年生だよ?」
 少年     :「うそつけっ」
 鞍馬     :「……ほんとだよっ」

 鞍馬は、一応、小学5年生である。
 思わずムキになりかけたが、返ってきた反応は鞍馬の感想とは関係なかった。

 少年     :「お前なんか学年で見たことないぞ!」
 鞍馬     :「……当然だよ、学校が違うんだから」
 少年     :「……へえ?!」

 少年は身をひねって鞍馬の方をのぞき込んできた。興味津々のその顔は、
いかにもな悪ガキではある。女の子のような鞍馬とは対照的だ。

 少年     :「じゃあ、どこの学校なんだ?」
 鞍馬     :「高井戸」
 少年     :「たかいど?」
 鞍馬     :「……東京だよ」
 少年     :「東京?!」

 少年は素っ頓狂な声を上げた。

 少年     :「なんで東京のヤツがこんな処にいるんだよ!」
 鞍馬     :「……いいじゃないか」
 少年     :「サボりだな! わぁるいヤツぅ!」
        :(急に口調が変わって調子づく)
 鞍馬     :(むかっ)「旅行なんだよっ」
 少年     :「何で学校サボって旅行なんか来れるんだよ!」
 鞍馬     :「……」
 少年     :「ひぃっでえ、言ってやろぉ」(既に嵩にかかっている)
 鞍馬     :(遮るように)「いいじゃないかっ!」
 SE     :バンッ

 少年のなじる声にたまりかねて、鞍馬は幹を叩いた。
 ……高い高い一本杉が一瞬震えて。

 SE     :…………ザンッ!

 一本杉の梢の一つ一つが蓄えていた無数のしずくが、一斉に落ちてきて二人
を叩き伏せた。……二人ともびしょぬれである。
 しばし無言でしずくを拭いていた二人は、やがてすごすごと、大人しく元の
通りに座った。

 少年     :「………………悪かったよ」
 鞍馬     :「……いいよ」
 少年     :「なあ……東京って、どんなところなんだ?」
 鞍馬     :「狭いところだよ。
        :邪魔なビルとか車とかが、いっぱいでさ。
        :……ここら辺はいいよね。広くて気持ちよくて」
 少年     :「でも、何にもないじゃんか!
        :……東京っていいよなぁ、いろんな店とかあって、毎日
        :楽しいんだろ?」

 ふと、鞍馬はちょっと真剣な顔になる。

 鞍馬     :「……替わってみる?」
 少年     :「え…………」(急に深刻になる)
 鞍馬     :「…………」
 少年     :「…………」
 鞍馬     :「…………」
 少年     :「…………やっぱり、いいや」
 鞍馬     :「………………(くす)」
 少年     :「…………へへっ」
 鞍馬     :「……あ、やんだ」
 少年     :「ほんとだ」

 雨雲が流れていく。灰色の空。しかし風が雲を運び、雨を運び去っていく。
しばらくは、雨は降らないだろう。

 鞍馬     :「……じゃあね」
 少年     :「……行っちゃうのか?」
 鞍馬     :「うん、……別に、通りがかっただけだから」
 少年     :「そう……っかぁ」

 ちょっと、名残惜しそうな少年。

 少年     :「また、来るか?」
 鞍馬     :「……わからないけど……こっちに来るときは、寄るよ」
 少年     :「そっか」

 にかっと笑う。いかにもな悪ガキの、だけど気分のいい笑顔。

 少年     :「元気でな」
 鞍馬     :「元気でね」

 別れ際に手を振り合い、お互いに、特別な出会いを胸にしまう。それぞれの
家路をたどる。
 そして、鞍馬は再び走り出した。


(終)


登場人物
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 岡崎鞍馬   :無敵の身体を持つ少年。小学生だが放浪癖があり、不登校。


解説
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 岡崎鞍馬の放浪中の日常の一コマを描写した、外伝的なエピソードです。
 関東平野のどこか(雨の降っていた土地)での出来事です。


時系列
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 1999(2nd)年6月19日の午後〜夕方にかけて。


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 以上です。それでは。

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堀田 拓司 (ごんべ)  gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/
    

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