[KATARIBE 14241] [ HA06 ] [Novel]  『11年目の真実』

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Date: Mon, 12 Jul 1999 23:21:45 +0900
From: 球形弐型  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 14241] [ HA06 ] [Novel]  『11年目の真実』 
To: kataribe-ml@trpg.net
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99年07月12日:23時21分26秒
Sub:[HA06][Novel] 『11年目の真実』:
From:球形弐型


ういっす、球形弐型です。
かねてから考えていたEPが、「EPより小説っぽい方が書きやすい」と思ったんで、
あえて、小説として書いてみました。
ここでは、由摩と光のエピソードの発端となる、木原教授の幼い頃の思い出話です。
もちろん、これがのちのち、由摩や光の発掘に繋がるわけですね。

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[HA06][Novel] 『11年目の真実』
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序章 『少年の頃の日々』
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昭和19年 夏…

それは、蝉の嘶く、暑い夏の日のことだった。
少年はいつものよう、山へ遊びに行っていた。
この所、少年は毎日の様に山へ遊びに行っている。

別に、山が大好きな訳ではない。
夏なのだから、海にも行きたいし、川で遊んでもいいだろう。
しかし、少年は山へ毎日の様に遊びに行くのだった。
そう…伊吹山へと…。

 少年:「今日も、会えるかなぁ…」

少年は、ぽつりと呟く…。どうやら、何かに会いたがっている様だ。
しかし、こんな山奥で、誰に会えると言うのだろう…。
でも、少年は会いたがっている。
少年が、山に遊びに行く様になって、もう、数ヶ月が経つ。

伊吹山は、本来霊山として祭られている場所なのだ。
だから、少年が一人で行くには、比較的危険な場所でもある。
その様な場所なのだから、大人達が一人で行くのを許してくれるはずも無い
のだが、でも、少年は大人達に黙って、あくまで一人で行くことに決めてい
るのだった。

 少年:「…うーん…今日は来ないかなぁ…」

少年は、息せき切って、山を歩き進む…。
暫くして、山の頂に到着した少年は、周りを見渡す。
伊吹山の頂には、何かを祭っているモノがあるが、少年にはそんなものに
興味は無かった。

 少年:「…あ、居た…」

少年は、人の姿を見つけた。
その人は、腰の下まで伸びた黒い髪と、美しい容姿、そして異国の着物を
着ていた。

 少女:「…こんにちは」

少女は、少年に軽く会釈をし挨拶する。

 少年:「あ、こ、こんにちは…」

    ****

 少年:「君は、何時もここに居るんだねぇ…」

少年は、何度この言葉を繰り返したことか…。
しかし、少女はその問いに対してだけは、決して答えてはくれなかった。

 少女:「今日は、どうしたの?」
 少年:「え?…い、いや、その…君がどうしてるかなぁって気になって…
   :(照れっ)」
 少女:「…そう…」

少年は、疑問思うことがある。少女は一体何故、何時もここに居るのだろう…。
少年は他愛のない話しをしつつ、少女に聞いてみるのだが、はやり、その問い
に答えてはくれない。
そう言う日々が、数ヶ月と続いている。ただ、その他の話には、ちゃんと反応
してはくれる。…と言っても、ただ、少年の話に微笑んでくれるだけだが。

 少年:「やっぱり、お父さんとかが、戦争に行ってまだ帰って来ないから、
   :ここで、見守ってるとか…なの…かな?(汗)」
 少女:「……」
 少年:「…ご、ごめん。気に障ったかなぁ…も、もう、そんな話しないよ…」
 少女:「……あのね」
 少年:「…何?」
 少女:「私……ここから、離れられないの…」

少女は、始めてその問いに答えてくれた。しかし、少年には、全く意味が分か
らない。
「ここから、離れられない?」その一言に、少年は返す言葉が見つからない。

 少年:「…えっと、えっと…(ぽりぽりと頭を掻く)」
 少女:「…だから、いつもここに居るのよ。」
 少年:「…もしかして、帰り道が分からないとか?」
 少女:「そうじゃないよ…だって、ここが私の家だから…。」
 少年:「そうなの?…で、でも…」

どう考えたって、ここに住んでるとは言えないだろう…。畑があるわけでもない
し、近くにお店がある訳でもない…ましてや、「家」と言える様なものすらない。
少年は、答えを見いだすことは出来なかった。
しばしの沈黙が続き、少女が話を切り出す。

 少女:「賢治君…」
 賢治:「…え?何?」
 少女:「もし…もしだよ…私が『助けて欲しい』と言ったら、助けてくれる?」
 賢治:「え…あ、ああ、もちろんだよ。ボクで出来ることなら、なんでもする
   :よ。」
 少女:「本当に?」
 賢治:「もちろんさ。」
 少女:「約束だよ。」
 賢治:「うん。約束するよ。」

そう言うと、少年は小指を差し出してみる。少女は意味が分からずに、ただ、少年
の小指をじっと見ていた。

 賢治:「指切りげんまんだよ。知らないの?」

と言って、少年は少女の手を取り、小指を絡ませる。

 賢治:「ゆーびきりげーんまーん、うーそついたーら、はりせんぼーんのーーま
   :す。ゆーび切ったっ!」

そう少年が言うと、少女は嬉しそうな顔をして「約束だよ」と、もう一度少年に言
った。

日が暮れ、そろそろ少年が帰ろうとした時、少女は最後に…。

 少女:「また会おうね。」

少女は、始めて少年に対して、その言葉を言った。少年は、ちょっと照れながら。

 少年:「う、うん。また明日ね。」

少年は、そう言って少女と別れた。

次の日、少年はいつものよう、山へ遊びに行っていた。
そして、何時もの様に伊吹山の頂へと到着する…。
しかし、少女の姿は、そこには無かった。

次の日も、その又次の日も少年は、伊吹山の頂へと行くが、少女に会うことは二度と
無かった。

    ****

…若き日の思い出…そう、忘れてはならない約束…

昭和59年 春

木原教授は、机の上で目覚めた。
昨日から、研究室に隠って、去年調査した遺跡のレポートを書いていた。

 木原:「うーむ、眠ってしまったのか…おっと、まだレポート書いていなかっ
   :たな。」

 木原:「…しかし…ずいぶんと昔の夢を見たものだ…。」

                              つづく
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まぁ、分かっていると思いますが、少女はもちろん「由摩」です。
但し、ここに出てくる由摩は由摩であって、由摩ではありません。
それについては、おいおい話の中に出てくることでしょう。

次回 第一章 『忘れられぬ約束』 です。

ではでは。
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球形弐型こと「伊沢英人」

hi-izawa@m1.interq.or.jp又はBallMk-2@trpg.net

http://www.interq.or.jp/www1/hi-izawa/swan.htm
<ひでSWANの暇つぶしに出来たHP>

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