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Date: Mon, 28 Jun 1999 15:33:33 +0900
From: ソード  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13899] [WP01P]:EP: 『立ち戻りしは記憶の端』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199906280633.PAA03692@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 13899
99年06月28日:15時33分24秒
Sub:[WP01P]:EP:『立ち戻りしは記憶の端』:
From:ソード
こんにちは、ソードです。
終末の住人のEP、歳代わり認識偏です。
かけるさん、更雲主従をお借りしています。
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エピソード  『立ち戻りしは記憶の端』
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登場人物
月島直人(つきしま・なおと)
    喫茶・月影の店長。
更雲優(さらくも・ゆう)
    更雲翔に作られた人造人間。月影のウェイトレス。
更雲翔(さらくも・しょう)
    更雲優の作成者。月島直人の高校時代からの友人。
年末の月影
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 直人     :「いらっしゃいませ」
 今日は、臨時開店で朝まで開けているつもりであった。
 大晦日の新宿に、夜など来ない。
 しかも、1999年は、今日で終わってしまう。
 直人     :「結局……何もなかったのか?」
 カウンターの客:「え?どうしたんですか?」
 直人     :「あ……いえ、何でもありません」
 自分の役目は、1999年の地球に起こる災厄の回避であった。
 しかし、予言と騒がれた7月には何も起きず、新宿もいつもの年末でしかない。
 窓際テーブル客:「あ、そう言えばさ……」
 窓際の4人席に座ったカップルは、夜通しいるつもりなのであろう。既にコー
ヒー一杯で2時間を過ごしているにもかかわらず、会話がとぎれる事はない。
 あのカップルの事は、良く覚えていた。
 閉店ぎりぎりまで待っていた男の告白も、夏の喧嘩も、去年の初詣での帰り
にも二人でここに来ていた。
 去年は振り袖を着ていた娘だが、今回は多少めかし込んでいるが、普段着で
ある。
 もう、1年半以上見てきたのだ。
 直人     :「(結局、僕の出来たのは住人関係のトラブルを防ぐ事だ
        :け……。それが、災厄の防止につながっていたのか?)」
 毎年見ている、「紅白歌合戦」のカーテンコールが終わる。後数分で2000年
を迎える。1999年は終わり、自分は役目を解かれる筈だ。
 直人     :「(思い過ごし……か)」
 灰皿を一つ取り出し、カップルの方へ向かう。2時間経てば、灰皿は吸い殻
と紙屑でいっぱいだった。
 今までしてきた事は……自分がやってきた事は……なんだったのだろうか?
住人を集める意味はあったのか?人の日常を侵してまでの事件解決に、本当に
意味があったのか……?
年始、月影
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 SE(テレビ):ごーん……(除夜の鐘)
 直人     :「お客さん……!」
 テレビ画面が、騒がしい音から急に静かな寺を映し出す。一つ目の鐘。一つ
の煩悩を打ち払う。
 鐘の音が、人を飲み込んだのか?
 TVの騒がしい音と同時に目の前のカップルが消えた。
 直人     :「(結界?……ではない!……なんだ?)」
 振り向く。カウンターの客もそこにはいない。
 直人     :「ひとが……消えた?」
 SE     :カラカラン
 突然の音。鋭い視線を向ける。「鍵」の発動はかろうじて踏みとどまった。
 男      :「こんばんわぁ……」
 女      :「開けましておめでとうございまぁす」
 振り袖の娘。先ほどまで、窓際で笑っていた娘。相手の男も、先ほどまでは
店内にいた。
 直人     :「あ……いらっしゃいませ」
 男      :「遅くまで開いていて良かった……。やっぱり、最初にこ
        :こに来たかったんですよ」
 女      :「思い出の場所……だもんねぇ」
 直人     :「……ありがとうございます」
 男      :「じゃあ、マスター、俺達いつものね」
 直人     :「はい」
 無理矢理営業スマイルを浮かべ、机を手早く片づける。
 そう、確かに彼らに2時間前出したコーヒーは、そこにあるのだ。
 直人     :「(……どういう事だ?)」
 疑問が頭を過ぎる。警戒心は最大にしているが、何も引っかかりはしない。
 直人     :「はい、特性ブレンドとミルクティーです」
 男      :「え?おれ……特性ブレンド?」
 女      :「いつもアメリカンだよね?」
 男      :「あ、いや、去年から特性ブレンドが気に入ってたんだよ
        :な……。この前はアメリカンだったけどさ」
 女      :「そうだっけ?」
 アメリカン……たしかに、1998年まではアメリカンコーヒーを飲んでいた。
直人のブレンドを飲み始めたのは、つい最近なのだ。
 直人     :「(……変だ……)」
 違和感を残しつつ、カウンターの奥に戻る。
 店内を確認しても、先ほど度と全く変わらない。
 男      :「いよいよだなぁ……」
 女      :「何が?」
 二人の会話だけが、耳を通り過ぎる。
 男      :「予言だよ、ノストラダムス」
 女      :「ああ、あの7月に何とかっていうやつ?」
 予言……? それはもう去年に終わった筈だ。
 男      :「世紀末って感じだよなぁ……」
 女      :「あのねぇ……21世紀は2001年、世紀末には後1年ある
        :のよ」
 後1年。今年は……今年が2000年の筈……。
 男      :「良いんだよ!1999年の方が、いろいろ世紀末っぽいだろ?」
 女      :「テレビの見過ぎだってば……」
 直人     :「あの!……」
 男      :「ん?どうしたの?マスター?」
 直人     :「今年って……2000年ですよね?」
 男      :「はあ?何言ってんですか?1999年ですって」
 直人     :「え?……」
 男      :「どうしたんです?」
 直人     :「いや……でも、去年は1999年でしょ?」
 男      :「やだなぁ……1999年の前は、1998年」
 直人     :「え……」
 男      :「マスター。疲れてるんだよ。初詣でも終わったし。俺達
        :帰るね」
 直人     :「あ……はい」
 男      :(金を払って)「んじゃ!」
 直人     :「ありがとう……ございました」
 彼らは、1999年だという事を疑いもしない。
 つい先ほどまで、2000年になったら……という話をしていたというのに……。
 二人の関係も、1年前に戻ったようだった。
 直人     :「頭が……おかしくなったのか?」
 考えても、答えは出ない。
 テレビですら、1999年の番組をやっている。
 SE     :カラカラン
 直人     :「!(びくっ)」
 優      :「直人さんっ」
 翔      :「よう」
 こういう時のドアベルの音は、神経に障る。
 ドアの向こうに向けられた直人の目から、恐怖の色が徐々に消える。
 優      :「開けましておめでとうございます(ぺこ)」
 直人     :「優……ちゃん」
 翔      :「おいおい、おれは無視か?(にやにや)」
 優      :「あの……顔色が優れないみたい……大丈夫ですか?」
 直人     :「あ……あのさぁ……」
 一瞬、質問を口に出そうか悩む。住人である彼らでさえ、自分と違っていたら……。
 自分の精神が異状を来していると自覚してしまうのか?それすら自覚できず
にそのまま壊れてしまうのか……?
 直人&翔   :「今年は何年なんだ」
 二人の声がハモる。直人の不安を含んだ声と、翔の確信に満ちた声。
 直人     :「はは……」
 優      :「ふふふっ。大丈夫です。私たちも一緒ですよ(にこ)」
 屈託なく笑う優と翔。
 一人ではない……と感じただけで砕けてしまう不安。
 自分は、弱いのだと再認識し、自分は、一人ではないと再認識した。
 そんな、月影の2度目の1999年。
 新宿の新年は、いつもと変わらぬ喧燥を持っていた。
解説
 直人は月影で1999年の歳を越す。しかし、やってきたのは再び1999年であっ
た。
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 というわけで。
 年代わり偏です。
 
 更雲主従の口調修正をお願いします。
 ではまた……。