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Date: Fri, 25 Jun 1999 19:26:11 +0900
From: ごんべ <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13849] [WP01P] EP: 『隠者』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199906251026.TAA19743@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 13849
99年06月25日:19時26分05秒
Sub:[WP01P] EP:『隠者』:
From:ごんべ
こんにちは、ごんべです。
鞍馬のEPを書きましたので、流します。
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[WP01] EP:『隠者』
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本文
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走る、走る。
景色が風になる。
鞍馬は今日も、見知らぬ町を走っていた。
他者の追随できない疾走。その中でも周囲に気を配りながら走れるのは、
おそらく彼だけだ。
ただ走りたいがためにいつも彷徨うわけではない。しかし彼の好奇心が彼を
駆り立てるとき、彼の身体には水を得た魚のようにエネルギーが満ち、かの地
へと彼を運ぶ。それは、景色であったり、土地であったり、物であったり。
その日もとある地へ足を運んだ帰り途で、鞍馬は地図で確かめた近道をたど
って、どこかの商店街を走り抜けようとしていた。
鞍馬 ：「……？」
鞍馬は、ふと足を止めた。
鞍馬 ：「……『壁』……結界だ」
弱い、弱い結界。そばを通らなければ、それが一つの通りを覆うほどに大き
くなければ、もしかしたら気付かなかったかも知れない。
見過ごし、立ち去ることは容易だ。それが証拠に、道行く人波の誰も気付い
た様子はない。同じ顔をして自分も家路をたどれば、それでいいだろう。
しかし……束の間の逡巡の後。
鞍馬は物陰に寄り、周囲の人目を窺ってから結界への侵入を試みた。
鞍馬 ：「（こちらの世界と結界の中は、実際には重なっている、
：って直人さんが言ってた。……結界に集中して……自分を
：透き通らせる……）」
不意に町の雑踏が消えた。
鞍馬 ：「……できた……」
物音一つしない世界。
変わらないたたずまいの商店街……そこから人の姿を取り去るだけで、これ
ほど変わるものなのか。
鞍馬 ：「……」
鞍馬はゆっくりと歩き出した。
おそらく、この辺りが結界の端に当たるだろう。そして、ある方向には実際
に、文字通り『壁』のごとく結界の限界が存在するのを感じる。ということは、
……鞍馬は、迷わず結界の中心とおぼしき方向へ足を向けた。
ＳＥ ：コツ……
鞍馬 ：「……？！」（身構える）
ＳＥ ：コツ……コツ……
鞍馬はふと身構えた。動くもののないはずの世界に、とぎれとぎれに響く音。
その音は固く、時々ぎこちなくリズムを乱しながら、ゆっくりとどこかから近づ
いてくる。
鞍馬 ：「（後ろ……？！）」
ＳＥ ：……コツ。
振り返った鞍馬の視界に、正装の男の姿が現れた。
……いや……。
ＳＥ ：……ギギギ……
鞍馬に向き直ろうと身じろぎすると、男は不自然なきしみをあげた。
それは、タキシードを身に着けた人形だった。
人形 ：『……オマエハナニモノダ』
動かぬ唇から、異様に低く誰何の声が漏れた。
鞍馬 ：「……」
人形 ：『コタエヨ……ナンノタメコノバヲオトズレタ』
鞍馬 ：「お前こそ……何者だ！」
人形 ：『アルジノジャマヲスルモノハ……ユルサヌ』
人形が足取りを速めて鞍馬に迫った。しかし見切れない動きではない。鞍馬
は楽々身をかわし、人形に道を空けた。
その時、鞍馬の背後のショーウィンドウが大きな音をあげて砕けた。そこは
洋品店だった。陳列されていた、流行りの女物の服をまとったマネキンが、背
後から鞍馬に襲いかかった。
鞍馬 ：「えぇっ？！……くっ！」
マネキンの手が鞍馬の細い首筋をつかみ、恐ろしい力で締め上げる。そのま
ま鞍馬は宙に吊り上げられた。鞍馬の足が路面を離れるが、マネキンはびくと
も姿勢を崩さない。
前からは、タキシード姿の人形が、向きを変えて迫っていた。
鞍馬 ：「……う゛…………こ……の……！」
足を振り上げ、その反動で後ろのマネキンの腹に蹴りを入れる。そのはずみ
を利用して彼は、喉を締めるマネキンの両手首をつかみ、左右に引きはがした。
鞍馬 ：「やあああああっ！」
足場を取り戻し、鞍馬はそのまま力任せに両手を振り下ろした。マネキンの
巨体が背負い投げよろしく軽々と宙を舞い、人形めがけて叩きつけられる。
ＳＥ ：ガシャアアアンッ
激突した部分を粉々に砕かれながら、２対の人形は混然となってその場に崩
れ落ち、動かなくなった。それを確認もせず、鞍馬は走り出していた。目指す
は、結界の中心。
左右の店並から、続々と人形達が姿を現す。それを一撃ずつ殴りつけて動き
を止めながら走るが、商店街中のマネキンを集めた数は、思いのほか多い。
鞍馬 ：「…………？！ ……もしかして……あそこ！」
鞍馬を狙う人形達が途切れる背後に、どこかたたずまいのおかしい一軒の店
舗。そこは、おそらくは結界の中心と一致する。
行かせまいとする人形の手が、鞍馬の肩に、足に、腕にかかる。鞍馬を抑え
つけんとする圧倒的な数の力に、鞍馬の身体はまとわりつかれ押しつぶされる。
鞍馬 ：「くっ…………そぉっ！」
ＳＥ ：ドガッ！
渾身の一撃が身体の上の人形群に炸裂し、人形達をはね飛ばした。
なおも伸びる手をかわし、鞍馬は大きく跳躍した。幾体もの人形を飛び越え、
着地地点のマネキンを蹴り飛ばして、店舗の前に一足飛びに着地する。
鞍馬 ：「……ここ……？」
鞍馬の記憶が正しければ、結界に入る前はシャッターが閉まっていたような
気がする。しかし今、シャッターは開いていた。
中へ踏み込もうとして、鞍馬は違和感に気付いて後ろを振り向いた。人形達
は、鞍馬を取り囲みながらも、遠巻きにしてなぜか近づいてこなかった。
声 ：『アルジノジャマヲスルモノ……』
声 ：『アルジノジャマヲスルコトハ……ユルサレヌ……』
自己矛盾。自らをも規定してしまうような。
まるで、望みが二つあるかのような。
鞍馬は、人形達を残し、中へ踏み込んだ。
鞍馬 ：「………………」
古びた内装。がらんとした陳列棚のところどころに、時代遅れの商品が並ぶ。
そろそろと、鞍馬は踏み込んでいく。張り付いたほこり。湿った空気。結界
が張られる前からこの状態だったとしたら、この店はどれほどの間このままだ
ったのだろうか？
鞍馬 ：（……ぴく）
かすかな物音。その方向には、レジ、そして奥へ続く扉。
鞍馬は扉に近づき……ふと、扉をノックした。
ＳＥ ：コン、コン
沈黙が動く気配。
？？ ：「………………どうぞ」
鞍馬は扉を開けてそっと中へ入った。
正面の椅子から、うつろな眼窩が彼を迎える。はっとして見直すと、そこに
いるのは白骨化した死体だった。
男 ：「……失礼、驚かせてしまったね」
短い廊下を経て、そこはすぐ居間につながっていた。居間の端の椅子には白
骨死体、そして居間の脇の方から、一人の男が鞍馬に声をかけた。
男 ：「君は……？」
鞍馬 ：「……通りかかったから……それで」
男 ：「…………そうか(苦笑)」
男は痩せこけ、随分と衰弱しているようだった。しかしその割りには、声も
瞳の光も、穏やかで満たされて落ち着いていた。
鞍馬を初めて見たときに一瞬強い意思の輝きが瞳の中に見えたようだったが、
実際には比較的若いと思われる年齢にふさわしい力を感じさせただけで、すぐ
にそれも消えてしまった。
鞍馬 ：「……」
男 ：「その……人のことが、気になるかね？」
鞍馬 ：「……」（頷く）
男 ：「それは……彼は、私の父親だったんだ」
男は立ち上がり、白骨死体に歩み寄りながら鞍馬に語りかけた。
鞍馬 ：「……」
男 ：「彼はこの店の店長でね。ずっと私がこの店を継ぐのを
：待っていたんだ。だが……私は、彼を殺したくてたまらな
：かった。
： だから……殺した。私が殺したんだよ」
鞍馬 ：「…………！」
男は、自嘲気味に笑った。……鞍馬には、泣いているように見えたのだが。
鞍馬 ：「なぜ……？」
男 ：「なぜだろうね。私は……この人のことが、とても好き
：だったのに……
： そう、好きだったんだ。父親だからね。それなのに……
：なぜなんだろうね」
男は、死体のそばに寄り添うように座った。
男 ：「父を殺して……知らない顔をして生きていくこともでき
：た。でも……それは私には、できなかった。父を殺したこ
：とを、気にしないで生きていくことは許せなかった。
： 父親を好きでいた私にできることは、自分のやったこと
：を受け入れるくらいしかないから……だから、こうして
：ここにいる」
鞍馬 ：「…………」
男 ：「頼みがある。ここまで来られる君だ。わかってくれると
：信じている」
鞍馬 ：「……何ですか」
かすれた声。そんな声でしか、答えられなかった。
男 ：「今日私に会ったことは、忘れてくれないか？」
鞍馬 ：「……忘れません。……でも、誰にも言いません」
男 ：「それでいい」
男は、満足げに頷いた。
安堵する彼が望むものが何か、鞍馬は、わかっていたが何も言えなかった。
男 ：「私はここに残るよ。父と共に……朽ち果てるまで」
＊
鞍馬は店の外に出た。通りには、既に人形達の姿はなかった。
元の世界の感覚を呼び込み、結界を抜ける。
目の前に、再び雑踏が甦った。繰り返される日常。振り返ると、今までいた
店には、ここではやはりシャッターが下ろされたままだった。目の前の光景と、
隔絶するかのように。
一時だけそれを見上げ……鞍馬は再び走り出した。
約１カ月後、店主の不在を不審に思って店内を捜索していた商店街の住民と
警察の目の前に、突如２人分の死体が出現して彼らを驚かせることになるのだ
が、それは鞍馬の知らない話である。
（終）
登場人物
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岡崎鞍馬 ：無敵の身体を持つ少年。小学生だが、放浪癖があり不登校。
名も無き狩人 ：個人商店主の跡継ぎ、しかし終末の住人となった父を殺す。
名も無き住人 ：既に死亡、白骨死体。上記狩人の父。
ともに、覚醒のきっかけは不明。
異能は、おそらく人形関連と思われる。
解説
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岡崎鞍馬の放浪中の、外伝的な１エピソードです。
ＰＣ以外にも存在する終末の住人・狩人に、焦点を当ててみました。
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と言うことで、鞍馬視点で他の「住人」等との出会いをモチーフにしてみた
エピソードです。
……久しぶりに恥ずかしいのを書いたような気がする(^^;
鞍馬個人の外伝EPです。よって、これで完結です。
以上、よろしくお願いします。
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ごんべ
gombe@osk3.3web.ne.jp